今日も今日とて、俺は嬲られている。
俺の膝に跨ったノーヴァ。太腿に当たる柔らかい感触に玉がキュッと締まる。首筋へ立てられた牙を拒めず、あまつさえ滾らせている自分に嫌気がさす。
小さな手で俺の腰を撫で降ろし、細い指で俺の硬くなったモノを弄ぶ。自分の硬くなったモノを、俺のと一緒にしごきやがって、挙句自分だけ達しやがった。
俺はと言うと、焦らされて焦らされて、爆発してしまいそうな激情を抑えきれず、先走る涎をたらたらと溢れさせてしまう。
達するまで弄ってくれないのが、ノーヴァの意地悪い所だ。血を啜り、自分本位に突っ込んで満足したらそれで終わり。
不完全燃焼に悶える俺の頬を、いやらしい指つきで撫でるヴァニル。隣に腰掛け、ノーヴァに弄ばれている俺を眺めて滾らせている馬鹿は、物欲しそうな表情を隠そうともしない。
「ヌェーヴェル、貴方は本当に美しいですね。その美しい顔が歪んで、さらなる快感を求め藻掻く様が····。はぁ··堪らない」
「くっそ変態野郎が······」
「そのクソ変態野郎のモノを欲しているのは誰です? 」
俺たちを見てクスクスと笑うノーヴァが、ようやくヴァニルへ視線を送る。俺を弄ぶ事に飽きたサインだ。
散々“待て”をされていた忠犬は、主人のゴーサインに勢いよく飛びつく。
それに安堵する俺は、どうしようもない快楽の下僕だ。漸く達することができるのだと、身体が悦ぶのだから仕方がない。
吸血鬼の倫理観など知らない。だが、ひとつ解るのは、親子関係が人間とは随分異なるという事だ。
ヴァニルはノーヴァに対してだけ、やたらとマゾスティックになる。このヴァニルという男は、俺からして見ればノーヴァの忠犬以外の何物でもない。何があったら親子関係がそうなるのだろうか。その辺、厳しく教育された俺には理解し難い。
ノーヴァ以外には必要以上に丁寧なくせに、行為の時は特に変態的なサディストだ。ヴァニルのそれには、上品な戯れの中に図りえない残虐性を感じる。
以前、ヴァニルのいたぶり方が酷い時に聞いた話だ。俺が相手をできない間の事。
薄暗い部屋で2人、ノーヴァがヴァニルを煽り焦らす。決して果てさせない。ヴァニルがそれを望み、ノーヴァは乗り気で応えるらしい。
まったく歪んだ関係だ。どれほど厄介な性癖を持つとこうなってしまうのだろうか。
最悪なのはその後だ。そこで溜まった昂りが、そのツケが、全て俺に回ってくるのだそうだ。本っっっ当にいい迷惑だ。
だからと言って、俺たちの関係が悪いわけでは無い。口からは文句を垂れる事が多いけれど、こんな関係を続けている以上それなりに分かり合ってもいる····つもりだ。
「ヌェーヴェル、こちらを向いてください」
「キスはいいよ。お前、長いんだもん····。ほら、さっさと吸えって」
俺は首筋を差し出す。だが、ヴァニルは不満そうに、俺の前髪を掴んで口付けを交わした。どうしてコイツは、こうも乱暴なんだ。
ヴァニルのキスは、口付けと呼べるほど生温いものではなく、呼吸困難になるほど深く激しい。長い舌で口内を蹂躙され、それだけで達してしまうほど気持ちが良い。
なんて事は素直に言ってやらんのだが、どうにもバレているようで悔しい。俺が抵抗する余力を失い、されるがまま身を委ねる頃、ヴァニルは昂りを俺にぶち込んでくる。
「ゔっ、あ゙ぁ゙っ··ヴァニル!! クソッ··。アホみたいにデカいんだから、ゆっくり挿れろよ····。ケツ、壊れるだろうが····」
「こんなグズグズになってるのに、何甘えた事言ってんですか? 乙女じゃないんですから面倒な事言わないでくださいよ」
「乙女じゃねぇけど、ひぅっ、うあぁっ····もうちょっと優しくしろって、んんっ、言ってんだよ! 俺の身体を気遣えバカッ」
「おやおや。威勢がいいのはよろしいですけどね、そんな艶かしい声で言われても困るんですよ。興奮するだけなので」
「ん゙あ゙ぁ゙ぁぁぁっっ!!! 奥゙っ、挿れるなって··言ってんだろ····ぅ゙え゙ぇぇっ」
「だってアナタ、ここ好きでしょう? 締まり凄いですよ。私のデカブツがねじ切られそうです」
「ぉ゙え゙ぇ゙ぇぇ····やめっ、奥、ボコボコ、出し挿れすんなぁ····」
「気持ち良いでしょ? たくさんお漏らしできてますね。上手ですよ。可愛いです」
「可愛く、ねぇ··んぶっ····もう、漏らすの、嫌なんだって····情けねぇ····」
