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4.一匹狼クール系女子と喫茶店に行く

作者: たかはし
last update 公開日: 2026-05-28 11:00:33

「ここが私のお気に入りの喫茶店」

そう言って神崎さんに紹介された場所は徒歩十分圏内にある商店街の中にあるこぢんまりとした店だ。

〈喫茶カントリー〉

店内はシンプルな内装で余計に派手派手しい感じではなく素朴で落ち着いた感じだ。確かカントリーには田舎っていう意味があったはず。

俺達は一番奥のテーブルに腰を落ち着ける事にした。テーブルは小さく椅子もテーブルを挟んで向かい合うように配置されている。だから必然的に神崎さんとの距離が近くなる。

「……」

「……」

席に着いたのは良いものの、二人とも無言になる。こういう時男である俺が気さくに話し掛けて場を盛り上げるんだろうけど、残念ながら俺にそこまでのスキルはない。どうしたものかと困っていると

「どうもいらっしゃい。来るのが遅れてごめんなさいね」

とニコニコしながら女性の店員が寄ってきた。ふう気まずかったから非常に助かる。

「……ママ、お疲れ様」

神崎さんの言葉に、俺はびっくり仰天。まさかこの女性店員が、神崎さんのお母さんだったなんて。

「あ、あの神崎さんと同じクラスメイトの影野悟です。宜しくお願いします」

俺は席から立ち上がり、神崎さんのお母さんに頭を下げる。

「あらまあそんなに畏まらなくて良いのに。私は神崎薫《かんざきかおる》。燈の母親です」

と、柔和な笑みを浮かべながら、自己紹介される。俺は、その顔をじっくりと眺める。確かに顔立ちがどことなく、神崎さんに似ていた。

「ここはね、私が開いたお店なの。こぢんまりとしているお店だけど、ご近所さんには人気でね。土日とかには、燈にも手伝って貰ってるのよ」

そう言いながら、薫さんは我が娘にたいして慈愛に満ちた目を、向ける。その視線を向けられている神崎さんは、照れくさそうに俯いている。へえ、神崎さんも照れたりするんだ。学校ではいつも、誰も寄りつかせない鉄壁の態度だったから。なんか新鮮。

「でもびっくりしたわ。あの燈が男の子を連れてくるなんて」

悪戯っ子のような笑みを浮かべて、薫さんが言うと

「なっ……か、影野はママが思ってるような関係じゃないからっ」

と、慌てて否定の言葉を口にするけど、最後の方は尻すぼみになっていた。いやそこは最後まで、全力で否定して貰いたい。後、今になって思うけど神崎さんって、母親の事をママって呼ぶんだな。

「あらそれは残念。でもこれからそう言う関係に……」

「そう言う関係には、なる予定はないからっ。ママ、珈琲とショートケーキ」

「もう照れちゃって、可愛いんだから。悟君は、何にする? 一応オススメは、今燈が頼んだ珈琲とショートケーキなんだけど」

「なら俺も同じ物をお願いします」

「はい。畏まりました」

そう言って薫さんは、そそくさと奥の厨房に向かって行った。

「もうママったら」

と、頬を膨らませながら言う神崎さん。こういう表情もするんだなと俺が凝視していると、神崎さんが俺の視線に気付き、顔だけではなく耳まで真っ赤にして俯く。

「そ、その……」

俯いたまま言い淀む神崎さん。一体彼女は、何を俺に伝えたいのだろうか? そんなことを考えながら、待つこと数秒。意を決したのか顔を上げる神崎さん。その瞳は、凄く真剣味を帯びていた。俺は真面目な話なんだなと思い、姿勢を正す。

「……昨日は本当にありがとう」

真面目な表情で、そう告げられて拍子抜けしてしまう俺。そして俺は、クスッと笑ってしまう。

「な、なんで笑ってるのよ」

「いやだって真面目な顔をされて、何を言ってくるのかと思ってたから」

「だからって、笑うことないでしょっ」

そう言ってぷいっと、そっぽを向く神崎さん。どうやら神崎さんの機嫌を損ねてしまったみたいだ。

「せっかく、勇気を振り絞って言ったのに」

「感謝の言葉を言うだけなのに。勇気って……」

そこまで勇気の要る事かと、俺は呆れてしまう。

「だって私……ママ以外に、感謝の言葉を伝えたことが無かったから」

「え、そうなの? 小学校とか中学校で、友達とかいなかったの?」

俺はそれを口にして、しまったと思った。神崎さんが、俺の言葉を聞いて暗い表情を浮かべたからだ。

「神崎さんもそうだけど、人には色々あるもんな。不躾な事を聞いて、ごめんなさい」

俺はそう告げて、頭を下げる。

「別に謝るほどじゃ……」

「いや嫌な思いをさせたんだから。謝るのは当然だよ」

俺がそう告げると、神崎さんは口元を緩める。

「影野って、優しいのね」

「そう?」

別にこれくらいは、普通のことなのでは?

