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不倫夫に復讐の輝きを
不倫夫に復讐の輝きを
Author: 年華

第1話

Author: 年華
夫のズボンを洗濯しようとした時、ポケットからマンションの管理費等の滞納督促状が出てきた。

記載されていた住所は、我が家の真上の部屋だった。

ただし、所有者名義には、はっきりと夫の名前が書かれていた。

その紙を握りしめる指先が、一瞬で凍り付く。

ふと思い返せば、ここ半年、彼は「残業だ」と言って深夜帰宅が増えていた。

何度もあった。彼が仕事に出かけたはずなのに、車がマンションの駐車場に停まったままだったことが。

問い詰めると、彼は決まってこう言った。

「最近はガソリン代もバカにならないしな。電車の方が楽だし、節約だよ。将来のためだろ?」

家庭を思う彼の言葉に、私は密かに感心さえしていたのだ。

だが、今ならわかる。彼の言う「残業」の行き先は、真上の部屋だったのだ。

その時、玄関の鍵が回る音がした。

夫が帰ってきた。

私の手にある督促状を見るなり、彼は無造作にそれを奪い取った。

「ああ、管理会社の誤配だろう。たまにあるんだよ」

私は頷き、無理に笑って見せた。

「そうね、気にしないで。

……ちょっと、ゴミ出しに行ってくるわ」

部屋を出た私は、そのまま上の階へと向かった。

扉を叩くと、目の前に現れた女のお腹は大きく膨らんでいた。

見たところ、もう臨月だろう。

その膨らんだお腹を見た瞬間、私の体は硬直した。

かつて彼は私に言った。「仕事が軌道に乗るまでは、子供は数年待とう」と。

子供が欲しくなかったわけじゃない。私との子供が、欲しくなかっただけなのか?

「はい、どなたですか?」

顔を覗かせたのは、ゆったりとした綿のマタニティドレスを着て、髪を無造作にまとめた女だった。私を見ると、少し不思議そうな表情を浮かべる。

「こんにちは。下の階の者です」

私は声を震わせないよう必死に抑え、無理やり親しみのある笑顔さえ浮かべた。

「お忙しいところすみません。うちの猫がすごくおてんばで……さっき目を離した隙に、ベランダの手すりを伝って上に行っちゃったみたいなんです。少し中を探させてもらえませんか?」

これは拙い言い訳だった。うちには猫なんていない。

けれど、彼女は疑わなかった。妊娠中特有のおおらかさのせいかもしれない。

「あら、ご近所さんですね!どうぞ、中へ。猫ちゃんってすばしっこいから、迷子になったら大変ですわ」

「ありがとうございます」

中に入ると、足元には柔らかいウールのラグが敷かれていた。我が家にあるものと同じブランドだが、色は少し薄い。

部屋のレイアウトは我が家と全く同じで、一目で全体が見渡せた。

大きな窓から温かい陽光が差し込み、空気中には微かにミルクの香りとレモンのアロマが漂っている。新しい命を迎え入れるために、丹精込めて整えられた「家」がそこにあった。

私の視線はレーダーのように部屋の隅々を走らせた。

そして、リビングの壁に掛かっている一枚の油絵に釘付けになった。

私の息が、一瞬止まった。

それは『深海のエコー』という、知る人ぞ知る画家の作品だった。

半年前、私は夫の江口悠平(えぐち ゆうへい)と一緒にギャラリーでこれを見つけ、一目惚れしたのだ。

だがその時、悠平は私の肩を抱き、残念そうに言った。

「笙子(しょうこ)、惜しかったな。この絵、ちょうど謎の買い手に予約が入っちゃったんだって。ギャラリーの人も、相手がかなりの高値をつけたって言ってたよ」

落ち込む私を慰めるため、彼はあちこちに手を尽くしてくれたふりをして、最後にはこう告げた。「あの画家はもう筆を置いたらしい。この絵は世界に一点もので、もう二度と手に入らない」と。

だが今、その「二度と手に入らないはずの宝物」が、平然とここに飾られている。

「ご近所さん、この絵が気になるんですか?」

彼女がお茶を持って近づいてきた。私の視線を追い、彼女の顔には幸せそうな表情を浮かべた。

「主人がプレゼントしてくれたんです。『深海のエコー』っていう名前なんですって。お腹の赤ちゃんの鼓動が、深海から響いてくる私へのエコーみたいだ、なんて言って」

彼女は一言一言を噛みしめるように、愛の詩でも詠むかのようにその名を呼んだ。

私はお茶を受け取り、指先の冷たさがガラスを伝わっていく。

「……素敵な旦那様ですね」

私の声は、ひどく乾いていた。

「ええ、本当に」

彼女は照れくさそうに笑い、腰を支えながらソファに座った。

「何から何まで私のことを優先してくれるんです。あ、そういえばお名前、まだ伺っていませんでしたね。私は林環奈(はやし かんな)と言います」

「笙子です」

名前を告げながらも、視線は思わずベランダの隣の子供部屋へと向いてしまった。

部屋のドアは半開きになっており、中がすでに整えられているのが見えた。

「猫ちゃん、あっちの部屋に行っちゃったかしら?見てきますね」

環奈が立ち上がろうとする。

「いいえ!大丈夫です、私が自分で見ますから、座っていてください」

私は慌てて彼女を制止し、先回りしてその部屋へ踏み込んだ。

子供部屋の中央には、精巧なアイボリー色のベビーベッドが置かれていた。

それは、私がインテリア雑誌を何度も読み返し、いつか親になったら絶対に買おうと「お気に入り」に入れていたブランドのものだった。

当時、興奮気味に悠平に見せた時の彼の反応を覚えている。

彼は眉をひそめてこう言った。

「笙子、ベビーベッドに60万円も出すのか?贅沢すぎるし、見かけ倒しだ。大きくなれば使わなくなるんだから、国産の無垢材で十分だよ」
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