涙ながらに懇願したが、ヴァニルにそんなものは通用しない。さらに突き上げ、奥を抉られ、気を失うまでずっと噴かされ続けた。
「ヴァニ··ル····息、できね····も、無理だ····」「仕方ないですねぇ。それじゃ、私もそろそろイッてあげますよ。死なないでくださいねっ」「ひぃ゙っあ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙っ!!!」 俺が限界だとわかると、ヴァニルは結腸にぶち込んだまま大量に射精して、ずるんと一気に引っこ抜いた。すると、俺のケツから噴き出すように精液が溢れる。「今日もエロいですねぇ。あ、生きてます? 回復しましょうか?」「いい··生きてぅ。··クソ、絶倫め····」 俺はかろうじて息をしている。動けるわけなどない。そんな俺を綺麗に拭き、メイドではなくヴァニルがベッドを整える。 ヴァニル曰く、仕上げ作業のようでこれが楽しいらしい。全く理解できん。「ノーヴァ····やめっ、んっ······」「ノーヴァ、後にしてください。邪魔ですよ」 ノーヴァは、ヴァニルがベッドメイキングをしている横で、身動きできない俺の首を掴んで血を啜る。「ぷはぁっ····。だって、喉乾いたんだもん。ボク、もう寝るから後よろしく」「はいはい。おやすみなさい、ノーヴァ」 ノーヴァが自室に戻ると、ヴァニルは俺の横に腰掛ける。そして、交わっている時とは真逆の顔を見せるのだ。 これが、ピロートークと言うやつだろうか。「ヌェーヴェル、身体は大丈夫ですか? いつも無茶をさせてすみません。貴方を抱くと、どうにも加減ができなくなってしまう」「ばぁーか。今更だろ。··まぁ、そういうのも嫌いじゃないから構わんけどな。回復せにゃならんほど潰すのだけは勘弁してくれ」「······善処します」 これはする気のない台詞だ。だが別に、死ななくて気持ち良ければ何でも構わない。 目下の不安は、コイツらの居ない生活に戻れなくなってしまう事だ。いや、もう既に手遅れな気がする。「お前ら、いつまでここに居座るつもりだ?」「解放してほしいですか?」「····そうだな。俺は嫁をもらってこの家を継がにゃならん。お前らと悦楽を交えるには限りがある」「貴方が嫁を··ねぇ。抱けるんですか?」「だっ····!? 抱くに決まってるだろ。跡継ぎが要るんだ。親父が切に欲してるもんつったらそれくらいなんだよ」「はぁ····。人間は妙なところでおかしな拘りを捨てられないのですね。何百年経っても変わらない、偏屈な生き物だ」「そうだな。俺は今のまま
俺たちは時々、3人で屋敷を抜け出す。宵闇に紛れて散歩をするのだ。散歩と言っても、大半が空を飛んでいるのだが。 勿論、俺には空を飛ぶ能力などない。だから、ヴァニルに抱えられて空を舞う。 初めのうちは、姫の様に抱えられるなど耐えられないと拒否したのだが、抗う事などできるはずがなかった。まず、力で敵うはずがない。吸血鬼共は異常なまでに怪力なのだ。奴らが加減を間違えれば、人間など赤子も同然である。 今では、優しく抱えられる事に慣れてしまった。しかし、俺を連れ出す必要性は未だに感じない。それなのに、毎度わざわざ連れ出される。吸血鬼とやらは、そんなに散歩が好きなのだろうか。 今日のように月が綺麗な夜に散歩をしていた時、何気なく聞いてみたことがある。ヴァニル曰く、ノーヴァは上空から街を見下ろすのが好きなんだとか。 俺は誤解をしていた。てっきり、人間が手の届かない上空から見下している様だとか、得体の知れない優越感に浸れるだとか、まさに吸血鬼のイメージ通りの理由なのだろうと思っていた。 だが実際には、平和な街に浮かぶ温かな灯りを眺めるのが好きなんだそうだ。とんだ失礼をかますところだった。いや、心で思っていただけでも同じか。すまん、ノーヴァ。 俺は心の中で素直に謝った。すると、ノーヴァがこちらを見て優しく微笑んだ。····ように見えた。 よく見ると、ヴァニルも穏やかでいて優しい表情をしている。なんだろう、普段あまり見ない表情なので薄気味悪い。なんて思った途端、2人の表情がスッと無に戻った。「なんなんだよ、お前ら。笑ったり真顔になったり忙しい奴らだな」「ふん。貴方が阿呆《あほう》だからですよ、ヌェーヴェル」「はぁ!? お前、喧嘩売ってんのかよヴァニル!」「ったく、煩いなぁ。散歩も静かにできないの?」 俺がヴァニルに食ってかかると、ノーヴァが呆れたように言った。呆れているには俺のほうなのだが。「空飛んで散歩もくそもあるかよ····」「え、なぁに? 早く帰ってボクに弄ら
