تسجيل الدخول僕・真壁智樹(まかべ ともき)が従兄・吉川浩介(よしかわ こうすけ)の経営する吉川畜産に独自配合の飼料を提供したことにより、吉川畜産は1年で1億円以上の利益を生み出した。 だが利益分配の日、浩介は親族全員の前で、かつて約束していた5対5の分配をあっさり反故にし、僕に振り込んだのはたった100万円だった。 そして僕の肩を軽く叩きながら、笑顔で言ったのだ。 「智樹、1年中何もしてないお前に100万円も分けてやるんだから、感謝してくれよ?」 その卑しい本性をさらけ出した顔を見ても、僕はただ少し笑みを浮かべるだけで、何も言わずに、100万円を受け取る。 そして翌日、僕は吉川畜産への飼料の供給を打ち切った。この飼料の製法は僕しか知らない。それから、僕は父と母を連れ海外へ渡り、新たな研究へと踏み出した。 僕のこの独自配合飼料を失ったあと、果たして彼はこの先どうするつもりなのか――その結末を僕は見届けることにした。
عرض المزيدその後の月日は、水の流れのように過ぎ去った。とても静かだったが、それでも多くを運び去り、多くをもたらしてくれた。それから数年後、僕はある国際会議で今の妻に出会った。妻はバイオインフォマティクスを研究していた。あの時、僕らは専門の話から日常のことまで、夢中で語り合った。やがて僕らは付き合い始め、結婚した。結婚式は僕たちが暮らす街の小さな教会で挙げた。本当に親しい同僚と友人だけを招いた簡単な結婚式。それから2年が経ち、息子の真壁海晴(まかべ かいせい)が生まれ、僕の両親は舞い上がるほど喜んだ。毎日、小さくて柔らかい海晴のそばで、目を細めている。共働きの僕たち夫婦に代わり、両親は海晴の面倒を見てくれた。それからしばらくして、僕たちはマンションを引き払い、小さな庭のある一軒家に引っ越した。母は庭でネギやハーブ、さらにはスーパーで買ってきた、名前も知らない花を育てている。父は車庫の隅を作業場に改装し、家で壊れたものを直してくれたり、たまに海晴へと手作りの簡単な木のおもちゃを作ったりすることもあった。海晴もすくすくと育ち、いつしか小さな口で、たどたどしく「あー」や「うー」などと言葉を発し始めた。ある週末の午後のこと。家族みんながリビングにいて、海晴はカーペットの上でブロック遊びをしていた。母はキッチンで夕食の支度をし、父はソファで新聞を読んでいる。赤いブロックをいじりながら、何かをぶつぶつ言っていた海晴。すると不意に海晴は顔を上げ、黒い瞳をキラキラとさせながら、キッチンの方へと視線を向けた。そして小さな口を開き、はっきりとこう言ったのだ。「ば……ば……」キッチンから聞こえていた蛇口の音が止まった。母がキッチンから顔をのぞかせる。手には野菜を持ったまま、呆然として立ち尽くし、大きく見開かれた目で、じっとカーペットの上の海晴を見つめていた。母が自分を見ているのに気づいた海晴は、嬉しそうに体を揺らして叫んだ。「ばあば!」その瞬間、母の手に持っていた野菜がぽろりと落ちた。それでも母はそれを拾おうともせず、ただ立ちすくんで唇をかすかに震わせていた。母の目頭が赤くなっていく。そして母は海晴の高さまで視線を落とすと、努めていつものように声をかけた。「もう一回、ばあばって呼んでみて」
数日後、宗介と浩介が真壁家までやってきた。わずか数日で、宗介は別人のように老け込んでいた。背中は丸まり、顔色はどす黒く黄ばみ、苦しげな咳をしている。喉が引きちぎられそうなその音は、聞くだけでこちらも辛くなった。浩介も似たようなもので、目はくぼみ、骸骨のように痩せ細っている。しかし、たとえどれほど声が枯れていても、宗介の態度は相変わらず横柄だった。「姉さん……弟である俺のこと……少しは心配してくれないか?俺たちが……死んでいくのをただ見てるつもりなの?」母はこれまでの人生、ずっと守り抜いてきた弟をじっと見つめた。そして、小さく溜息をつき、静かに言う。「宗介……あなたたちは、本当に自業自得だよ……」「自業自得!?」宗介は図星を指されたかのように、突然声を荒らげた。だが次の瞬間、激しく咳き込む。宗介が血走った目で母を睨みつけた。「俺はもう死にかけだ!浩介だってもうすぐ捕まっちまう!それなのに、姉さんは俺たちに自業自得だって言うのか?智樹くんはどうした?あいつなら何とかできるんだろ?海外にだって行くんだよな?あいつに何とかさせろ!コネを探して、金を使わせろ!俺たちを助けさせてくれよ!俺は姉さんの弟だぞ?それに、浩介だって姉さんの甥っ子だ!見捨てるなんてあり得ないだろ?」興奮してまくし立てる宗介は、まるで悪いのは助けようとしないこちらの方だと言わんばかりだった。「自分たちはこれからは海外へ飛んでいい暮らしが待っているから、実家の面倒なんて知ったこっちゃないってか?薄情者!どいつもこいつも薄情者だ!」母の顔から血の気が引き、その体がよろめいた。僕と父は慌てて駆け寄り、母を支える。「助けろ?どうやって?」父は母の前に立ち、低く冷徹な声で言った。「浩介くんが問題のある家畜を売って、人まで死なせたんだ。それに、証拠だって完璧に揃ってる。これは犯罪だ。なのに、智樹に犯罪者を救えって言うのか?金を使えと言ったな?お前たちには、これまで稼いだ汚い金があるだろ?」すると、浩介が急に顔を上げ、父を睨みながら叫んだ。「なんでそんなこと言うんだよ!俺たちが終わったら、そっちもただじゃ済まさないからな!そもそも、最初に智樹が飼料を止めなければ……」「黙れ!」父が鋭い声で遮った。
