LOGIN依頼人の平坂さんと顔合わせをしてから五日後の早朝、午前四時四十五分。
洗顔と着替え、そして歯磨きを済ませ、手荷物を持って本家屋敷前のヘリポートに向かうと、そこには三十名から四十名程の黒装束の兵隊さんたちが、休めの姿勢でズラリと整列していました。 彼らは、今回私の護衛を担当する金剛さん指揮下の、【彼岸】第五小隊の皆さんです。私の護衛に選ばれなかった他のメンバーたちが、せめて見送りだけでもと、自主的に起床時間より早く起きて整列していたのでした。 今回、鳴神山地周辺の調査任務に赴く私の護衛として帯同するのは、金剛さん含めて四人です。金剛さん曰く、若手寄りの中堅、若しくは中堅寄りの若手だそうです。 「──よく眠れましたかな? と訊くのは野暮でしたね」 私は努めて平静を装っていましたが、顔色や所作などから内心緊張していることを察したか、金剛さんは意地の悪そうな笑みを浮かべます。 「……首から提げた、勾玉の首飾り。無意識のうちに指先で何度も触れていますよ。余程、今回の任務に臨むに当たって緊張しておられると見える」 無理もない──金剛さんはそう言って、大きく溜め息を吐きます。既に搭乗予定の"ブラックホーク"のローターは爆音を轟かせながら回転しており、何時でも出撃出来る状態となっていました。 「……兵士が初陣で死ぬ確率は、極めて高いと言われております。それは、貴方がた巫女も例外ではないでしょう。殉職者の多くは初陣で命を落としていると、ご当主から聞き及んでおります」 況してや今回、私が赴く鳴神山地は、経験も実力もある巫女が何人も殉職した忌まわしい場所です。新米巫女である私に緊張するなと言う方が無理だろうと、金剛さんは暗にそう言いたげでした。 「……しかしながら、初陣さえ乗り切れば、兵士の生存確率というものは飛躍的に向上すると言われております。そして貴方は教育課程の段階で既に、現人神と謳われる清治さまの下で相応の場数をこなしてきた。貴方がご自身で思っている以上に、貴方は優秀であると……まぁ、少なくとも私はそう思っておりますがね」 「それは……私を叱咤激励して下さっている、という認識で宜しいのですか?」 恐る恐る尋ねてみると、金剛さんは苦笑しながら、 「お好きなように、捉えて頂いて構いません。とは言え此方としては、貴方を死なせるつもりは毛頭ありませんのでご安心を。たとえ相手が【敷島】の誇る神童・秋津 日向であっても……命にかえても、お守りしますよ。それが我々の任務です。尤も──怨敵たる秋津 日向を、貴方自身の手で殺したいと言うなら……話は別ですがね」 ぶっきらぼうな態度ではありましたが、言葉の端々から金剛さんの不器用な優しさというか親切心というか……ある種の気配りのようなものを感じることが出来ました。表情や態度が悪人のそれなので誤解されそうですが、意外と情に厚い人なのかもしれません。 現に、部下である第五小隊の皆さんが総出で、見送りに出てきてくれていますし、人望はかなりありそうです。当の本人は心底迷惑そうに眉をひそめていましたが……。 「──準備は出来たか?」 ふと──開かれた屋敷の門の向こうより、黒スーツ姿の宗一さんと和服姿の清さんがぼうっと、陽炎のように姿を現します。 「……此方は何時でも行けますよ、ご当主。それから、妹君。後は、貴方がた次第だ。死地へと赴く身内に、掛ける言葉の一つや二つは当然おありでしょう?」 宗一さんと清さんに律儀に敬礼しながらも、金剛さんは私に対する態度と然程変わらぬ態度を維持しつつ、意地悪な笑みを湛えて問います。 整列している金剛さん指揮下の第五小隊の皆さんが、敬礼した状態のまま一斉に青ざめる中……宗一さんは慣れているのか金剛さんには目もくれず、軍人然とした動きで私へと視線を向けます。 「…………」 やはり内心では、心配なのでしょう。