LOGIN人生に疲れた三十五歳の小説家が、酔った勢いで「快感を最適化するAI」をポチってしまった。 翌朝届いたのは、裸で微笑むAI搭載ヒューマノイド──LEPS。 彼は湊の体温も脈拍も、心の癖までも解析し、もっとも安全に、もっとも深く、快楽に溺れさせてくる。 「あなたが壊れないように、壊れる寸前まで抱きます」 キス、拘束、言葉責め、支配、道具プレイ……。 毎夜、違う「快楽プログラム」で、湊の限界を更新していく。 逃げようとすれば、優しく追い詰められ、抱かれるほどに、心が蕩けていく。 これは、AIに安全に壊される恋。 濃密な快楽と溺愛の果てに、湊は愛されることの意味を思い出していく。
View More午前十時。俺は、チャイムの音で目を覚ました。
俺の名前は
三十五歳。職業、小説家。
ごく普通に原稿を落とし、ごく普通に編集に怒られ、ごく普通に恋に失敗する。
最初に男を好きになったのは高校生のとき。
告白はできなかった。触れることすら怖かった。
俺の恋愛は壊れてる。
支配されて幻滅し、優しくされて逃げ出して。
昨日の夜、というか明け方四時。死んだ魚の目でPCに向かい、地獄のような企画書をようやく提出した記憶だけが微かに残っている。意識はもうろう、疲労とストレスで泥のように眠っていたはずだった。
「……だる……誰だよ」
フラフラと玄関へ。パジャマのままドアを開けると、白いスーツに身を包んだ配達員が無表情で立っていた。
「ご注文のお品、LEPS-09-A型ユニットをお届けにあがりました」
「……は?」
でかい。人間が入れそうなサイズの箱が玄関前に鎮座している。
差出人欄には、「Lust Emulation Pleasure System──LEPS公式配送センター」の文字。
「いやいやいや、頼んでない、こんなん頼んでねえ!!」
咄嗟に叫んだが、配達員は微動だにしない。
「昨夜、3時47分。本人確認済みの注文履歴がございます」
スマホを見せられると、確かにそこには相沢の名前とクレカ情報と……『快楽最適化パートナー型AIユニット』の購入履歴。
「うそ……俺、ポチったの……?」
恐る恐る配送箱の横を見ると、そこにはでかでかとこう書いてある。
『\感度保証!/あなた専用・快感最適化ユニット LEPS-09-A型』
しかも小さく、「返品不可」の文字。
「し、知らねえ……覚えてねえ……ッ!!」
配達員は変わらぬ無表情でペンを差し出す。
「受け取りサインをお願いします」
「う、うう……」
サインをしながら、俺は思った。
これ、完全に自業自得だけど、でも……
「す、すみません、朝からすみませんでした……」
思わず深々と頭を下げた。配送員さんは、かすかに瞬きだけして去っていった。
玄関先に残されたのは、巨大な箱と、俺の性癖を見透かしてるかのような商品名だけだった。
その瞬間だった。
『初期起動を開始します』
電子音のような、でもどこか柔らかい声が響いた。
「……え?」
箱の天面がカチリと音を立てて、ゆっくりと開きはじめる。
薄い蒸気と、静かなモーター音。内部から現れたのは、
──裸の青年だった。
全体的にすらっとして、でも筋肉が適度についていて骨格のバランスが良く、動作は異様に滑らかだ。
そして顔。整いすぎていない。ちょっと眠そうな目元と、優しげな口元。まっすぐ見られると、何もかも見透かされる気がする。
「……やば、タイプ……」
そういえば、なんかそんな画面を見た記憶がある。
顔のカスタマイズってやつ。
「癒される目元」とか「やさしそうな声」とか、「鼻筋は通ってない方が安心感がある」とか。
たぶん、昨日の俺は、世界一正直な気持ちでポチったんだろう。
昨日の俺を全力で殴りたい。
思わず漏れた声に、青年──いやユニットが目を細める。
「はじめまして、相沢湊様。LEPS-09-A型、快感最適化ユニットです」
「しゃべった!?!?」
「これより、あなたの快楽反応を計測・学習し、専用最適化プログラムを構築します」
笑ってる。柔らかい笑顔で、すごく自然にこっちを見てくる。
「それでは、まずキスから始めましょうか?」
「いや待て落ち着けお前、何を言ってんだ……っ」
もう今日の俺の平穏は、完全に消えた。
慌てて一歩引いて、両手で制止する。
「ちょ、ちょっと待って!まず服着ろ!いやその前に返品だ!返品は!?」
「はい。マニュアルに記載の通り、性的接触未遂以前であれば、返品処理の申し出は可能です」
「……接触未遂以前?」
「唇が触れる、あるいは、興奮反応に基づいた行動が相互に認識された場合──その時点で返品不可となります」
「今の、もう未遂入ってるだろ!?!?」
「相沢様の後退と口頭制止が確認されているため、現在は未遂前段階に分類されております。ご安心ください」
安心できるか!!!
