第8話

一方、喬念は老夫人を支えながら部屋に戻ると間もなく、老夫人は発作を起こした。

林夫人の言う通り、老夫人の体調は以前よりずっと悪くなっていた。

今日は感情を抑えようとしていたが、やはり興奮しすぎてしまい、横になると荒い息をを繰り返した。

幸い、老夫人にお仕えする蘇老女（ソ ろうじょ）はすでに予測しており、侍医を老夫人の部屋の外で待機させていた。老夫人が横になるとすぐに鍼治療を行い、しばらくすると、ようやく落ち着きを取り戻した。

それほど危険な状態ではなかったが、傍らに立っていた喬念は驚き、慌てふためいた。

喬念の顔に浮かぶ動揺を見て、老夫人は枕元に寄りかかり、彼女に手招きをした。

喬念は鼻を赤くし、取り乱せば老夫人が再び発作を起こすことを恐れ、目に涙を浮かべながら祖母上の寝床へ向かった。

「驚いたか？」老夫人は優しく微笑んだ。

喬念は鼻をすすり、老夫人の手を強く握りしめた。「祖母上には長生きをお約束いただきました」

彼女にはもう祖母上しかいない。

老夫人は喬念を優しく見つめた。「わしも長生きして、ずっと念々を守ってやりたいのだが......」

しかし、彼女が守れる時間は明らかに長くはなかった。

そう思うと、老夫人は突然尋ねた。「念々、良縁を探してこようか？」

まだ体が丈夫なうちに、この侯爵家で発言権があるうちに、念々に良い縁談を見つけてあげれば、それで彼女を守ったことになる。

喬念は祖母上の意図を理解したが、それでも首を横に振り、目を伏せた。「念々は祖母上のお傍に仕えるだけでございます」

この三年間で、彼女は多くのことを悟った。

十五年間も一緒に過ごした肉親でさえ、一夜にして彼女を見捨てることができる。ましてや、見知らぬ男に人生を託すことなどできるはずがない。

彼女は思った。この人生は祖母上に仕え、祖母上が亡くなった後は侯爵邸を出て、尼寺に入ろう。この侯爵家の者たちと関わり続けるよりはましだ。

老夫人は喬念が幼い頃から頑固な性格であることを知っていた。彼女が嫌がることを、誰も説得することはできなかった。そこで、小さくため息をつき、何も言わなかった。

喬念はしばらく老夫人の傍らに付き添い、老夫人が眠りに落ちてから部屋を後にした。

ところが、芳荷苑に戻ってまもなく、凝霜が報告に来た。「お嬢様、鳶様がお見えになりました」

林鳶か？

喬念は眉をひそめ、何か言おうとした時、凝霜が続けた。「鳶様はお一人でいらっしゃいました」

それを聞いて、喬念は笑った。「彼女にそう言えと言われたのか？」

凝霜は無邪気な目で瞬きをし、頷いた後、続けた。「お嬢様がお会いになりたくなければ、すぐに断ってまいります」

見ての通り、侍女でさえ彼女が林鳶に会いたくないことを知っていた。

しかし、林鳶はそれを知らないらしい。

わざわざ凝霜に、あの時、喬念が琉璃の器を割ったと嘘をついた侍女は連れてきていないと伝えさせたのだ。

本当に笑わせる。

確かに、喬念に濡れ衣を着せたのは林鳶の侍女だった。しかし、器を割ったことを認めず、自分の侍女が嘘をついているのを見ても黙って見ているだけで、彼女が罪を被るのを黙認したのは、紛れもなく林鳶本人なのだ！

だから喬念はどうしても理解できなかった。林鳶がどうして会いに来るかと思うのだろうか？

彼女は冷たく言った。「眠ったと伝えよ」

「かしこまりました！」凝霜は返事をして部屋を出て行き、しばらくして戻ってきた。

少し申し訳なさそうな表情で、口を開くのをためらっているようだった。「お嬢様、鳶様は今日、わざわざお詫びにいらしたと申しております。お会いしなければ、ずっと外でお待ちになるとのこと。もうすぐ雪が降りそうでございます」

