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ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜
ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜
Auteur: 空蝉ゆあん

第1話 異世界転生者

last update Date de publication: 2025-10-01 15:58:01

同じ景色を見ながら、この関係性が永遠に続くのだと信じていた。

あたしは彼の背中を見つめる事しか出来ない。

剣と剣がぶつかり合う音がついさっきの事のように思えて仕方なかった。

草原に包まれていた世界は反転し、ロザンを闇へ迎えようとしている。黒い渦に吸い寄せられるように、前進し続ける彼を止める事が出来ない。

「……待ってロザン! 行かないで」

彼の剣技、瞬間相殺《しゅんかんそうさつ》によって負傷してしまった体は思うように動いてくれない。

二人の冒険の終焉《しゅうえん》がこんな残酷なものになるなんて──

振り返る様子もないロザンは帝国ミミリアを捨て、魔王によって作られたもう一つの帝国リニアへ足を踏み入れていく。

表と裏で繋がった2つの世界は崩壊と再生を望むように、私達を切り裂いていった。

第1話 異世界転生者

この世界は帝国ミミリアを中心に成り立っている。あたし達、猫耳族が統率を取る前までヘブンスレイス国家を支配していたのはヒューマンと呼ばれる種族だった。

彼らはあたし達猫耳族と違って頭脳明晰だった。どこから情報を手に入れてきたのかの記述は残されていない。

戦術《せんじゅつ》は勿論、国を統治《とうち》する力の配分、そして民の動かし方を熟知していた。

記述には書かれていない事を知るきっかけになったのは先読み師のバリスばあやの昔話からだった。

繰り返し語られる一つの物語の中には、複数の登場人物が出てくる。幼かったあたしは魅力的な物語にドキドキしながら聞いていた。

藁で編み込まれた掛け布団にくるまりながら、沢山の妄想と夢を見ていた事が、今となっては懐かしい。

「ルルアも大人になると冒険に出るのだろうね。私は心配だよ」

「ばあや?」

バリスばあやからしたら、素直で人の事を疑う事のないあたしの未来を思い描いているよう。微かに猫耳がしょんぼりと下がっている。

「大丈夫だよ、あたし立派な冒険者になるから。そして勇者を導く凄い人になるんだから!」

「……そうか、楽しみだねぇ」

にっこりと向けた笑顔がバリスばあやの心の不安を攫っていく。先を考えても現実は変わらない。

ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ばあやの腕に抱かれている。両親の代わりに育ての親として、あたしの全てを支えてくれる。

それがどれだけ大切な日常だったかを知るのは大人になってからだった。

元々、猫耳族は獣人族《じゅうじんぞく》と呼ばれていた。あたし達の種族以外に五つの種族が存在していたからだ。

ワイバーン族、犬族、魚人族、精霊族、そしてあたし達猫耳族で構成されていた。本来ならこの種族達は、ヒューマンと違って長命だ。最低500年~数千年生きるのが当たり前だった。

長い月日をかけて猫耳族以外は滅び、もう生まれる事もない。

奴隷として生きてきた先祖達は、どんな思いでヒューマンの支配下で生きていたのだろう。

全ての時代背景で生きてきた獣人族は、本当の意味で解放されたのかもしれない。

スヤスヤと寝息を立て始めたあたしを確認すると、バリスばあやは与えられた使命の為に、支度を始める。

今日は満月の日だ──

この世界の本当の姿を取り戻す為に、選ばれた存在の申し子がこの世界に生を受ける。猫耳族だけが残るこの世界に、異質と言わんばかりの彼が満月から生み出されるように、地上へ降りていった。

□□

黒髪を靡《なび》かせながら、満月の一部として封印されていた彼は、数億年ぶりに人として動く事を許された。子供の体の中には青年の魂が宿っている。

天使サミエルは過去の繰り返しを阻止する為に、魂の中心に組み込まれていた闇の因子を取り除き、再び勇者としての役割を与えた。

一度染まった魂の穢《けが》れが元の形に戻る事はないのに、それでもヒューマンとしての彼の生い立ちに同情してしまった。

天使は神々から命を与えられ、世界と世界を繋ぐ架け橋になっている。

「二度目のチャンスですよ、上郷《かみごう》ロザン。貴方がこの世界のヒューマンとして転生したのは二度目です。今になっては覚えていないでしょうが……」

亜空間から帝国ミミリアへ転送された彼にはサミエルの言葉は届かない。彼が生きてきた過去の記録を懐かしそうに見つめながら、全ての繋がりを切断していく。

「私が手助け出来るのはここまでです。後は運命に委ねましょう」

サミエルの立場なら彼の動向を観察する事は出来る。しかし禁忌を犯してしまった魂を再構築させ、ヒューマンとして、勇者としての転生を促した罪により、制限をかけられている。

