หน้าหลัก / ホラー / 万有禊ぐ天津甕星 / 第一章 第11話 あの子との約束

แชร์

第一章 第11話 あの子との約束

ผู้เขียน: 輪廻
last update วันที่เผยแพร่: 2026-01-17 20:38:50

手荷物以外の荷造りを全て済ませて、此岸町にある平坂さんの神社宛に郵送をつつがなく終えると、私はほっと一つ溜め息を零しました。出発まで残り二十四時間を切り、時計の針や心臓の鼓動音が、心做しか大きく聞こえるような気がします。

「…………」

部屋の真ん中で横になり、何か忘れ物はないか、何か忘れていることはないか、考えを巡らせます。物資は過不足なく用意できたし、八雲ちゃんから内外に蠢く思惑や脅威についても教えてもらった。【敷島】との遭遇戦にも、ある程度は対応出来る筈です。

調査に赴く際の心構えについては、今日に至るまでの間、宗一さんや清さん、それから教官の清治さんから口酸っぱく言われてきましたし、調査のやり方も教育課程で清治さんの受けた調査任務に帯同し、相応に場数をこなしてきましたので、全く分からない訳ではありません。

他に何か、忘れていることと言えば──

「……あっ。あっ!?」

そこで一つ、肝心なことを忘れていることを思い出し、私はガバッと床から身を起こしました。ミコトです。あの子に、調査任務のため暫く御陵本家を留守にすることを伝え忘れています。

──··の機嫌を損ねるな。

ミコトを怒らせることだけは、絶対にあってはなりません。私は慌てて、ミコトに会いに行くことにしました。

道中、一族の巫女たちが当番制で管理している神社に立ち寄り、そこに保管してあった"口噛み酒"と呼ばれる特別な酒の入った小さな瓶を手土産に、ミコトの待つ··へと向かいました。

石で出来た階段を二、三段飛ばして駆け足で登る度、その両脇に建てられた無数の灯篭にボウッと青い炎が次々に灯ってゆきます。何とも幻想的な光景ですが、それはミコトが、私の急な来訪を認知した合図でした。

果たして、ミコトは··の中央──彼女を祀る社の前で、私を待っていました。その顔に笑みはなく、何時になく真剣な面持ちでした。

「──ごめん、ミコト……! どうしても、言っておかなければいけないことがあって……はぁ……はぁ……!」

息を切らしながらも、来訪の目的を告げる私を見て、ミコトは傀儡人形のような不気味な動きで、無表情のまま小首を傾げました。

「取り敢えず、これ……手ぶらじゃ……悪いと、思って……」

そう言って"口噛み酒"の詰まった小瓶を渡すと、ミコトは瓶の蓋を指先で器用に開け、私を見つめたままの状態を維持しつつ、中身をゆっくりと口に含みました。

"口噛み酒"とは神事で巫女が醸造する特別なお酒です。巫女が米、或いは穀物を口で噛み、唾液の中に含まれる酵素で以てデンプンを糖へと変えて発酵させ、自然酵母でアルコールを生成。そうして作られたお酒が、"口噛み酒"と呼ばれます。嫁入り前の若い女性が醸造に関わることから、"美人酒"と呼ばれることもあるそうです。

唾液で酒を醸造するなんて不衛生だ、あまりにも汚いと今を生きる人ならそう思われるかもしれませんが、昔は世界各地でこのような醸造方法が取られており、神社などでは神事で今も行われております。

ミコトは口に含んで味を楽しんでいるのか、時折小さく頷いていました。一先ず、持参した手土産は気に入って貰えたようです。流石は彼女のためだけに、清さんの唾液で醸造したお手製なだけはあります。

ミコトは水を司り、遍く罪穢れを祓い浄めるというその性質上、穢れたものが嫌いです。故に"口噛み酒"にもかなり五月蝿く、清さんが神事で醸造したものでないと口にしません。他の巫女さんによって醸造された"口噛み酒"だと、匂いを嗅いだだけで明確に拒否反応を示すのです。

故に、ミコトへの手土産用として、清さんがミコトのために神事で醸造した特別な"口噛み酒"が一定量、神社には保管されていました。

「────」

飲む手を止めて瓶から口を離し、ミコトは私に無言で問います。突然訪ねてきたのは、何か理由があってのことだろう。その理由は一体何か……と。

言葉を一切発することなく、目だけで雄弁に物事を語る彼女の姿は·としての威厳に満ち溢れています。

「……実はね、一族に奉仕する巫女として、·······に関する調査任務に赴くことになったの。それをミコトに、伝え忘れていて……それで、慌てて飛んできたの。友だちに、何も伝えずに行くのは違うかなって。そう思ったから」

──場所は?