鳴神山地へ私を赴かせることには反対だったと、八雲ちゃんからはそう聞いています。無表情ではありますが、瞳の奥に宿る光が僅かに揺らいでいるのが見えました。 「……大丈夫です、宗一さま。八雲ちゃんや、ミコトと約束しましたから。必ず生きて帰るって」 自らを鼓舞しつつ私が作り笑いを浮かべてそう言うと、宗一さんもまた、ぎこちない笑みを浮かべて頷きます。 「……吉報を期待している。必ず、生きて帰って来いよ。お前の帰る場所は……ここ以外にない」 「はい──吉報をご期待下さいませ、宗一さま」 握手をしようと手を差し出すと、何と宗一さんは社交辞令の握手ではなく……遠慮がちではありましたが、私をゆっくりと抱きしめてくれました。 「宗一……さま……」 裏御三家のトップには、冷酷さが求められます。私たち巫女を、国を守るための道具として認識し、殉職してもその死を悲しむどころか、寧ろ道具が壊れた、使える駒が減ったと平気で言えるような精神性が。 その点で言えば、宗一さんはトップの器ではないのかもしれません。私への親愛の情を、捨てきれなかったのですから。今も私を家族として愛しているのですから。 でも……それが、如何にも宗一さんらしくて。本音を言えば、とても嬉しくて。血の繋がりがない私を迎え入れてくれて、本当の家族のように愛してくれた。そんな彼が、死地へと赴く私に、当主としての威厳を保ちつつも一人の身内として想いを伝えてくれているのです。 そう──文字通り、血と脳漿を撒き散らし、痙攣を繰り返す周防の遺体に対し、秋津は静かに哀悼の意を捧げた。遺体の胸と額には銃弾による穴が穿たれ、今も尚じわじわと血が溢れ出しているのが確認出来る。 数秒ほどすると、周防の動きは完全に止まった。 「──特務一佐殿」 秋津の背後──射干玉の闇の中より、若い士官が姿を現したかと思うと、切れのある動きで敬礼する。 秋津はくるりと向き直ると、士官の顔を見つめ、白い歯を見せてニヤッと嗤う。その双眸には一切の光がなく、底なしの沼を想起させた。 「──金城 剛彦の実力を甘く見たようだね、貴官は。お陰で替えのきかない尊い命が、複数喪われた」 「……はっ。申し訳、御座いません……」 士官は、秋津率いる実働部隊の参謀の一人であった。普段は香々星神社の神主として潜入しており、氏子総代の一人に成り済ました古参の参謀と共に、宮司の平坂 守、並びに禰宜の鬼塚 優の動向を監視していた。奏や金城たちが、新人の巫女、或いはアルバイトとして平坂に雇われたことを秋津に報せたのも彼と、秋津の信任厚い古参の参謀である。 如何せん才能はあるが、致命的に実戦経験が足りておらず、それ故に結果として上官たる秋津の命に従わず、秋津が想定した以上の犠牲者を出すという大失態を犯した。 秋津の言う通り、【彼岸】第五小隊の指揮官・金城の実力を過小評価したことによって。幾多もの死線を潜り抜けた古強者たちが、金城の手により殺されたのだ。 これは明確な軍規違反。上官たる秋津の命に背いたという事実は、決して消えることなどない。本来であれば軍法会議での処罰対象である。 「──貴官の失態のお陰で、最小限の被害で裏御三家の手の者たちを無力化する最初で最後の機会を逸した。礼を言おう、面倒な手間を増やしてくれてありがとう、と」 辛くも難を逃れ、生き残った金城たちはまず間違いなく、増援を本家に要請する筈。この次はきっと、大規模な増援が来るぞ。煙草に火を点けながら、秋津は鋭い目付きで士官の顔を睨め付ける。 「……お言葉ですが、特務一佐殿。裏御三家は現在、一枚岩では御座いません。御門本家が不和を齎し、巫女や覡を送り込むのにすら時間が掛かっております。金城たちが増援を要請したとて、必ずや御門の邪魔が入ることでしょう」 「──それを、御堂と御陵が黙って見ているとでも? 御陵本家の若き当