「優しいよ。少なくとも、私の周りでそうやって言ってくれる人間は、居なかったから」

何処か、遠くを見るかのような目をする神崎さん。まあ彼女ほどの美人なら、昨日のチャラそうな男達含め、言い寄ってくる人間は多いだろう。神崎さんも神崎さんなりに、苦労してるんだな。

「お待たせ~。こちら珈琲とショートケーキになります」

調理を終えたらしい薫さんが、二人分の珈琲とショートケーキをお盆に乗せて、こちらへやってくる。そして、テーブルに珈琲とショートケーキを置いていく。

「テーブルに、砂糖とミルク置いてあるから。苦いのが苦手なら、遠慮なく使ってね」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。ブラックのままで」

俺は基本的に、珈琲はブラックが好きだ。食べ物飲み物問わず、その本来の味を堪能する派なのだ。

「あら、悟君は大人なのねえ~」

にんまりとした顔で、薫さんが言う。別に、珈琲に砂糖を入れるか入れないかで、大人か子供と決まるとは思わないのだが。

「それに比べて……燈はねえ」

そう言いながら、薫さんが神崎さんを見るので俺も吊られて、神崎さんを見る。見れば神崎さんは、砂糖を小さじ十杯、ミルクを五個入れている。俺と薫さんの視線に気付いた神崎さんが、頬をほんのり赤く染め不服そうな目をして

「……なんか文句ある」

と、言ってくる。いや文句なんてないけど、強いて言うなら、そこまで砂糖とミルクを入れなくても、良いのではないか?

「燈は、昔から苦いのが駄目でね。その代わり、甘い物には目がないの」

「……ママ」

これ以上余計な事を言わないで、と言いたそうな目で神崎さんは薫さんを、見ていた。

「これ以上言うと、拗ねそうね。どうぞ。冷めない内に珈琲を飲んでね」

ニッコリと、そう言われ俺はカップを手にして、口に付ける。

「……美味しい」

凄い。こんな珈琲初めてだ。口に広がる苦味。ただ苦いだけじゃなくて、コクも感じる。あまりの美味しさに、自然と頬が緩む。

「お気に召したようで、良かったわ」

「これ、どこの国の珈琲豆を使ってるんですか?」

「これはねえ。ブラジルのアラビカ種を使ってるの」

「アラビカ種?」

そんな珈琲豆が、あるのか。

「ええ、世界で一番の珈琲豆と言っても良いんじゃないかしら。まあでも、ドリップ式のコーヒーメーカーを使ってるから。多少味は落ちてるかもだけど」

「いえいえ、十分美味しいです」

こんな苦いだけじゃなくて、甘味もあるんだから。不味いわけがない。

「嬉しいことを、言ってくれるわね。燈が気に入るのも納得だわ」

「……ママぁ」

恨みがましそうに、神崎さんが不服そうな声を立てる。と言うか……俺神崎さんに気に入られてるのか? 昨日今日知り合ったばかりの人間だぞ。それなのに、気に入るってそこまで神崎さんは、ガードは緩くないだろう。

「ショートケーキも食べてねっ」

不服そうにしている神崎さんを無視して、イチゴの乗ったショートケーキを、勧めてめてきた。俺は、迷わず皿に乗せられたフォークを手にして、ショートケーキを縦に切り分け口に入れる。

甘い。生クリークの味が、一気に口内に広がった。生地の食感も柔らかく、とても味わい深い。

「悟君は、甘いのもいける口みたいね」

薫さんが、微笑みながら言う。俺は、基本美味しければ何でも良いという考えだ。暫く黙々と食べる。あっという間にショートケーキが、無くなってしまった。俺は、薫さんに身体事向けて合掌し

