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1-17.六道辻の爆心地(1/4)

last update Huling Na-update: 2025-07-23 06:00:41

 8月1日。今日からいよいよ六道辻で遺跡調査のバイトだ。外は見事に晴天で気温は朝からすでに26度、日中には35度まで上がると予報が出ている。これから炎天下で穴掘りか。地獄への片道切符を握りしめている気分だった。

「夏波、行くよ」

 冬凪が玄関で呼んだ。クーラーボックスを任されているあたしは、朝起きて用意したおにぎりを六つと冷蔵庫から4リットル分の飲み物と保冷剤を入れて玄関に向かった。一人2リットルの麦茶とスポドリ。半分は凍らしてある。

「本当にこんなに水分補給するの?」

 冬凪は、上は赤い長袖冷感Tシャツにカセンのチョッキを着て、下はワークパンツ姿にゴム長靴を履いてる。Tシャツの色が青ってだけで、あたしと同じ格好だ。違うのは登山用の大きなリュックを背負っていること。その中身は汗拭きタオル十枚と二人分の着替えだ。パンツの代えまで入っている。

「死にたくなければね。それとこれがあれば一日働ける」

 と言ってお腹の辺りをまさぐると冬凪の背後からファンが回る音がしだした。

「今世紀最大の発明品、空調服。ガテンの夏のマストアイテム」

 冬凪ってばガテンって言ってしまったよ。ヘルメットにツルハシ持たせたらまじ親方だけども。

 バ先の六道辻への行き方は通学とほぼ一緒で片道おおよそ一時間ってところ。N市駅(駅まではチャリ)から宮木野線で辻沢駅、辻バスで辻女前経由の大曲行きに乗って辻女前から3つ目が六道辻だ。

〈♪ゴリゴリーン。次は六道辻。あなたの後ろに迫る怪しい影。降車後は猛ダッシュでお帰り下さい〉

 バスを降りると、すでに空気がむっとしていた。六道辻というだけあって街中からきた道がここで五つに分かれていた。冬凪はその真ん中の一番大きな道を進み出す。あたしはクーラーボックスの重さを肩に感じながら冬凪について行った。

「ここの車内アナウンス、怖がらせすぎくない?」

「『帰ってきた』辻川町長がここで掠われたからね。バス停と、ほらあそこに見えるお屋敷の短い間だったって一緒にいた子が証言してる」

 冬凪の指さした先には竹林に潜むように大きな藁葺き屋根のお屋敷があった。

「じゃあ、あれが」

「そう、旧辻川邸。今は調邸だけど」
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