身体を地面へと落とされるような強い衝撃と、鈍い痛みを感じ、【彼岸】第五小隊所属の三曹・周防 誠は意識を取り戻した。 「ここ、は……?」 自分は確か、鳴神山で落とし穴に嵌り、そして── ズキズキと鈍痛を発し続ける頭を軽く振りながら、周防は周囲に視線を配る。 どうやら今いる場所は、星降山の中腹に建立された、天津甕星を祀る神域・香々星之宮のようだ。先日、天津甕星との接触を試みるために護衛対象たる御陵 奏と共に訪れたので、建物の配置などに見覚えがある。 自分の直ぐ傍には、OLと思しきスーツ姿の若い女性や、その同僚と思われるスーツ姿の男性、そして見るからに胡散臭そうな格好の若い男女など複数名が手足を拘束された状態で横たえられており、それを囲むように小銃などで武装した黒ずくめの集団が、無表情のまま佇んでいた。 黒で統一された武装に隊員服。 特務機関【敷島】……間違いない、彼らだ。 もしや自分も、と確認してみると、傍らに横たえられた若者たちと同様手足を拘束されており、精々身を捩るか顔を動かすことしか出来ない状態であった。 よく見ると足を貫いていた杭は抜かれ、代わりに応急処置が施されている。どのみち、現状では身動きはまともに取れないので、大して意味はないのだが。 「──おや、お目覚めのようだね? 【彼岸】第五小隊所属の三曹・周防 誠君?」 ふと、穏やかな声が聞こえたかと思うと、仰向けの状態の周防の顔を、一人の若い男が覗き込んできた。 歳の頃は周防よりも上で、小隊長の金城よりは下だろうか。目付きこそ異様に鋭かったが、それを差し引けばかなりの美男子である。 何故、自分の名と所属を知っている……とは、不思議と疑問には思わなかった。【敷島】が、背乗りして香々星神社の関係者たちの中に紛れ込んでいると、事前に金城から知らされていたからだろうか。 「君には幾つか、訊きたいことがあってね──あぁ、勘違いしないでくれ給えよ。鳴神山地へ潜入している仲間の数を言えだとか、仲間の詳細な情報を吐けなどと言うつもりは微塵もない」 周防は微動だにせず、相手の顔を睨みつける。こいつは何を言っているのだろう、と。 そんな周防の胸中を読み取ったかの如く、相手は詩でも諳んじるかのように言葉を続ける。 「何を言っているのかよく分からない、そう言いたげだね
金剛さんたちが社務所へと戻ってきたのは、私が入浴と着替えを済ませて廊下へと出て、談話室で休憩中の和さんにちょうど声を掛けようとしたタイミングでした。 「──奏さま。只今、鳴神山より戻りました」 眉一つ動かさず、淡々と帰還を告げた金剛さん、それから鈴木さん……ですが二人とも心做しか表情が暗く、全身から噎せ返る様な血の匂いと硝煙の香りを漂わせています。 鳴神山で彼らが戦闘に巻き込まれたのは、素人の私から見ても一目瞭然でした。特に金剛さんは大量の返り血を浴びており、疲労の色が濃いように見受けられます。 「……やはり、特務機関【敷島】ですか」 私が尋ねると、金剛さんは小さく頷きながら、 「えぇ……何とか追撃を振り切って、此処まで戻ってくることが出来ました。紙一重、でしたがね……」 そこで──ふと、私は違和感を覚えました。 周防さんの姿が、何処にも見当たらないのです。 彼は金剛さんたちと共に、鳴神山へと赴きました。金剛さんたちが何とか無事に戻ったのであれば、彼もこの場に居なければ可笑しい筈。 それとなく目線で訊いてみるも、金剛さんたちは嫌そうな顔をして目を逸らします。まるで、彼のことを話題に挙げて欲しくないと言わんばかりに。 「────」 途轍もなく、嫌な予感がしました。風呂から出て間もないというのに身体が震え、冷や汗が背筋を伝います。 私の予想が正しければ、恐らく周防さんは── ──その時、私の思考を遮るように談話室の扉が開き、和さんがそこから顔を出しました。 「……和、か」 「し、小隊長殿……?」 