تسجيل الدخول水曜日の放課後になった。
俺は緊張に弾む心臓の音を少しでも落ち着かせようと、一度だけ深呼吸をしてから、万物研究会への扉を開く。
部屋には既に、香月先輩の姿があった。
今日は俺が研究テーマを発表する日なのだが、彼女は機材の準備だけ既に進めてくれているようだった。
「やあ、岩倉君。発表用のデータは持ってきてくれたかな?」
「あ、はい。これです」俺は学生鞄の中から、予め香月先輩から預かっていたSDカードを取り出し、それを彼女に渡す。
SDカードの中には発表用に使うスライドデータのテンプレートと、それを元にして俺が作成したスライドデータが格納されている。
香月先輩は俺から受け取ったSDカードを、彼女が持っていたノートPCにあるメモリースロットに差し込んだ。
SDカードから読み込まれたスライドのデータが、PC上に表示される。
「ほう、興味深いね。これは、もしかして君自身の――」
そこまで言った所で、香月先輩は言葉を止めて緩やかに首を左右に振った。
ふわりと香ってきたシャンプーの香りに、一瞬だけ気を取られた。「いや、すまないね。発表前だというのに、つい質問してしまいそうになってしまった。質問は、後の楽しみにとっておこう。あとはこのケーブルをここに差し込めば、スクリーンにPCの画面が表示される。スライドのページ移動に関しては分かるよね?」
「はい、大丈夫です」 「よろしい。では、準備完了だ」そんなやり取りから数分も経たない内に、朝山先輩がいつもの「やほー」という挨拶で登場した。
そのすぐ後に、神崎が無言のままペコリと頭を下げながら姿を見せた。
メンバー全員が揃い、それぞれが定位置へと着いた所で、香月先輩によって部屋の電気が消灯される。
そのタイミングに合わせて、俺は先ほど言われた通りにケーブルを配線した。
問題なくPCの画面がスクリーンに投影されているかを確認した後、皆の反応を伺う。
朝山先輩は首を傾げている。その様子から察するに、どうやら彼女はスクリーンに映し出された言葉に対しての知識は持っていないらしい。
神崎は、無言でスクリーンを見ているだけなのでよく分からない。
香月先輩は先ほどの口ぶりからすると、その言葉については既に知っているのだろう。
スクリーンには表題として、このように記載されている。
【共感覚(シナスタジア)について】
どのように発表を進めるか、シミュレーションはしてきてある。
俺は緊張を飲み込むようにゆっくりと息を吸ってから、言葉を発した。
「これが俺の研究テーマです。共感覚、シナスタジアとも呼ばれている、ある知覚現象についてになります。この現象については知らない人もいると思うので、簡単に説明します」
俺はPCを操作して、スライドを次のページへと移動した。
二ページ目には、シナスタジアの語源について記載してある。【シナスタジアの語源について】
・シナスタジアはギリシャ語で共同を意味する【syn-】と感覚を意味する【aesthesis】から名付けられた。 ・日本語では共感覚、感性間知覚と呼ばれている。「シナスタジアの語源についてはここに記載されている通りです。と、語源だけ言ってもよく分からないと思うんですが、簡単に言ってしまうと通常の感覚とは異なる感覚が自動的に生じるような現象の事を、シナスタジアと言います。こうやって調べてみると日本語の共感覚は、正しくは異感覚なのでは? と疑問に思ったりもしたんですが、そこを掘り下げてしまうと脱線しそうなので話を戻しますね」
スライドを、次のページに移動する。
三ページ目に記載したのは、シナスタジアで確認されている現象の、代表例と言えるものを羅列したものだ。
【共感覚で生じる知覚現象の例】
・文字や数字に色を感じる共感覚。 色字共感覚と呼ばれている。共感覚を持っている人の内、全体の七十パーセントがこの色字共感覚であると言われている。 ・音に色を感じる共感覚。 色聴と呼ばれている共感覚現象。 ・時間が見える共感覚。 空間上に時間そのものが構成物として見えるようになっている共感覚現象。「共感覚によって生じる知覚現象の例を、とりあえず三つほど羅列してみました。これは俺が調べた中の、ほんの一例に過ぎないので、他にもあると思います。スライドにも記載してある通り、色字共感覚と呼ばれているものが一番、報告例が多いです。二番目の色聴に関しても色字よりかは報告数が少ないようですが、日本でも研究されているとの情報もありました。三番目に関しては最も特殊な例ですが、とある科学雑誌に投稿されていた内容で、この共感覚を持っている人は一年間を表す円環が、自身の周囲を囲んでいるように見えるそうです。その円環上に示されている一年間は月毎に区切られていて、丁度現在の月が自身の胸の辺りにくるように見えているとの報告でした」