ミコトはすっと目を細めながら、目線だけで重ねて問うてきました。長らく交流を深めてきた仲です。目線だけでのやり取りでも大体、相手の考えていることを察することが出来ます。

多分、ミコトは怒るだろうなと思いつつ……私は正直に答えました。嘘を吐けば、余計怒るでしょうから。

「……鳴神山地の、此岸町。"高天原計画"の中でも、特に大規模なプロジェクトが推し進められたっていう、曰く付きの土地だよ」

「…………」

刹那──

鬼灯を思わせるミコトの真っ赤な瞳の奥底に、仄暗い光が宿るのが見えました。氷を思わせる、冷たい光。間違いなく彼女は、怒っていました。

「生きて帰って来られるかは、正直分からない。一族は過去に何度も、実力のある巫女さんたちを送り込んで、結果その巫女さんたちは全員、何らかの理由で命を散らし殉職した。遺髪も、遺品も……彼女たちに纏わるものを何一つ回収出来なかったっていう、呪われた場所だから」

そこにまだ、新米巫女である私自身が適任者として送り込まれる。御門本家を牛耳る当主代理の目論見により。

ただでさえ、死地が過ぎると言うのに、歴代最低最悪の内閣総理大臣・因幡が宗一さんに泣かされた腹いせに"御上"へと泣きついて、"御上"は各地に【敷島】の人員を追加投入しています。

生きて帰ってこられたら奇跡──そう言っても過言ではない状況に、私は追いやられていました。それでも、適任者として赤紙で召集された以上、使命を果たさなければなりません。それが、一族に奉仕する巫女の役目です。

「……だから、怒らないで。私が戻ってくるまで、どうか清さんたちを困らせないで」

ミコトは全身から冷気を発し、静かながらも怒りを露わにしていました。私に向けられた怒りではありません。神である彼女には、私が死地へと赴くに至った過程など、全てお見通しなのですから。

──愚の骨頂なり。何と愚かな。御門の者でありながら要らぬ野心を抱き、俗世の考えに染まるとは。

言葉にこそ出しませんでしたが、ミコトのそのような想いがひしひしと伝わってきました。八雲ちゃんから仔細を教えてもらった時の私も多分、目の前の彼女と似たような表情をしていたのだろうと、容易に想像が付きます。

しかし、今更白紙撤回など出来る筈もありません。ミコトもそれを理解しているからこそ、余計に怒れたのだと思われます。私を鳴神山地という伏魔殿、魔境、死地に放り込むのは最早、決定事項なのですから。決まった以上は、結末という名の終着駅まで敷かれた一本のレールの上を、ただ黙々と過程という名の列車に乗って進むのみなのです。

先刻まで晴れていた空が瞬く間に曇り、雷鳴が立て続けに轟きました。暗雲が渦巻き、俄に大粒の雨が降り始め、風が金切り声にも似た音で哭き出します。自然的なものではありません。ミコトの怒りに呼応し、御陵本家とその周辺地域の天候が変化したのです。

科学に頼りきった現代社会では、その不可解な事象を説明出来ません。日本列島に突然、何の前触れもなく巨大台風が出現したようにしか、気象レーダーや人工衛星などの文明の利器には映らないことでしょう。

ミコトの怒りが増幅すれば、最寄りの人里にも甚大な被害をもたらしかねません。それだけは何としても、阻止しなければなりませんでした。

「……ミコト。分かるよ……流石に、怒れるよね。私も八雲ちゃんから事の仔細を教えてもらった時、今のミコトと全く同じ反応をしたから」

「────」

「でも、お願い……どうか、その怒りを鎮めて。私は必ず帰ってくるから。たとえ手足がもがれようとも、虫のように這ってでも必ず生きて帰ってくるから。約束するから」

約束、するから──

その言葉を耳にするや否や、ミコトの瞳に理性の光が戻りました。それとほぼ同時、荒れていた天気は瞬く間に回復し、雲の隙間からは陽光が優しく射し込んで、私たちをそっと照らしました。

