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2話 物語として語り継いで

last update Date de publication: 2025-10-01 21:18:04

2話 物語として語り継いで

無意識の中に隠れているのは意識的に繋がる空間だった。見えない力に縛られているロザンはバリスの能力により彼女の腕の中へ、スポンと堕ちていった。

満月には見えない力が宿っていると言われている。そんな昔の伝承を思い出しながら、彼を受け止めていく。

見えない糸に操られていたように空中に浮いていた彼はどこにもいない。バリスはあどけない姿の少年を見つめている。

見た目は少年なのに、中身は全く違う。それが申し子の特徴だった。見た目だけで判断する事は出来ない。先読み師である彼女だからこそ出来る技だった。

「彼はヒューマンなのね」

長い年月を生きてきたバリスは若かかりし頃の記憶を思い出していく──

□□

弓矢を射る姿が輝いている一人の女性がいた。彼女は猫耳族の族長の娘、呼び名は射抜き屋のバリと呼ばれている。

彼女には弓の才能があった。どこまでも見る事が出来るスキル千里眼を持ち、どんな強敵にも屈する事はない。

「バリ。今日も調子いいな」

「ええロウ。貴方こそ調子よさそうじゃない」

バリはロウと呼ばれている戦士と共に旅を続けていた。本当の事を言っているのかは、自分にしか分からない。お互いの内情を隠しながらも、互いの長所を補いながら、この世界を生き抜こうとしている。

「今日はいつも以上に獲物が多いな。こいつらを使役しているのはヒューマンだろう」

「でしょうね!普通なら人達を襲わないはずよ。危害を加えれば別だけど」

いつものように背中合わせに戦う二人はどんなパートナーよりも息がぴったりだ。100年以上一緒にいる事もあって、互いの戦術を心得ていた。

彼はヒューマン。普通ならここまで生きる事は出来ない。神の加護を持っている選ばれた存在として生まれてきたからこそ、特殊な体質を手にしたのかもしれない。

後に彼の存在を申し子と呼ぶようになっていく。

猫耳族の中でも一番若いバリは1000年間時間が止まったように若い頃のまま。二人はこれ以上年齢を重ねる事なんてないんじゃないかと思う程だった。

全ては申し子の傍にいるからこそ、この現象が起きている。その事に気づいたのは、ロウが封印されてからの事だった。

今まで通り名しか聞いていなかったバリは彼の本当の名前を知る事になる。

聖剣バラメキアに選ばれたロウは、転生する前の記憶を取り戻し、闇に染まってしまった。

彼が一振すると大地が裂ける。巨大な力を手にしてしまった彼を狙う者は徐々に増えていった。

聖剣バラメキアから発せられた雷が彼女の体を貫くと、今まで眠っていた能力が解き放たれていく。

肉の焦げる匂いを感じながら、彼女は全ての世界を聖域と変えていったのだ。その力の代償は猫耳族以外の獣人族を犠牲にする事で成り立つ、禁忌魔法だった。

「貴方の本当の名前は……」

モンスターの血を吸い尽くしていた彼の剣は聖剣の力により、魔剣へと姿を変えていった。

歴史の物語の一旦《いったん》を背負っていたバリは昔の呼び名を捨てバリスと名乗るようになった。

自分の腕の中でスヤスヤと寝息を立てているロザンを見ていると、瞼《まぶた》が揺らいでいく。

聖剣バラメキアの力により先読み師となった彼女の一族はこの世界の秩序《ちつじょ》を守る為に、もう一つの力の源を作り出していったのかもしれない。

「久しぶりねロザン。貴方は子供で私はおばあちゃん。不思議な縁ね、私達」

彼女の語っていた物語は、実際に経験した事実を元にしていた。そうやって当時の事を物語として語り継ぎながら、繰り返さないように警告をしている。

「貴方にはルルアがいる。今の私には貴方を支える力も、能力もないの。悲しいけど……私の孫ならきっと」

彼女の言葉は彼に届かない。長年封印されていた事も相まって、魂の回復をする為に、この肉体に馴染ます為に、眠る必要がある。

その事を誰よりも理解しているバリスは、全ての儀式の跡を隠蔽魔法で隠し、ルルアの待つ家に向かっていく。

森の奥まで入り込んでいたバリスはモンスターに気づかれないように、隠密スキルを使用した。弓矢を扱っていた時に獲得したスキルの一つ。この年齢になってまで使用する事はないと思っていた。

どんなものでも、習得できるものはしといた方がいい。眠り続けている少年を抱えながらモンスターから逃れるのは難しい。

これが普通の子供なら大丈夫だった。絶滅したヒューマンの特異体質の彼は、他とは違った魔力を発している。隠密スキルにバフをかけてギリギリなのだから。

「魔力量が高すぎる……この体は」

いくら特異体質でも全ての魔物に干渉出来る程の魔力量。それを纏っているのは──

ある考えに辿り着くが、余計な事を考えれば力がゆらぎ始める。少しの隙が大きな落とし穴へ変化していく。その危険さを飲み込むと、意識を集中させながら、森を抜け、山を降りていった。

ルルアの家は山の麓にひっそりと佇んでいる。帝国ミミリアとは少し離れている。歩きだと三時間程度で辿り着くが、逆に二人が住んでいる場所へ辿り着く事は出来ない。

選ばれた存在しか辿り着けない──新聖域。

それが二人の暮らしている土地の名称だ。

「んん~。ん」

家に近づけば近づく程、ロザンの表情が険しくなっていく。彼の穢《けが》れを神が消したとしても、奥深くまで移りこんでしまった記録は消えたりしない。

彼にとってはこの新聖域は痛みを感じる辛い居場所になるかもしれない。それでも長期間馴染ませていけば、きっと闇に囚われる事はなくなる。

そう信じて、自分の息子としてロザンを育てる事を決意していく。

あの時、助ける事が出来なかった非力な自分の姿を受け入れるように、昔の記憶を心の奥深くにしまい込む。

先読み師としての力を手に入れた事で、あの時よりも自信を抱いていたのだろう。どんな運命が二人を待っていたとしても、全ての苦しみをバリスが背負う事により、明るい未来が訪れる事にーー期待してしまう。

□□

あれから十年の月日が流れた。幼かったルルアは成人の儀を終え、今日この家を出ていく。彼女の弟として育ててきたロザンは、体の急激な成長により、姉よりも大人に見える。

「あたしが姉ちゃんなんだからね、分かってる? ロザン」

「俺よりちっこい癖に」

「ああん? 何か言ったかな? ね、言ったよね」

「面倒」

最初の頃は他人行儀だったルルアも今では、本当の弟のように接している。いつもこんな感じで喧嘩に発展していくのだが、今日に限っては違った。

「さて、と……そろそろ行かないと」

「一人にするけど、ばあや大丈夫か?」

ロザンの魔力の流れを遅くする事で、通常のヒューマンとして生きれる体になっていた。先に訪れる審判《しんぱん》の刻に備えて、広い世界を見る事も必要になる。

「私は大丈夫だよ。後3000年は生きるわい」

はっはっはっと嬉しそうに笑い続けるバリスを見ていると、少し安心する事が出来た二人は彼女の言葉を信じ、新しい道を歩き出す一歩を踏み出していく。

「「行ってきます」」

ルルアはバリスからプレゼントされた秘剣ミツルギを手にすると、未来に向かってジャンプした。

二人の冒険は始まったばかり──

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