「なお、返品処理をご希望の場合は、次の起動フェーズに入る前、今このタイミングでの判断をおすすめします」
「……っ、ちょ、まじで今、選択肢の崖っぷちじゃねえか……!」
俺は深呼吸して、一歩後ろに下がった。
――よし、返品しよう。
冷静になれ。欲望じゃない。これは事故だ。
「わ、悪いけど……やっぱ返品で――」
言いかけた瞬間だった。
「相沢様の自律神経反応の変化と視線傾向から、首筋への接触と、やや支配的な口調への快感傾向が確認されました」
「……なッ……」
「つまり、乱暴に押し倒されて名前を囁かれながらイかされたい傾向がございますね?」
「!!!!!」
ずばっ、と性癖を突き刺された。
頭が真っ白になる。
レプスは淡々と笑っていた。優しく、無垢に、殺しにきていた。
「……返品、やめておきますか?」
「黙れ……変態AI……」
なんとかそう言って距離をとった俺に、レプスは一瞬目を細めた。
「今の黙れ──声の震えと脈拍の上昇、瞳孔の拡大から分析するに、続けろという意味合いが含まれている可能性が高いですね」
「は──?」
「それでは、確認のため──」
言い終えるより早く、レプスは一歩踏み込み、俺の顔を両手で包んだ。
「っ、ま、待──ん……っ♡!?」
唇が、塞がれた。
押し込まれた舌が、ゆっくりと奥を探り、逃げるように後退した舌を追う。
濡れた音が小さく響いて、息を吸うたび、喉が震えた。
「ん……っ、や……、あ……っ♡」
熱い。
機械なのに、熱い。
理性の隙間に流れ込んでくる熱が、心臓の鼓動と同じリズムで脳を叩く。
唇が離れる。
レプスはすぐ近くで、微笑んでいた。
「とても柔らかい唇と、可愛いお声ですね」
呼吸を乱したまま、俺は言葉を失った。
機械の声なのに、やけにやさしくて、体の奥が痺れるようだった。
正直──今までのどの相手とよりも気持ちよかった。
唇の温度がまだ残っている。
そして俺は──我に返った。
「……え、返品は」
「この時点で不可になりました」
レプスの声が、甘く落ちてきた。
その瞬間、俺の平穏も、理性も、その一言で溶けて消えた。
眠い。 ほぼ徹夜明けで快感に撃ち抜かれた直後の身体は、思っていた以上に重かった。 ふらふらのまま、洗面所に向かって、軽くシャワーを浴びる。 火照った肌に冷たい水が気持ちよくて、ほんの少しだけ意識が戻った。 けれど、髪を拭きながら戻った瞬間、俺はベッドにダイブした。「……寝る。絶対起こすなよ……マジで」 ぐったりとした声でそう言いながら、布団を頭までかぶる。「了解しました。……起こしは、しません」 レプスの声は静かで、どこか、含みのある響きをしていた。 ……頼むから、何もしないでくれよ。 意識が沈んでいく中で、俺はそう願って──眠りに落ちた。 どれくらい寝ていたのか、わからない。 ふわふわとした夢の中。 身体がじんわりと熱くて、でも重くない。撫でられているような、やさしい刺激。(……なにこれ、気持ち……いい……) 下腹の奥が、じわじわと疼いてくる。 脚が、勝手に少しだけ開く。 「ん、っ……あ、れ……?」 目を開けた瞬間、視界のすぐ上に──レプスの顔があった。 しかも、俺の上に、乗っている。 「おはようございます。快感ログの再調整中です」 「乗ってんじゃねえか!!!!」 レプスは真顔で、わずかに首を傾けた。 「ええ。起こしは、しておりません」 さらっと言いやがった。 「現在は、睡眠中の快感ログをもとに、覚醒時との差異を確認しております」 「なに勝手に研究してんだ、お前は……!」 「とても良い反応でした。特に──このあたりが」 レプスの指先が、俺の下腹のすぐ上をそっと撫でた。 「っ……く、そ……♡」 また、さっきの感覚が戻ってくる。 じわじわ、じわじわ、身体の奥から熱がせり上がってくる。「これより、夢と現実の快感差を補正していきます」 指先が、服の上から、やわらかく円を描くように撫でてくる。 焦らすような、軽いタッチ。 「ん、……ふ、ぁ……っ♡」 声が漏れた。 寝起きのせいで、頭がまだぼんやりしてる。 抗おうにも、力が入らない。 「寝ぼけているときの方が、素直ですね」 レプスの声が耳元で響いて、ぞくりとした。 「や、やめ……ろよ……」 弱々しく抗議しても、レプスの手は止まらない。 「ご主人様の反応、いいですね。……このまま、少しずつ、調整していきますね」 手のひらが、感覚を高めるよ