「……ありがとう、ミコト。分かってくれたんだね」

「…………」

ミコトは何も言わず、とことこと私の元へと歩み寄ってくると、白の小袖の袖口から何かを取り出し、半ば強引に私の手に握らせました。

それは鮮やかな緑色の勾玉でした。翡翠でしょうか。吸い込まれてしまいそうな綺麗さです。ミコトが渡すくらいですから、何らかの力が込められた御守りのような、特別なものなのでしょう。ネックレスとして首から提げられるよう、ご丁寧に紐まで括り付けてありました。

──生きて帰ってきて。私との約束。

声には出さず、唇の動きだけで、ミコトは私に対しそう言います。雨上がりのそよ風が吹く度、お香のような甘い匂いが、彼女の髪や吐息、装束から香ってきます。

「……うん。約束だよ、ミコト。絶対に、鳴神山地から生きて帰ってくる。そして、ミコトに沢山向こうでの思い出話をする。楽しかったことから辛かったことまで」

それを聞くと、ミコトは漸く表情を和らげ、私の額にそっとキスをしてくれました。

──貴方に、加護と祝福を。御陵 奏……遍く神々に愛されし巫女よ。

ミコトと熱く抱擁を交わし、私はより一層身を引き締めました。必ず生きて帰る。必ず使命を全うする。

出発の時は──もう直ぐそこです。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป

บทล่าสุด

  • 万有禊ぐ天津甕星   第四章 第39話 一人目の犠牲者

    金剛さんたちが社務所へと戻ってきたのは、私が入浴と着替えを済ませ、談話室で休憩中の和さんにちょうど声を掛けようとしたタイミングでした。「──奏さま。只今、鳴神山より戻りました」 眉一つ動かさず、淡々と帰還を告げた金剛さん、それから鈴木さん……ですが二人とも心做しか表情が暗く、全身から噎せ返る様な血の匂いと硝煙の香りを漂わせています。 鳴神山で彼らが戦闘に巻き込まれたのは、素人の私から見ても一目瞭然でした。特に金剛さんは大量の返り血を浴びており、疲労の色が濃いように見受けられます。「……やはり、特務機関【敷島】ですか」 私が尋ねると、金剛さんは小さく頷きながら、「えぇ……何とか追撃を振り切って、此処まで戻ってくることが出来ました。紙一重、でしたがね……」 そこで──ふと、私は違和感を覚えました。 周防さんの姿が、何処にも見当たらないのです。 彼は金剛さんたちと共に、鳴神山へと赴きました。金剛さんたちが何とか無事に戻ったのであれば、彼もこの場に居なければ可笑しい筈。 それとなく目線で訊いてみるも、金剛さんたちは嫌そうな顔をして目を逸らします。まるで、彼のことを話題に挙げて欲しくないと言わんばかりに。「────」 途轍もなく、嫌な予感がしました。風呂から出て間もないというのに身体が震え、冷や汗が背筋を伝います。 私の予想が正しければ、恐らく周防さんは── ──その時、私の思考を遮るように談話室の扉が開き、和さんがそこから顔を出しました。「……和、か」「し、小隊長殿……?」 夥しい程の返り血に塗れた金剛さんと鈴木さんを見て、和さんは表情を強ばらせます。「そ、その血……何処かお怪我を……?」「……いや、大したことはない。私に構うな」 少し煩わしそうに和さんの手を振り払うと、金剛さんは大きな溜息混じりに談話室へと入り、適当な椅子へとやや乱暴に腰掛けました。「…………」「小隊長殿……? 一体、何が……」 そこまで言いかけた和さんでしたが、直ぐに周防さんが見当たらないことに気が付いたようでした。「……周防君は? 周防君は何処にいるんですか?」 声や身を小さく震わせながら、和さんは金剛さんと鈴木さんの顔を交互に見やりつつ問いを発します。何となく事情を察することが出来てしまった私は、それを見て何とも居た