ノーヴァは勢いよく俺の血を吸い上げる。まるで渇ききった喉を水で潤すかのように。 俺だって、瞬時に血が湧き出るわけではない。本当に加減を知らない、馬鹿なガキだ。「おい、ノー··ヴァ、ちょっ····待て······」「ノーヴァ、私にも早く。もう待ちきれません」「ったく、耐え症のない奴だなぁ。いいよ、おいで··ってヴェル、血吸われてイッちゃったんだ。可愛いね」「あらら、だらしないですねぇ。····はぁ、ようやく私も食事にありつけます。さぁ、可愛いヌェーヴェル、私との番ですよ」「ちょ、待て、ホン、トに、ノーヴァ··吸いすぎ··だ──」 そう言って俺は気を失った。 目を覚ますと、俺はベッドに転がされていた。ヴァニルが綺麗にしてくれたのだろう。きちんと服を着ている。 それよりも、頭がクラクラして目が回る。気分も悪い。吐きそうだ。身体に力が入らないので、起き上がる事もできない。「やっとお目覚めかい?」「大丈夫ですか? ヌェーヴェル」「····ああ、なんとかな。気分はめちゃくちゃ悪いが」「すみません、無理をさせ過ぎてしまいましたね」「まったく、貧弱だなぁ」「····このアホガキ、いっぺん殴っていいか?」「いいけど、その後ミイラにしてあげるね」「すみません、ヌェーヴェル。ノーヴァの事は諦めてください」「くっ····。とりあえず、もう少し寝させてくれ。そうしたら血も戻る」「なるべく早くね。喉が渇いて仕方ないから」 このガキは、本気に
*** しょぼくれた顔で部屋に戻るノーヴァ。不貞腐れた美少年に、ヴァニルは自業自得と言わんばかりの顔を見せる。 2人は、ヴァールス家のメイド達に身の回りの世話をさせている。ヌェーヴェルと同じ扱いを受け、名家にこうも容易く入り込めたのは、ノーヴァの精神を操る能力によるものだ。 ノーヴァに一滴でも血を取り込まれた者は、普通の人間ならば意のままである。ヌェーヴェルの家族でさえも、2人を親族くらいに思っている。 ヌェーヴェルはノーヴァの力を知り、企みがあるのではないかと疑っていて、それは未だ拭いきれない。だが、2人には特に企みなど無かった。ただ純粋に、衣食住の整った環境で快楽を貪りたいだけだったのだ。 しかし、その操作も100%ではない。時々、殆ど洗脳が効かない相手がいるのだ。その理由を、ノーヴァ本人は知らない。「お前達! ヴェルはどうした」 長い廊下の果てから急ぎ早に歩いてくる青年。黒髪に琥珀色の瞳が映える、 ヌェーヴェルそっくりのこの男は、ヌェーヴェルの従兄弟であるノウェル。 年は同じで幼い頃から兄弟の様に育ち、数ヶ月早く生まれたヌェーヴェルを慕っている。現在は別邸で母親と暮らしているが、数日に一度、ヌェーヴェルに会いに来るのだ。 そして、ノウェルはヌェーヴェルに執心しており、2人を目の敵にしている。都合の悪い事に、ノウェルには洗脳が効かない。なので、ノーヴァとヴァニルの正体や、3人がただならぬ関係である事も知られている。 嫉妬に塗《まみ》れたノウェルは、2人に対し喧嘩腰でしか話せない。本来なら温厚で、誰にでも優しい好青年なのだが。「ヌェーヴェルならお部屋で寝ていますよ」「ふんっ! また無理をさせたのだろう! まったく、貴様らなどさっさと追い出してしまえば良いものを」 勢いを殺して立ち止まり、腕組みをして牽制するノウェル。荒らげた息をふんと鳴らす。「ヴェルに相手にされないからって八つ当たりしないでよ」「な、なんだと!?」「ノーヴァ、煽るんじゃありません。ノウェル、すみません。どうにも我儘が
──ガチャ「ヌェーヴェル····ああ、僕のヌェーヴェル、可哀想なヌェーヴェル····」 普段は血色の良いヌェーヴェルの顔が蒼白く、今にも死にそうな顔をしている。いつもは飛び掛りたくなるほどの美しい寝顔なのに、今日は抱き締めたくなるほど弱々しく見える。 そんな心情を瞳に映しながら、ノウェルはそっとヌェーヴェルを覗き込んだ。「お前、また寝込みを襲う気だったろ」「お、起きていたのかい? 意地悪だなぁ····。そんな事はしないよ。君の安眠を妨害するつもりはなかったんだ」「よく言う······」 ノウェルは時々、寝ているヌェーヴェルのもとを訪れては、起こさないようそっと指を這わす。 髪や睫毛、鎖骨など、いちいち厭らしい触れ方をするノウェル。