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第358話

Author: アキラ
まさか、章衡と同じ赤い紐を持たされることになろうとは、思いもよらなかった。

嫁ぐ相手は章何で、章衡ではないのだ!

順調に進んでいた儀式がこうして突然中断され、章父と章母はそっと眉をひそめた。

喬念のこの性格は、本当に小さい頃から変わっておらず、相変わらず少しも令嬢らしくない、と感じずにはいられなかった。

介添えの老婆は慌てて赤い絹の紐を拾い上げ、喬念に向かって説明した。「若奥様、お気を悪くなさいますな。若旦那様はご不自由ゆえ、章将軍が代行なさるのでございます。弟が兄に代わり拝礼いたしますことは、古くからの習われにございますれば、ご安心くださいませ」

言外には、喬念を慰め、嫁ぐ相手は章何なのだ、という意味が込められていた。

しかし、喬念は両手を後ろに組み、その赤い絹の紐を拒絶した。「たとえそうであっても、今日は章将軍と林嬢の祝言の日でもあります。このように共に拝礼するのは、やはりいささか見苦しいのではありますまいか?」

喬念がまさか自分を盾にするとは思いもよらず、林鳶は慌てて被り物の下から口を開いた。「姉上、構いませぬ。何殿はご不自由なのですから、皆様がお察し申し上げるべきでございます」

この言葉は実に巧みだった。

一つには自分の度量の大きさを示し、一つには喬念が章何を思いやっていないと暗に示している。

比べれば、喬念こそが理不尽に騒ぎ立てているように見えるではないか?

章衡は喬念のすぐそばに立ち、その両目は恐ろしいほど深く沈んでいた。

先ほど彼女が赤い紐を投げ捨てた様子は、まるで汚らわれい物を投げ捨てるかのようだった。

彼は、彼女がこの事さえもこれほど拒絶するとは思ってもみなかった。

ただ代わりに儀式を行うだけなのに......

それさえも駄目なのか?

章父までもがいくらか怒気を帯びてきた。「これ以上騒ぐでない。吉時が過ぎてしまうぞ」

今日は本来、めでたい二重の喜びの日なのだ。喬念のせいで台無しにするわけにはいかない!

喬念は眉をひそめ、皆からの催促を受け、後ろに組んでいた手をついに下ろした。

今や誰もがこのやり方がしきたりに合っていると考え、彼女一人だけが抗っている。まるで彼女が間違ったことをしているかのようだ!

だが、今日、本当に章衡と一本の赤い絹の紐を持って拝礼しなければならないのだろうか?

介添えの老婆はやはり赤い絹
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中座真由子
あーあ、あと何話読めば土下座が見られるんだろ?
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