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2-54.血樽の家(2/3)

last update Huling Na-update: 2025-08-30 11:00:18

 この時点から22年前、調家で男女の双子が生まれた。レイカとその兄だ。辻沢のヴァンパイアは、女子の双子が生まれるとどちらかがヴァンパイアになるが、男女の場合は両方がなると言われている。六辻家筆頭ながら久しくヴァンパイアがいなかった調家では、当主の家刀自(由香里の母)が二人を確実にヴァンパイアにするため、同年生まれの双子を「餌」として飼うことにした。幼い身に大量の血を与えるとショックを起こしかねないので徐々に摂取量を増やす計画だった。その餌として選ばれたのがひまわりとミワだ。二人は毎週末お友だちの家に遊びに行くと言って調家に通わされたが、その実態はレイカとレイカの兄に血を与えるため目の前で瀉血させられていたのだった。

「ひまわりとあたしの実家はチダルっていう家柄でね」

 と空に指で漢字の「血」の字を書いて「木偏に尊厳の尊って書く樽で血樽」とミワさんが説明すると、ナナミさんがそれを引き継いで、

「ヴァンパイアの餌の家系と言われている。自分たちはヴァンパイアにはならないけれど、因子は受け継いでるから極上の血なんだそうだよ。六辻家で双子が生まれると同じ年に双子が生まれるって属性までついてね」

「でも、そんな生活から由香里さんが救ってくれた」

 小学校に上がる直前、それまで家刀自の言いなりだった由香里が二人を解放した。ひまわりとミワのことを哀れんでのことだったらしい。レイカの兄をヴァンパイアにしてしまったことを悔いてというのもあったのだそう。

「レイカさんはその時、ヴァンパイアにはならなかったんですね」

「そうだね。あいつはならなかった。でも一度なりかけたみたいなんだ。その時、六道辻にあった調家が爆発炎上して家刀自とレイカの父親が死んだ」

 それって、高倉さんが話していたヒカの隣にユカが引っ越す原因になった火災のことだろうか。

「爆発とヴァンパイアってどんな関係があるんですか?」

 冬凪がインタビュースキルを発動して正面突破な質問をする。ナナミさんは、

「爆発オプションなんて持ってるヴァンパイアはいないはずなんだけどね。ただ、由香里さんがレイカのことバクダンって言ったのが単なる比喩でないのは感じてる」

 ミワさんが笑顔のまま、

「今ちょうどレ
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