ノーヴァとヴァニルの所為で敏感になっているヌェーヴェルは、少し触れただけでも目が覚めてしまうのだ。 先日、ヴァニルに抱き潰され深い眠りに落ちていた時には、瞼にキスをされ目が覚めたヌェーヴェル。咄嗟にノウェルを殴ったが、ノウェルは喜んだだけだった。「お前、薔薇の匂いがキツイんだよ。吐きそうな、くらい····甘い匂いだから··目も覚めるわ。····そこに居ていいから、静かに··してろ····」 ヌェーヴェルは再び眠りについた。 すぐに悪態をつくヌェーヴェルは、決して誰にも心を許さない。だが、ノウェルの純粋な好意は受け止めている。 それが劣情を孕んでいようと、自分に害がない限り構いはしない。純粋に好かれている事に、ヌェーヴェルだって悪い気はしないのだから。ヌェーヴェルもまた、吸血鬼程で
「ねぇヴァニル。ヴェル、怒ってないかな····」 ノーヴァは、袖口をちょんと摘まんでヴァニルの注意を引いた。「まぁ、死んでませんしね。約束は守ったじゃないですか」「そうだけど····」 ヴァニルの袖口を摘まんだまま、唇を尖らせて俯くノーヴァ。「それに、私達が血を吸っても相手は快楽に堕ちるだけです。まぁ、普通はそのまま死ぬんですけどね。ヌェーヴェルはなまじ死なない分、逆に大変なのでしょうね」「悪い事しちゃったよね。わざとじゃないんだよ。ただ、本当にアイツの血が美味しすぎて····」 困り眉で弁解するノーヴァ。その姿は、見た目通りの少年に見える。 「わかりますよ。彼の血は極上ですからね。あれは、私達がこれまで貪ってきたどんな血よりも美味しい」「そうでしょ!? ヴァールス家の人間は皆美味しいのかな?」 同意を得たノーヴァは、ぱぁっと表情を明るくした。「そんなことは無いと思いますよ。きっと彼だけです」「試してみなくちゃわからないじゃないか」「ダメですよ。て言うかアナタ、ここに来た初日に全員分口をつけましたよね?」「あんないっぺんに飲んだら、味なんて分かんないよ」 小さな溜め息混じりに言うノーヴァ。ヴァニルは、呆れた顔で言う。「なんにしても、です。一応、ヌェーヴェルとの約束でもあるんですから」 ヴァニルは、そっと人差し指を口に当てた。その表情が|如何《いか》に妖艶なことか。顔がいい上に、凄まじい色気を纏っている。 恋仲ではないと言っているが、ノーヴァはヴァニルの顔がとても好きだった。ヴァニルの厭らしい表情を見ると、ノーヴァは堪らなく興奮する。しかし、それはただの嗜好であって愛ではない。 ヴァニルもそれを自覚していて、ワザと表情を作りノーヴァを喜ばせるのが常だ。そんな美しい2人の戯れを見て、胸を高鳴らせるのがヌェーヴェル
「お待たせ、ヌェーヴェル。医者は呼ばなくていいのかい? 僕にできることはあるかな····。ああっ、まだ横になっていなくちゃ」 起き上がろうとする俺を、わたわたと手のやり場に困りながら制止するノウェル。「横になったままでどうやって水を飲むんだよ。ったく··、そんなに|急《せ》くんじゃない」「あぁ····ごめん。ごめんよ、ヌェーヴェル····」「ふはっ、まるで仔犬みたいだな」 起きがけから喧しい奴だが、俯き肩を落とす様は、叱られた仔犬そのものだ。どうにも、こういう所があしらい難い。まったく、面倒くさい奴だ。「なんだよ、そのショボくれた顔は。俺なら大丈夫だから、焦らなくていいって事だ」「ヌェーヴェル····! やはり君は私の天··んぐっ──」 ノウェルの煩い口を、手で叩くように塞いでやった。俺は小さい頃から『天使』と呼ばれるのが嫌いなんだ。 周囲の大人は、見目麗しい俺を持て囃して取り入ろうとする。容姿が麗しいのは仕方のない事だが、下心があるのは許せない。 なのに、コイツはそれを知ってなお、俺を『天使』だと言う。コイツの場合、本心で言っている辺り質が悪い。流石の俺も、正面切って本心からそう言われると照れる。「うっっわ! てめ、舐めやがって! 気持ち悪ぃな!」「美しい手を差し出す君がいけないんだよ」「何言ってんだお前····。救いようのない気持ち悪さだな。お前の喧しい口を塞いだだけだろ」「どうせなら、その柔らかい唇で塞いで欲しいな」 なんで柔らかいって知ってるんだよ。触らせた事なんてないはずなのに。 「お前、さっさと帰れ」「まったく、君は酷いヤツだね。こんなに君を愛してる僕を追い返すなんて
