เข้าสู่ระบบ「なんか……妖怪が神社、掃除してるんですけど」
はーい、あたし秋華!
絶賛、気分は闇堕ち中〜!
水鏡さまに「いらない猫」扱いされて傷心のところを、千年さまにお姫様だっこされて、牛車に乗せられ。今、晴明神社に着いたとこなの♪ もうなんか傷つきすぎて、逆に高まってきたわー。
今宵からあたしは、ここ晴明神社で暮らすらしい。
はあ……数奇な運命もあるものだわ。
なんとも言えぬ傷心のまま、神社の玉砂利を踏みしめる
ふと正面をみたら
妖怪、うじゃうじゃいるんですけど────っっ!
神社に着くまでは、あやかしが跋扈するなんて微塵も思えなかったのに。ここ、晴明神社の鳥居をくぐったら、めっちゃ妖怪ウロウロしてる────!!!
これって安倍晴明さまの「式神」よね?
陰陽師は妖怪と契約を結び、使役すると聞くもの。
式神は、自分の代わりに戦ったり
雑用をしてくれるって、噂があるけど。本当なのかしら?
ふと見上げれば、夜の帳が降りていた。
いつの間にか藍色の空に、三日月が瞬いてたの。
今宵から、新しい生活が始まるんだもんね。もう水鏡さまの所には、戻れないのだし……。少しは元気出さなくちゃ! そんな風に思い直していると
目の前に、河童がいた。
縁側できゅうり、ボリボリ食べてるんですけど……っ!
え、これも式神なのかな!?
瞳は虚無だ。緑のキュウリがボリボリボリボリ、滑るように吸い込まれていく。
あたしあの河童さんと仲良くできるかしら……心配。
うーんうーん。なんとも言えない気分のまま、台所を横切ると
包丁を握り、魚をタンタンタンターーンと華麗にさばいている。
これって、世にいう剣豪なのかな?
包丁で斬る速さが尋常じゃないわ。その横では桜の鬼っぽいのが、
ここの妖怪みんな凄い! 働き者な気がするわ。
でもこの屋敷、妖怪ばかりで人はいないのかしら?
晴明さまと千年さま以外、妖怪ばかりなのかなあ。
廊下から台所を呆然と見つめていると、晴明さまが声をかけてくれた。
「おお、秋華どの。腹が減ったであろう〜今から
「え、あ……はい」
そういえば、お腹すいてたっけ。
あたしは広すぎる畳に戸惑いながら、あらためて部屋の様子に視線をうつした。壁際にそびえ立つ
龍の屏風。その真ん前に猫ほどの大きさの、小さな青龍が寝そべっていた。
「え、かわいい〜!」
ちびちびの龍は、畳の上でスウスウ寝息を立てている。
かぐわしい白檀の薫り。
長い机の端に、あたしはそっと腰を下ろした。
「さあ、いっぱい食べてくれ! ここにいる式神たちが作ってくれたご飯だ」
千年さまが花のような笑みで、あたしにお魚いっぱいのご飯を渡してくれた。鯉を煮た料理かしら? とってもご馳走だわ。食べようとすると、小鬼の少女が湯漬けを渡してくれたの。
「あたいが作ったの。ねえ、食べて」
「ありがとう」
小鬼は緋色の着物を纏い、髪はおかっぱ。
前髪はパツンと切り揃えられていた。その真紅の瞳が、あたしを不思議そうに見つめる。
「お姉ちゃん、いっぱい泣いたの?」
「え……」
心まで見通すような透明な瞳に、一瞬とまどう。
彼女はあたしの隣にストンと座ると、優しく目を細めた。
「あたいは
「え、視えるって」
ひょっとして水鏡さまとの事、見えたってこと?