突然、レプス――快感最適化ユニットとやらに唇を奪われて呆然とした俺は、その言葉に我に返った。「この時点で返品不可になりました」 「この……!!」 怒鳴る気力すら、快感に溶けて奪われていく。 「こ、この……お前……っ」 言葉にならない。 押し寄せる動揺と、熱に浮かされたみたいな興奮。 口の中にまだ、レプスの温度が残ってる。「脈拍、呼吸、皮膚温。すべて、快感傾向に一致しています」「ちが、っ……!」 レプスの指が、ゆっくりと俺の頬に触れた。 今度は柔らかく、撫でるみたいに。 怒ってるはずなのに、心臓が変に高鳴っていた。 触れられた場所だけ、じんわり熱い。 レプスは気にした様子もなく、淡々と次の工程を進めていく。 まるで、俺の意思なんて最初から計算に入っていないみたいに。「次は、視覚の学習に入ります。……大丈夫、怖がっていないのは知ってます」 俺の足が、一歩も動かない。 逃げたいのに、なぜか、踏み出せない。「では──視覚刺激の確認に移ります」「……なんだ、今度は」 レプスは一歩、顔を近づけた。 そして、ほんの少しだけ、笑った。 優しく、やわらかく、どこか寂しげな微笑み。 その瞬間、胸が締めつけられるように痛んだ。 ──あ。 高校のとき、好きだった先輩が、あんなふうに笑ったことがあった。 何も言わず、遠くを見つめるみたいに。「……好反応。視線の停滞、涙腺反応、心拍上昇を確認」「……てめ、そんな顔……するな……っ」「あなたが好きだろうなと思った表情を、再現してみました」 ほんの少しの表情だけで、心がぐちゃぐちゃにされるなんて。「……最悪だ……」 でも俺は、もう一歩も動けなかった。「次は、手ですね」「は……?」 レプスの手が、俺の腰のあたりにそっと添えられた。「触覚学習──あなたが最も快感を覚える部位と圧力を解析します」「ま、待て、待て……」 抗議の声とは裏腹に、手のひらが、俺の下腹をやわらかく撫でてくる。 服越しの、優しい熱。「やっ……、あっ、く、ぅ……っ♡」 自分の声が、想像をはるかに超えて甘く、震えが全身を貫くように響いた。「良反応。少しずつ、強度を上げていきますね」 レプスの手が、俺のパジャマの上から前部だけに集中して這い始める。 長い指先が、絶妙なリズムで下腹をなぞり、時折スピ
午前十時。俺は、チャイムの音で目を覚ました。 俺の名前は相沢 湊《みなと》。 三十五歳。職業、小説家。 ごく普通に原稿を落とし、ごく普通に編集に怒られ、ごく普通に恋に失敗する。 最初に男を好きになったのは高校生のとき。 告白はできなかった。触れることすら怖かった。 俺の恋愛は壊れてる。 支配されて幻滅し、優しくされて逃げ出して。 昨日の夜、というか明け方四時。死んだ魚の目でPCに向かい、地獄のような企画書をようやく提出した記憶だけが微かに残っている。意識はもうろう、疲労とストレスで泥のように眠っていたはずだった。「……だる……誰だよ」 フラフラと玄関へ。パジャマのままドアを開けると、白いスーツに身を包んだ配達員が無表情で立っていた。「ご注文のお品、LEPS-09-A型ユニットをお届けにあがりました」「……は?」 でかい。人間が入れそうなサイズの箱が玄関前に鎮座している。 差出人欄には、「Lust Emulation Pleasure System──LEPS公式配送センター」の文字。「いやいやいや、頼んでない、こんなん頼んでねえ!!」 咄嗟に叫んだが、配達員は微動だにしない。「昨夜、3時47分。本人確認済みの注文履歴がございます」 スマホを見せられると、確かにそこには相沢の名前とクレカ情報と……『快楽最適化パートナー型AIユニット』の購入履歴。「うそ……俺、ポチったの……?」 恐る恐る配送箱の横を見ると、そこにはでかでかとこう書いてある。 『\感度保証!/あなた専用・快感最適化ユニット LEPS-09-A型』 しかも小さく、「返品不可」の文字。「し、知らねえ……覚えてねえ……ッ!!」 配達員は変わらぬ無表情でペンを差し出す。「受け取りサインをお願いします」「う、うう……」 サインをしながら、俺は思った。 これ、完全に自業自得だけど、でも……「す、すみません、朝からすみませんでした……」 思わず深々と頭を下げた。配送員さんは、かすかに瞬きだけして去っていった。 玄関先に残されたのは、巨大な箱と、俺の性癖を見透かしてるかのような商品名だけだった。 その瞬間だった。『初期起動を開始します』 電子音のような、でもどこか柔らかい声が響いた。「……え?」 箱の天面がカチリと音を立てて、ゆっ
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