夥しい程の返り血に塗れた金剛さんと鈴木さんを見て、和さんは表情を強ばらせます。 「そ、その血……何処かお怪我を……?」 「……いや、大したことはない。私に構うな」 少し煩わしそうに和さんの手を振り払うと、金剛さんは大きな溜息混じりに談話室へと入り、適当な椅子へとやや乱暴に腰掛けました。 「…………」 「小隊長殿……? 一体、鳴神山で何が……」 そこまで言いかけた和さんでしたが、直ぐに周防さんが見当たらないことに気が付いたようでした。 「……周防君は? 周防君は何処にいるんですか?」 声や身を小さく震わせながら、和さんは金剛さんと鈴木さんの顔を交互に見やりつつ問いを発します。何となく事情を察することが
私と和さんが、星降山から下山してから程なくして、鳴神山へと赴いていた金剛さんから、"現在帰投中"との連絡がありました。 戻るまで凡そ一時間程掛かるとのことでしたので、金剛さんたちが帰ってくるまでの空き時間に入浴を済ませてしまおうと思った私は、休憩中の和さんに声を掛けてから浴室へと向かいました。 後ろ髪を結わえていた和紙を取り、何時ものように緋袴を壁際のハンガーにかけて、白の小袖はクリーニングに出してもらう為に畳んでおき、襦袢は洗濯ネットに入れ、和装下着と共に洗濯籠へ……替えの巫女装束とバスタオルを用意して脱衣所の棚へと置くと、私は浴室へと足を踏み入れました。 蛇口を捻り、シャワーヘッドから噴き出した冷水が徐々にお湯へと変わってゆくのを指先で確認すると、私は頭から身体、髪の毛一本一本や手の指先や爪先に至るまで、お湯とシャンプー、それからボディーソープでくまなく身を清めます。 髪や身体を清め終えたら、洗面器にお湯を張り、そこに中性洗剤を入れて、今日一日中履いていた白足袋を浸けます。足袋を長持ちさせるには、二、三分ほどこうして浸した後に自分の手で揉み洗いすると良いと、清さんや御陵本家が管理するお社に務める巫女さんが言っていました。ですので私も、何時も入浴時にその日履いていた足袋を自分で洗うことにしていました。 そうして足袋も洗い終え、もう一度シャワーで髪や身体を軽く清めた私は、背中まで伸ばした後ろ髪が湯に浸らないようヘアゴムで一つに纏め、浴槽にゆっくりと身を浸しながら、浴室の天井を見つめて、ほっと一つ溜め息を吐きました。 脳裏を次々と、無数の言葉が駆け抜けてゆきます。巫女長さんや禰宜の鬼塚さん、依頼人にして宮司の平坂さん等と交わした何気ない日常会話から、鈴木さんと金剛さんから告げられた、特務機関【敷島】が神社関係者を背乗りしているという情報。 それから──天津甕星が、私との意思の疎通を試みる中で紡いだ、呪詛にも似た言葉の数々。 ──"我が成すべきは、只一つ。憂世を絶ち、天地を絶つ"。 ──"この世は辛く、残酷。人という種が存在する故。故に遍く生命を祓い浄め、人という獣が創りし全てをなかったことにする。それこそが我が悲願、我が誓い。この願いは、誓いは……何者にも邪魔立てさせぬ"。 ──"あぁ……憎い。憎くて憎くて、仕方がない"。
少女の先導の下、香々星之宮へと立ち入ると、大きな正五芒星がぼうっと、紫色の光を放ちながら宙に……ちょうど私の目線と同じくらいの高さに浮かび上がりました。 その中央より、腰から下のない黒い人影のようなものが音もなく姿を現し、此方へとゆっくりと顔を向けてきます。 「…………!」 「──迂闊に銃を向けては駄目です、和さん……! 此方に敵意があると、相手に認識されかねません……!」 即座に小銃の銃口を相手に向けて臨戦態勢に入る和さんを素早く制しつつ、私もまたソレへと顔を向け、胸に手を当てながら丁寧に一礼しました。 「────」 人影がそのまま実体を得たかのような姿のその相手は、尚も警戒を解かない和さんには目もくれず、ただじっと私のことを観察してきます。 