この最後の例に関しては、実際に調べてみて俺も驚いた部分だった。
色字や色聴に関しては、共感覚に対して俺が持っているイメージの範囲内ではあったのだ。
ただ時間が見える共感覚に関しては、そのイメージの枠を突破してきたような感覚だった。
少し話疲れたので俺は小さく息を吐き、言葉を止めるのと同時に皆の様子を眺めた。
神崎、朝山先輩、香月先輩。
みんな真剣な表情で、スクリーンの文字を見つめていた。
俺は一人ずつ、その目を見つめた。
それぞれの瞳から感じられる、色を認識した。
俺はこうやって、人の目から感じられる色を見るのが好きだった。
その人が楽しいと感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは黄色が見える。
その人が悲しいと感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは紺色が見える。 その人が怒りを感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは赤色が見える。 その人が恐怖を感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは緑色が見える。 その人が驚きを感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは青色が見える。 その人が嫌悪を感じている、俺がそう認識した時にその人の目からは紫色が見える。 その人が関心を寄せている、俺がそう認識した時にその人の目からは橙色が見える。 その人が信頼を寄せている、俺がそう認識した時にその人の目からは黄緑色が見える。俺は皆の目から見える色を感じながら、その色が変わらない事を願いつつ、続きの言葉を発した。
「さて、俺の研究テーマについての説明はここまでになります。俺はこの研究会でこのシナスタジアと呼ばれている現象について、もっと深く調べていこうと思っています。ここからの話は、なぜ俺がこの研究テーマを選定したのか、その理由についての話です」
ふいに、神崎と目が合う。
きっとこいつは、これから俺が話す内容を聞いても何一つ変わらないのだろう。
いつも通り何を考えているのか分からない、不思議なままの存在でいるのだろう。
そう思うと、不思議と安心できる自分がいた。
「俺には小さい頃から、このシナスタジアと呼ばれている現象が起きています。人の目から何かしらの感情を感覚として認識した時に、それが色になって見えます。見え方としては、その人の目にある虹彩と呼ばれる箇所の色が変わる、そんな感じです」
そして俺は、自身の共感覚現象について簡単に説明した。
それは言ってしまえば、目に映し出された感情に色を感じる共感覚というものだ。
「正直、俺は自身に生じているこの現象について人に話そうとか、もっとちゃんと調べてみようとは思っていませんでした。ただ、この研究会で皆がそれぞれの研究に打ち込む姿を見て考えが変わりました。これは自分自身に関連する事だし、もっと深く知るべきだ。その為に皆の力を借りてみるのも良いんじゃないかと。そういう意味で、この研究会に入会できた事は良かったと思っています。目を背けるんじゃなくて、向き合うキッカケになってくれたので」
その言葉が余ほど嬉しかったのか、香月先輩が口角を上げ、笑顔をこちらに向けた。
黄色の瞳を灯したその笑顔を見て、この人やっぱ美人だなーなんて、場違いな感想が脳裏に浮かんだ。
朝山先輩はなぜかドヤ顔で腕を組み、うんうんと頷いている。なんでドヤ顔なのかはよく分からない。
神崎は変わらずに無表情で、やっぱり何を考えているのかよく分からない。
奇異の目など、誰からも向けられていない。
その事実に安心すると同時に、今まで誰にも話していなかった事を告白した事により胸のつかえがおりたような心地だった。
俺は皆の様子を眺めた後、どんな風に閉めようか、先輩達はどうしていたっけ、などと考えながら最後の言葉を口にした。
「えっと、そんな感じです。こんな俺ですが、これからもよろしくお願いしますってことで、俺からの発表を終わりたいと思います。ご静聴ありがとうございました」
