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第305話

作者: アキラ
ついに、侯爵家を出た。

その高い門の前に立ち、喬念は白い絹が掛けられた扁額を見上げ、胸の奥から非常に切ない喜びが込み上げてくるのを感じた。

やっと行ける。やっと林家の人々から解放されたのだ。祖母上は、きっととても喜んでくださるだろう。

凝霜は喬念が立ち止まって振り返る様子を見て、喬念が名残惜しいのだと思い、小声で言った。「お嬢様、やはりもう二、三日、お待ちになりますか?」

林夫人の言う通り、あと二日で老夫人の七日目の儀だ。儀式が過ぎてから行くのでもいいはずだ。

だが、喬念はきっぱりとかぶりを振ると、凝霜の手を取り、大股で歩き去った。

侯爵家からほど近い小さな屋敷では、荊家の老夫婦が届けられた山のような宝飾品を前に、どうしてよいか分からず途方に暮れていた。

喬念が来たのを見ると、二人は慌てて前に出て礼をし、それから言った。「お嬢様、これは一体......?」

喬念は淡く微笑んだ。「わたくしはすでに侯爵家と縁を切りました。伯父様、伯母様、今後はもうお嬢様とお呼びにならず、どうぞ念々とお呼びください」

「縁を切った?」荊柔が遠くない場所に立ち、眉をひそめて喬念を見た。「順調だったのに、なぜ縁を切るのです?」

荊柔の口調がきつすぎると感じたのか、荊父は彼女を睨みつけ、それから喬念の方に向き直って尋ねた。「老夫人が亡くなられてまだ日も浅いというのに、どうして急に縁切りなど?もしや、あちらが何か、そなたを虐げたのか?」

そう言う時の荊父には、まるで喬念のために一肌脱ごうとするかのような勢いがあり、遠くにいる荊柔はしきりに白目をむいた。

喬念は心の中で少なからず感動し、淡く笑って言った。「ええ、あちらがわたくしを虐げたゆえ、縁を切りました。しばらく身を寄せるあてがなく、お二方にお世話になりたいとお願いに参りました。どうか、お見捨てなきようお願い申し上げます」

結局のところ、彼女と荊岩はまだ婚儀をあげていない。一つ屋根の下で暮らすとなれば、とかくの噂が立つやもしれぬ、そう案じていたのだ。

ところが、荊母はすぐに彼女の手を取り、慰めるように言った。「ここは元々お嬢様のお屋敷ではござぬか。お世話するなどと、とんでもない」

言いながら、彼女は何かに気づいたかのように、喬念の手に視線を落とし、眉をきつく寄せ、いくらか心を痛めたような口調で言った。「わずか数日の
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