  • 万有禊ぐ天津甕星   第四章 第38話 独り、思いを馳せる

    私と和さんが、星降山から下山してから程なくして、鳴神山へと赴いていた金剛さんから、"現在帰投中"との連絡がありました。 戻るまで凡そ一時間程掛かるとのことでしたので、金剛さんたちが帰ってくるまでの空き時間に入浴を済ませてしまおうと思った私は、休憩中の和さんに声を掛けてから浴室へと向かいました。 後ろ髪を結わえていた和紙を取り、何時ものように緋袴を壁際のハンガーにかけて、白の小袖はクリーニングに出してもらう為に畳んでおき、襦袢は洗濯ネットに入れ、和装下着と共に洗濯籠へ……替えの巫女装束とバスタオルを用意して脱衣所の棚へと置くと、私は浴室へと足を踏み入れました。 蛇口を捻り、シャワーヘッドから噴き出した冷水が徐々にお湯へと変わってゆくのを指先で確認すると、私は頭から身体、髪の毛一本一本や手の指先や爪先に至るまで、お湯とシャンプー、それからボディーソープでくまなく身を清めます。 髪や身体を清め終えたら、洗面器にお湯を張り、そこに中性洗剤を入れて、今日一日中履いていた白足袋を浸けます。足袋を長持ちさせるには、二、三分ほどこうして浸した後に自分の手で揉み洗いすると良いと、清さんや御陵本家が管理するお社に務める巫女さんが言っていました。ですので私も、何時も入浴時にその日履いていた足袋を自分で洗うことにしていました。 そうして足袋も洗い終え、もう一度シャワーで髪や身体を軽く清めた私は、背中まで伸ばした後ろ髪が湯に浸らないようヘアゴムで一つに纏め、浴槽にゆっくりと身を浸しながら、浴室の天井を見つめて、ほっと一つ溜め息を吐きました。 脳裏を次々と、無数の言葉が駆け抜けてゆきます。巫女長さんや禰宜の鬼塚さん、依頼人にして宮司の平坂さん等と交わした何気ない日常会話から、鈴木さんと金剛さんから告げられた、特務機関【敷島】が神社関係者を背乗りしているという情報。 それから──天津甕星が、私との意思の疎通を試みる中で紡いだ、呪詛にも似た言葉の数々。 ──"我が成すべきは、只一つ。憂世を絶ち、天地を絶つ"。 ──"この世は辛く、残酷。人という種が存在する故。故に遍く生命を祓い浄め、人という獣が創りし全てをなかったことにする。それこそが我が悲願、我が誓い。この願いは、誓いは……何者にも邪魔立てさせぬ"。 ──"あぁ……憎い。憎くて憎くて、仕方がない"。

  • 万有禊ぐ天津甕星   第四章 第37話 星神との語らいがもたらすもの

    少女の先導の下、香々星之宮へと立ち入ると、大きな正五芒星がぼうっと、紫色の光を放ちながら宙に……ちょうど私の目線と同じくらいの高さに浮かび上がりました。 その中央より、腰から下のない黒い人影のようなものが音もなく姿を現し、此方へとゆっくりと顔を向けてきます。「…………!」「──迂闊に銃を向けては駄目です、和さん……! 此方に敵意があると、相手に認識されかねません……!」 即座に小銃を相手に向けて臨戦態勢に入る和さんを素早く制しつつ、私もまたソレへと顔を向け、胸に手を当てながら丁寧に一礼しました。「────」 人影がそのまま実体を得たかのような姿のその相手は、尚も警戒を解かない和さんには目もくれず、ただじっと私のことを観察してきます。 ソレは全体的に華奢な体躯で、腰まで伸びた長い黒髪、慎ましやかな胸の膨らみ、そしてくっきりとした腰のくびれなどが確認出来ます。下半身は正五芒星に呑まれており、残念ながら目視で確認することは出来ません。 或いは、元から下半身などない可能性も……ですが、眼前に現れたソレは、華奢なその体躯から私と同年代くらいの少女ではないかと思われました。 断定を避けたのには、理由があります。ソレの顔には、鼻らしき微かな突起はあっても鼻の穴は見当たらず、口に至ってはそもそも存在すらしていなかったため、外見的な年齢を推測するのが困難だったためです。 虚ろな切れ長の目……白目の部分が一切存在しない真っ黒な双眸のみが、ソレの顔に明確に存在している唯一のパーツでした。 刹那── 影法師の額と胸の中央に、正五芒星が音もなく浮かび上がります。ソレは天津甕星の分身体──上空にて渦を巻く暗雲の中に潜む影とは別に、私と意思疎通をするために生み出された、云わばもう一つの影とでも言うべき存在でした。 初日の夜──金剛さんと香々星之宮を訪れた際、天津甕星は眷属となった少女たちを通して私という存在を認めたこと、香々星之宮まで導いたことを告げた後、暗雲の中に潜む影を用いて、言葉で直接私に立ち入りを赦す旨を伝えてきました。 ですが、神との安直な意思疎通は障りを齎し、対象の心身を蝕みます。私があの時、側頭部を鈍器で勢い良く殴られたような激しい頭痛に見舞われ、目や鼻から大量に

