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幕間 第13話 過日の栄光を求める者

ผู้เขียน: 輪廻
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-22 17:18:52

時は少々遡る──

日本国内某所──荘厳なる和洋折衷の大豪邸、そのある一室。士官服を纏った若い男が、机の上に並べられた写真をじっと見つめながら煙草を吹かしていた。

男の傍らには、黒いビジネススーツをぴったりと着こなした若い女性秘書が分厚い書物を携えて佇んでおり、強ばった表情で男の顔色をちらちらと窺っている。

よく見るとベージュ色のストッキングに包まれた細い脚は、まるで生まれたての仔鹿が如く震えている。部屋の中が寒い訳ではない。部屋の中は弱冷房……ほんの少しだけ涼しいと思える、程よい塩梅となっていた。

では何故、震えが止まらないのか。彼女はその答えを既に持っていた。自らの仕える主君が……彼があまりにも恐ろしい存在だから、恐怖で震えが止まらないのだと。

そう──彼女が仕える主君は、青年将校の姿をした何者か。人であって人でない、そんな歪な存在だった。

「────」

怯える秘書には目もくれず、男は優雅に煙草を嗜みながら、写真の一枚一枚に目を通してゆく。

ふと、···の視線を感じ、女性秘書は一際大きく身を震わせた。この部屋には今、自分と主君の二人しか存在していない。主君は写真に目を向けており、自分には一瞥すらしていない。

では、この視線の主は誰だと言うのか。女性秘書は恐る恐る、視線を感じる場所へと目を動かした。

そこにあったのは、一枚の姿見だった。しかしながら、何かが可笑しい。

違和感の正体に気づいた時……女性秘書は戦慄した。

部屋の片隅に置かれたその姿見……男は全くと言って良い程そちらへは顔を向けていないのだが、何と姿見の中に映し出された彼はしっかりと、姿見の方へと顔を向けていたのである。

感情の籠っていない虚ろな目──それが、自分を入念に観察していると気付き、まだ二十代半ばの若々しさに溢れる可愛らしい容姿を持つその女性秘書は、思わず悲鳴を上げそうになるのを懸命に堪える。瞬きをしてもう一度姿見を確認してみると、彼は姿見には顔を向けておらず、粛々と写真の一枚一枚に目を通していた。

──今見たものは気の所為だ、タチの悪い幻覚だ。

心の中で何度も自分自身にそう言い聞かせ、何時でも主君からの要望に応えられるよう気を落ち着かせながら、彼女は姿見から目を逸らし、主君の動きを注視した。

写真に写っているのは全て、現内閣を構成する閣僚たち。内閣総理大臣の因幡を始めとして、諸外国には平気で金をばら撒き、国民を貧困へと追いやり、政策を施行しない言い訳だけは一丁前な、今だけ金だけ自分だけを地でゆく人間のクズたちだった。

「────」

煙草の煙をふうっと大きく吐き出すと、男は醜く肥えた因幡の顔写真に煙草の先端を擦り付け、そのまま強引に火を消した。

「……国を愛せぬ愚か者ども。自称··の、どうしようもない売国奴たち。それを選んだのは誰か。政治に関心を示さぬ若人……そして、自己保身に走る老人だ。上に立つ者たちの腐敗は、品性下劣なメディアでも取り上げられる。だが下々に生きる衆愚の腐敗は……誰もが見て見ぬふりをして、誤魔化している」

鷹のように鋭い目で焼け焦げた因幡の顔写真を睨め付け、音も立てず静かにそれを手に取ると、男は不快そうに眉をひそめた。自称リベラルの極左勢力に、自称保守本流の売国奴。男にとって現代日本国は、何もかもが腐敗し切った事実上の亡国に等しかった。

「……故に、我らが裁かねばならぬ。日本国の真なる防人である我らが。腐敗したこの日本国を……そして恥という概念を喪失した、無知蒙昧なる衆愚を、な……」

「──失礼します、神代《かじろ》さま」

黒服に身を包んだ中年の男が部屋へと入ってくると、神代と呼ばれた青年将校は写真を再び机に置き、来訪者へとゆっくりと視線を動かした。

──青年将校の名は、神代 大和《やまと》。元・大日本帝国海軍所属の軍人。巨万の富を持つ大富豪。長きに渡って日本の保守政治家たちを牛耳ってきた政界の重鎮にして、"日ノ本の裏御三家"と敵対関係にある特務機関【敷島】の創設者。

その真なる姿を知る者からは、"御上《おかみ》"と呼ばれて畏怖されており、戦時中は"高天原計画"にも大きく関わっていた。

現代日本を末期癌の患者と認識しており、とある目的のために"高天原計画"を再び推し進めている、裏御三家にとっては正しく不倶戴天の敵。人を超越せし怪物だった。

「……近況を報告せよ」

神代が尋ねると、【敷島】所属の諜報員であるその来訪者は、悔しそうな面持ちでわなわなと身を震わせ、首を大きく横に振った。裏御三家と【敷島】──両勢力は互いに間者を放ち、互いの動向を探り合っていた。

「九州・熊本、及び鹿児島に展開していた友軍は、"夢見鳥"が一柱・御堂 八雲の襲来によって全滅。彼の地に眠る·······を顕現させる目論見は……失敗に終わりました。他の場所に展開している友軍も、裏御三家の巫女とその護衛たる【彼岸】に手を焼いているのが現状です。正直なところ、状況は芳しくありません」