──コンコンッ 窓を叩く音。ここは3階だぞ。誰がノックなどできようものか。と、普通なら恐怖する場面だろう。けれど、俺には心当たりがあるだけに、大きな溜め息が漏れてしまった。 恐る恐る振り返る。喧しいノウェルを見送った直後の清々した|表情《かお》が、鬱陶しくも劣情を孕んだ|表情《かお》へと変わったのを自覚した。「お前、どっから入ってくんだよ」「すみません。あの、ヌェーヴェル····。ノウェルは、その、アナタにとって何ですか?」 なにを乙女の様にもじもじしているんだか。いつもの威勢は何処へやらだな。大人しいヴァニルなど不気味でしかない。「いきなりだな。····ふん、アイツはただの従兄弟だ。それ以上でも以下でもない」「そうですか」 少し表情を緩めたヴァニル。一体、何に安堵したのだろう。 「何が気になるんだ? 言いたい事があるならハッキリ言え」「····ノウェルは、貴方を好いているでしょう。貴方はどうなのかと思って」「別に、アレは俺をからかっているだけだ。遊び半分だろう? 見ればわかるじゃないか」「はぁ····。貴方は本当に愛くるしい馬鹿ですね」 ヴァニルは片手を腰に当て、もう片方の手で項垂れた頭を支えて言った。「はぁ!? 喧嘩売ってんなら買ってやろうか?」「そんな安売りしてませんよ。だいたい、喧嘩する暇があるならとことん抱き潰してあげます」「なっ、馬鹿はどっちだよ! 言っておくが、俺は男に興味があるわけじゃないからな。だからノウェルの事も、くだらない事を聞くな。まったく、誰が潰されるかってんだ····」 言い訳じみたことを言っているのはわかっている。今、俺の顔が熱くなっているのは、ヴァニルに犯される夜毎の情事を思い出してしまったからだ
ウトウトしながら、1人で心細く留守番をしていた深夜3時頃。内側から板を打ち付けていた扉が、物凄い轟音と共に蹴破られた。 俺は驚きすぎて声も出ず、座っていた椅子から転げ落ちた。慌てて体勢を整え、物陰から様子を窺う。 扉を蹴破ったのはタユエルで、どうやら獲物を捕まえて戻ったようだ。タユエルの後ろで、ヴァニルが縛り上げて繋いだ男を引き摺っていた。「そ、そいつが犯人か?」「そうだ····って、なんだヴェル、んなトコに隠れて。はははっ、チビってねぇか?」「チビるわけあるか! それより、やはり吸血鬼だったのか?」「あぁ、純血じゃねぇがな。どれだけ入り混じってんのかもわからねぇ。あとはまぁ、見ての通り覚醒しちまってる」 どうやら会話はできそうにない。涎が垂れ流しで、牙も仕舞えないらしい。極めつけは紅黒に染まった瞳。以前のノウェルが、これの一歩手前の状態だった。だから俺は焦ったのだ。 ここまでキてしまっては、奇跡でも起きない限り正常に戻ることはない。故に、奇跡など起こりえない今、殺処分という形を取らざるを得ない。 墓穴を掘り、そこに縛った状態で寝かせる。そして、銀の杭で一息に心臓を貫き、地面深くまで打ち込んだ。 胸の当たりが燃え、耳を塞ぎたくなるような断末魔が響く。こうして、心臓が灰になるまで待ち、確実に息絶えた事を確認する。 十字架と弾丸をモチーフにしたヴァールスの家紋。それを銀の糸で刺繍した、無駄に煌びやかな布を被せてから埋める。 これが決まりなのだから、俺は手順通りにこなす。人知れず命を終える吸血鬼への弔いだ。手を抜くわけにもいかない。 それにしたって、ヴァニルとタユエルの顔が見られないなど、我ながら感傷に浸るようで吐き気がする。「少年達は、よく殺されなかったな」 俺は思わず、ポツリと呟いた。「えぇ。けれど、それは理性が残っていた訳ではなく、彼の性癖だったんだと思いますよ」「俺もそう思う。あんま気にすんな」「あぁ、気になどしていない。さぁ、そろそろ帰るか」
俺はすぐさまヴァニルを連れタユエルの店へ向かう。 最悪の事態──それはきっと、タユエルが食料としてではなく無作為に人間を殺めた、という事なのだろう。「ヌェーヴェル、大丈夫ですか?」「あぁ。こういう事態に備えて最低限の訓練はされている。お前に説明するまでもないだろうが、ヤツが暴走していればその時は····」「それは私が。貴方が太刀打ちできる相手ではありません。それに、彼を手に掛けるのは辛いでしょう」 俺とタユエルが長い付き合いだと知って、ヴァニルなりに配慮してくれたのだろう。しかしそれを言うならば、ヴァニルのほうが関係としては深い。「お前の方がやりにくいんじゃないのか。