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弦絶えし雪の夜、恋が散る

弦絶えし雪の夜、恋が散る

By:  セイ Completed
Language: Japanese
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「皇太子殿下、本当に江殿に隠れて、彼女の心臓の生血を抉り取り、慕殿の治療に用いるおつもりですか?」 短剣を握る老侍医の手は震え、揺らめく蝋燭の火が彼の額に浮かぶ冷や汗を照らし出していた。 寝台では、江清瑟(こう せいしつ)の華奢な体が豪奢な錦の夜着に沈み込み、その顔色は冬の初雪のように蒼白だった。 謝長離(しゃ ちょうり)の口調は、殿舎の外に積もる雪よりも冷酷であった。 「いかにも!余は既に彼女に麻酔薬を飲ませた。今は昏睡しており、目を覚ますことはない。早く手はずを整えよ!」

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Chapter 1

第1話

She stood in front of a crowd with dried up tears in her eyes…..her eyes that were said to be the most beautiful pair of eyes in the world with long luscious looking eyelashes, well rounded and stretched out and most importantly blessed with a pair of red pupils. As she pushed back her luscious red hair behind her ears I looked at the side to spot another pair of eyes that was fixed on her without blinking. Everyone in that courtroom believed that she was innocent but no one was going to oppose while she would be punished for a crime she never did………..I looked down and fiddled with my fingers, unable to watch the further proceedings.

But………changing my world around 3 words suddenly resounded in that room.

“I am GUILTY”

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ひとみ
ひとみ
いや、皇帝やから何人も奥さんもてるよ?でも自分の胸刺して血をとる人とは無理じゃね? クズクソ女のどこが良かったのかホンマにわからん。
2026-09-18 22:56:07
1
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kyanos
kyanos
愛し愛される。これ本当に大事。 主人公情に絆されず幸せの道を掴みとれて良かった。 それにしても皇帝は他に息子はいなかったんだろうか?この皇太子はそもそも次代の皇帝に相応しくなかったろうに。国を思うなら廃嫡すべきだった。
2026-09-19 03:39:26
1
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松坂 美枝
松坂 美枝
クズ皇帝、何も為せず散る あれだけ助けてもらった有能オブ有能主人公より無能オブ無能女を大事にして信じるような男じゃねえ 一ヶ月不在なのも気づかなかったしなんかもうね 主人公の旦那は肉食系で大変良かった