ビザの手続きもすぐに終わり、僕は来週の飛行機のチケットをとった。今日までの間にも、僕の耳には吉川畜産に関する話が時々入ってきていた。吉川畜産が安価な飼料に切り替えたことで、昔からの得意先が皆離れてしまったらしい。そこで、追い詰められた浩介は開き直り、安さだけを基準にするようになったようで、そのうち、消費期限が切れたものや、明らかにおかしい飼料まで使い出したという。浩介は粗悪な飼料で育てた、見るからに元気のない家畜を、少しでも仕入れを安く抑えたい小さな飲食店や個人経営者たちに、安値で売りさばき始めた。驚くことに、買い手もついたという。コストを極限まで削ることができ、値段を下げて売っても、すぐに現金が手に入る。その事実に、浩介はまるで突破口を見つけたような気になり、ますますこの悪循環へ沈んでいった。それどころか、買い手には「うちの家畜は良質な飼料で育てているから、この値段で出せるんだ」と吹聴までした。嘘もつき続ければ、いつしか本人さえ信じてしまうのかもしれない。浩介の両親も彼がまた金を持ち帰るようになると、顔に浮かんでいた不安の色を消し、再び笑みを取り戻した。里香は何度も親戚のグループラインで自慢するようになった。【注文が絶えなくて、浩介は今忙しいの。結局、ビジネスっていうのは機転が大事みたいね。勉強ばかりできたって、何も意味がないわ】なんとも嫌味ったらしい言い方だった。ある日、里香が母をメンションする。【智樹くんの就職先は決まった?もし決まってないなら浩介のところを紹介してあげようか?今、経理担当が必要なの。まぁ、給料は高くはないけど、仕事があるに越したことはないでしょ?身内なんだから、気兼ねなく頼ってね】僕の両親は返信もせず、そのままグループを抜けた。吉川畜産は安さを武器に、何人かの客をうまく丸め込み、短い間ながら再び「市場」を取り戻した。どうやら金儲けの「近道」を見つけたと思い込んだらしい浩介は、以前にも増して得意げな態度を見せるようになった。僕たちは渡航の最終準備に追われ、そんな喧騒に関わってはいなかった。しかしある日、無視できないほどのニュースが飛び込んできた。小さな食堂の客が体調の異変を訴え、ひどい食中毒を起こしたのが事の発端だった。電話でその報告を受けた浩介は、案の
浩介は、従業員たちを集めた。「いいか、よく聞いてくれ!最近、少し問題があって、経営が少し厳しいんだ。だから、来月からみんなの給料を一律2割下げることにした。この困難を乗り越えたら必ず元に戻すし、ボーナスも弾む。だから、今はなんとか受け入れてほしい」その瞬間、その場がざわついた。「減給?!どういうことですか、社長!」「そうですよ!真壁さんがいた時は、かなりの売り上げが出てたじゃないですか!真壁さんがいなくなってまだ数日なのに、なんでこんなにもすぐに給料を下げるんですか!?」「そうですよ!真壁さんがいた時はこんなこと無かったのに!トラブルが起きるとすぐに、私たちの給料を下げるなんて、納得いきません!」「真壁さんを呼んでください!真壁さんに間に入ってもらって話しましょう!」「そうですよ!真壁さんを連れてきてください!」従業員の感情も昂っていき、場は騒然となった。浩介の顔もみるみるうちに青ざめていく。自分が雇っている奴らなのに、口を開けば智樹のことばっかり……まるであいつがここのトップみたいじゃないか。挙句の果てには自分を、悪徳経営者扱いしやがって!その瞬間、抑えきれない怒りが一気に頭へ駆け上がった。目眩に襲われ、耳鳴りもする。「智樹を呼べだと?あいつが何だっていうんだ!」浩介は一歩前に飛び出すと、歪んだ声で怒鳴った。「この吉川畜産は俺のものだ!だから、お前たちは俺のいうことを聞いていればいいんだよ!あいつはただの恩知らずだ!お前たちは一体何に騙されているんだ!?」浩介は充血した目で、そこにいる人々の顔を睨みつけた。そして、従業員の一人である小山純一(こやま じゅんいち)を指さして吐き捨てる。「おい!小山!お前が一番うるさかったな。智樹のやつに会いたいんだろ?納得いかないんだよな?じゃあ、教えてやるよ!あいつはとっくに俺が追い出したんだ!お前もクビだ!今すぐ出ていけ!」純一は怒りに体を震わせ、顔を真っ赤にして言い返した。「しゃ……社長!真壁さんを解雇したんですか?社長には人の心ってものがないみたいですね。この吉川畜産を、汗水垂らして支えてきたのは私たちなんですよ!さんざん働かせておいて、最後は切り捨てるっていうんですか?それで給料まで下げるなんて…