師匠みたいなものだったんだろう? ましてや、同胞を手にかけるなんて気持ちの良いものではないだろ」 ヴァニルは俺に口付けて、それ以上言うなと黙らせる。仕事だと割り切っている····そういう事なのだろう。 俺は気の利いた言葉を見つけられず、黙って銃の確認をした。あくまで念の為だ。 タユエルの店の前に立ち、腰に忍ばせた銃へ手を添える。息を殺し、ゆっくりと扉を開く。 隙間から中を覗くが、真っ暗で何も見えない。しかし気配はある。耳を澄ませると荒い息遣いが聞こえた。 思いきって一歩踏み入れた瞬間、耳を劈くような怒声が響く。「来るな!! ヴェルなんだろ? 絶対に入ってくるなよ!」 明らかに様子がおかしい。手遅れだったのだろうか。「····そうだ、俺だ。タユエル、何があった。何故、立ち入るのを拒む」 タユエルからの返答がないので、ゆっくりと扉を開ききる。陽の光が差し込み、その奥にタユエルの姿を目視した。「入るぞ」 俺はまた一歩踏み込む。タユエルの出方を窺いながら、一歩一歩慎重にカウンターへ向かう。 古い木造の匂い。その中に、血の様な鉄っぽいにおいを感じる。 胸騒ぎ
「ヴェル、起きて。ねぇ大丈夫?」 いつの間にか子どもの姿に戻っていたノーヴァに、柔らかく頬を抓られて目が覚めた。「ん····大丈夫··だ。ぁ、は、腹····」 腹の痛みが消えている。けれど、あの熱さだけは残っている感じがしてズクンと疼く。きっとこれは腹じゃなく、脳にこびりついた感覚なのだろう。 そして、熱さの理由はもうひとつ。ヴァニルが申し訳なさそうに俺の腹をさすっているのだ。こいつの手は冷たいのだが、気持ちは伝わってくる。「ヴァニル、大丈夫だ。もう痛くない」「いえ、そういう事では····。優しくするという約束だったのに、すみません」 ヴァニルは眉間に皺を寄せ、なんとも苦しそうな表情《かお》をしている。 まだ身体を起こせないが、俺はそっとヴァニルの頬に手を添えて微笑んだ。「ヌェーヴェルが私に優しい顔を向けてくれるなんて、出会って随分経ちますが初めてですね」「俺だって、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ」 ノーヴァが俺の額を撫で、啄むようにキスを落とす。「ノーヴァ、くすぐったい。なんだ?」「気絶する前に言ったこと、憶えてる?」 そう言えば、とんでもない事を口走った記憶がある。「······憶えてない」 俺は、ふいと目を逸らして言った。耳まで熱い。「嘘だ。憶えてるでしょ」「憶えてねぇよ。あの時は頭の中が真っ白だったからな」 必死に誤魔化したが、下手な嘘など通用しなかったようだ。 ノーヴァにじっと見つめられ、俺は観念して白状する。跡を継いで、全て終わらせてからにしようと思っていたのだが、あんな事を口走った後なのだから仕方がない。「俺は、お前たちを大切に想ってる。ずっと身
ほんの数秒で唇を離し、ノーヴァの目を見ながらそっと離れる。ノーヴァの唇へ視線を落とすと、自分でわかるほど瞬時に頬が紅潮した。「次は舌、絡めて」 そう言って、ノーヴァはベッと舌を出して見せた。触れるだけのキスで心臓がイカれてしまいそうなのに、そんな破廉恥な事を自分からできるのだろうか。 このヤワな心臓が根性を見せてくれることを期待して、少し開けて待っているノーヴァの小さな口に、ええいままよと舌先を差し込んだ。 いつもはされるがまま舌を絡めていたが、自分で絡めにいくとなると想像以上に難しい。「ヌェーベル····ソレ、後で私にもシてくださいね」 振り返ることができないので確証はないけれど、きっと嫉妬に歪んだ顔で言っているのだろう。 「ん、んぅ····」 俺のたどたどしい舌遣いに焦れたのだろう。ノーヴァは俺の両頬を手で抱え、こうやるのだと言わんばかりに激しいキスをしてきた。 いつも通りの、息ができなくなるやつだ。酸欠で意識が朦朧としてくる。「ふ、ぅ····ノー、ヴァ····待へ、ぅふ、は、ぁっ····ふぇ゙····」「アナタたちのキスを見てるだけで、なんだか苛つきますね····もう動きますよ」 突くのを待ってくれていたヴァニルだが、堪らずに動き始めた。 突かれるリズムに合わせ身体が前後する。けれど、頭が固定されている所為で衝撃を逃がしきれず、腹の奥に快感となって留まって苦しい。 ヴァニルが結腸口を叩く度に噴いてしまうので、ノーヴァとベッドがびしょ濡れだ。いつもなら、ぶっ掛けてしまうと嫌味の一つや二つ言うくせに、今日はお構いなしにキスを続ける。「ノ