驚いて彼女を凝視していると、覚が頭をポンポンしてくれた。ちいさな紅葉みたいな手が、あたしの髪をほわほわ撫でる。
「もう、戻ってこないと思うよ。その人」
「え……」
「心を、夕月夜って妖に奪われたんだね。ずっとここに居ていいんだよ」
まるで……母親が子どもを励ますみたいだ。
ポンポン。
ポンポン。
ポンポン。
あたしが子猫の頃も、水鏡さまがこうやって背中をポンポンしてくれたっけ。
縁側でまどろんでいたら、また抱っこしてくれないかな……。
ねえ、安倍晴明ってさ、すごい人だね。
この世には悪しき妖怪ばかりじゃなくて
優しい妖怪も……いるんだって事、教えてくれる。
「ありがと。これも食べるね」
湯漬けをひと匙すくってみる。温かい汁が、心まであたしを満たしていく。やさしい味だわ……。その刹那、バタバタバタバタと派手な足音がして、あたしの眼前に座る誰かが見えた!
「元気でると思ってさ、これ持ってきたぞーーー!」
くしゃくしゃ笑顔の千年さまの手には、でーーーっかいお札が握られていた。紅い紙に、漆黒の文字。何か読めない漢字がウネウネと蛇のように記されていたの。
「え、何ですか、それ!?」
「お札! 厄除けの凄いヤツ。夕月夜もここには来られないと思うぞ〜今宵はこれを寝る部屋に貼って、ぐっすり眠るといい!」
「ぷっ」
かわいすぎる……っ!
あたしは思わず吹き出した。
だってなんか元気出してほしいんだって、そういう想いが伝わってきたから。
これが恋の始まりだなんて、まだ気付かずにいたけれど────
「なんか……妖怪が神社、掃除してるんですけど」 はーい、あたし秋華! 絶賛、気分は闇堕ち中〜! 水鏡さまに「いらない猫」扱いされて傷心のところを、千年さまにお姫様だっこされて、牛車に乗せられ。今、晴明神社に着いたとこなの♪ もうなんか傷つきすぎて、逆に高まってきたわー。 今宵からあたしは、ここ晴明神社で暮らすらしい。 はあ……数奇な運命もあるものだわ。 なんとも言えぬ傷心のまま、神社の玉砂利を踏みしめる ふと正面をみたら 妖怪、うじゃうじゃいるんですけど────っっ! 神社に着くまでは、あやかしが跋扈するなんて微塵も思えなかったのに。ここ、晴明神社の鳥居をくぐったら、めっちゃ妖怪ウロウロしてる────!!! これって安倍晴明さまの「式神」よね? 陰陽師は妖怪と契約を結び、使役すると聞くもの。 式神は、自分の代わりに戦ったり 雑用をしてくれるって、噂があるけど。本当なのかしら? ふと見上げれば、夜の帳が降りていた。 いつの間にか藍色の空に、三日月が瞬いてたの。 今宵から、新しい生活が始まるんだもんね。もう水鏡さまの所には、戻れないのだし……。少しは元気出さなくちゃ! そんな風に思い直していると 目の前に、河童がいた。 縁側できゅうり、ボリボリ食べてるんですけど……っ! え、これも式神なのかな!? 瞳は虚無だ。緑のキュウリがボリボリボリボリ、滑るように吸い込まれていく。 あたしあの河童さんと仲良くできるかしら……心配。 うーんうーん。なんとも言えない気分のまま、台所を横切ると 鬼童丸と呼ばれし、鬼の式神がいたの。 包丁を握り、魚をタンタンタンターーンと華麗にさばいている。 これって、世にいう剣豪なのかな? 包丁で斬る速さが尋常じゃないわ。その横では桜の鬼っぽいのが、強飯っていうゴハンを飯皿に盛りつけてるし。 ここの妖怪みんな凄い! 働き者な気がするわ。 でもこの屋敷、妖怪ばかりで人はいないのかしら? 晴明さまと千年さま以外、妖怪ばかりなのかなあ。 廊下から台所を呆然と見つめていると、晴明さまが声をかけてくれた。 「おお、秋華どの。腹が減ったであろう〜今から夕餉にいたそうかの」 「え、あ……はい」 そういえば、お腹すいてたっけ。 あたしは広すぎる畳に戸惑
