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第6話

Author: 白金 将
last update publish date: 2026-09-02 05:01:10

軋む床の上に座らされているような暮らしだが、そのすべてが燐を苦しめていた訳ではない。

緊張から解き放たれるその一瞬は、恭司の弟、暁が部屋にやって来た時だった。

「やあ、義姉上」

採血を終えて貧血気味になっていたとしても、彼が部屋の中に入るだけで燐の周りはふわっと明るくなる――

「暁さん……?」

「いつもお疲れ様。見せたい物があって」

恭司によく似た顔立ちの弟、暁はドアの外枠から斜めに顔を出して挨拶する。

燐の身体からふっと余計な力が抜けた。

暁は部屋の真ん中まで来ると、寝転ぶ燐の隣で小さな椅子に腰掛けて目の高さを合わせる。

彼は今日も緩い格好をしていたが、顔立ちのせいもあってかだらしなくは見えず、かえって似合って見えるのが不思議だった。

「何を持って来たの?」

「この間、血液検査をしたでしょ」

「したけど……」

暁は、何枚かの紙が入ったクリアファイルを差し出した。

燐が目を通してみれば、それには――数日前に行った、彼女の血液に関する分析結果が詳細に記されている。

「これ……」

「医師がまとめたものだよ。兄上は先に目を通している。僕もそのことを聞いて、当事者の君にもお届けしたって訳」

ざっと全体を見る。医療の知識にそこまで詳しくない燐だが――その中に『魔力量』の項目を見つけて目を留めた。

魔力量:極小。

分かってはいたが、燐の顔が曇った。

「……ありがとうございます、暁さん。でもどうして、恭司さんは私に何も言わなかったの?」

「きっと、余計な心配をしてほしくなかったんだと思うよ。兄上はそこまで酷い人じゃない……それは僕が保証する」

暁からの言葉に燐は目を伏せる。

――そこまで酷い人じゃない。本当ならば、私もそのように恭司さんのことを信じていたかったのに。

「心配しているなら直接言えば良いのに」

「はは、それは僕もそう思うね。そうだ、新しい生活になって数日だけど、何か欲しいものはある?」

「欲しいもの?」

燐は自分がいる部屋を見回した。

寝転がっているベッドは、医療用ベッドの中でも最高級の物が用いられていて文句の付けようもない。

テーブルもあればテレビもあって、燐が生活に困ることのないように物品が細かく揃えられている。しかし――

「……暁さん。スマートフォンをもう二台、いただくことはできますか?」

「二台! いいよ。何に使うのかは……」

「たいしたことではありません。ちょっとした趣味で……」

「趣味、ねぇ。分かった。他には?」

「あとは……」

燐は、腹の底にあるものをほんの少しだけ外へ出しながら要望を伝えていく……

 *

それから、暁は燐の要望を確かに叶えてくれた。燐はまっさらなスマートフォンを起動させると、とあるSNSアプリをダウンロードしてアカウントを移していく。

新しい端末に現れたのは、金融業界にまつわる様々なニュースや著名人たちの投稿だった。

これが、燐のもう一つの顔。いや、一つという言葉では足りない――

(黒鉄家にいた時から、ずっと家から出なかったもの。でも、良い時代ね。スマホひとつあれば、こんな私でも世界中の人たちに影響を与えられる……)

金融情報を扱うアカウントを、切り口を変えたもので複数。振る舞いを変え、周りから気に入られやすい人柄のアカウントも複数。

これまでベッドの上で生活していた燐は、同時にインターネットの海を泳ぎながら必要な情報を集めて、徐々にその発信力も高めていたのだった。

「……ん?」

別名義を使って検索していると、燐はそこで興味深い文字を見つけた。

“御堂財閥のCEO”――間違いなく恭司のことだ。彼はどうやら、先日とあるパーティーに出席していたようだ。

投稿は第三者のものだったが、ご丁寧に写真まで添えられている。そこに。

「……華」

九条財閥の、令嬢の姿があった。恭司のすぐ後ろでニコニコと微笑んでいる……

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