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一輪のめぐり逢い
一輪のめぐり逢い
Auteur: トフィー

第1話

Auteur: トフィー
杉本莉子(すぎもと りこ)は、誕生日を迎える婚約者の久保充(くぼ みつる)をサプライズで驚かせようと、仕事を大急ぎで片づけた。だが、夜通し車を走らせた疲れがたたり、つい不注意から事故を起こしてしまう。

足を引きずりながらも充の家になんとかたどり着いたが、家の中は莉子が想像していたような静けさはなかった。

テーブルはたくさんの人で埋め尽くされている。

それに、いつも自分が座っている席には、知らないおとなしそうな女が座っていた。

そこにいた人々は莉子に気づくと、笑い声をぴたりと止め、一斉にその女のほうに視線を向けた。

充の笑顔までもが強張っている。

「どうして来たんだ?」

莉子は固まってしまった。

プレゼントを抱えた莉子の鼻は、寒さで真っ赤になり、おまけに足は怪我をしている。

なのに充は、そんな莉子の様子を気にかけるどころか、第一声は自分になぜ来たのか、と聞いてきた。

「もしかして、私が来たら都合でも悪かった?」

莉子は、無理やり口角を上げて笑ってみせる。

「いや、そういうわけじゃないけど。ただ、今日は来ないと思って、席を用意してなかったから」

充の声に苛立ちが混じっているのが、莉子にははっきりと分かった。

しかし、その苛立ちが招かれざる客である自分へのものなのか、それともこの気まずい鉢合わせへのものなのかは定かではないが……

「そんな顔するなよ。席を用意するから、早く座れ。みんながお前を待ってるんだから」

そう言うと充は適当に、背もたれすらない椅子を持ってきた。

その椅子を無理やりテーブルの隙間に押し込んだせいで、ひどく場違いに見える。

足の痛みはまだ引いていなかった。この怪我のせいで、もうモデルの仕事は続けられなくなるだろう。なぜなら、会社から半年は休むように言われたから。この業界で半年も休んだら、もう自分の居場所はなくなってしまうはずだ。

しかし、仕事を失っても、自分には充がいる。そう思っていたけど、それもどうやただの思い上がりだったようだ。なんて自分は馬鹿だったんだろう。

莉子は椅子に座らず、充の隣にいる女に視線を向けた。

女の肩には、サイズの合わない白いメンズジャケットがかけられていて、よく見ると油のシミが点々とついている。

しかもそのジャケットは、数日前に充と旅行へ行った時、莉子がプレゼントしたもの。

充はそれをとても気に入り、汚すのが嫌で滅多に着なかったし、その上潔癖症もあったので、汚すことなんてありえなく、莉子にすら着させなかった。

なのに、そのジャケットは今、知らない女の肩にかけられている。そんな光景が、嫌でも莉子の目には入ってきた。

莉子は、張り裂けそうなほどの胸の痛みをなんとか堪え、女の前に立ち、静かに口を開く。

「あの、あなたのお名前は?」

「青……青木紗奈(あおき さな)です」

莉子の気迫に押されて、紗奈はびくっと肩をすくめた。声も、心なしか少し震えている。

「青木さん。このジャケット、私が買ったものなの。だから返してもらってもいいかな?」

紗奈が答える前に、莉子は彼女の肩からジャケットをひったくり、持っていた誕生日プレゼントと一緒に、ゴミ箱へと叩きつけた。

その場の全員が凍りつく。そして、長居できない雰囲気を感じ取り、それぞれがそそくさと挨拶をして帰って行った。

紗奈が帰り際、目に涙を浮かべて、充に小声でささやくのが見えた。

「ごめん、充。私のせいで、莉子さんに誤解させちゃったみたい。本当にごめんね」

みんなが帰った後、気まずい空気が流れる中、充はソファにどっかりと腰を下ろした。そして、苛立たしげにタバコに火をつける。

「これで気が済んだか?

ただ友達と飯を食ってただけなのに、なんでこんなにみっともなく大事にするんだよ?もうすぐ結婚するからって、世界中がお前の思い通りになるとでも思ってるのか?」

充の言葉は鋭いナイフのように、容赦なく莉子の心をえぐった。

拳をぐっと握りしめる莉子の声が自然と冷たくなる。

「友達?ただの友達なら、どうして今まで紹介してくれなかったの?

それとも、私という婚約者の存在を知られたら、まずい女友達でもいるってわけ?」

充は一瞬、鋭い視線を莉子に向けたが、すぐにため息をつくと、呆れたような口調で話し始めた。

「紗奈は、ただの幼馴染。それに、お前が変に誤解するのが嫌だったから、今まで紹介しなかったんだ。

莉子、お前のためを思って、秘書を全員男にしたっていうのに。その疑り深い性格、いつになったら治るんだ?」

誠意を見せるため秘書を男性に変えると言い出したのは、充の方だったのに、なぜか今ではすっかり自分のせいにされている。

「本気で相手を愛している男なら、多少疑われたって気にしない」と、充は言っていたのに。

でも今の充は自分の嫉妬に苛立ち、そして怖がっている。

莉子の喉が、きゅっと締め付けられた。しばらくして、やっと震える声で言葉を絞り出す。

「充。私たち別れよう」

タバコを挟んだ、充の手がぴたりと止まった。

莉子を見る充の目には、呆れの色が浮かんでいる。

「今日は俺の誕生日だっていうのに、そんな冗談はやめてくれよ。

仕事が片付いたら、気分転換に旅行にでも連れてってやるからさ」

充は疲れたように眉間を揉むと、ゴミ箱からジャケットを拾い上げ、そのまま二階へと上がっていった。

莉子が本気で言っていることくらい、充にだって分かっているはずなのに。

莉子は家を飛び出すと、タクシーを拾って会社へ向かった。

道中、莉子はある番号に電話をかける。

「私名義の株を、30%売却して。久保社長の許可はいらないから」

売却利益が口座に振り込まれるのは、1ヶ月後。

つまり、充のもとを完全に離れられるのは、あと1ヶ月先ということだ。

会社に着くと、マネージャーの山下澪(やました みお)のオフィスの灯りはまだついていた。

莉子は部屋に入った。泣きはらしたせいで、声はまだかすれている。

「山下さん、私は休みません。

モデルができないなら、マネージャーとして海外にでも派遣してくレませんか?」

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