実際、凝霜はこの鳶様が何故そんなにお嬢様に会いたがっているのか分からなかった。

しかし、鳶様はどうあろうと本物の侯爵令嬢である。もし本当に外で雪に降られたら、侯爵邸でどんな噂が流れるか分からない。

お嬢様のためにならない。

喬念は眉をひそめ、静かにため息をつき、とうとう疲れたように口を開いた。「ならば、通してやれ」

「かしこまりました」凝霜は返事をして出て行き、まもなく、林鳶が入ってきた。

その時、喬念は居間の茶卓の隣に座り、手の甲に凍傷の薬を塗っていた。

林鳶は喬念の青紫に腫れ上がった指を見て、ドキッとした。

すぐに前に出てきて一礼した。「姉上、ご機嫌麗しゅう」

喬念は目を開けることもしないで、「おかけください」と言った。

声は優しかったが、冷たさが感じられた。

林鳶は座らず、前に出てきて言った。「鳶が姉上に薬を塗って差し上げましょう」

そう言うと、彼女は茶卓の上にあった薬を取り、喬念の手の甲に塗ろうとした。

しかし、喬念は手を袖の中に隠した。

そして、ようやく顔を上げて林鳶を見て、かすかに嘲るような笑みを浮かべた。「こんな寒いのに、林お嬢様はお屋敷でゆっくりせずに、わたくしのところに何の用だ？」

喬念の冷たい態度に林鳶は少し傷ついたようで、目に涙を浮かべながら、その場に立ち尽くし、小さな声で言った。「鳶は姉上にお詫びに参りました。あの時のことは全て鳶が悪うございました。もし鳶が琉璃の器を割っていなければ、姉上はあんなに辛い目に遭うことはなかったでしょう！姉上、お怒りでしたら、鳶を打とうと罵ろうと構いませぬ。姉上がお気が済むのであれば、何でもいたします」

林鳶はまるで土下座でもしそうだった。

本当に心から謝罪しているようだった。

しかし、喬念は冷ややかに林鳶を見つめ、彼女が話し終わるのを待ってから尋ねた。「そなたは、あの時、琉璃の器を割ったことだけが過ちだったと思っておるのか？」

その一言に、林鳶は言葉を失った。

喬念はゆっくりと立ち上がり、戸口へ向かって歩き、凍りついた蓮池に数本の枯れ枝が寂しそうに立っているのを見て、深呼吸をした。

冷たい空気が肺腑に染み渡り、彼女の周りの空気はさらに冷たくなった。

「そなたこそが侯爵の嫡女だ。最初の十五年間、そなたの栄華富貴を奪ったのはわたくし。だから、侯爵様も奥方様もそなたを可愛がるべきだし、若様もそなたを守るべきだし、一番気に入っていた落梅院だって、本来はそなたのものだった。林鳶、そなたが戻ってきた時、申し訳ないと思っていた」

「実の両親のところへ戻ろうと思ったこともあった。だが、侯爵様は実の両親はすでに亡くなっており、安心して屋敷に残るようにと仰った。そのことに、わたくしは感謝し、そなたと仲良くしようと心に誓った。たとえ心に葛藤はあったが......」

そこまで言うと、喬念は振り返り、林鳶を見た。「わたくしは、そなたに危害を加えたことが一度でもあるか？胸に手を当ててお考えください」

林鳶の目は真っ赤に充血し、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

一瞬、喬念は無力感に襲われた。

もし、他の者にこの様子を見られたら、また林鳶を苛めたと言われるだろう。

あの時、林鳶がこんな様子だったからこそ、林華は喬念を階段から突き落としたのだ。

しかし、実際には、喬念は何もしていなかった。

心が冷え、喬念は涙を浮かべる林鳶を冷ややかに見て、ますます厳しい声で言った。「なのに、何故わたくしを陥れたのじゃ！」