ノーヴァは優しいキスを繰り返す。徐々に激しさを増し、早速約束を破って大人の姿になった。 そして、大きくなった手で俺の頬を包み口内を隈無く舐めまわす。「んっ、おま····大人になるなって··んんっ」「ん······ふぅ。こっちだと、ずっと奥まで犯せるもん。それと、血···もうガブ飲みはしない。これからは、ヴェルを危険な目に合わせるのは控えるよ」 優しさを見せているつもりなのだろう。俺に譲歩すると言いたげなノーヴァを愛らしいと思う。「控えるという事は、やるときゃやるんだな」「だってヴェル、好きでしょ? 死ぬほど犯されるの」「······嫌いじゃない」「あははっ。素直じゃないなぁ」 ノーヴァは再び俺の口を塞ぐ。ケツを弄っていたヴァニルは、潤滑油《ローション》が乾かぬうちに滾って反り勃ったモノをねじ込んだ。「んぅ゙っ、ん゙ん゙ん゙っ!!! んはぁっ、デカ····待っ、デカ過ぎんだろ······」「デカいの好きでしょう? ほら、もうイきそうじゃないですか。まだ挿れただけですよ」 確実にいつもより大きい。圧迫感が凄いのだ。なのに、容赦なく奥へ進んでくる。「ひぅっ、あぁっ!! ふっゔぁん····アッ、やだ、奥待って」「大丈夫。まだ奥は抜きませんよ。もう少し、ここを解してからです」 ヴァニルは下腹部を揉みながら、期待を持たせるような事を言う。そして、ぱちゅぱちゅと音を立てて俺を煽る。「ヴァニル····
集まった視線に、俺は直観的な苛立ちを覚えた。「な、なんだよ」「お前がそれ言うの? ヘタしたら、ヴェルが誰よりも我儘だし欲深いよ」「そりゃまぁ、俺だしな。それくらいの気概がないと、ヴァールスの名を継ごうなんて思わないだろ」 俺の言葉に、全員が耳を疑ったらしい。揃いも揃って、イイ面がマヌケに口を開けている。「貴方、もしかしてまだ継ぐ気なんですか? てっきり、私たちを選んだ時点で諦めたものとばかり····」「諦めてたまるか。嫁の件は父さんに上手く言って白紙に戻した。子供の事は追々考えるからいいんだよ」「そういえば、よくあのパパさんを言いくるめられたよね。なんて言ったの?」「····内緒だ」 うまい言い訳が思い浮かばず、バカ正直に『好きな人ができたから見合いは無かったことにしたい』と、子供の駄々みたいな理由を告げただなんて言えるか。しかし、あのクソ親父がよくそれで許してくれたなと俺も思う。 正直、もう出家覚悟で言ったのだ。それだけは、絶対にこいつらにはバレないようにしなければ。「貴方が言いたくないのなら聞きません。私達を優先してくれた事実だけで充分です」「そうだね。まぁ、ボクは暇だし、我儘坊やの復讐手伝ってあげてもいいよ」「私も、協力しますよ」「あぁ、頼りにしてるよ。って··おいこらノーヴァ、誰が我儘坊やだ!」 ノーヴァとヴァニルに手伝ってもらえば、いとも容易く父さんを屈服させられるだろう。勿論、物理的に。ヴァニルの場合、まずは容赦なく精神的に殺《ヤ》りそうだ。 協力してもらえるのは助かるし、頼りにしているのも本心だ。けれど、なんだこの漠然とした不安は。 この2人の際限のなさ故だろうか。あまり関わって欲しくないのが正直なところだ。「あの、ちょっといいですか。ヌェーヴェルさんに聞きたいんですけど」「なんだ、イェール」「その復讐ってのを達成したら、アンタは吸
説明を終えるなり、ノーヴァとイェールに笑われた。ノウェルはふんぞり返って鼻を高くしている。「ヌェーヴェルには僕が色々教えてあげるよ。心の機微を、こいつらが教示できるとは思えないからね」「ボクだってできるよ! 人間の事はローズに教えてもらったからね」「こら、人様の母君を呼び捨てにするんじゃない。失礼だろうが」 やはり、ノーヴァはノーヴァだ。まだまだ礼節を弁えきれていない。所詮、余所行き用の付け焼き刃と言ったところか。「ちぇー····人間ってなんでそういうトコ煩いの? 面倒だなぁ」「ノーヴァがガサツ過ぎるんですよ。誤解のないように言っておきますが、吸血鬼が皆、ノーヴァのようにガサツな訳ではありませんから」 知っている。ローズやブレイズ、ヴァニルのように礼儀正しい者が多い事は。 それは人間とて同じ事だ。住む環境や性格によるところだろう。「お前を見てたらわかるよ。ノーヴァのもまぁ、度を越さなきゃ可愛いもんだしな」「えへへ。