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last update Dernière mise à jour: 2025-08-01 08:00:00

「お待ちしていましたハウエル・ロビン様」

騎士達に出向かわれた俺はぎこちない様子で挨拶をする。もっと饒舌に出来たらいいのだが、慣れていない。現実でも初対面の相手には緊張してしまう癖がある。俺から見たら違和感にしか思えない自分の行動も、このゲームはきちんとした対応に変換してくれている。この世界の言葉使いを知らない俺をサポートしてくれているようだった。

騎士の後ろから出てくる老人がこちらを見つめながら微笑んでいる。白いローブを羽織っていて、いかにも魔法使いのような姿だ。ほっほっほっ、と高笑いする声が合図となり、騎士達が一斉に跪《ひざまず》く。

「騎申し訳ない事をしたね。君は客人ではなく、国王の息子。王子の立場を手にした存在なのに……私の声で反応するとは、まだまだ教育が足らないみたいだ。気分を害させてすまない」

老人の名前はエンスと言うらしい。攻略対象とは別にキーになる存在にはプロフィールが存在するみたいだ。視界にエンスの情報が出てきたのは驚いたが、これならどうにか進める事が出来る。攻略対象以外との会話は無意識の内に考えてしまう事が自動的に会話に組み込まれていくみたいだ。勿論、現実世界のように談笑も出来る。自由度が高いゲームになる。

少しずつ仕組みを体験出来るのは有り難い。チュートリアル様。

グッと拳を握りガッツポーズをすると、ハッと我に返る。もしかしたらこの行動も具現化されるのではないかと、ハラハラし始めた。

「思考と感情が会話に適応されるだけで、行動はないよなー、流石に」

今回の心の声はどうやら適応されなかったようだ。その代わりガッツポーズが適応されてしまう。まるで舞踏会の中心人物に立っているような物腰で跪き、大袈裟に自分をアピールし始めた。自分で見ていても恥ずかしい。すぐ様終わらしたいのに、簡単にはいかない。

「おやおや……さすがハウエル様。しなやかな身のこなし方、国王も喜びますぞ」

どうやらエンスには好印象を与えられたらしい。ふうと息を吐くと、エンスの声に導かれるように元の体制に戻っていく。

「ラウジャ、来なさい」

「はいエンス様」

ラウジャと呼ばれる人物は自分の動かしているキャラクターと同じ髪色をしている。どことなく自分と似ている存在に驚かされながら、エンスはラウジャの肩を軽く叩く。

「ハウエル様のエスコートをさせていただきます。私はラウジャと申します。お見知りおきを」

「よろしく頼むよ。それではエスコートしてもらおうか」

スマートにいきたいものだが、自分の出来る最低限の知識でどうにか切り抜けようとする。それを見逃さなかったラウジャは誰にも聞こえないようにくすりと微笑むと、そっと右手を差し伸ばしてくる。男性と触れ合う事なんて経験がない俺は、少しずつこの世界に飲み込まれていった。

ラウジャが世話をしてくれるようだ。どういう立場なのかを理解出来ていない俺は、少しずつ彼に対して興味を抱き始める。それもこのゲームのシステムによるものだとは思いもよらないだろう。

「湯浴みをしましょうか。色々な所を回って疲れたでしょうし、少しでもリラックスして頂けたら……」

湯浴みがどんなものなのかを知らない。しかしここで断ってしまうとラウジャの好感度が下がってしまう可能性が出てくる。最初は気づかなかったが、彼は攻略対象の一人だった。チュートリアルの時に紹介されてもいいはずなのに、この部屋に入ってから、急にプロフィールが出てきた。

「お言葉に甘えようかな」

彼の提案を受け入れると、パアッと見た事のない可愛らしい笑顔が現れた。相手は男性なのに、高鳴る鼓動が加速していくのが分かる。本来の自分なら、反応しない事も、どうしても反応してしまうようだ。冷静な思考を保とうとするけど、横槍が入ってきて、思考を定着させる事ができなかった。

「……可愛いな」

ポツリと本音が漏れると、徐々に顔を真っ赤にさせていくラウジャがいる。まるで林檎のよう。その奥に甘い蜜を隠し持っているラウジャの首筋を無意識に見ている。ゴクリと喉を鳴らすと、興奮していく。

「あえあ、すみません」

「そういう時は、ありがとうでいい」

「う……ありがとう?」

敬語を使っていた彼が初めて身近に感じれるようになっていく。トプトプとお湯が溜まっていく音はまるで、押し寄せてくる欲望を表現しているようだった。

俺の手がラウジャへと伸びていく。少し離れていた距離も縮まり、いつの間にか自分の胸板に彼を押し付けていた。突然の事に顔を真っ赤にしながら、硬直しているラウジャは小さな声でお湯が溜まった事を知らせてくる。

「……入りましょうか」

恥ずかしいのか目を合わせてくれない。その姿がどんな美しい人よりも、美しく、甘い香りが部屋中に充満していく。彼の体温を求めるように抱きしめると、耳元で漏《も》れた吐息をより深く感じる事が出来た。

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