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第44話

Author: 北野 艾
食事の途中、柊也が会計のために席を立った。太一もその後を追う。

小走りで柊也に追いつくと、声を潜めて告げ口をするように言った。「おい柊也、江崎もこの店に来てるぜ。京介兄貴と一緒だ」

それを聞いても、柊也は平然としていた。

どうやら彼にとって、詩織はもはや取るに足らない存在らしい。

太一は内心ほくそ笑みながらも、詩織に対するやっかみが抑えきれなかった。

「それにしても、どうやって京介兄貴に取り入ったんだか。やけに馴れ馴れしくしてたぜ」

そこで、太一はある可能性に思い至る。「……まさか、あれが例の男を落とすための新しい手口とか?」

彼は興奮気味に続けた。「前にあんたの気を引こうとして、わざとヘッドハンターと接触してたじゃんか。でもあんたが無視したから、今度は手を変えてきやがったんだよ。マジで、腹黒い女だぜ!」

「……タバコ、持ってないか」柊也が、唐突に尋ねた。

太一の饒舌な思考は、そこでぷつりと途切れる。「は?あんた、タバコ吸わなかったっけ」

「……少し、イラついてる」

その言葉に、太一は何に、と問いかけそうになったが、柊也の険しい表情を見て、その言葉をぐっと飲み込んだ。

……

京介が言っていた「恩返し」とは、パーティーの同伴者として、詩織に付き添ってほしいということだった。

詩織は、彼が冗談を言っているのだと思った。

何しろ、京介ほどの男だ。彼のパートナーになりたいと願う女性など、星の数ほどいるだろうに。

詩織が訝しむような視線を向けたので、京介は観念したように白状した。「俺は最近、衆和銀行に戻ったばかりでな。江ノ本中の人間が、俺の一挙手一投足に注目してる。だから今、ほんの些細な綻びも見せられないんだ。……俺の言いたいこと、わかるか?」

彼が詳しく話さなくとも、詩織には彼の置かれた状況が手に取るようにわかった。

この二年、衆和銀行は深刻な内部抗争で、完全に泥沼化していると聞く。

京介がこのタイミングで帰国したのは、その衆和を立て直すためであることは明白だった。

彼の隣に立つ人間は、誰もが何かしらの下心を持っていると見なされるだろう。

「私、ずいぶん信用されてるみたいね」詩織はわざとからかうように言った。「もし、私に下心があったらどうするの?」

なにしろ、こういうパーティーは人脈と利権の宝庫なのだから。

京介は意に介さない様
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