2026-09-16 10:05:05
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25 Chapters
第1話
老侍医は地に平伏し、耐えきれずに懇願した。「殿下、私めには到底このような残酷な真似はできません……江殿はかつて殿下の重い流罪に付き従い、すでに病身で……この上、心臓の血まで抜けば、目覚めた後は想像を絶する苦痛に苛まれることでしょう……」「黙れ!」長離が声を荒げて遮ると、その目には人を震え上がらせるほどの底冷えするような冷酷さが宿っていた。「お前がやらぬというなら、余が自ら下す!」彼は侍医の手から短剣を奪い取ると、躊躇うことなく清瑟の胸元へと突き立てた。「くっ……」彼女の指先が微かに震えたが、それに気づく者は誰もいなかった。鮮血が溢れ出し、長離はすかさず玉の椀でそれを受け止めた。椀が満たされると、彼は振り返ることもなくその場を立ち去った。侍医もよろめきながらその後を追い、重々しい音を立てて殿舎の扉が閉ざされると、足音は次第に遠ざかっていった。寝台の上で、清瑟はゆっくりと目を開けた。冷や汗がすっかり鬢の毛を濡らしている。彼女は痛みの呻き声を漏らさぬよう、下唇を強く噛み締めた。痛い、痛すぎる……彼女が全く昏睡などしていなかったことなど、誰も知らない。約一時間ほど前、長離は自らの手で極上の甘い薬湯を彼女に運んできた。彼女は一口飲んだ途端に異変に気づき、無理やり吐き出したが、まさかその中に麻酔薬が仕込まれていたとは思いもしなかった。自分を眠らせ、その胸から生血を抉り出して慕流蛍(ぼ りゅうけい)を救うために!?彼女は震える手を持ち上げ、胸元の痛ましい傷口を押さえたが、指の隙間からは未だに血が滲み出し、白い寝衣を赤く染め上げていく。なんて滑稽なのだろう……三年前、皇太子である長離は帝の逆鱗に触れて廃嫡され、流刑に処された。朝廷の百官はこぞって彼を避け、かつて彼を取り巻いていた王侯貴族の令嬢たちも蛇蝎のごとく彼を忌み嫌った。幼馴染の許婚であった流蛍でさえ、巻き添えを恐れて公衆の面前で婚約を破棄したのだ。ただ自分だけが、一族の猛反対を押し切り、執拗に彼の後を追ったというのに!流刑地への道中、山賊に襲われた際には清瑟が身を挺して刃を受け、極寒の冬に飢えに苦しんだ際には自分の食糧をすべて彼に譲り、彼が高熱で生死を彷徨った際には自らの手首を切って流した血を、薬を服用するための水として彼に飲ませた……彼
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第2話
皇帝の手にある朱筆がピタリと止まり、墨汁が上奏文にじわじわと滲んでいった。彼は殿中に跪く女を見下ろし、眉をひそめた。「清瑟よ、お前は長離が流蛍を側妃にするという話を聞いたのか?安心せい、朕の勅命はまだ……」「陛下」清瑟は彼の言葉を遮り、その口元には痛ましい笑みが浮かんでいた。「私は、もう皇太子殿下には嫁ぎとうございません」彼女は深く頭を下げ、冷たい床に額を擦り付けた。「私は和親の降嫁を志願し、両国の安寧と引き換えとうございます!」皇帝は長い沈黙の後、ついに深くため息をついた。「本気で決めたのだな?北朔への道のりは遠くて険しい。一度行けば、二度と都に戻る日は来ないのだぞ」「覚悟の上でございます。陛下、どうかお聞き届けください」皇帝は再びため息をつき、ついに筆を取って詔書に印章を押した。「……そこまで言うなら、朕が最高の嫁入り道具を整えてやろう。一ヶ月後、盛大な和親の儀を執り行う」東宮へ戻った時、清瑟はすでに目の前が真っ暗になるほどの痛みに襲われていた。彼女が横になった途端、殿舎の扉が押し開かれた。「清瑟?目を覚ましたか?」長離の声が殿内に響いた。清瑟が振り向くと、揺らめく蝋燭の灯りの中に彼が立っていた。玄色の錦衣にはまだ夜露が少し残っている。彼女が胸元を押さえているのを見て、彼の顔色が微かに変わった。