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第26話

Penulis: 北野 艾
「レストランまで送れ」

それは、命令だった。

まるで、かつてのように。呼べばすぐに駆けつけ、用が済めば追い払える、都合のいい存在だとでも言うように。

だが、今の詩織は、もう昔の彼女ではない。

彼の足元にひれ伏すような真似は、もう二度としない。

詩織は卑屈になるでもなく、かと言って逆らうでもない、平坦な声でその命令を拒んだ。「『せせらぎ』はここからそう遠くありません。タクシーを拾われた方がよろしいかと」

柊也は眉をひそめ、その目にありありと苛立ちを浮かべると、彼女に釘を刺した。「忘れたのか。お前が今乗っている車は会社のものだ。その使い方を決めるのは、俺だ」

その一言で、詩織の全身からふっと力が抜けた。

そうだ。

この車はエイジアのもの。

そしてエイジアは、柊也のもの。

エイジアのため、彼のたった一人のために、この七年間、身を粉にして尽くしてきたというのに、結局、自分は何一つ持ってはいないのだ。

詩織は胸の奥に込み上げてくる苦いものを無理やり飲み下し、車のキーを柊也に差し出した。「お返しします」

仕事も、この人も、もういらない。ならば、この車も必要ない。

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