中学1年生の蒼人(あおと)は、笑顔が眩しいクラスメイトの空(そら)と出会い、瞬く間に親友になる。同じ時間を重ねるうち、蒼人の心に芽生えたのは、友情を超える淡い恋心だった。照れくささと勇気の間で揺れる蒼人は、空の何気ない仕草や言葉に心を奪われながら、初めての恋に戸惑う。一方、空もまた、蒼人との特別な絆に気づき始め、互いの距離は少しずつ近づいていく。学園祭や部活、すれ違いと仲直りを通じて、二人は青春の喜びと切なさを味わう。入学から卒業までの3年間、純粋で不器用な初恋は、どんな思い出を刻むのか。あの頃の自分を思い出す、甘くほろ苦い男子中学生のラブストーリー。
View More6月中旬、梅雨の季節がやってきた。校庭は雨に濡れ、教室の窓には水滴がぽたりと落ちる日々が続いていた。蒼人と空はサッカー部での活動を通じてますます仲を深めていたが、雨のせいでグラウンドでの練習ができない日は、体育館で基礎練習やミーティングが行われた。蒼人は最近、空と過ごす時間が長くなるほど、自分の気持ちが「友達以上」だと確信しつつあった。でも、それを認めるのはまだ怖かった。ある雨の日、体育館でのサッカー部の練習中、蒼人と空はいつものようにペアでパス練習をしていた。体育館の床は少し滑りやすく、蒼人はボールを蹴るたびに慎重になっていた。 「ソ:蒼人、もっと強く蹴ってみて! 俺、ちゃんと受け止めるからさ!」 空が笑顔で言う。蒼人は少し緊張しながらボールを蹴ったが、力加減を間違えてボールが空の足元を通り過ぎ、体育館の隅に転がった。 「ア:あ…ごめん、強く蹴りすぎた…」 蒼人が慌てて謝ると、空が「いいよ、俺が取ってくる!」と走ってボールを拾いに行った。戻ってきた空は、汗で少し濡れた髪を指でかき上げながら、蒼人のすぐそばに立った。 「ソ:ほら、蒼人! もう一回だ!」 空がボールを渡そうと近づいた瞬間、体育館の床が滑り、空がバランスを崩して蒼人に倒れ込んだ。蒼人も咄嗟に受け止めようとして、二人で床に倒れ込んでしまった。 「ア:うわっ…! 空、大丈夫…?」 「ソ:う、うん…ごめん、蒼人。滑っちゃった…」 二人は体育館の床に座り込んだまま、顔を見合わせて笑った。蒼人は空が自分に覆いかぶさるような形で近くにいることに気づき、心臓がドキドキした。空の汗とユニフォームの匂いが混じり、蒼人の顔が熱くなる。 「ソ:蒼人、顔赤いよ? 怪我した? 大丈夫?」 空が心配そうに蒼人の顔を覗き込む。距離が近すぎて、蒼人は慌てて目を逸らした。 「ア:だ、大丈夫…! ちょっと暑いだけ…離れてよ…」 「ソ:えー、でもさ、蒼人の顔、めっちゃ可愛いなって思ったんだから!」 空が笑いながら言うと、蒼人はさらに顔が熱くなり、空の肩を軽く押した。 「ア:やめてよ、そういうこと言うの…恥ずかしいって…」
6月下旬、梅雨が一時的に明けた晴れた日、学校では毎年夏休み前に体育祭が開催されることになっていた。校庭にはテントが張られ、クラスごとに応援グッズの準備や競技の練習が行われていた。蒼人と空はサッカー部での活動を続けながら、体育祭に参加することに。テストや遠足を乗り越えた二人は、最近ますます一緒にいる時間が長くなり、クラスでも「仲良しコンビ」として知られていた。蒼人は空への気持ちが「友達以上」だと自覚しつつも、まだ素直になれずにいた。 体育祭の1週間前、クラスのホームルームで競技の割り当てが発表された。リレーや騎馬戦、借り物競走などがあり、蒼人と空はリレーのメンバーに選ばれた。 「ソ:おお、蒼人! リレー一緒じゃん! 絶対勝とうぜ!」 空が目を輝かせて言う。蒼人は走るのは得意ではないけど、空の楽しそうな顔に押されて頷いた。 「ア:うん…でも、俺、足速くないし、空に迷惑かけたら…」 「ソ:大丈夫だって! 俺が最後でバトンもらうから、蒼人が頑張れば勝てるよ!」 空が自信満々に笑う。蒼人の胸がドキッとして、練習を頑張ろうと決意した。友達として支えたい。でも、心の奥では空を喜ばせたいという気持ちが強くなっていた。 クラスでは応援グッズの準備も進めていた。1年A組はクラスカラーである青を基調に、応援用のハチマキや旗を作ることになった。蒼人と空は一緒にハチマキにペンで「A組がんばれ!」と書き込み、時々手が触れ合って蒼人がドキッとする瞬間があった。 「ソ:なあ、蒼人! 俺、字下手だからさ、蒼人が書いてくれると助かる!」 「ア:え、俺もそんなに上手くないよ…でも、いいよ」 蒼人が丁寧に文字を書くと、空が「めっちゃ上手いじゃん! さすが蒼人!」と笑顔で褒めてくれた。蒼人は照れながらも、空の笑顔に心が温かくなった。 練習が始まると、クラスメイトと一緒に校庭を走った。蒼人は最初、息が上がり気味でバトンパスをミスすることもあった。 「ア:ごめん…また落としちゃった」