「……来た」「ああ、そうか」 研究会の部室を後にした俺と神崎は、肩を並べて帰宅の徒についていた。 いま神崎は来たと言ったので、どうやら観測者という存在が、また俺の視点を借りに来たらしい。 ついさっきいなくなったと思ったら、数時間の内にまた現れる。 神出鬼没な奴だ。 結局、観測者についての話し合いを進めても、その正体について答えは出ないだろう。 俺たちにとって、観測者はその存在が異質過ぎる。 神崎はその正体を解明する事を目的としているが、それは容易ではないだろう。 そんな事を考えながら、夕日に染まる住宅街の道を神崎と歩き続ける。 このまま進み続ければ駅前へと到着し、そこで神崎とはお別れだ。「なんで神崎は、観測者の視線を感じ取れるんだろうな?」「それに関しては、思い当たる事はある」「へえ、思い当たる事ってなんだ?」「私は幼少期の頃から、人の視線というものに凄く敏感だったから。他者視線恐怖症って呼ばれている病気で、酷い時期には外出も出来ないほどだった」 それは、とても意外だと感じる告白だった。 俺の知っている神崎怜菜という人物に、そういう素振りはまるで見られなかったからだ。 中学生の頃は視線恐怖症とは思えないほどに、俺の事をジロジロと見たりしていたし、新入生代表挨拶や先ほどの発表も難なくこなすほど、寧ろ人の視線に恐れなど抱いていないという印象の方が強い。「心理療法で少しずつ改善して、今ではもう完治しているけれど。多分、そういった経験からじゃないかなっていう推測。ちなみに完全に完治したのは、中学生の時に貴方……観測者の視線を感じた事が、キッカケになってる」 なぜ観測者の視線を感じた事が、完治のキッカケになるのだろうか。 その理由を、神崎は話してくれた。「観測者の視線を感じたあの瞬間から、私は人に見られるという行為そのものに、恐怖心を抱かなくなった。異質な存在である観測者の視線に比べれば、普通の人間である
発表が終わり、質疑応答の時間となった。 皆がそれぞれの飲み物を片手に円卓へと集合した後、俺が発表した時と同様に会長特権を発動した香月先輩から発せられた質問は、このようなものだった。「岩倉君も妃那美も気になっているだろうからね。君の研究テーマである次元についてではなく、観測者という存在についてもっと詳しく話を聞かせてもらおう」「……はい。信じられないような話で皆さんを混乱させてしまっていると思うので、何でも質問してください」 それは、主に俺と朝山先輩へ向けられた言葉だった。 事実、朝山先輩の目と表情からは、困惑という感情が見て取れる。 それは、俺も同じなのだろう。「そうだね。君は観測者の視線を、岩倉君を通して感じ取ったと言っていたね。それは、どのような感覚なんだい?」「通常、人から感じる視線は一つです。でも、観測者が岩倉君の視点を持っている時、その視線を二重に感じます」「二重にか……人から視線を感じるというのは、まあ珍しいことではないだろう。しかし、それを一人の人間から二重に感じるというのは、想像し難い感覚だね。その二重の視線というのは、今も感じているんだよね?」「はい。今日、観測者の視線を感じたのは、私が発表の準備を進めている最中でした。それ以降も、まだ消えていません」 神崎の言う事を信じるのであれば、今も観測者とやらは俺の視点を借りて、皆に視線を送っているということだ。 その事実を改めて理解し、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。 俺の意思とは関係なく、よく分からない存在が勝手に俺の視点を借りているというのは、何とも気味が悪い。「あ、そっかー。私の発表の時に幽霊がいるかどうかって聞いてきたのって、それを確認する為だったってことかな?」 思い出したかのように言った朝山先輩の質問に、神崎は頷いて答える。「観測者の正体について、それが霊的な何かなのではないかという考えもありました。でも霊感があるといっていた朝山先輩の言葉で、その可能性は捨てました」 そういえば
火曜日の放課後。神崎が研究テーマを発表する日となった。 万物研究会では既に研究会のメンバーが全員集まり、神崎が発表準備を進めているという状況だった。 流石にこれでもう、四回目だ。 発表までの流れを既に知っていた俺は、いつも先輩にその作業を任せるのも悪いだろうと思い「今回は俺がやりますよ」という言葉を残して、香月先輩が前回までそうしていたように、室内灯のスイッチ付近に立っていた。 先輩達二人は既にいつもの定位置に座っているので、後は神崎から準備完了の合図を待つだけだった。 配線作業が終わったのか、神崎の傍にあるノートPCの画面がスクリーンに映し出される。 それで準備が整ったのだろう、神崎がこちらに目線をくれたのを合図に、室内灯のスイッチをオフにする。 スクリーンに映し出された、スライドデータの表題に目を向ける。 そこには、こう書かれていた。【次元について】「それでは準備が出来たので、私の研究テーマについて発表します。私が研究テーマとして選んだのが、このスライドの表題となっている次元についてです。