「水鏡、次の満月に連れていく。それまで待っていてくれるね?」 夕月夜はそう言の葉を告げると、中庭から屋根までヒラリと跳躍する。 そうして、あっという間に夕闇の中に紛れていってしまった。 「いや、夕月夜さまーーーっっっt!」 せつない絶叫が廊下に響く。 夕月夜が去っていった方角へと視線を向けたまま、水鏡さまはフラ……っと膝から崩れ落ちていったの。 「どうして……連れていって欲しかったのに。夕月夜さま……!」 遠く、夕映えの向こう。 飛び去っていった彼の名を呟きながら、涙をポロポロ零しつづけている。どうしよう、なんて声をかけたらいいんだろう。かける言葉がみつからない。 「あの、水鏡さま……」 「どうして止めたの? あの時」 氷の如き冷たい言葉 それは、あたしに向けて放たれた想いだった。 「もう少しで夕月夜さまに届いたのに! わらわの想いが分からないの!?」 「だって変だよ! あの藤の妖はさ、水鏡さまを攫おうとしてるんだよ!」 「さらって欲しかったのよ! 邪魔をしないで……っ!」 まるで恋敵を見るような瞳 そんな顔、するんだ。 どんなに美しくても、あれは妖。きっと一緒に行ったなら、元には戻れないと思う。命を吸われてもいいなんて、あたし思えないよ。だってちっぽけな子猫の頃から一緒に暮らしてるんだもの。 「あたし、水鏡さまにさ……死んで欲しくないんだよ!」 「貴方だって化け猫でしょう。一等、気持ちが分かるのではなくて?」 「そんなの、わかんないよっ」 「じゃあ、もう知らない。顔も見たくない!」 「……え?」 今、なんて言ったの……? 「しばらく顔も見たくないわ。次の逢瀬も邪魔をしないで!」 「あんた、この猫ちゃんを拾ったって聞いたけど」 千年さまが割って入ってくれた。 座り込むあたしに手を差し出すと、スッ……と立ち上がらせてくれたの。まるであたしを守るように、水鏡さまの前に立つと、千年さまは口を開いた。 「拾った命に対して、ずいぶんと軽いもんだな。顔も見たくないって、捨てるつもりなのか」 「そこまで言ってませんわ」 水鏡さまは涙を拭きながら、言いよどむ。先刻までの殺気は、少しおさまった気がした。 「同じ事だろうよ。この化け猫ちゃんは心配してるだけだろう。連れて行かれたら、死ぬかもしんねーんだぞ? 赤の他人
「ほう、人の中にも面白いモノがいるものだ」 涼やかに口の端をあげると、夕月夜はスルリと術をかわした。 ドンッッッッッッ!! かわされた術式が、寝所の壁に傷跡を残す。 それは獣の爪で引っかいたようなカタチに刻まれていた。ちょ、千年さまも相当の実力ある陰陽師か何かなのかしら? 煙がモウモウと舞い上がる部屋の奥で、水鏡さまが夕月夜に駆け寄っていく姿があった。 「夕月夜さま、危のうございましたわ」 「大丈夫だよ水鏡。今宵はね、君に『冬に咲く藤の花』を見せたくて此処に来たんだ」 「冬に咲く、藤の花?」 こんな戦いの最中なのに、花の話題!? 夕月夜はまるで、この世に二人きりのような風情だわ。 憂いを帯びた笑みを浮かべ、水鏡さまの肩を抱いている。え……なんか余裕なんですけど! 怖いよ……この少年。あたしの水鏡さまの肩、抱かないでほしい! 当の本人は、煌めくような星の瞳で、夕月夜を見つめている。 水鏡さま、ほんと正気に戻って!!! 「冬に咲く藤の花……! それは、さぞや美しゅうございましょう」 「ああ、雪の華と藤の花びらが……浅葱の空で、はらはらと散りゆくさまをそなたにも……見せてあげたい」 そう呟きながら、ゆっくりと夕月夜は視線を千年さまに向けた。 「君は邪魔だね」 あ、危ない──── ゾクリと肌が泡立つ。その刹那、右手で水鏡さまを抱きしめたまま、銀髪の美少年は左手をまっすぐに、コチラに向けた。いけない、いけない気がする……! 冷たい月のような紫紺の瞳。 それがカッと見開いた……! 「さあ、今宵のお客人。