そして弁解するように言った。「昨夜、東宮に刺客が潜り込んだのだ。余の護衛が至らず、お前に傷を負わせてしまった」清瑟は思わず吹き出しそうになった。刺客?よくもまあ、そんな嘘を。彼は手を伸ばして彼女の傷に触れようとしたが、痛ませるのを恐れるように手を引っ込めた。「まだ痛むか?」清瑟は静かに首を振った。「痛くありません。流刑への道中、殿下の代わりに受けたあの剣傷に比べれば」長離の手が宙で止まった。あの年、荒れ果てた山野で、彼女は彼を庇って山賊の刃を受け、あわや命を落としかけたのだ。沈黙が殿内に広がった。しばらくして、彼は低い声で言った。「清瑟、余はすでに勅命を乞うた。一ヶ月後、お前を正妃として迎える」一呼吸置き、さらに付け加えた。「同時に、流蛍を側妃として迎える」清瑟は目を伏せた。一ヶ月後には、自分はもう北朔へ向かう途上にいるというのに。「彼女を側
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第3話
状況を呑み込む間もなく、背後から女の声がした。「清瑟のお庭は、ずいぶんとみすぼらしいのね」清瑟が振り返ると、まだ目立たない腹に手を添えた流蛍が、華やかな衣装を身に纏い、陽光の下に立っていた。「あら、私としたことが」流蛍はわざとらしく口元を覆って驚いてみせた。「忘れておりましたわ。殿下が東宮の立派な品々を、すべて私の所に送ってしまわれたことを。清瑟の所には飾り立てるものが何もなくて、少々みすぼらしく見えてしまいますわね」清瑟の指先は微かに震え、胸の奥で渦巻く刺すような痛みを必死に抑え込みながら、流蛍を見つめた。「何をしに来たの?」流蛍は腹を撫でながら、媚びるように笑った。「最近つわりが酷くて、無性に酸っぱいものが食べたいのです。お聞きしたところ、清瑟の作る梅の菓子が一番食欲をそそるとか。ぜひ一ついただきたくて」清瑟の指先が震え、口を開くよりも早く、そばにいた侍女の青吟が怒りを露わにして彼女の前に立ちはだかった。「慕殿!うちのお嬢様は未来の皇太子妃であらせられます。たかが側妃の分際で、皇太子妃殿下に下働きをさせようというのですか!東宮の掟を何と心得る!」パァン!不意に強烈な平手打ちが青吟の頬に飛んだ。流蛍は手を引っ込め、その目に冷酷な光を宿した。「主が話しているのに、下賤な奴婢が口を挟むとは何事?誰か、この者に往復百回の平手打ちをお見舞いしなさい!」清瑟の瞳に冷ややかな光が宿り、即座に青吟の前に立ちはだかった。「やらせるもんですか!」流蛍は唇を微かに吊り上げた。「私がやれないとでも?」彼女は低く呼んだ。「夜梟(やきょう)!」黒い影がふいに出現し、清瑟の瞳孔が収縮した。それは長離の傍に仕える最も腕の立つ隠密であり、十数年もの間影のように彼を守り続けてきた者だ。長離は、その男までも流蛍に与えていたというのか?夜梟は無表情のまま清瑟の両腕を拘束し、下働きの老婆二人が進み出て青吟を押さえつけると、雨霰のごとく平手打ちが振り下ろされた。青吟の口角からはすぐに血が滲んだが、それでも彼女は頑なに流蛍を睨みつけていた。「やめなさい!」清瑟の声は震えていた。「私が作るから、青吟を離して」流蛍はそれで満足したように手を振り、刑を止めさせた。青吟は血まみれの顔で清瑟の足元にすがりつ
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第4話