神々から気づかれないようにしていても、全てを見ている。そこから逃れる事は不可能だった。

自分の子供のように見守り続けてきたロザン。本当の意味で自分の手元から旅立っていったのだろう。

天使の涙を零すと、ほんのりと小雨が降り始める。準備を終え、全ての魔力を解放させる為に、ロザンの目の前に現れたばあやは呼吸を整えながら、呪文を唱えた。

ザクリア・リ・ロウ

ばあやの先読み師としての未来を透視する能力は本物だ。この先の申し子──ロザンの運命を光へと導く為に、裏側に潜んでいる脅威に影響されないように、光魔法を展開していく。

人の悪意は勿論、裏切り、悲しみ。それらの感情が引き金となり、申し子は別の存在に変貌してしまう。

その全てを希望へと、世界の発展の為に、そしてロザン自身の為に、彼の心を守る為の上位結界魔法を描いていった。

「私に出来るのはこれぐらいしか……後はルルアに任せるしかない」

どんなに未来へと繋がるシナリオを改変しても、あたしと彼の縁が切れる事はない。繰り返し見続けてきた複数の未来の先に待ち受けるのは、残酷な現実なのかもしれない。

それでも自分が生きている以上、この力に思いを託す。それが猫耳族を守る事へ繋がるのだから。

小雨が揺れ、地面に吸い込まれていく。まるで地盤が水を欲しがっているように見える。

水はじんわりと滲みながら、魔法陣を生成していく。

全ての光景を満月の光が祝福するように、照らし続けていた。

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  • ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜   最終話 光の勇者と月夜の君

    ロザンはルルアの問いかけを聞かなかった事にしたら、背中に向けて、右手を掲げた《かか》げた。 ふと何もなかったはずの空間に目が見えし、黒い渦がぐるぐると満ちている。手にしてないのに、一瞬彼の右手には聖剣《せせぬ》ガイアが闇色《やみいろ》に輝きながら存在感を現している《現れている》。「……ロザン?」「……」ようやく事が出来ると思っていたのに、そうは簡単にうまくいかない。自分に見向きも消した彼の意識に語りかけようが、結果は悲惨な敗北《ざんぱい》だった。「私の名はロザン――今、闇王《えんおう》の名の下に異界《いかい》の勇者として命令を下《くだ》す。帝国《ていこく》ミミリアをそしてこの世界の住人共《じゅうマインドも》の魂を喰う」 《く》らえよ」高《たか》らかに宣言《せんげん》する彼に言葉が出ないルルア。 あの時、一瞬彼の心に触れる《ふ》れる事が出来たと感じたのは錯覚《さっかく》だったのだ不安。受け入れ、前世のように異界《いかい》へ繋《つな》がる最終門《さいしゅうもん》を発生させてしまった。ルンガの村の裏手《うらて》に隠されていた門とは違い、この門は世界の終焉《しゅうえん》を予言する力を持っている。「我が片割《かたわ》れの勇者に旋律《せんりつ》を――」ロザンが口にすることで聖剣《せせかえ》の姿が変化《へんい》していく。う》の体制《たいせい》まで整《ととの》行ってゆく。戦いたくない。一番は話合いで解決できればどれ程良いかだけ。こんな状況になるなんて想像する事もなな彼女の希望の光が砕けた《くだ》かれた瞬間だった。進んで現実に打ちのめされていると、ルルアに追い打ちをするように、闇の雨が降ってきた。 黒い炎は殺気《渦》を纏い《まと》いながら、彼女の体を貫こうと牙《きば》を剥《む》いた。 数十の刃がルルアの全身に突き刺さっていく。「闇炎《やみえん》の剣の味はどうだ? その刃は一度あったと魂《たましい》に侵食《しんしょく》する。君が君でいられる時間は限界《かぎ》されていく」「ふ……こんな痛くもなんともないわ。お前の意見に比べたら」カノンからもらった《モラ》った死の泉の原液《げんえき》を飲み干していたの。う通り飲めない状態で闇炎の剣を受けて今の彼女はいないかもしれない。門を塞ぐ《ふさ》ぐ事は難しい《むずか》しいだろう。一方ロザンの暴走《ぼうそう》を食い止める事