『寡黙の糸』に絡めとられよ」 それは、視えない蜘蛛の糸。 夕月夜の妖術だわ! 水鏡さま以外のその場にいた全員が、目に視えぬ糸に絡めとられた。まるで透明な蜘蛛の巣が、この部屋いちめんに張りめぐらされたようだわ。 「何これ、一体なんの呪いよ!」 あたしは、蜘蛛の巣に囚われた虫のように。 透明の糸で、体をグルグル巻きにされた。 なすすべもなく畳の上に転がるしかない。めっちゃ困るっっ! 立ったままの姿勢で安倍晴明さま、千年さまも寡黙の糸に絡めとられ抵抗できずにいた。 そんな……! みんな動きを封じられてピクリとも動けない。 あたしは声をふり絞り、ギリギリと視えない糸にあらがってみる
安倍晴明さまが印を切った刹那 地上から神々しい光が放たれ、五芒星が浮かびあがった。見ると、水鏡さまが怒りをたぎらせて叫んでいた! 「おのれ安倍晴明、何をしたの!?」 激しい燐光が足元から、円を描くように放たれる。 輝きをまき散らし、世界を包んでいく。ちょっ、突風がヤバイ! 風つっっよ!! 無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーー! ものすごい風に煽られ、几帳が舞い上がる。 姿があらわになった水鏡さまを 五芒星が包むように光ってるんだけど、何これ!? 青白く仄かに光る五芒星に阻まれて、 水鏡さまがギリリ……と扇越しに、こちらを睨んでいた。 まるで鬼を宿したかのような、鋭い眼光だわ……! 「結界か……晴明、おのれ……っ!」 「貴方のためです、水鏡さま。明日の夜、夕月夜があらわれるまで、その結界の中でくつろいでいて下さいな〜」 晴明さまがにこり、と口の端をあげた。 これが……京の都一の陰陽師、安倍晴明。 ……やはり凄い人なのだわ。 「さあ少しの辛抱ですよ。だいじょうぶ退屈はしません、私もこの部屋でともに夕月夜を待ちましょうぞ」 晴明さまと千年さまは、そう言いながらゆっくりと腰をおろした。朝までこの部屋で、結界を張るつもりなんだろう。でも、どうにも嫌な予感がするの。話せるうちに、言葉を伝えなきゃいけない気がする。 「水鏡さま、あたしよ!」 あたしは畳を蹴って立ち上がり、几帳へとかけよった。 じっとして等いられなかった。 結界の中の彼女と視線が交わる。その深紅の瞳、吸い込まれそうだわ。 「秋華……? 何故……」 「どうしてしまったの、水鏡さま変だよ。夕月夜なんかに騙されないで! あれは夢を魅せて命を奪うあやかしだよ!」 その言葉を受けて、水鏡さまは不思議そうに首をかしげた。 「騙される……? 私は恋を知っただけよ」 「恋って……夢のあやかしに……?」 「そうよ。ねえ、秋華。あの人の美しさを知っていて?」 「知らないわ」 「ならば教えてあげる。銀の髪に、蒼い月のごとき瞳。真綿のような白き指で、あたしの頬をなぞる彼の人は……妖でありながら、この世の誰よりも美しいのよ」 うっとりと彼女が呟く。その指が、なにもない虚空を探る。 そこに愛しい誰かがいるように。 その瞳は魔を孕み 燃え立つような紅い単衣とあ
ある村に、藤の花の精霊が棲んでいたという その精霊は、夢の如き美少年でありました。 樹齢千年を越えた、巨大な藤の花は いつしか妖しの力を持つようになったのです。 銀髪の麗しき少年「夕月夜」 かの妖があらわれるのは三回。 一度目は「貴方が想う……一等美しいものを教えて」と問われ。 二度目は「貴方の名を教えて……」と聞かれ。 三度目は…… 三度目の問いは、誰も知らないのだという。 それは少年が三たび訪れた時、必ず死に至るから────◇ 藤の花の精霊、その名は『夕月夜』 彼が今宵、ここにやってくると聞きましてな。 結界を張ろうと思うのですが、その前に 安倍晴明さまは、涼やかに笑みを浮かべると小さな錫杖を鳴らした。 