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第3話

Auteur: ももよう
六年前、全国規模で摘発された大規模な誘拐事件があった。

私はその被害児童の一人として、東都へ連れ戻された。

「本当のご両親はお金持ちなんだって。もう二度と、辛い思いをしなくて済むんだよ」

そう言って、警察官の女性が私の傷だらけの手を握り、両親のもとへ連れて行ってくれた。

警察署の中では、多くの保護者たちが戻ってきた子を抱きしめて泣いていた。

私の父も母も、同じように泣いていた。

ただ、その腕の中にいたのは理香の方だった。まるで誰かに奪われやしないかと、必死に抱きしめた。

その光景は、まるで十年間も誘拐され、辛い目に遭ってきたのが理香であって、私ではないかのようだった。

あの時、父は私を署内の階段の踊り場へ連れて行き、小声で言い聞かせた。

「理香は俺たちで引き取った孤児なんだ。あの子にはお父さんもお母さんもいなくて、とても可哀想なんだよ。だから、これからはお前があの子に色々と譲ってやってほしい。いいね?」

私には、その意味がよくわからなかった。でも、別れ際に警察官の女性が、私の頭を撫でながら哀れむような目で言った言葉は、忘れられない。

「まだ慣れていないだけよ。おとなしく良い子にしていれば、きっとお父さんもお母さんもあなたを好きになってくれる。あんまり……反抗しちゃだめよ。帰る家があるだけ、ないよりはずっとましなんだから」

私はその言葉を素直に受け止め、こくりと頷いた。

それからの六年間、両親の明らかなえこひいきに対しても、私は一度だって文句を言ったことがなかった。

中学では月の生活費が五千円、高校で一万円、大学では二万円。

ただ、私が知らなかった。そして両親もすっかり忘れているようだったが、ここは一等地の東都だ。二万円と言えば、理香の一ヶ月のコーヒー代にすら足りない。

それどころか、金額が小さすぎて、振り込みを忘れられることすら日常だった。

バイトをしようと思ったこともある。

けれど両親は、理香の言葉をそのまま信じて、私がバイトをするなんてみっともないと、行くことを禁じた。

一週間近くまともな食事もできず、ようやく勇気を振り絞って催促の言葉を口にした時も、返ってきたのはこんな言葉だった。

「金、金って、お前はそればっかりだな。理香は一度だってこっちに金の無心なんかしたことない。やっぱり田舎から来た子は目先のものしか見えなくて、本当に卑しいな」

その時、私は顔を上げることさえできなかった。

両親の目に浮かんだ軽蔑の色が、骨の髄まで突き刺さり、私を身動きできなくさせるからだ。

ドアが開いた。

理香の部屋から出てきた両親は、なんと、私の部屋へと向かった。

普段は理香に気を遣って、私の部屋を訪ねてくることなど決してなかった。

「理恵にも、理香の半分でも落ち着きがあれば、俺はそれで十分満足なんだがな」

父が深く眉をひそめて言った。

「金の面ではきちんと管理して、贅沢をさせないようにしてきたつもりだったのに。どうして大都会の華やかさに目がくらんでしまうんだ。人の物を盗むような真似まで。

理香のように物分かりのいい子になるのが、こんなにも難しいのかしら」

普段は気丈な母が、私の枕を撫でながら、目を赤くしていた。

私の胸がぎゅっと締め付けられる。

思わず母のそばへと近づき、その頬を伝う涙を拭ってあげたくなった。

けれど、生きていた頃の私が母に近づけなかったように、死んだ今も、やはり触れることはできない。

透き通った私の手は、ただ虚しく母の頬をすり抜けるだけだった。

父が母の肩を抱き寄せ、苦しそうな表情で言った。

「お前のせいじゃない。お前はよくやっている。俺たちは、二人の娘を常に平等に扱ってきたはずだ。

見てみろ、この部屋を。俺たちの寝室さえも、理恵に譲ってやったんだ。いつか大人になれば、俺たちのしたことが全て彼女のためだったと、あの子にもわかるだろう」

私は呆然としながら、改めて自分の部屋を見回した。

確かに、この部屋は理香の部屋と同じ広さで、日当たりに至っては理香の部屋よりも良いくらいだ。

けれど、ここは決して、私だけの場所ではなかった。

机の上に置かれた使い古しのオーダーメイドの万年筆には、【理香】の刻印がある。

クローゼットの中には、私と似合わないフリルのついたワンピース、それに、私の足のサイズより二回りも大きな靴ばかりだった。

学校で笑われないように、私はいつも中敷きを三枚も重ねて入れ、歩いている途中で靴が脱げないようにと必死だった。

「これは……何かしら」

その時、母の視線が、閉まっていなかった引き出しの隙間に落ちた。

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