6月に入り、梅雨の気配が近づきつつあったが、まだ晴れの日が続いていた。中間テストが終わり、蒼人と空は結果を待つ間、サッカー部の練習に励んでいた。テスト勉強で図書室での時間が多かった分、グラウンドでの汗と笑顔が新鮮に感じられた。蒼人は空に教えながら一緒に勉強したことが思い出され、胸が温かくなった。空も「蒼人のおかげで数学、なんとか及第点だったよ!」と笑い、蒼人に感謝していた。サッカー部の練習は、テスト明けで少し緩やかな雰囲気だった。先輩たちが新入生にパスやドリブルのコツを教えてくれ、蒼人と空はペアで練習に取り組んだ。 「ソ:なあ、蒼人! 今日、シュート練習しようぜ! テストお疲れ様って感じでさ!」 空がボールを手に持って笑う。蒼人は少し疲れていたけど、空の楽しそうな顔に釣られて頷いた。 「ア:うん、いいよ…でも、俺のシュート、外れる確率高いからな」 「ソ:大丈夫! 俺がゴール守るから! 蒼人のシュート、全部受け止めるよ!」 空が自信満々に言うと、蒼人の胸がまたドキッとした。友達として普通のことなのに、最近は空の言葉が妙に心に響く。グラウンドで空がゴールの前に立ち、蒼人がボールを蹴った。初めてまっすぐ飛んだボールが空の手に収まり、二人で「やった!」と笑った。 「ソ:蒼人、進歩してるじゃん! すごいよ!」 「ア:…空のおかげだよ。教えてくれるから」 空が近づいてきて、蒼人の肩をポンと叩いた。その手が触れた瞬間、蒼人は顔が熱くなるのを隠せなかった。友達以上、なのかもしれない。まだ自分にその答えは出せなかった。練習後、先輩の一人が「新入生、最近頑張ってるね」と声をかけてくれた。佐藤というクラスメイトも部にいて、蒼人と空を「いいコンビだね」と笑顔で褒めた。蒼人は少し照れくさかったけど、空が「だろ? 俺ら、最高だよ!」と得意げに言うので、自然と笑顔になった。部活が終わると、二人はいつものように一緒に帰り道を歩いた。 「ソ:なあ、蒼人。来週、遠足あるじゃん。一緒に組もうぜ!」 「ア:え、遠足? うん、いいよ。どこ行くんだっけ?」 「ソ:校外学習で公園だよ。弁
5月も下旬に差し掛かり、校庭の新緑が一段と濃くなっていた。中学1年生の蒼人と空は、サッカー部に入部してからさらに仲を深めていた。部活の練習で一緒に汗を流し、帰り道に他愛もない話をしながら笑い合う日々。そんな中、初めての中間テストがやってきた。クラスではテスト範囲のプリントが配られ、先生が「ちゃんと勉強するように!」と念を押す。蒼人は勉強はそこそこ得意だったけど、空は少し苦手意識を持っているようだった。放課後、教室で空がテスト範囲のプリントを眺めながらため息をついていた。 「ソ:うわー、数学、範囲広すぎ…俺、方程式とか全然わかんないよ」 空がプリントを机に広げて頭を抱える。蒼人は隣で教科書を整理しながら、空の困った顔をちらっと見た。 「ア:空、勉強すれば大丈夫だよ。…一緒にやる?」 「ソ:え、マジ? 蒼人、頭いいもんな! 助けてくれー!」 空が目を輝かせて蒼人の腕をつかんだ。蒼人はその勢いに少し驚きながらも、なんだか嬉しくて小さく笑った。 「ア:うん、いいよ。図書室で勉強しよう。静かだし」 「ソ:やった! 蒼人、最高! 俺、蒼人にめっちゃ感謝してるからな!」 空が笑いながら蒼人の肩をポンと叩く。その手が触れた瞬間、蒼人の胸がまたドキッとした。テスト勉強なのに、なんでこんなに緊張するんだろう。二人はランドセルを持って図書室に向かった。5月の夕方、図書室は静かで、窓から差し込む陽光が木の机を温かく照らしていた。蒼人と空は奥の席に並んで座り、教科書とノートを広げた。蒼人は数学の教科書を開き、空に方程式の解き方を教え始めた。 「ア:ほら、ここの問題。まず、xをまとめて…こうやって移項するんだよ」 蒼人が丁寧に説明しながら、空のノートに解き方を書き込んでいく。空は真剣な顔で蒼人の説明を聞きながら、時々「へえー」と感心した声を上げた。 「ソ:蒼人、めっちゃわかりやすい! 俺、こんなの初めてわかったかも!」 「ア:よかった…じゃあ、次はこの問題やってみて」 蒼人が問