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

と、告げた。それを受けて、薫さんが満面の笑みを浮かべる。

「どうも。お粗末様でした」

そう言われ俺は苦笑する。飲食店は、たまによく行くが店員とここまで仲良く話した事がないので、少々戸惑ってしまう。

「悟君。うちの燈が、迷惑を掛けてたりしてないかしら

「いや……あ、燈さんは学業でも成績優秀で、スポーツ万能で、他の生徒からは一目置かれてる思いますよ」

「そう。ちゃんとお友達、作れてるのかしら」

「そ、それは」

俺は、答えに窮する。普段の彼女は、孤独で誰も寄りつかせないように過ごしているからだ。言い淀む俺を見て、薫さんは溜め息を吐く。

「やっぱり、その調子じゃ友達とか作ってないのね。この子はある出来事があってから、無愛想になっちゃったから」

悲しげな表情を浮かべて、薫さんが言う。恐らく、その事が原因で、神崎さんは人を心の底から、信頼出来なくなったのだろう。ともあれ俺は、それを深掘りしようとは思わないが。だって俺と神崎さんは、昨日初めて話した……言うなれば、赤の他人で信頼関係など一切築けていないのだ。

俺はカップに残っている珈琲を、グイッと飲み込んだ。そしてズボンのポケットから、財布を取り出す。

「すいません、お幾らですか?」

と、俺が訊ねると薫さんは、満面の笑みを浮かべた。

「今日のところはお代は結構よ。燈がお友達を連れてきたんだから」

「いやでもそういう訳には……」

「本当悟君は、真面目ねえ。でも今日は良いの。その代わり次来たら、その時はちゃんとお金は貰うから」

ニッコリと、そう言われ俺は渋々ながら、薫さんの言葉に従う。俺は席から立ち上がり、薫さんに頭を下げる。そして、出入り口の方に歩みを進める。

「……影野」

名前を呼ばれて振り向くと、緊張した面持ちの神崎さん。

「また明日ね」

恥ずかしそうに言う神崎さんに俺は笑いながら手を振って店を出たのだった。

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  • 一匹狼クール系女子がなぜか俺に構ってくる件   5.ちょっと気になる男の子

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    「ふうやっと授業が終わったか」 あー怠い。こういう時はさっさと家に帰ってダラダラするに限るな。こういう思いをするのは毎日なんだけどさ。 「悟ごめん。俺今日部活が」 「おいモジモジしながら言うな気色悪い」 別に一緒に帰る約束もしてないし、何でそんな彼女みたいな振る舞い方をするんだよ。いや絶対揶揄ってるだけだって分かってるけどさ。 因みに太一はサッカー部で詳しくは知らないけどフォワードという結構な大役のポジションらしい。 「まあ怪我しないように程々にな」 「あら悟ちゃんたら優しい~」 「張っ倒すぞ」 全く、基本的には太一は良い奴だがたまにこういう悪乗りをしてくるから困ったものだ。 「まあまあ……じゃあ行ってくるわ」 「おう」 俺がそう返事をすると颯爽と太一は教室から出て行く。さてと俺も帰るかな。 俺は教科書や今日渡された宿題などが詰まった鞄を背負って出入り口まで歩みを進める。そのまま教室から出ようとしたら―― 「ちょっと待って」 と背後から声を掛けられた。振り返るとそこには神崎さんがいた。いきなり声を掛けられたことにより俺の脳がショートし掛ける。 な、なんで神崎さんが俺に声を掛けてきたんだ。ショートし掛けた脳を俺はフル回転させる。これはあれか……美人局的なやつか。そうだよなじゃなきゃ神崎さんが俺に話し掛けてくるわけないもんな。 いやそれか神崎さんの中で非モテ陰キャの俺に声を掛けてちょっとした良い思いをさせようとしてるのかも知れない。内心で俺の事を馬鹿にしながら。取り敢えず否定をしなければ。 「あのすいません、俺金も持ってないし。見ての通り非モテ陰キャだからって馬鹿にしないで下さい」 「……何を言ってるの?」 彼女は俺の言ってる意味が分からないのかキョトンとした顔をする。 「いやだから、これはいわゆるアレですよね。美人局か罰ゲーム的な」 おずおずといった調子で俺が告げると 「貴方、私のことをなんだと思ってるのよ」 とジト目で睨まれる。どうやら神崎さんの機嫌を損ねてしまったらしい。 「な、ならどういうご用件で」 「その前に貴方……ええと、ごめんなさい名前を教えて」 どうやら神崎さんは俺の顔を認識していても名前までは認知してなかったみたいだ。それはそれで悲しい。もうこ

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  • 一匹狼クール系女子がなぜか俺に構ってくる件   プロローグ

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