次元については既に知っていると思いますが、簡単に説明だけします」 神崎がPCを操作し、スライドを次のページへと移動させる。 映し出されたのは、真っ白な背景の中央に直線だけが引いてあるページだった。「そもそも次元というのは数学において、空間の広がりを示すための指標です。なので、一次元というのはその文字の通り、次元が一つしかない空間の事を言います。簡単に言ってしまえば、直線しかない空間が一次元です。一方向に伸びる長さだけがあり、それ以外の広がりを持ちません」 神崎によって、次のページが写し出される。 今度はページの中央に、縦方向と横方向に線が引かれていた。「今度は縦と横に空間が広がりました。これが二次元空間と呼ばれているものです。一次元との違いは、直線的な移動だけでなく、面状の移動が可能になったという点です。現代的な意味だと、アニメや漫画といったメディア媒体に登場する人物を、二次元キャラと言ったりしますが、それは二次元という平
休日をどのように過ごすかは人それぞれだと思うが、こと俺に関して言えば、一駅隣にある大型のショッピングセンターに足を運ぶ頻度が高かった。 そこは日本一大きなショッピングセンターと言われており、店舗面積は日本最大。 一日では到底、全店舗を回りきれないほどの広さを持っている。 求めているものを探せば、大抵は見つかると言っても過言ではない。 その場所に足を運ぶ機会が多いのは、やはり子供の頃から隣町に住んでいるからという理由が大きい。 区画は大きく月エリア、星エリア、空エリアに分かれている。 その中でも俺がよく利用しているのが、月エリアの一階に店舗を構えている書店だった。 古めかしさの全くないその書店には、本のみならず家電や食べ物、子供用のおもちゃなど多様なものが販売されている。 本を買った後、それを読む空間まで用意されているのだから、是非ともこの書店内で存分に寛いでくださいという企業からの想いが伝わってくるかのような場所だった。 俺はこの店で気になった本を手に取っては流し読み、面白そうだと感じた本を購入しては、併設されているカフェでその本をゆっくりと読む時間が好きだった。 今日もそんな時間を過ごそうと、俺は書店内を歩きながら本を物色していた。 基本的に選ぶ本はミステリ小説やホラー、SF、ライトノベルといったエンタメ要素の強い本だ。 普段はそういった作品を好んで読んでいるのだが、今回は少し趣向を変えてみることにした。 自身での発表を終えた事により、俺にも研究会メンバーとしての自覚が芽生えてきたのかもしれない。 手に取った本はそれぞれ香月先輩、朝山先輩、そして俺が研究している内容の参考になりそうな本だった。 合計三冊の本を購入した俺は、書店内に併設されているオープンカフェでアイス珈琲を注文する。 店員が珈琲を用意している間、なんとなしにテラス席の方へと視線を向ける。 その視線の先に、見知った顔を二つ見つけた。 五つ用意されているテラス席の一つに、向かいあった状態で腰かける香月先輩と、朝山先
俺の発表が終わると、例の如く機材の片づけから始まり、香月先輩が入れた珈琲をお供に四人で円卓を囲む形となった。「さて、ここで会長特権を使わせてもらおう」 皆が珈琲に口を付けた後、いの一番に口を開いたのは香月先輩だった。「会長特権?」 首を傾げて疑問を投げた朝山先輩に対し、香月先輩はコクリと頷く。「妃那美も怜菜も、岩倉君に質問したい事があるのは分かっているが、ここは会長特権を使わせてもらう。つまり……質問は私からだ」「えー、なんだそれー。ずるいぞー!」 やんややんやと文句を言う朝山先輩を無視して、香月先輩は俺へと視線を向けた。 ちなみに神崎はというと、親指ってそんな速さで動くのかと驚かざるを得ない速度で、スマートフォンを弄っている。 また、何か調べているのだろう。「まずは岩倉君、発表お疲れ様。とても……本当にとても興味深い内容の発表だったよ。シナスタジア、私もその言葉自体は知っていたけどね。君の発表からは私の知らない新しい知識が沢山得られたよ。特に共感覚の知覚現象の例や、君自身に生じている現象については、とても興味深いね。なんというか、私達人間の感覚、知覚と呼ばれているものは想像以上に複雑で奥深く、どこか神秘的とさえ感じた」 そう話す香月先輩は、どこか楽しそうだ。 その瞳からは楽しい、関心といった感情の色が見えた。「さて、私からの質問だが、君は他人の目から感情の色が見えると言っていたね。いま私の目からも、その色が見えるのかな?」「はい、見えますね」「どんな感情の色が見えているんだい?」「今は黄色と橙色なので、楽しい、もしくは嬉しいかな。後は興味、関心といった感情の色も混じって見えます」「……ふむ、当たっているね。私自身の今の感情として、それが正しいと思う。楽しい、嬉しいと言った感情は喜びに付随するものだから、同じ色に見えるということかな。興味、関心に関しても類似した感情と言える……感情と色の結びつきについ