清瑟は氷の湖にきっちり一刻浸からされ、引き上げられた時にはほぼ昏睡状態に陥っていた。彼女は三日三晩高熱にうなされたが、東宮の侍医たちは皆、「お腹の赤子に障った」流蛍の世話に駆り出されていたのだ。彼女は己の生命力だけで生き延びた。目を覚まして最初にやったことは、作りかけの花嫁衣裳に再び刺繍を施すことだった。長離が扉を押し開けて入ってきた時、ちょうど彼女がうつむいて針に糸を通しているところだった。揺らめく蝋燭の灯りが彼女の青白い横顔を照らしている。長離は心が和らぎ、彼女の傍へ歩み寄った。「嫁入り道具など宮中の者に用意させればよいものを。なぜ自ら針を執るのだ?」清瑟は顔も上げずに答えた。「自分で縫い上げた衣裳の方が、良縁が長く続くと申しますから」長離は胸を打たれ、彼女を抱き寄せた。「前回の罰のことで、まだ余を恨んでいるのか?今、流蛍は身籠っている。余は彼女を憎んでいるゆえ、彼女とその腹の子をまとめて報復したいのだ。だからこの子は絶対に産ませねばならぬ。間違いは許されない。子が生まれれば、生き地獄を味わわせてやる。だから、嫉妬などはしないでくれ。な?」清瑟は目を閉じ、胸が小刻みに震えるほどの痛みを感じた。彼の嘘は……本当に堂に入ったものだ。誰の目から見ても、彼が流蛍を骨の髄まで愛していることは明白だというのに。長離は彼女の額に口づけし、優しく言った。「いい子だ。今日は上元の節句、東宮で宴を設けた。お前は賑やかなのが好きだろう?」彼が手を叩くと、女官が華麗な衣装を捧げ持ってきた。「これは宴に着ていく衣だ。着替えたら来なさい」夜の帳が下り、東宮は色鮮やかな提灯で飾られていた。長離の隣に座っているのは流蛍であり、次期皇太子妃であるはずの彼女の席は末席に追いやられていた。満座の客たちがひそひそと囁き合う。「慕殿はただの側妃だという話ではなかったか?殿下と同席するとはどういうことだ?」護衛が慌てて説明に回った。「殿下が仰るには、江殿は目立つことを好まれぬゆえ、同席は控えたとのこと……」清瑟は一言も発さず、静かに席に着いた。宴席で、彼女は長離が流蛍のために葡萄の皮を剥き、美酒を注ぎ、彼女が甘えるやいなや、皆の面前でその指先を口に含んで軽く吸いつける様をただ見つめていた。芸を披露する歌
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第5話
清瑟が目を覚ました時、目の前は薄ぼんやりと霞んでいた。瞬きをすると、視界には血色の薄霧がかかり、まるで紗の向こうを見ているようだった。青吟が寝台の端にすがりつき、息も絶え絶えに泣き叫んだ。「お嬢様!やっとお目覚めになられたのですね!侍医が……あと一寸深ければ、お嬢様の目は……」彼女は言葉を詰まらせたが、清瑟には分かった。あと少しで、自分は失明していたのだ。彼女はゆっくりと手を持ち上げ、指先で目に巻かれた包帯にそっと触れ、ふと笑った。「青吟、もう泣かないで」「お嬢様、痛くないのですか?」青吟の涙が彼女の手の甲に落ちた。「痛いなら泣いてください、我慢なさらないで……」清瑟は帳の天井に刺繍された鴛鴦を見つめながら、気を失う前の光景を思い出した。長離が剣を振るって琴の弦を断ち切り、飛び散った木片が彼女の目に刺さる中、彼は一度も振り返ることなく流蛍を抱いて立ち去ったのだ。心臓は確かに痛い。だが、もう涙は枯れ果てていた。彼女は静かに言った。「泣いたところで、痛みを分かち合ってくれる人なんていないわ」心配してくれる人がいないのなら、もう泣かない。青吟はさらに激しく泣き崩れ、今にも気を失いそうになった。その時、殿舎の扉が押し開かれ、長離が大股で歩み入ってきた。青吟はもう我慢できなかった。彼女は彼の前に勢いよく土下座し、何度も床に額を打ち付けた。「皇太子殿下!どうかお嬢様を一度だけでも哀れんでくださいませ!あの年、お嬢様は殿下の流罪に付き従うため、丞相と奥様から九十九回もの鞭打ちを受けられたのです!一打ちごとに血が飛び散るほどの拷問でした!丞相は今でもお嬢様を許しておらず、生涯二度と会わぬと公言されております!お嬢様にはもう何もないのです、殿下しかいらっしゃらないのですよ!」長離の体は石のように硬直した。彼は寝台に横たわる清瑟に目を向けた。彼女は静かに横たわっており、包帯の下の目が開いているのか閉じているのかは分からない。唇の色は画仙紙よりも白かった。彼はふと、流刑の道中でのある雨の夜を思い出した。高熱を出していた彼女が、最後の乾いた衣を彼に着せかけてくれた夜を。なぜついて来たのかと尋ねると、彼女は笑って答えた。「殿下がここにいらっしゃるからですわ」知らなかった。彼女が