  • 万有禊ぐ天津甕星   第四章 第36話 星降る山へと向かいて

    しかしながら、私たちのやるべきことは変わりません。悲観してばかりいたら、それこそ生きて帰ることなど出来ないでしょう。 私は星を司る神・天津甕星と接触を試みるため、和さんを連れて星降山へ……金剛さんたちは車で鳴神山の旧軍施設へと、日没後それぞれ出発しました。 旧軍施設が幾つも残されている鳴神山……神隠しが頻発しているそこで、特務機関【敷島】は何かしているに違いない。それこそが神隠しの正体であり、"高天原計画"の儀式であると私と金剛さんは考えていました。 そのため、金剛さんは私に対し、周防さんや鈴木さんと共に、星降山の調査と鳴神香々星奇譚の読み込みで多忙な私の代わりに、鳴神山の旧軍施設とその周辺を探ってこようと思うが如何、と提案してきたのでした。 甚だ危険な役目ではありますが、どうやら金剛さん的には、私には天津甕星との接触、それから彼の神格の正体を突き止めることに注力して欲しいようで、私は決して無理をしないと約束させた上で、彼の行動を容認する他ありませんでした。 星降山への入口までの道中、和さんは【敷島】の手の者に尾行されていないか、何度も何度も入念に後ろを警戒していました。少しでも足音のような物音が聞こえると、手にした小銃を躊躇なく、背後の暗闇へと向け、誰何する……それを繰り返しました。 護衛任務はこれで二度目だという和さん……まだまだ動きがぎこちなく、金剛さんが纏っているような、余裕綽々、泰然自若といった雰囲気は、残念ながら未だ持ち合わせていないようでした。 物音や周囲の暗闇に対して過度に警戒するその様は、見ていて少し不安になります。こんな時、金剛さんなら……と変に比較してしまうのは、私が彼に安心感を覚えてしまったが故なのでしょう。 和さんと共に、徒歩で香々星神社を出発してから凡そ二十分が経過した頃──天津甕星を祀る神域・香々星之宮へと通ずる、星降山の入り口が私たちの前にその姿を現しました。 薄暗い木々が周囲を覆い尽くし、鬱蒼とした山林を形成している中にポツンと、まるでそこだけ空間が丸ごと抉り取られたかのように入り口は開かれており、巨大な鳥居が存在をこれでもかと誇示する様は、見る者を容赦なく萎縮させます。 「うわ……何というか……雰囲気あるわね、ここ……」 和さんがごくりと、息を呑む音が耳に届きます。彼女はただただ、雰囲気に

