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第7話

Author: 魔王君
邸宅の玄関が激しくノックされ、お手伝いがドアを開けた瞬間、ドアが乱暴に押し開けられた。

「未鈴ちゃんをいじめた奴か!」

未鈴の狂信的なファンたちが押し入り、床に座り込んでいた明世を見つけた。

「あなたたち誰!?」明世とお手伝いが押さえつけられた。本能的な恐怖が明世の背筋を這い上がった。「何をするつもり!」

先頭の男がナイフを取り出し、明世の左頬を二回切りつけた。「これは未鈴ちゃんの分だ!」

男が叫び、更にもう一回切りつけた。

刃傷がこめかみから耳元まで伸びた。「これは、お前が未鈴ちゃんを傷つけて、更に彼女を陥れた罪だ!」

男の狂気に満ちた顔に、明世は声も出ない。

門の外で張り込んでいたパパラッチが室内の惨状を見て、慌てて通報したようだった。

警察と医師が到着した時、明世の顔は鮮血と涙で汚れ、その瞳は硝子玉のように虚ろだった。まるで、涙さえ枯れ果ててしまったかのように。

彼女の手にはスマホが握りしめられ、画面には最新のニュースが表示されていた。

【紺野夫人が嫉妬に狂い、入江未鈴を陥れ、実の子供を利用して同情を引く!夫・涼介氏コメント「まさか息子にまで手をかけるとは」】

動画の中で、未鈴は涼介に寄りかかり、儚げに涙を流している。

涼介は彼女を抱き寄せ、カメラに向かって正義を語っていた。「明世は何度も息子を利用して俺を独占しようとして、未鈴を中傷し、今日は子供の命まで危険に晒した!」

彼は振り返り、未鈴を熱っぽい目で見つめる。「未鈴は、俺の命を救ってくれただけでなく、子供が病気の時も、保護者会も、いつも献身的に付き添ってくれた。彼女こそが……」

コメント欄には呪詛が溢れかえっている。

【クソ女は死ね!】

【どうしてこんな奴が母親になれるんだ!】

【脚の切断も自業自得だ!】

明世は呆然とし、警察官が近づいてきたことにすら気づかなかった。

医師が傷を処置する。「傷が深すぎます。顔に一生消えない傷跡が残るでしょう」

傍らの看護師が小声で毒づく。「こんな悪女、顔がズタズタになって当然よ」

明世はふらつく手でスマホを掲げ、画面越しに左頬を貫く凄惨な傷跡を見た。

彼女は自嘲的に口元を歪めた。そうね、醜い顔だわ。

「紺野さん、犯人を告訴しますか?」警察官が尋ねる。

「私は……」

その時、涼介からの着信が彼女の声を遮った。

「お手伝いから聞いた。あいつらは未鈴の熱心なファンで、まだ若い。好きな人のために少し熱くなりすぎただけだ」涼介は淡々と言葉を続ける。「若気の至りと思って、告訴しないでやってくれ」

自分の夫なのに。未鈴に関わることなら、妻には無条件の犠牲を強い、怪我の具合さえ尋ねてこない。

「もし、和解しなかったら?」

「試してみればいい。お前の両親が遺したトウシューズの残骸、灰になるぞ」

涼介の声には脅しの色が滲んでいた。彼は明世の返事を待たずに電話を切った。

明世はスマホを下ろし、虚ろな目で警察官を見た。

「……告訴しません」

警察官は事情を察し、彼女の深すぎる孤独に同情して、重い溜息をついて去っていった。

皆が去り、広いリビングに残されたのは明世ただ一人。

彼女は長年暮らした家を見回し、深く息を吐いた。

この結婚は自分に何をもたらしたのか?

切断された左脚、切り刻まれた左顔。

どうしてもっと早く、ここから去らなかったのか。彼女は激しく後悔していた。

航空会社のアプリを開き、最も早い北雲市行きのチケットを予約する。そして涼介に短いメッセージを送った。

【海斗のプレゼント、開けていいわよ】

朝四時。彼女は修復した遺影と、焦げたトウシューズだけを持ち、迷うことなく家を出た。

明世が去って三十分後、未鈴と涼介が海斗を連れて帰宅した。

涼介の心臓はまだ激しく脈打っていた。

「間に合ってよかった。一歩間違えば、あのアレルギー反応は命取りになるところだった」

彼はベッドで眠る海斗を見て、再び怒りがこみ上げ、スマホを取り出して明世を怒鳴りつけようとした。

その時、一通のメッセージが目に留まる。

そうだ、プレゼントだ。明世のやつ、一体何を企んでいるのか見てやる。

包装を破り、書類のタイトルを見た瞬間、彼は石のように固まった。

【離婚協議書】

どうして離婚協議書なんだ?おまけに、離婚届……彼女はあれほど自分を愛していたのに。

涼介は首を振り、その不吉な考えを振り払った。

「きっと駆け引きだ!」自分に言い聞かせるように涼介は呟く。「そうさ、ただの脅しだ。俺と海斗から離れられるはずがない」

口ではそう強がっても、心の奥底で不安の種が膨らんでいくのを止められない。

未鈴が海斗を寝かしつけ、涼介を探しに来た。手元の離婚協議書を盗み見て、心の中で高笑いしたが、努めて悲痛な顔を作る。

「明世さんがどうして離婚するなんて……海斗くんがあんな大変なことになったのに、まだ騒ぎ立てるつもりなのね!」

彼女は涼介の背中から抱きついた。「でも、私はずっとそばにいるから、涼介……」

涼介も未鈴を抱きしめ返した。彼は自分に言い聞かせた——本当に愛しているのは未鈴だけだ。明世が去ろうが残ろうが、どうでもいいことだ。

二人はベッドに倒れ込んだ。パーティーのアルコールが回ったのか、室内に熱気が満ちる。

彼らは唇を重ね、貪るように求め合った。

しかし、朦朧とする意識の中、涼介は無意識に呟いた。「明世……」

声は小さく、本人さえも名前を間違えたことに気づかないほどだった。

その時、明世はすでに雲の上にいた。

窓から差し込む朝の光が、包帯の巻かれた顔を優しく照らす。心は、かつてないほど軽かった。

臨海市での記憶の全て、もういらない。

今日から、自分の人生を生きる。

紺野涼介、紺野海斗、さようなら。これからはもう、二度と会うことはないでしょう。
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