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第6話
突如として深い疲労感が押し寄せ、清瑟は体調が優れないと口実を作って早々に床についた。長離は彼女を抱きしめたまま一時間ほど添い寝していたが、彼女の寝息が規則正しくなると、足音を忍ばせて上着を羽織り、そっと部屋を出て行った。雪が降り積もる中、清瑟は彼が残した足跡を辿り、流蛍の寝宮へと向かった。近づいた途端、ガシャンと陶磁器が砕け散るような甲高い音が響いた。「なんで来たのよ!?あなたの立派な皇太子妃殿下のところに行けばいいじゃない!」流蛍の泣きじゃくる声が聞こえる。「我儘を言うな」長離の呆れたような、しかし甘やかすような声が続く。「こうして会いに来ただろう?」「ここ数日、ずっとあの女のところにいたくせに!」「あれはただの罪滅ぼしだ……」彼はため息をついた。「なにせ、あいつの目を傷つけてしまったからな」ねっとりとした水音が響いた後、長離の声はさらに甘く柔らかくなった。「よしよし、もう泣くな。どうしてほしい?お前の望む通りにしよう、な?」流蛍はしゃくりあげていたが、やがて泣き笑いの声を上げた。「今日は雪が綺麗だから、長離様の背中でお馬さんごっこしたい!雪合戦も!」周囲に控えていた宮中の者たちが、一斉に息を呑む気配がした。護衛が慌てて制止に入る。「殿下は尊き御身、そのような遊びは断じて……」「黙れ」長離は軽く笑い飛ばした。続いて、衣擦れの音が聞こえる。「乗れよ、我が儘姫」窓の隙間から覗き込むと、長離が雪の中に膝をついていた。高貴な礼服が泥雪にまみれている。流蛍は彼の肩に跨り、花が揺れるようにキャハハと笑いながら、丸めた雪玉を彼の襟元に押し込んでいた。彼は怒るどころか、彼女の膝裏を支えて軽く上に持ち上げた。「しっかり掴まってろよ、落ちても知らんぞ」清瑟の睫毛に舞い落ちた雪の結晶が、体温で溶けて雫となり、頬を伝い落ちた。人は極限まで傷つくと、本当に涙も枯れ果ててしまうものなのだ。彼女はよろめきながら元来た道を引き返した。胸の傷口が開き、血が滲み出している。雪の上に落ちた血の滴は細い紅い糸のような軌跡を描き、それはあの年、流刑の道中で彼を背負いながら歩いた、血まみれの山道を彷彿とさせた。あの日、雪の庭での情景を見て以来、清瑟は一歩も寝宮の外へ出なかった。ただ静か
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第7話
清瑟は淡々と頷いた。だが、長離が去った途端、流蛍は甘ったるい声で言った。「清瑟、私、お馬に乗りたいわ」清瑟は眉をひそめた。「身重なのに、馬になど乗れるわけがないでしょう」「でも、長離様は清瑟に『私の面倒を見ろ』って仰ったわよね?」流蛍は無邪気を装って笑った。「清瑟は、殿下のご命令に背くおつもり?」清瑟はしばらく沈黙した後、仕方なく歩み寄り、馬の轡を握った。だが、流蛍は馬の背に跨るやいなや、隠し持っていた簪で馬の腹を思い切り突き刺したのだ!馬は痛みに狂い、前脚を高く上げて嘶いた。流蛍は悲鳴を上げ、馬の背から勢いよく転げ落ちた。「あああっ!私の、私の子どもが――!」狩猟場はパニックに陥った。長離が戻ってきた時、彼の手にある白狐の血はまだ乾いていなかった。侍医が震え上がりながら報告している。「慕殿は骨を一本折られましたが、幸いにも日頃から滋養の薬を十分に摂っておられたため、お腹のややこには障りございません……」流蛍は絶妙な間合いで目を覚まし、涙ながらに長離の袖にすがりついた。「長離様……清瑟が私のこと嫌いなのは分かってる。でも、だからって……私たちの子どもを殺そうとするなんてひどいよ!」長離の瞳が暗く沈んだ。「どういう意味だ?」「長離様がいなくなった途端、清瑟が私に無理やり馬に乗れって……私みたいな身体で、乗れるわけないのに!」流蛍はぽろぽろと涙をこぼした。「それに清瑟、手綱を引いてくれなかったどころか……簪で馬を刺したのよ!」