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ノウェルの心-1

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-03-28 06:00:00

 あの夜から暫く、甘ったるい雰囲気が続いている。

 ノーヴァは暇さえあればご機嫌で傍らに居るし、ヴァニルは無駄にちょっかいを掛けてくるわ絡んでくるわ。いい加減鬱陶しい。

 そんな折、めでたく18歳になり成人した俺の、誕生パーティが開催される季節を迎えた。今年は例年よりも少し派手に、そこそこの規模で行われている。

 ヴァールス家が経営する製薬会社の薬学課に、いや、父さんの管轄下に置かれ監視されることとなった。以前から顔を出しては手伝いをしていたが、この度正式に籍を置けと仰せつかったのだ。

 その記念パーティも兼ねているときたから、無駄に盛大な催しとなっている。

「今宵はお集まりいただき、誠にありがとうございます。ヌェーヴェルも漸く──」

 息子自慢から始まった父さんの長ったらしい口上を、皆グラスを片手に飽き飽きと聞いている。大人達の張り付いた笑顔が気持ち悪い。

 優秀かつ眉目秀麗な俺を、自慢したくなる気持ちは分かる。だが、グラスを落としてしまいそうなほど退屈な長話は勘弁してほしい。

「では、ヌェーヴェルからも一言」

 ······なんだと。聞いてないぞ。このクソ親父、また勝手なことを!

「えー、皆様。毎年、私の為にお集まりいただき大変恐縮です。節目の歳を迎えまして、父から一層の飛躍を期待され荷が重い··というのが正直なところです。はは····ですが、世の為に成果を残せるよう尽力して参りますので、どうぞお力添えを──」

 俺は完璧な挨拶を終え、拍手喝采を浴びながら舞台を降りる。そして、父さんのくどい口上を上手く躱し、恙無く乾杯を済ませた。これで今日から、俺も堂々と酒を仰げるわけだ。

 俺に群がる女共も増えるわけだが、これまで通り適当にあしらっておけばいい。父さんが絡まない限りは、それでやり過ごせるだろう。

 父さんは毎度毎度、何の相談もなく勝手に事を進める。腹立たしい事この上ない。俺が学院の寮に入る事も、父さんの会社に勤める事も

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  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   今宵も-2

     翌朝、甘ったるい薔薇の匂いで吐き気を催して目が覚めた。 あの後ヴァニルに朝方まで犯され、屍の如く深い眠りに落ちていた。で、起きたらこれだ。 俺のベッドが、俺ごと薔薇に埋め尽くされている。かろうじて、俺の顔だけが出ている状態だ。「おい、ノーヴァ····これはどういう状況だ。····うぷっ」 本当に吐きそうだ。一刻も早く、この尋常じゃない量の薔薇を撤去してほしい。「ん~? ヌェーヴェル、綺麗だよ」「いや、葬儀みたいだとは思わないか? 死者に贈る花より多いぞ」「真っ赤に染まって美味しそうだよ」 ニコッと幸せそうな笑みを見せやがって、愛らしいことこの上ない。だが、そうも言っていられない。 吸血鬼の感性など、きっと俺には一生理解できないだろう。まさか、これがノーヴァなりの求愛なのだろうか。だとしたら、ヴァニルのほうが幾分かマシだ。 早々に撤去させたが、薔薇を全て風呂へ突っ込み『薔薇風呂だね~』とか言って一緒に入らされた。おかげで、匂いが身体に染み付き吐き気は治まらなかった。 昼過ぎには、予想通りノウェルが追加の薔薇を持ってやってきた。俺は顔を覆い天を仰いだ。もう、言葉が見つからず溜め息しか出ない。「ヌェーヴェル、君にありったけの愛を込めて。生涯、君だけを愛する事を誓うよ」 片膝をつき、俺に花束を差し出しながら言うノウェル。女がされれば、昇天するほど喜ぶ場面なのだろう。 だが、今の俺は地獄に落とされたような気分だ。「悪い、ノウェル。薔薇を俺に近付けないでくれ······吐く」「え····? わぁぁ! 大丈夫かい!?」 俺は近くにあった花瓶の花を抜き捨て、そこに粗相をしてしまった。ノウェルが背中をさすってくれているが、ノウェル自体が薔薇くさいので治まらない。「ノ

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   今宵も-1

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  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   変化してゆくもの-2

     俺はすぐさまヴァニルを連れタユエルの店へ向かう。 最悪の事態──それはきっと、タユエルが食料としてではなく無作為に人間を殺めた、という事なのだろう。「ヌェーヴェル、大丈夫ですか?」「あぁ。こういう事態に備えて最低限の訓練はされている。お前に説明するまでもないだろうが、ヤツが暴走していればその時は····」「それは私が。貴方が太刀打ちできる相手ではありません。それに、彼を手に掛けるのは辛いでしょう」 俺とタユエルが長い付き合いだと知って、ヴァニルなりに配慮してくれたのだろう。しかしそれを言うならば、ヴァニルのほうが関係としては深い。「お前の方がやりにくいんじゃないのか。師匠みたいなものだったんだろう? ましてや、同胞を手にかけるなんて気持ちの良いものではないだろ」 ヴァニルは俺に口付けて、それ以上言うなと黙らせる。仕事だと割り切っている····そういう事なのだろう。 俺は気の利いた言葉を見つけられず、黙って銃の確認をした。あくまで念の為だ。 タユエルの店の前に立ち、腰に忍ばせた銃へ手を添える。息を殺し、ゆっくりと扉を開く。 隙間から中を覗くが、真っ暗で何も見えない。しかし気配はある。耳を澄ませると荒い息遣いが聞こえた。 思いきって一歩踏み入れた瞬間、耳を劈くような怒声が響く。「来るな!! ヴェルなんだろ? 絶対に入ってくるなよ!」 明らかに様子がおかしい。手遅れだったのだろうか。「····そうだ、俺だ。タユエル、何があった。何故、立ち入るのを拒む」 タユエルからの返答がないので、ゆっくりと扉を開ききる。陽の光が差し込み、その奥にタユエルの姿を目視した。「入るぞ」 俺はまた一歩踏み込む。タユエルの出方を窺いながら、一歩一歩慎重にカウンターへ向かう。 古い木造の匂い。その中に、血の様な鉄っぽいにおいを感じる。 胸騒ぎ

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   変化してゆくもの-1

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