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第6話

Author: 鳳小安
犬の飼育場?

まさか……彼は夏澄を犬の飼育場に送ったのか?

夏澄が一番怖がっているものは、犬なのに……!

泉美は歯を食いしばりながら地面から立ち上がると、振り返ることなく病院を飛び出していった。

京祐があまりにも簡単に夏澄を許したことに、由梨は少し不満そうな表情を浮かべた。

「京祐……やっぱりあなたの心の中で一番大切なのは、奥様なんでしょう?

もし彼女がいなかったら、彼女の友達だって私にあんなことをする勇気なんてなかったはずなのに……」

「分かっている」

京祐はそう言いながら、彼女の長い髪を優しく撫でた。

「君のために、必ず公平な答えを出す。

泉美が犬の飼育場に着いたところで、人を助け出すのはそう簡単じゃない」

その言葉を聞いた瞬間、由梨はすべてを理解した。

京祐もまた、泉美を罰するつもりなのだ。

彼女はわざと心配そうな声を出した。

「でも……あなたが奥様にそんなことをしたら、彼女はきっと傷つくんじゃない?」

京祐は気のない様子で答えた。

「なら、誰かを送って彼女を止めさせるか?」

由梨は拗ねたように、彼の胸を軽く叩いた。

「もう……意地悪なんだから!」

京祐は彼女を抱き寄せて笑った。

けれど、その笑みは決して目には届いていなかった。

本当は、泉美を罰したいわけではない。

ただ、これ以上由梨が傷つくことを望んでいなかった。

もし泉美が本当に怪我をしたとしても、後からきちんと償えばいいと思っていた。

ただ何事にも、越えてはいけない一線があるのだと彼女に分からせたかっただけだ。

――

犬の飼育場。

泉美が駆けつけた時、夏澄は檻の中で身体を丸め、今にも息絶えそうな状態だった。

檻の外には、体格の大きな犬が三匹。

彼女をじっと睨みつけていた。

犬たちは長い間何も食べていないのか、鋭い牙からよだれを垂らしながら、苛立ったように檻の周りをぐるぐると歩き回っている。

檻の中の夏澄は、すでに限界を迎えていた。

二日間、何も口にしていない。

水すら飲んでいない。

それでもずっと神経を張り詰めて耐えてきたが、もうこれ以上は持たなかった。

「夏澄!」

泉美は泣きながら近づいた。

しかし、一歩踏み出した瞬間、狂暴そうな犬たちは一斉に彼女を睨みつけた。

まるで次の瞬間にも飛びかかってきそうなほどだ。

このまま突っ込めば、自分も夏澄も助からないと泉美は分かっていた。

「夏澄、頑張って……!

私が近くで肉を買ってくるから、それであいつらを引き離す!

お願いだから、絶対に耐えて……!」

夏澄は残された力を振り絞り、彼女へ手を伸ばした。

「行かないで……泉美……

私……もう死んじゃう……」

「死なない!夏澄、あなたは死なない! 私が絶対に死なせない!」

目の前の夏澄の姿を見て、泉美の胸は引き裂かれそうだった。

彼女は涙で赤くなった目のまま、地面に落ちていた棒を拾い上げた。

そして歯を食いしばり、猛犬へ向かって走り出した。

三匹の犬が一斉に彼女へ飛びかかる。

泉美は棒を握りしめ、必死に抵抗した。

ほどなくして、腕や足には犬の爪による傷がいくつも刻まれ、血が滲み出した。

鋭い痛みが全身を襲う。

それでも、彼女は止まらなかった。

必死に手を伸ばし、檻の扉に触れる。

鍵を取り出し、震える手で錠を開けた。

「夏澄! 早く、逃げるよ!」

泉美は力の抜けた夏澄を抱き起こし、犬の飼育場の出口へ向かって走った。

二人は何度も転びそうになりながら、ようやく入口までたどり着いた。

しかし――

いつの間にか、その大きな扉は外側から鍵をかけられていた。

泉美がどれだけ力を込めても、扉はびくともしない。

「開けて!誰かいるの!?京祐! あなたなの!?お願い……開けて!」

泉美は必死に扉を引っ張り、絶望の叫び声を上げた。

すると、外から冷たい声が響いた。

「申し訳ありません、奥様。

これは旦那様のご命令です。もう少しだけ我慢してください」

――京祐の命令……!

棒を握る手に、さらに力がこもる。

泉美の瞳の奥に、一瞬だけ憎しみの色が浮かんだ。

まさか……京祐がここまで非情な人間だったとは……

背後では、三匹の犬が鋭い目を光らせながら、二人へ向かって襲いかかってきた。

泉美が慌てて棒を構えようとした、その瞬間――

夏澄は残された力を振り絞り、泉美を横へ突き飛ばした。

次の瞬間、先頭の犬が勢いよく飛びかかり、鋭い牙で夏澄の右腕に深く噛みついた。

「きゃああ!」

彼女の右腕は無理やり引きちぎられ、その瞬間に血が噴き出した。

激しい痛みに、夏澄の身体は大きく震えた。

そして、ドサッという音を立てて、その場に倒れ込む。

その光景を目にした泉美の顔は、血の気を失い、完全に真っ青になった。

「夏澄!」

彼女は必死に駆け寄り、夏澄を強く抱きしめた。

涙が次々と溢れ落ちる。

「どうして……どうしてこんな馬鹿なことをしたの……夏澄!」

犬が再び夏澄のちぎれた腕に噛みつこうとした。

その瞬間、泉美は狂ったように棍棒を握りしめ、犬へ向かって走った。

そして必死の力で、犬たちの口元からその腕を奪い返した。

絶望の淵にいたその時――

犬の飼育場の扉が開いた。

泉美は夏澄を支えながら、外へ飛び出した。

「夏澄、怖がらないで!すぐに病院へ行くから!

私が絶対にあなたを助けるから!」

九時間にも及ぶ救命処置。

夏澄の命は、なんとか助かった。

けれど――

失った腕を、再び繋ぎ合わせることはできなかった。

泉美は病院の外の長い廊下に座り込み、ただ微動だにしなかった。

翌朝。

彼女の携帯電話が四度、震えた。

一通目のメッセージは、離婚手続きを任せていた弁護士からだった。

【離婚届受理証明書が発行されました】

二通目は、あの人から届いたもの。

【市役所の入口で待っている】

三通目は、京祐からだった。

【泉美、今夜は早めに帰ってきて。サプライズがある】

四通目。

それは見知らぬ番号からだった。

【奥様、あなたが京祐に送った動画、彼は一度も見ずに削除したわ。

なぜだと思う?彼は私を信じて、あなたを信じていないからよ。

それに聞いたわ。あなたの親友、腕を失ったんですって? 本当に可哀想ね】

携帯電話を握る手に、さらに力がこもった。

泉美は一言も返信しなかった。

そして立ち上がり、病院を後にした。

――市役所前。

彼女は弁護士から離婚届受理証明書を受け取った。

そしてその証明書を手に、あの男と共に市役所へ入り、婚姻届を提出した。

最初から最後まで、泉美の顔には、余計な感情など一切浮かんでいなかった。

隣にいた男が、口元をわずかに吊り上げる。

「まるで……僕と結婚したくないみたいだね。

後悔してるの?」

陽光の下、泉美はゆっくりと顔を上げた。

男を真っ直ぐ見つめ、一字一句、はっきりと言った。

「昴(すばる)……私の復讐を手伝って。

京祐と由梨に――

血の代償を払わせるのよ!」

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