長離は猛然と清瑟を振り返り、その目には人を焼き尽くすような怒りの炎が宿っていた。「余は言ったはずだ、腹の子に万が一のことがあってはならぬと!」侍医が慌てて地に跪いた。「殿下、どうかご明察を!あの時、我々もその場におりましたが、慕殿はご自身で――」「黙れ!」長離が凄まじい声で遮った。「清瑟、外へ出て地に跪け。丸一日雪の中で跪き、彼女に詫びるのだ!」最初から最後まで、清瑟は一言の弁解も口にしなかった。ただ、彼に一つだけ問いかけた。「皇太子殿下」彼女はふと顔を上げた。「無事であってほしかったのは、お腹の子ですか?それとも……彼女自身ですか?」長離はハッとして立ち尽くした。だが、彼女は答えを待たず、ただ微かに微
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第8話
帰りの道中、流蛍は長離が席を外した隙を狙い、清瑟の行く手を塞いだ。彼女は鬢の毛に挿した真珠の簪を撫でながら、媚びるような、それでいて勝ち誇った笑みを浮かべた。「清瑟、皇太子妃の座に就いたところで何になるの?長離様が愛しているのは私だけ。愛されない者こそ、この世で一番惨めなのよ」彼女は清瑟の耳元に顔を寄せた。「清瑟、まだ現実が見えていないみたいだから。今日は特別に……いいお芝居を用意してあげたわ。長離様がどれほど私を愛しているか、とくとご覧なさい」清瑟は嫌な予感を覚えた。てっきり流蛍が直接自分に危害を加えるのだと思い、袖口に短剣を忍ばせ、いざとなれば刺し違える覚悟で身構えていた。だが予想に反して、馬車が走り出しても、流蛍は終始大人しく座っており、怪しい素振りは一切見せなかった。一行が道半ばに差し掛かった頃、突然馬車の外で大きな騒ぎが起きた。ヒュンッ!という風切り音と共に冷たい矢が御簾を貫き、清瑟の耳元の窓枠に突き刺さった。続いて護衛たちの怒号が飛び交う。「刺客だ!殿下をお守りしろ!」清瑟が御簾をめくると、最後尾の馬車の周囲で剣戟の火花が散り、護衛たちが黒装束の者たちと激しく斬り合っていた。乱戦の中でも、長離の姿はひときわ目を引いた。手にした長剣は雪のように白く輝き、剣先が閃くたびに刺客が次々と血を吹き出して倒れていく。だが、彼が残りの刺客をあらかた片付けようとしたその時、流蛍が自ら一人の黒装束の男に向かって駆け出し、わざと人質に捕まるのを、清瑟は確かに見た。冷たく光る曲刀が首筋に押し当てられた時、流蛍は清瑟に向かって、嘲るような笑みすら浮かべていたのだ。長離の動きがピタリと止まり、剣先が地に下がった。その両目は瞬時に血走り、怒りに見開かれた。「その女から手を離せ!」彼の武術の腕前は卓越していたが、自らの最大の弱点を握られ、身動き一つ取れなくなってしまったのだ。刺客は冷笑した。「離せだと?いいだろう」男は流蛍の髪を乱暴に掴み、無理やり顔を上げさせた。「だが、少しばかり代償を払ってもらおうか」流蛍は涙をぽろぽろとこぼし、震える声で叫んだ。「長離様……助けて……!」長離の剣を握る手には青筋が浮かんでいたが、迂闊には動けない。刺客は彼を睨みつけ、ゆっくりと言い放った。「聞い
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第9話
青吟は呆然とした。「えっ?」「私はすでに陛下に勅命を賜っているの。明日、北朔へ和親のために旅立つわ」青吟は雷に打たれたように硬直すると、猛然と床に膝をついた。「お嬢様!私めもお供いたします!」清瑟は首を振り、青吟を立たせて優しく言った。「あなたの身売り証文はもう燃やしたわ。城外に良い家柄の働き口を見つけてあるの。一度見合いに行ってみて、気に入ればそこへ嫁ぎなさい。もし嫌なら、この包みの中にある金を使えば、一生安泰に暮らせるはずよ……」青吟は声を上げて泣き崩れ、死んでもついて行くと言って聞かなかった。だが清瑟はただ静かに首を振り、指先で彼女の髪を優しく撫でた。「青吟、言うことを聞いて」青吟は息も絶え絶えに泣きじゃくり、最後に床に額を激しく打ち付けて、三度叩頭した。