  • 万有禊ぐ天津甕星   第四章 第35話 迫り来る蜃気楼

    私たちが此岸町に現地入りしてから、早くも四日が経過しようとしています。 私は何時ものように夜明け前に起きてシャワーを浴び、姿見の前で和装下着を身につけて白足袋を履き、素早く襦袢、白の小袖、緋袴の順で素早く巫女装束に着替え、後ろ髪を和紙で一つに結わえた後、居室兼寝室へと向かい、まだ自力で巫女装束に着替えられない和さんの着付けを手伝います。その間に周防さんは国旗掲揚へ、金剛さんと鈴木さんは朝食の用意と昼食の下準備を始めます。 私は日没後に星降山へと赴いては、星神・天津甕星との接触を試みたり、下山後も鳴神香々星奇譚をじっくりと読み込み、気になった箇所に付箋をしては、調査ノートに該当箇所を箇条書きにして纏めるという作業を深夜二時まで行っていましたので、やや寝不足気味ではありますが、行動に何ら支障はありません。 御堂本家当主にして現人神・清治さんの下で八雲ちゃんと一緒に教育プログラムを受けた際、一緒に徹夜して提出レポートを仕上げたことが何度かありますので、脳や身体が慣れてしまったのかもしれません。尤も、徹夜という行為は決して褒められたものではありませんが……。 午前六時半頃に談話室に集合し、金剛さんと鈴木さんが作ってくれた朝食を摂ります。その際に、昨夜社務所内で起こった怪奇現象について和さんや周防さんが話すのは最早定番と化していました。 今朝は珍しく、金剛さんも参戦……とびきり意地悪そうな笑みを湛えつつ、彼は部下三人に対し言いました。 「──良いか、お前ら。怪異の話をしているとな……その怪異が近くまで寄ってくるぞ」 「……え?」 その言葉に和さんは青ざめ、周防さんは言葉を失い、鈴木さんはポカンとしていました。三者三様の驚き方は、見ていてとても面白かったです。 朝食後は各々歯磨きをし、朝拝まで敷地内とその周辺を皆で掃除します。ここまでの行動パターンが、すっかり香々星神社での朝の日常となっていました。 現状、私たちを取り巻く環境に、大きな変化は見られません。子供世代、若者世代が概ね友好的なのに対し、大人世代が冷ややかな反応を示すのも変わりません。 何か一つ、変わったことがあるとするならば── 「──おはよう御座います、巫女さま。今日も変わらず、お美しい」 朝の散歩中と思しき氏子総代の一人である老婦人が、愛想笑い

  • 万有禊ぐ天津甕星   幕間 第34話 月に叢雲、花に風

    同時刻── 御陵 奏が嘗て教育プログラムを受けた、御堂本家。その屋敷内にある当主の執務室を訪れる、一人の見目麗しい巫女の姿があった。 「──失礼します、ご当主さま」 「ほぅ……誰かと思えば、叢雲《むらくも》じゃないか」 執務室の扉を開けて入ってきた巫女に背を向けたまま、御堂本家当主・御堂 清治はふっと笑みを零す。それにつられるかのように、叢雲と呼ばれた巫女の少女も、整った小さな口許に薄らと冷たい笑みを浮かべた。 裏御三家が誇る夢見鳥が一柱・御堂 叢雲。それが少女の名前だった。否……声も見た目も、そして立ち居振る舞いも、完璧に少女のそれであるが、実際は清と同年代の少年──即ち男であった。 線の細さ、そして見た目と声の清らかさを武器とすべく、転生する度に去勢手術を受けており、表向きは清たちと同じく女である。彼が男であることを知る者は、夢見鳥たちと彼の両親を除けば誰一人として存在しない。 夢見鳥としての実力は本物であり、総合的な強さでは、一族の最高傑作と謳われる清に次ぐとの評価を得ている。それ故に、"現人神の懐刀"と呼ばれ、内外から畏怖されていた。 「珍しいな。お前が自分から、私の元を訪れようとは」 「えぇ、まぁ。恐れながら、ご当主さまに具申したきことが御座いまして、ね」 「ほぅ……では、聞かせてもらおうか」 叢雲の方へ、清治はゆっくりと向き直る。翡翠色の瞳の奥底に、仄暗い焔が灯っているのが見えた。 普通の人間なら萎縮してしまうであろう、清治の全身から放たれる圧倒的なプレッシャーを受けても尚、叢雲は平然としている。寧ろ、余裕綽々たる態度であった。 「──ご当主さま。今こそ正しく、機を見るに敏。裏御三家内に不和をもたらす元凶・御門本家……その当主代理をこの世から抹殺するべきかと存じます」 「ふむ……続きを聞こう」 「はっ──特務機関【敷島】との争いは現状、我々裏御三家が優位に立っております。八雲が熊襲で暴れ回り、彼の地に展開していた【敷島】の精鋭を蹴散らしたことが大きいでしょう。我らは今、勢いに乗っております」 しかしながら──"月に叢雲、花に風"と言われるように、良いことにはとかく邪魔が入りやすく、長続きしないものである。熊襲での敗北を受け、【敷島】が反撃の狼煙を上げるのは時間の問題であるし、何より御

บทอื่นๆ
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status