「…………」

無感動な面持ちで、神代は黙々と諜報員からの報告に耳を傾ける。必要な犠牲と割り切っているのか、それとも夢見鳥が相手なら仕方ないと諦めているのか。その真意は誰にも分からなかった。

「……たかだか巫の一族如きに、誇り高き我ら日ノ本の防人が後れを取るとは──この恥辱、注ぎ難し……真に無念です、神代さま……」

「……因幡 経家と同じようなことを言うのだね、貴官は」

怒りと悔恨を滲ませる諜報員とは対照的に、神代は何処か醒めた様子だった。そればかりか諜報員に対し、嘲りからか冷笑すら浮かべる始末である。

「我が同胞《はらから》よ。努々、忘れる事勿れ。彼らは誇り高き日ノ本の防人だ──我らと同じく、愛する祖国を護ることに命を賭している。巫如きと相手を侮るのは、決して褒められた行為ではないな」

神代は因幡に愛想を尽かしていた。元々、馬鹿だとは思っていたがまさか、ここまで馬鹿だとは思わなかった。今だけ金だけ自分だけ……その癖プライドは異様に高く、権力欲は強い。自分をこの世で最も優れた生命体だと信じて疑わず、評価されないのは周囲の目が節穴だからだと思っている。何も考えてなさそうな、打ち上げられた河豚のような顔も相まって、とても同じ人とは思われなかった。

彼が保守本流を称しているのは、遍く保守層と、保守の思想を今日まで伝えてきた先人たちに対する冒涜である。因幡の愚行の数々を目の当たりにした神代は、そのように結論づけて彼に見切りをつけ、そしてそんな彼が総理になってしまう現代日本に見切りをつけた。

その点、敵対勢力の"日ノ本の裏御三家"には一定の敬意の念を抱いていた。因幡に泣きつかれたため渋々、裏御三家による·······の調査任務を妨害するべく人員を追加投入したが、内心では因幡の目論見が音を立てて崩れて欲しいとさえ願った程である。

「報告ご苦労──下がって宜しい」

「はっ……畏まりました」

諜報員が退室し、扉が閉まるのを確認すると、神代は顎に右手を軽く当てて思案し始める。

「────」

諜報員の言う通り、正直なところ状況は芳しくない。因幡が閣僚たちに"たかが巫の一族如きに、この因幡 経家が舐められてたまるか"と粋がったことは既に裏御三家の耳にも入っているようであるし、熊本・鹿児島に展開していた友軍を壊滅させた御堂 八雲の口から、【敷島】が各地に人員を追加投入している事実も齎《もたら》されたことだろう。

嘗て熊襲《クマソ》と呼ばれていた九州・熊本、及び鹿児島。大和朝廷との因縁浅からぬ彼の地に眠る·······が強大であることは容易に想像が付くし、実際"高天原計画"に於いても重要視はされていた。

彼の地に於ける"高天原計画"の進捗がリセットされ、振り出しに戻ったのは明確なる痛手だ。

しかし、それでも……神代は慌てていなかった。寧ろこの状況を楽しんでいる節すらあった。

何故なら──··は未だ健在だからだ。熊襲も確かに重要ではあったが、··──鳴神山地に封じられている彼の大いなる存在には遠く及ばない。

「熊襲では敗れた……が、鳴神山地ではどうかな?」

裏御三家にとって、鳴神山地は忌まわしい土地。経験も実力もある巫女が過去に何名も殉職しており、遺髪は疎か遺品すら回収出来ていない。

「如月《きさらぎ》君……鳴神山地の此岸町にて、"高天原計画"の重要プロジェクトを推し進めている責任者は誰か」

主君たる神代から如月君と呼ばれた女性秘書は、慌てた様子で手にする名簿を開く。若くして【敷島】創設者の秘書になっただけあり、来客の接待や事務処理を始めとする書類仕事に関しては非常に優秀だった。銃火器の訓練も受けており、護衛は兎も角自衛は出来る。超常現象に対して異常に弱いのが玉に瑕だが。

「神代さま──鳴神山地に於けるプロジェクトの最高責任者は、此方の方になります」

如月から名簿を受け取り、開かれた頁に載っている個人情報を見るや否や、神代は凛々しいその顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

我々の勝利だ──まるで、そう言いたげに。

「ご苦労、如月君。早速、·に連絡するとしよう」

裏御三家は間違いなく、·······の調査のために巫女或いは覡を鳴神山地へと寄越す。熊襲で勝利した勢いそのままに。夢見鳥か、或いはそれに準ずる実力の持ち主を送り込んでくることだろう。

しかしながら、地の利は【敷島】側にある。そして、鳴神山地に於けるプロジェクトの責任者は、···の異名を欲しいままにする、【敷島】が誇る最強の戦士。

彼の者は、神代にとって長らく苦楽を共にしてきた··であり、共に"高天原計画"による思わぬ副産物によって後天的に現人神《うつしおみ》と化した唯一無二の··である。必ずや期待に応え、【敷島】に勝利を──そして、腐敗した日本国に再び栄華を齎してくれることだろう。

「────」

スマートフォンを起動し、戦友に電話を掛ける神代。

コール音を響かせるスマートフォンの画面には、彼の者の名が……神をも殺す実力を有する、特務機関【敷島】の誇る最高戦力の名が表示されていた。

そう──"秋津 日向"と。

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