「お嬢様……どうか、どうかご無事で……」殿舎の扉が閉ざされた瞬間、清瑟は目を閉じた。この冷たい深宮に残っていた、最後の一握りの温もりも、今送り出した。和親の儀の前日、長離が彼女の殿舎の扉を押し開けた。もぬけの殻のような部屋を見て、彼は少し遅れて尋ねた。「お前の侍女はどうした?」清瑟はうつむいて花嫁衣裳に刺繍をしながら、淡々と答えた。「少し用事を言いつけて、外へ出しています」長離は気にする様子もなく、彼女の手元にある衣裳に視線を落とした。「縫い終わったのか?」彼女は静かに頷き、最後の一針を指先でなぞった。長離は歩み寄り、優しい声で言った。「明日、宮城の門に二つの輿が並ぶ。一つはお前、もう一つは流蛍だ。二人揃って、東宮に迎え入れる」少し間を置き、彼は付け加えた。「流蛍は最近、胎の気が不安定でな。だから初夜は……先に彼女の宮へ行くつもりだ」「気にするな」彼は顔を近づけ、彼女の髪に口づけした。「これから先、時間はいくらでもある」清瑟は何も答えなかった。長離はそれを同意と受け取り、背を向けて立ち去ろうとした。「謝長離」彼女がふいに呼んだ。彼は振り返った。「ん?」「さようなら」彼女は静かに言った。彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに吹き出した。「清瑟、明日また会おう。これからは、昼も夜もずっと一緒だ」清瑟は彼の真っ直ぐな背中を見つめ、小声で呟いた。「昼であろうと夜であ
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第10話
流蛍が輿から降りる時、足元がふらつき、あわや転びそうになった。長離が慌てて手を伸ばし、彼女を支え止めた。「気をつけろ、腹の子に障るぞ」流蛍は甘えるように言った。「長離様、私のことは気にしないで。清瑟が正妃なんだから、清瑟と結びの儀式しなきゃ駄目だよ」長離は頷いた。「お前は本当に物分かりがいい」彼は遠くを見渡し、無意識のうちに眉をひそめた。「清瑟は、なぜまだ到着しないのだ?」その時、宦官の長が滝のような汗を流しながら駆け寄ってきた。「殿下!皇太子妃殿下は道中で花嫁衣裳が破れていることにお気づきになられたそうです。縁起が悪いと仰り、着替えるために屋敷へお戻りになられたため、刻限に遅れております!」長離の顔色はたちまち険しくなり、瞳に怒りの色が満ちた。「吉時に遅れれば、貴様ら全員厳罰に処すぞ!」傍らにいた古参の女官が小声で進言した。「殿下、間もなく吉時が過ぎてしまいます。ここは一つ、側妃様に正妃様の代わりを務めていただき、先に結びの儀式を済ませてはいかがでしょうか。さすれば吉時を逃すこともございません」長離はためらい、しばらくの間無言で立ち尽くしていた。それを見た流蛍は、長離の袖口を軽く引いた。「長離様、私と儀式をするのは嫌なの?」そう言いながら、彼女は目を潤ませた。「そうだよね、私なんて子どもを身籠っていても、長離様と釣り合うわけないもんね……」「分かった……女官の言う通り、先に我々で結びの儀を済ませよう」長離は流蛍の手を引き、正殿へと歩み入った。宴の儀式は滞りなく進められた。「天と地に拝礼!父母に拝礼!夫婦の誓いの拝礼!」……二人は大勢の者たちに祝福されながら、新婚の寝室へと入った。紅い蝋燭が高く掲げられ、龍と鳳凰が彫られた華やかなろうそくの炎が、部屋の中でパチパチと音を立てて燃えている。長離は寝台の端に座り、赤い布に覆われた流蛍の姿を見つめた。今日の彼女はひどく大人しく、膝の上で重ね合わせた手が微かに震えている。ひどく緊張しているようだった。「蛍蛍(けいけい)?」彼は幼名を優しく呼び、その顔を覆う布に手を伸ばした。布が滑り落ちた瞬間、流蛍が顔を上げた。揺らめく蝋燭の灯りが、丹念に化粧を施された彼女の顔を照らし出す。その目尻には、まだ乾き
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