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第二話ロロンの気まぐれ①

last update Last Updated: 2025-07-19 17:32:42

 第二話ロロンの気まぐれ①

 このゲーム「メモリアルホロウ」は一度起動し、言葉のトリガーで発動する最新システムが導入されているスマホゲームだ。製作者は清水美緒、俺の母になった人だった。試作品のゲームを改善し世に出す為に、俺がプレイヤーに選ばれた。この事を知っているのは美緒本人と、カガミだけだった。あの二人は本当の親子だが、それ以上にゲーム製作者としての立場を重視している。

 父と再婚をしたのも、何かしらこのゲームが影響しているのかもしれない。

「メモリアルホロウ、略してメモホロの世界にようこそー。君の名前はレイト、龍河レイトですね?」

「……あんた誰?」

 目の前にうさ耳ショタが浮いている。ふふふんとウィンクをしながら、沢山の花のエフェクトで可愛さをアピールしている。

「お口悪ーい。僕はロロンだよー。レイトがゲームを進めるに当たってサポートするプログラムが僕なんだ」

 これは夢だ、どこかで頭を打ってしまったのだろう。目の前で起きている事を、受け入れられない俺はそう思う事にする。シカトをしても消えないロロンは頬を膨らましながら、怒っている。

「シカトはなしー。シカトするなら強制的に始めちゃうよ? レイトの要望も聞かないし、どんな結末になっても知らないからねー」

「……結末?」

 つい反応をしてしまった。その事を見逃さなかったロロンは、パアッと笑顔を灯していく。よっぽど嬉しかったみたいだ。

「シナリオには20個隠されているよ。レイトの言葉でストーリーが進んでいく形式になるんだ。ここはミラウス城、始まりの城だよ。隠された存在の君はこの城の国王が父だと知る、そして新たな王子様の誕生の瞬間でもあるんだ。君はこの城で力を示す為に、五人の攻略対象をクリアしていく必要がある。君なりのエンドを見つけられたら、現実世界へ戻る道も出てくるからねー」

 ロロンはワクワクしながら説明を終えると、強制的にテレポートした。見えない光に包まれていた俺は、始まりの鐘が鳴り始めた事に驚きながら、戸惑うしかなかった。

「お……おい」

 右手に現れた星の装飾がされているステッキを振り回すと魔法のように目の前の光景が広がっていく。ロロンの言う事が事実なら、このゲームをクリアするしか道はないみたいだ。システム的に中断要素があってもいいのに。

 俺の要望を聞いてくれるはずなのに、一度の過ちが適用され、強制的に物語が始まりを告げた。

「楽しんでねー」

 バイバイと手を振ると、ロロンの姿は空間に飲み込まれていくように、消えていく。20個のシナリオの事も、まだ聞けていないのに、どうやって進めりゃいいんだ。そんな俺の心の声はロロンに届くはずもなく、星のステッキの効果で衣装が作られた。髪の色も黒かった自分の姿とは違う青色に染まり、背丈も伸びていく。170㎝だった目線はそれより10㎝高くなったようだった。

「なんだ、これ」

 最初は自分の好きな姿を選ぶ事が出来るんじゃないのかよ。隠れたロロンがニマニマしている光景が頭に過ぎると妙にムカついていく。本来なら自分の姿を確認出来るのは服装くらいだろう。しかしここはゲームの世界だ。システムが現在の自分の姿を映像として脳に直接見せてくれている。それがあったから自分の変化を確認出来たんだ。

【ようこそメモリアルホロウへ。貴方は自分の本来の立場を戻す為に、このミラウス城へやってきました。国王は貴方の消息を長年探して、やっと貴方に辿り着く事が出来たのです。この城の権力関係を有利に動かす為に、貴方は自分の言葉で選択をしていくのです。チュートリアル開始します】

 自分の行動はシステムと連動して、幾つかの選択肢が目の前に現れる。そうして言葉で選択肢をする度にB度数と言うものが上がっていくらしい。隠れシナリオを探すきっかけになるのかもしれない。とりあえずなるべくこのB度数を上げていく事に専念するのがいいかもしれない。

 上げていく方法は攻略対象のキャラクターと一夜を共にする事と記載が現れた。その文字を見ている俺は、時間が止まったように硬直するしか出来ない。かろうじて唾を飲み込む事は出来た。時間が経過していくと強制的に体が動かされていく。自分の想いとは別の行動をとり続ける自分に嫌気がさした。

「なんなんだよ、コレ。自分でやるから勝手に動かすなよ」

 爽やかな表情をしながら、口元から溢れる声はアンバランスだ。心の声が形となって言葉に生まれ変わる。俺の声は俺自身にしか届かない。他のキャラクターからしたら、選択肢を選ばない限りは話しているようには見えないようだ。自分の中ではぶつぶつ言っているのに、すれ違う庭師はこちらに気づいたようににっこりとお辞儀をするだけだ。

 自分の見えているものと他から見える景色は違っているのかもしれないと考えると、考えた事も言葉に言語化されてしまう。

【プレイヤーの思考感情は全て言語化されていきますが、ストーリーに影響はありません】

 チュートリアルの進行役は俺の疑問に答えるように告げていく。右下に何かマークが見える事に気づいた俺は、その事も聞いてみた。するとそこに意識を集中させる事で他スクリーンが開けると指摘してくる。進行役の言う通りに動かしてみると、念じるだけで違う画面に切り替わる。後ろの背景はそのスクリーンを通して、くっきりと写っている。どうやら二重で動かしていても、周囲の状況は確認出来る仕様になっているようだった。

「もし攻略対象が出てきた場合、どうやって会話を成立させていくんだ?」

 大体、こういうゲームなら複数の選択肢が出てくるはずだ。AとかBとか……

【全ての選択肢に通じる言葉はプレイヤーの脳の中に圧縮されています。自分のターンになると脳裏に浮かんできますので直感でお選びください。一つの選択肢を口に出すことで、そのストーリーが開始されていきます。途中に何度か分岐点が出てくる場合がありますので、そこも同様に念じて選んでください。説明は以上です。異常事態以外は、プログラムの関与はありません、それでは】

 淡々と教えてくれる進行役に安心しつつ、このまま頼り切って楽に攻略しようと考えていた俺は、その思惑通りにならない現状に打ちひしがれていた。そりゃそうだ、自分の心の声さえも口にしてしまうのだから、思惑は隠しきれない。まるでこのゲームを作った奴に踊らされているように感じた。

「そういやB度数って何を示しているんだろう……聞き忘れた」

 情報はなるべく手に入れた方がいい。俺は進行役に聞こえるような大声で張り上げる。しかし説明を終えた進行役は、うんともすんともしない。事前に説明される内容は決まっていて、このB度数は組み込まれていないようだった。とりあえず攻略対象と一晩過ごす事で上げていくしか方法はない。それが今分かる最低限の事だった。

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