ソレは全体的に華奢な体躯で、腰まで伸びた長い黒髪、慎ましやかな胸の膨らみ、そしてくっきりとした腰のくびれなどが確認出来ます。下半身は正五芒星に呑まれており、残念ながら目視で確認することは出来ません。 或いは、元から下半身などない可能性も……ですが、眼前に現れたソレは、華奢なその体躯から私と同年代くらいの少女ではないかと思われました。 断定を避けたのには、理由があります。ソレの顔には、鼻らしき微かな突起はあっても鼻の穴は見当たらず、口に至ってはそもそも存在すらしていなかったため、外見的な年齢を推測するのが困難だったからです。 虚ろな切れ長の目……白目の部分が一切存在しない真っ黒な双眸のみが、ソレの顔に明確に存在している唯一のパーツでした。 刹那── 影法師の額と胸の中央に、正五芒星が音もなく浮かび上がります。 ソレは天津甕星の分身体──上空にて渦を巻く暗雲の中に潜む影とは別に、私と意思疎通をするために生み出された、云わばもう一つの影とでも言うべき存在でした。 初日の夜──金剛さんと香々星之宮を訪れた際、天津甕星は眷属となった少女たちを通して私という存在を認めたこと、香々星之宮まで導いたことを告げた後、暗雲の中に潜む影を用いて、言葉で直接私に立ち入りを赦す旨を伝えてきました。 ですが、神との安直な意思疎通は障りを齎し、対象の心身を蝕みます。私があの時、側頭部を鈍器で勢い良く殴られたような激しい頭痛に見舞われ、目や
しかしながら、私たちのやるべきことは変わりません。悲観してばかりいたら、それこそ生きて帰ることなど出来ないでしょう。 私は星を司る神・天津甕星と接触を試みるため、和さんを連れて星降山へ……金剛さんたちは車で鳴神山の旧軍施設へと、日没後それぞれ出発しました。 旧軍施設が幾つも残されている鳴神山……神隠しが頻発しているそこで、特務機関【敷島】は何かしているに違いない。それこそが神隠しの正体であり、"高天原計画"の儀式であると私と金剛さんは考えていました。 そのため、金剛さんは私に対し、周防さんや鈴木さんと共に、星降山の調査と鳴神香々星奇譚の読み込みで多忙な私の代わりに、鳴神山の旧軍施設とその周辺を探ってこようと思うが如何、と提案してきたのでした。 甚だ危険な役目ではありますが、どうやら金剛さん的には、私には天津甕星との接触、それから彼の神格の正体を突き止めることに注力して欲しいようで、私は決して無理をしないと約束させた上で、彼の行動を容認する他ありませんでした。 星降山への入口までの道中、和さんは【敷島】の手の者に尾行されていないか、何度も何度も入念に後ろを警戒していました。少しでも足音のような物音が聞こえると、手にした小銃を躊躇なく、背後の暗闇へと向け、誰何する……それを繰り返しました。 護衛任務はこれで二度目だという和さん……まだまだ動きがぎこちなく、金剛さんが纏っているような、余裕綽々、泰然自若といった雰囲気は、残念ながら未だ持ち合わせていないようでした。 物音や周囲の暗闇に対して過度に警戒するその様は、見ていて少し不安になります。こんな時、金剛さんなら……と変に比較してしまうのは、私が彼に安心感を覚えてしまったが故なのでしょう。 和さんと共に、徒歩で香々星神社を出発してから凡そ二十分が経過した頃──天津甕星を祀る神域・香々星之宮へと通ずる、星降山の入り口が私たちの前にその姿を現しました。 薄暗い木々が周囲を覆い尽くし、鬱蒼とした山林を形成している中にポツンと、まるでそこだけ空間が丸ごと抉り取られたかのように入り口は開かれており、巨大な鳥居が存在をこれでもかと誇示する様は、見る者を容赦なく萎縮させます。 「うわ……何というか……雰囲気あるわね、ここ……」 和さんがごくりと、息を呑む音が耳に届きます。彼女はただただ、雰囲気に