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    最初はミミロウの武器を打つ姿を見ていようと考えていたルルアは残念そうな表情《ひょうじょう》を浮《う》かべながらトボトボと歩いている。彼に紹介《しょうかい》された息子ラウンは二人を客人としてもてなしてくれた。ルンガの村はそれほど大きくない。その代わりに村を守るように聳《そび》え立つ鉱山《こうざん》があった。裏手《うらて》の通りを進んでいくと辿《たど》り着《つ》くと説明を受ける。鉱山《こうざん》と聞いた事はあったが、実際《じっさい》身近に感じたのは初めての事だった。 「ルンガ村は鉱山に守られているんだ。この地形のお陰《かげ》で盗賊《とうぞく》の被害《ひがい》も殆《ほとんど》どない」 ラウンはそう言い切ると、ミミロウと同じ笑顔を見せてきた。意識《いしき》して観察《かんさつ》すると父親にそっくり。若い頃のミミロウもラウンのようだったのか、と想像を膨《ふく》らませていた。 「盗賊《とうぞく》がいるのか?」 「ああ。ここは大丈夫だけど隣の町には出るみたいだね。役人《やくにん》達がいるからどうにか保《たも》ってるみたいだよ」 盗賊《とうぞく》もいて、取り締《し》まる役人《やくにん》もいる。本で読んだ通りの事が外では起きている。そう考えると、バリスに守られていた自分達は幸せだったのかもしれない。新聖域《しんせいいき》から出てはいけない、この決まり事さえ守れば、後は自由に過ごしていい。その当たり前がここでは歪《いびつ》に感じるだろう。 「盗賊《とうぞく》……か」 引っかかりを覚えたルルアはそう呟《つぶや》くと、考え込む。ラウンは村の細《こま》かな説明をし続けて、ロザンは楽しそうに聞いている。そんな二人の背中を見ながら、ゆっくりと着《つ》いて行った。 意識は現実から遠《とお》のき、見た事のない景色《けしき》に紛《まぎ》れ込《こ》んでいく。今とは違う姿を見せる彼女は目の前の光景《こうけい》に涙しながら、歯痒《はがゆさ》さを噛《か》み砕《くだ》いた

  • ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜   7話 鍛冶師ミミロウ

    ミミロウはカンカンと金槌《かなずち》を振るっている。鉄の塊《かたまり》に熱を加《くわ》えながら、原型《げんけい》を壊していった。どれくらいの時間が経過《けいか》してのか分からない。一々《いちいち》、作業を中断《ちゅうだん》して確認する程《ほど》でもないと自分に言い聞かせながら、集中力を高めていく。久しぶりに腕を振るうミミロウは、昔に戻ったように没頭《ぼっとう》していた。年老いてからは村長としての立ち位置を優先《ゆうせん》していたから。余計新鮮に感じているよう。「……ふう。体力が落ちたわい」自分の弟子たちは今では立派な鍛冶師《かじし》に成長している。ガヤガヤしていた昔の景色は、遠い昔のように思えた。元々弟子を取るタイプではなかったミミロウだが、必死に頭を下げる若者達を無下《むげ》に追い返す事は出来なかった。「今ではワシ一人じゃか。時が経つのは早いの」ブツブツと誰かに聞かせるように独り言を呟《つぶや》いている。そんな姿をこっそりと見ている二人がいるとは知らずに、思い切り金槌《かなずち》を振り下ろした。「……邪魔しちゃ悪いよな」「招待《しょうたい》してくれたんだから……大丈夫でしょ」ルルアとロザンは扉の隙間《すきま》を作り、彼の背中を見つめている。村長としてのミミロウしか知らない二人は、珍《めずら》しそうにキラキラと目を輝かしていた。どんな武器になるのだろうかと思いながら、ロザンの背中に体重をかけていく。すると、バランスを崩《くず》したロザンは小さく「わっ」と漏らすと、ドサッと前に崩れていく。多少の音なら彼の集中をとぎらす事はなかっただろう。思ったよりも大きな音を立ててしまったようだった。ビクリと背中を震《ふる》わせながら手を止める。完璧《かんぺき》に集中力が切れてしまったミミロウは音のした方向に振り向いた。「……何をしておる、お前達」「ははは」「来たなら来たと言わんかい。ビックリするじゃろ」近くにある机に金槌《かなずち》

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