シャンーーーーー その水鏡殿の元へと、ご案内願いたい」 鈍色の錫杖。 すごい、さすが稀代の陰陽師。よく使い込まれた色をしているわ。 「この千年も、一緒に参りましょうぞ!」 肩まである金色の髪が、サラリと揺れる。 はーーーなんか千年さまって、綺麗……! このまま見つめていたいけれど、化け猫としてちゃんとお仕事キメないとね! あたしは水鏡さまの寝所へと、ご案内する事にした。 寝所の横の廊下を通ると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。 冬牡丹だわ。 おおきな真紅の華が咲きみだれ、庭を美しく染めていた。 そういえば、まだあたしが子猫だった頃、鮮やかに咲く冬牡丹、大好きだったなあ。 前足でチョイチョイ、花を叩いたりしてたっけ。 水鏡さまはそんなあたしを見て、柔らかく抱っこしてくれたよね。「かわいい〜お前はあたしの宝物ね!」 そう呟いては、額をフワフワ撫でてくれたの。 あんまり心地よくて、喉がゴロゴロ鳴ってたな……。 そう、あれはまだ夕月夜って妖に、水鏡さまが心を奪われる、はるか前の出来事── 懐かしい記憶が今、フッ……と脳裏をかすめていった。 見上げれば、緋色の夕焼け。 気がつけば美しい黄昏が、雲を染めていたの。 いけない、しっかりご案内しなくちゃ! 「ここが水鏡さまのお部屋です。あの、水鏡さま〜安倍晴明さまがいらっしゃいました。今、開けますね」 真っ白な几帳を眼前に見すえ、中の部屋へと足を進める。 刹那、水鏡さまの低い声が響いた……!
懐かしい夢を見ていた気がする──────── ……いつの間に、眠りに落ちていたのかしら? まだ夢の残り香があるのか、眠い。 何か大切な言葉を、もらった気がするわ。えーっと、想い出せない。なんだっけ? 「涙。なんで泣いてるの、あたし……」 頬にはらりと零れる雫。 あれ、哀しい夢とか見てたのかな。 うーん、全然記憶にないや。あたしはグーーーっと伸びをして。漆黒の尻尾をブンブン振ってみせる。 ここは平安、いつもの水鏡さまの屋敷だ。 あたしは化け猫なんだけど、けっこうお料理や雑用も人間並みにできるんだ。だから割と待遇がいい。厚畳のある広い部屋を与えられてるの。 文机もあるしね〜。 爪とぎ用に転がっているのは、松の大木を切った「丸太」だ。あたしこれ、めっちゃ好き! たまにバリバリしては、スッキリした気分を満喫しているの。 10才で、化け猫の才能を見出したあたしは。 ある日ただの猫から「ヒトに化けること」を覚えた。 もうここ数年はずーーっと、毎日ヒトの娘の姿で生活してるんだ。慣れてしまえばなんて事はないもの。 不思議なんだけど人に変化すると「漆黒の耳や尻尾」は、 人の目には映らないんだって。 腰まで流れる紅い髪は、見えるみたいなのに。 なんだか腑に落ちませんけどー。 他人から見たあたしは「18歳くらいの乙女姿」をしているらしい。 水鏡様が女房(身の回りの世話をする人のこと)に作らせた緋色の袿に、漆黒の唐衣。 それを短く切って走りやすくした特別仕様の着物を、毎日着てるんだ。前に水鏡様が「かわいい〜」って、褒めてくれたっけ。 最近は、そういえば言ってくれないな。 あの藤の花の精霊が、水鏡さまの心を奪ったからだわ。 あの妖に出逢ってから、水鏡さまはすっかり変わってしまった。 また、元の優しい水鏡さまに……戻ってくれるといいのだけれど。 ……あれ? 今なんか音がした気がする。 「あの、どなたかいらっしゃいませんか?」 ふいに玄関から声がした。 そういえば、水鏡さまの父上が「今日は客人が来るからな」って言ってたっけ。確か、陰陽師の来客がなんとかしゃーん、みたいな言葉を告げて、お出かけしたような。 「はーーい」 あたしは返事をして、引き戸をガラリと開けた。 ──待って。好きな顔、降臨!!!! 「死化粧師の|