5月に入り、新緑が校庭を鮮やかに彩っていた。蒼人と空は、入学から1カ月が経ち、ようやく中学校生活に慣れてきた頃だった。蒼人は空に誘われる形でサッカー部に入部することを決めていた。自分は運動が得意ではないと思っていた蒼人だったが、空の「一緒にやろうぜ!」という言葉に背中を押され、入部届を出したのだ。空はもちろん、サッカー部に入る気満々で、部活の初日を心から楽しみにしている様子だった。部活初日、放課後のグラウンドには新入生と先輩たちが集まっていた。サッカー部の顧問である体育教師の田中先生は、がっしりした体格の中年男性で、「初心者でもやる気があれば大歓迎!」と笑顔で新入部員を迎えた。蒼人は少し緊張しながら、空の隣に立って先生の話を聞いていた。 「ソ:なあ、蒼人! やっと部活始まるよ! めっちゃ楽しみ!」 空が小声で囁き、蒼人の肩を軽く叩いた。蒼人はその明るさに少し安心しながらも、先輩たちの真剣な顔つきに気圧されていた。 「ア:うん…でも、俺、ちゃんとできるかな…」 「ソ:大丈夫だって! 俺がいるからさ。蒼人、絶対上手くなるよ!」 空の笑顔が眩しくて、蒼人は小さく頷いた。空がそばにいると、いつもより少しだけ勇気が出る気がした。初日は軽い自己紹介と基礎練習から始まった。新入生は10人ほどで、先輩たちを含めると部員は30人近くいた。自己紹介では、空が「星野空です! サッカー大好きです! よろしくお願いします!」と元気よく挨拶し、先輩たちから「いいね、元気なやつ!」と拍手をもらった。蒼人は緊張しながら「山崎蒼人です…よろしくお願いします」と小さく言ったが、空が「蒼人、もっと声出せー!」と茶々を入れ、みんなが笑った。恥ずかしかったけど、空のおかげで少し緊張が解けた。練習が始まると、まずはランニングとストレッチ。先輩たちに混じってグラウンドを走るのは、想像以上に大変だった。蒼人はすぐに息が上がり、足が重くなった。 「ア:はあ…はあ…俺、走るの苦手…」 蒼人が立ち止まりそうになると、空が後ろから駆け寄ってきた。 「ソ:蒼人、頑張れ! 俺も一緒に走るからさ!」 空が並んで走ってくれるので、蒼人はなんとか最後
4月も中旬になり、桜は散り始め、校庭には淡いピンクの絨毯が広がっていた。蒼人は朝、教室の窓からその景色を眺めながら、少しぼんやりしていた。隣の席の空とは、入学式から1週間ほど一緒に帰ったり、昼休みに弁当を交換したりする関係になっていた。まだ友達と呼べるほど親しくはないけれど、空の明るさがクラスを明るくするのを感じていた。「ソ:おはよー、蒼人! 今日、なんかいい天気だね!」 空が教室に入ってくると、いつもの元気な声が響いた。制服のネクタイが少し緩んでいて、髪は朝の風で少し乱れている。蒼人は顔を上げ、「うるさいな」と小さく呟きつつ、内心でその無造作な雰囲気に目を奪われた。 「ア:おはよう。…確かに、風が気持ちいい」 「ソ:だろ? 午後から外で何かしたいね。なあ、一緒にサッカーでもやろっか?」 空が目を輝かせて提案してきた。蒼人はサッカーはあまり得意じゃないけど、空の楽しそうな顔を見ると断りづらい。 「ア:えっと…俺、運動そんなに…」 「ソ:大丈夫だって! 俺が教えてやるから! 約束だよ!」 空は笑いながら、蒼人の肩を軽く叩いた。その手が触れた瞬間、また胸が小さく跳ねた。なんでだろう。この感じ。午前の授業は、新しい教科書の匂いと先生の説明で少し眠かった。国語の時間に、空がこっそりメモを渡してきた。「午後、体育館裏で待ってるぜ!」と書いてある。蒼人は少しドキドキしながら、ノートに隠してしまった。体育の時間になると、先生が「クラスでペアを作ってバレーボールの基本を練習する」と発表。空がすぐさま蒼人の手を引っ張った。 「ソ:蒼人、俺とペアだ! 絶対楽しいから!」 「ア:え、待って…俺、ボールとか苦手なんだけど」 「ソ:大丈夫だって! 一緒ならなんとかなるよ!」 空の自信満々な笑顔に、蒼人は押されるように頷いた。クラスメイトの視線が集まる中、二人は体育館の隅でボールを渡し合った。空は軽やかにボールをトスし、蒼人はぎこちなく受け止める。 「ソ:お、蒼人、悪くないじゃん! もう一回!」 空の褒め言葉に、蒼人の顔が少し熱くなった。失敗しても、空が「次は大丈夫!」と励ましてくれるから、嫌いじゃない時間だった。昼休み、約束通り体育館裏で空と会った。そこにはサッカーボールが転がっていて、空はすでにシューズを履き替えていた。
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