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第4話

Author: NJマスター
そのメールを、丸々十分間じっと見つめている。

そして、二文字だけ返信した。

【行く】

スマホを置き、父の骨壺を見つめながら、その柄を愛おしむようにそっと撫でた。

「お父さん、ごめんね。もうちょっとだけ待っててね。

必ず、お父さんの無念を晴らしてみせるから」

翌日の夕方、丸岩家の車がアパートの前に停まった。

迎えに来たのは運転手の佐藤謙司(さとう けんじ)だ。

「奥様、乗ってください。社長はお待ちになるのを嫌いますから」

彼は車から降りようともせず、開けた窓越しにぶっきらぼうに声をかけてきた。

私はドアを開け、後部座席に乗り込んだ。車内には、ある香水の香りが漂っている。

それは、あゆが好んで使っているブランドの匂いだ。

パーティー会場に到着すると、真一はすでに控室で私を待っていた。

私が安物のワンピースを着ているのを目にした瞬間、彼は眉をひそめ、嫌悪感を露わにした。

「そんな格好で来たのか?」

彼はドレスを投げつけてきた。

「着替えろ。俺に恥をかかせるな」

そのドレスは白くて、体にフィットするデザインだが、私のサイズではない。

襟元のタグに目をやると、あゆがいつも愛用しているブランドで、サイズも彼女のものだ。

「着替えないわ」

そのドレスをソファへ投げ返した。

「離婚しに来たの。ファッションショーに出るためじゃない」

真一はため息をついた。

「着替えないなら、もういい。

いいか、これからのパーティーでは、余計な口を利くんじゃないぞ」

きらびやかな明かりに照らされた会場で、私の周りには奇妙な視線ばかりが集まっている。

「あれ、丸岩社長の奥様じゃない?まるでただの付き人みたいね」

「しっ、知らないの?社長がいま夢中になってるのは、例の秘書、桜岡という女よ」

「それにしても奥様も惨めね。よくあんな扱いに耐えられるわ」

私は無表情のままグラスを手に取り、会場の隅に佇んでいる。

あゆは私を放っておくつもりはないようだ。

彼女はグラスを揺らしながら、数人の金持ちの御曹司たちを連れてこちらへ歩いてきた。

「美奈子さん、お一人で寂しく飲んでいますか?」

彼女はにやにやと笑いながら、グラスを回した。

「そういえば、お父さんがご病気ですよね?どうして病院に付き添ってあげないのですか?」

周囲からどっと下品な笑い声が湧き起こった。

グラスを握る私の指先が白くなり、その目はあゆを鋭く射すくめている。

「消えなさい」

あゆの顔から笑みが一瞬で消え、次の瞬間にはひどく歪んだ。

彼女は私ににじり寄り、声を潜めて、二人きりにしか聞こえないように囁いた。

「まだ知らないのかしら?

あの日、身代金の振込みはね、実は私が社長のスマホを使って取り消したのよ。あの拉致犯がそんなに短気だとは思わなかったわ。本当に殺しちゃうなんてね。

かわいそうに。お父さんはひどい最期だったって?全身の骨が粉々に砕かれて……

ねえ、死ぬ間際、あなたの名前を叫んでたんじゃないかしら?」

ドカンと。

頭の中で、最後の理性の糸がぷつりと切れた。

今までの我慢、そしてすべての理性が、この瞬間に灰となって吹き飛んだ。

私は腕を振り上げ、思い切りあゆの横っ面を張り飛ばした。

パァン!

彼女はその場でよろめいて一回転し、手から離れたグラスの赤ワインが全身に飛び散った。

音楽が止まった。

会場の誰もが一斉にこちらを振り向いた。

あゆは頬を押さえ、信じられないという表情で私を見つめた。やがてその目元が赤くなり、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。

「美奈子さん……どうしてこんなひどいことをするのですか?

私はただ、お父さんの具合を心配していただけなのに……どうして……」

真一が血相を変えて突っ込んできた。

私を乱暴に突き飛ばし、あゆを背後に庇うと、まるで獣のような凶悪な目で私を睨みつけた。

「美奈子!狂ったか!

今すぐあゆに謝れ!」

私は勢いよく後ろによろめき、テーブルに激しくぶつかった。何本ものボトルが床に落ち、粉々に砕け散った。

けれど、痛みなど微塵も感じなかった。

「謝れって?

真一、私にこの人殺しへの謝罪を求めるの?

するわけないでしょ!」

私はあゆを指差し、枯れた声を会場中に響き渡らせた。

「この女よ!真一のスマホを勝手に使って、父の命を救うはずの身代金の振込みを取り消したのは!

この女が、父をなぶり殺しにした張本人よ!

それに、真一!その時、あなたは何をしてたの?

この人殺しの女と寄り添って、のんびり写真を撮ってたのよ!

あなたたちのようなゲスどもは、二人揃って父の命に償いなさい!」

私の絶叫が会場の壁に反響し、まるで爆弾が炸裂したかのような衝撃が走った。

真一の顔色が瞬時に土気色へと変わり、私を見つめるその瞳には、初めて明らかな動揺が浮かんでいる。

「美奈子!黙れ!」

彼は私の口を塞ごうと飛びかかってきたが、私はその手を力任せに振り払った。

「どうしたの?後ろめたいのかしら?」

ポケットからスマホを取り出し、頭上へと高く掲げた。

「皆様、証拠をご覧になりたいでしょう?ここにあります!

これが銀行の振込履歴で、そしてこれが振込みを取り消した記録です!

これが警察の出した死体検案書です!

それから、これもお見せしましょう!」

街中のスクリーンを埋め尽くしたあのツーショット写真を開き、画面の明るさを最大にして、真一の顔に突きつけた。

「丸岩社長、一億円もかけた写真はさぞかし綺麗なんでしょうね?

それはね、父の命と引き換えに手に入れたものよ!」

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