ねぇヴェル、ひとつ聞いておきたいんだけど」「なんだ?」「ヴェルはさ、子供のボクと大人のボク、どっちが好き?」 究極の選択じゃないか。愛らしい子供の姿で背徳感を感じるか、大人の姿でヴァニルとは違った美形に支配されるか····なんて言うと図に乗るのだろう。とてもじゃないが、正直な気持ちは伝えられない。「子供で充分だ。大人になるのは禁止だしな。お前ら3人に血を吸われる俺の身にもなれよ」「それぞれ遠慮してるじゃありませんか。ちゃんと“不死の吸血”の約束は守っていますよ」「当然だ。俺が死んだら元も子もないだろうが。そうだ。イェールはノウェルの血を飲むのか?」「許した憶えはないんだけどね、興奮すると時々吸われるよ。嫌かい?」「嫌だな。けど、ヤッてる最中だけは許してやる」「随分と寛大なんだな。ノウェルさんがアンタに執心してるからって余裕じゃないか」「あぁ
約束の夜。全員が俺の部屋に集まった。「結論から言う。俺は、お前たちの中から1人を選ばん。全員、俺のモノでいろ」 俺が高らかに言い放つと、ヴァニルとノウェルは予想通りと言った顔で項垂れた。ノーヴァは呆気にとられた顔で口をパクパクしている。餌を待つ魚か。 そして、黙って聞いていると約束していたイェールが喚き始めた。「アンタ本当に狂ってんのか!? どれだけ欲張りなんだよ! ふっざけんなよ····ノウェルさんだけは渡さないからな!!」「イェール、黙って聞いてろ。できないなら追い出すぞ」 俺の言葉を受けて、ヴァニルがイェールを睨む。「······クソッ!!」 なんと説明すれば良いものか、俺だってそれなりに悩んだのだ。しかし、ノウェルに言われて“恋”だと知った時点で、俺の中では結論が出ていたのだと思う。 結論が出ているものに、思い悩むのは性に合わない。「お前らが俺を想ってくれている事は、正直嬉しかった。けど、俺はノウェルに言われるまで、恋というものが分からなかったんだ。その····症状に当てはまっていて初めて、お前らに抱いていた感情に“恋”という名がある事に気がついた」「症状って、ヴェル····病気か何かだと思ってたの?」 ノーヴァが憐れむような目で俺を見て言った。 「恋なんて病気みたいなものだろう。鼓動が早まったり身体が熱っぽくなったり、息苦しくなったり情緒が不安定になるんだぞ。まともな状態じゃない」 俺の意見に首を傾げるノーヴァ。俺は、何かおかしな事を言っているのだろうか。「そう····だね? ねぇ、人間って皆こんなにバカなの? ノウェルは人間の中で生きてきたんでしょ? 人間っ
「そうかそうか、なら話は早い。ヴァニル、お前だろ? ヴェルの相手してんの」「はぁ····そうですが」「俺にも喰わせろ」 タユエルはニタッと笑い、圧《プレッシャー》を掛けて言った。一瞬たじろいだヴァニルだったが、すぐに毅然とした姿勢で断る。「いくらタユエルさんの頼みでも、それは承服致しかねます」「ハッ····頼んでんじゃねぇだろ。喰わせろつってんだよ、なぁ?」 タユエルは、ヴァニルの肩を壁に押さえつけると、もう片方の手で俺の首を掴み牙を見せた。「なっ!? タユエル····どうしたんだ!? 来た時から様子がおかしいとは思っていたが、何かあったのか」「や~、別にこれと言ってねぇけどな。お前がイイ匂いふり撒きながらウチに来る度によぉ、溜まるんだよ、色々とな」「はぁ!? 甘い血の匂いか? 俺にはわからんのだから仕方ないだろ! 溜まるって何が····あぁ!! 今まで誘ってたのって本気だったのか」 タユエルとヴァニルの溜め息が地下にこだました。「ヌェーヴェル、タユエルさんにも狙われてたんですか。この人、昔は手当り次第好みの人間を食い散らかしていたんですよ。よく無事でいられましたね」「俺だって理性くらいあるわ。流石に、ヴァールスに手を出すと厄介な事くらいわかってるっつぅの」 脳筋なのだと思っていたタユエル。意外と冷静にものを考えられるのだと感心してしまう。「だと思ってたから、ずっと揶揄われているだけだと思ってた。まぁ、タユエルも吸血鬼だからな。いつ理性が飛んで襲われるかわからんから、常に警戒はしていたが」「そっちの警戒だったのかよ。お前、鈍感だとか言われねぇか?」「言われた事はない。俺は鈍感じゃないからな」 自慢じゃないが、母さんには気が利くとよく褒められた。それに常日頃、細事にも気を配っているつもりだ。