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3-100.枯死する世界樹(2/3)

last update Last Updated: 2025-10-29 11:00:58

 あたしは震える冬凪を抱きしめた。

「冬凪、神話なんて作ればいいんだよ!」

「誰が?」

「あたしたちが!」

「そんなこと。神でもないのに」

 冬凪は子供のように泣きじゃくりだした。

「十六夜に会いに行こう。使命とかいらない。あたしたちの神話をつくろ! 冬凪とあたしと鈴風で」

 ヒックヒックしながら冬凪があたしの目を見つめる。そしてもう一度、母宮木野の墓所の土煙を見下ろして、

「そっか、あたしたちが新しい辻沢の記憶になればいいのか」

 ワンチャンなれんじゃね?(死語構文)

 その時突然、天地を揺るがす雷鳴が轟いた。耳を裂く大音量、大気が震え落葉の勢いが一瞬止まる。

冬凪もあたしも耳を塞いで衝撃波を遮断する。

自転車を漕ぐ鈴風は肩を思いっきりすぼめながら全力をキープする。

雷鳴は何度も何度も繰り返す。その度に叫び声が出るけれど、全て雷鳴に打ち消されて聞こえない。

 その雷鳴は天から降ってきたのではなかった。

枝葉に遮られてここからは見えない世界樹の中心から響いてきていた。

やがて世界が破裂したような爆発音がした。

「世界樹が!」

 冬凪が指差す世界樹の幹で爆裂連鎖が起こり、次々に樹皮が剥落しだした。

その勢いは枝葉の落下より早く、樹皮がなくなった場所は血の様な樹肌を晒していた。

「何が起きてる?」

 冬凪が目を丸くして言った。

 そんなのわからない。けど、とんでもないことが出来しゅったいしてるに違いなかった。

「急ぎましょう」

 鈴風が息を切らせながら叫んだ。

「分かった。でもそれ、鈴風次第かも」

 鈴風が一言、

「ですよね」

 冬凪もあたしもリアカーに乗ってるだけだ。

 その間も雷鳴は轟き続けていた。天地が終わるまで鳴り続けるつもりなのか? と思った途端、雷鳴が止んだ。

豪雨のような落葉の音が耳にうるさくなる。

そしてしばらくする

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