水曜日の放課後になった。 俺は緊張に弾む心臓の音を少しでも落ち着かせようと、一度だけ深呼吸をしてから、万物研究会への扉を開く。 部屋には既に、香月先輩の姿があった。 今日は俺が研究テーマを発表する日なのだが、彼女は機材の準備だけ既に進めてくれているようだった。「やあ、岩倉君。発表用のデータは持ってきてくれたかな?」「あ、はい。これです」 俺は学生鞄の中から、予め香月先輩から預かっていたSDカードを取り出し、それを彼女に渡す。 SDカードの中には発表用に使うスライドデータのテンプレートと、それを元にして俺が作成したスライドデータが格納されている。 香月先輩は俺から受け取ったSDカードを、彼女が持っていたノートPCにあるメモリースロットに差し込んだ。 SDカードから読み込まれたスライドのデータが、PC上に表示される。「ほう、興味深いね。これは、もしかして君自身の――」 そこまで言った所で、香月先輩は言葉を止めて緩やかに首を左右に振った。 ふわりと香ってきたシャンプーの香りに、一瞬だけ気を取られた。「いや、すまないね。発表前だというのに、つい質問してしまいそうになってしまった。質問は、後の楽しみにとっておこう。あとはこのケーブルをここに差し込めば、スクリーンにPCの画面が表示される。スライドのページ移動に関しては分かるよね?」「はい、大丈夫です」「よろしい。では、準備完了だ」 そんなやり取りから数分も経たない内に、朝山先輩がいつもの「やほー」という挨拶で登場した。 そのすぐ後に、神崎が無言のままペコリと頭を下げながら姿を見せた。 メンバー全員が揃い、それぞれが定位置へと着いた所で、香月先輩によって部屋の電気が消灯される。 そのタイミングに合わせて、俺は先ほど言われた通りにケーブルを配線した。 問題なくPCの画面がスクリーンに投影されているかを確認した後、皆の反応を伺う。 朝山先輩は首を傾げている。その様子から察するに、どうやら彼女はスクリーンに映し出
日曜日の午後、俺は学校からタブレットPCを家に持ち帰り、そのキーボードを叩いては、頭を捻るという行動をひたすらに繰り返していた。 香月先輩と朝山先輩、万物研究会の既存メンバーである二人の発表が終わった。 そのため、次は新メンバーである俺と神崎が研究テーマについて発表する運びとなったのがその原因だ。 香月先輩からは、今週どこかのタイミングで、簡単に研究テーマについての発表をしてほしいと頼まれている。 しかし、その研究テーマというものが、中々決まらない。 研究対象は何でも良いとは言われているものの、そこまで自由
朝山先輩の発表が終わり、機材の片づけを皆で協力して完了させた後、俺たち万物研究会のメンバー四人は中央のテーブルに集まって一息ついていた。 発表を終えた朝山先輩は何だかんだ緊張していたようで、その糸がほぐれたかのように脱力している。 香月先輩は優雅に珈琲の入ったカップを啜っており、その視線はテーブルに突っ伏している朝山先輩へと向いている。 神崎はというと、前回と同様にスマートフォンで何かを調べているようだった。「妃那美、発表について質疑応答の時間を取りたいんだが、いけるかな?」 香月先輩の言葉に勢いよく体を起
そんなこんなで火曜、水曜、木曜日と日々は過ぎていき、あっという間に朝山先輩が発表する日である金曜日になった。 放課後に研究会へとやってきた俺は、既に三人揃っていた面々への挨拶を済ませた後、いつもの定位置へと腰かける。 今日の主役とも言える朝山先輩は「配線間違えたー」とか「あれー? スライドどこに格納したっけー」等と独り言を言いながら、準備を進めている途中だった。 そこから発表までの流れは、香月先輩の時とほとんど同じだった。 朝山先輩の「準備かんりょー」という言葉を合図に、香月先輩が室内灯のスイッチをオフにする。
「新メンバーの歓迎会をしよう」 研究会へ到着し、先に待っていた香月先輩から発せられたのは、そんな言葉だった。 見ると中央のテーブル上には、ペットボトル飲料やお菓子の類が並んでいた。 香月先輩が用意してくれたようだ。 お菓子類に目を輝かせた朝山先輩と神崎は、我先にと席へ着くと、好みのお菓子について談義を始めた。 香月先輩が俺を呼び出したのには、こういう理由があったらしい。 今日は研究活動ではなく、親睦を深めることが目的のようだ。 二人に続き、俺も席へと腰かける。 なん