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第10話

Author: ヒット作連発作家
三か月後、パリ。

私の個展が始まった。

母は私の腕にそっと手を添え、目を赤くしながら言った。

「麗奈、本当にやり遂げたのね」

父はそばに立ち、壁に並ぶ絵を長いあいだ黙って見つめていた。

やがて、ぽつりと一言だけ言った。

「……いい絵だ」

この三か月、私は向こうにいるほとんどの人との連絡を断ち、ただ絵だけに向き合ってきた。

絵具の匂いとキャンバスに囲まれながら、あの頃の痛みを、少しずつ色に変えていった。

何度も塗り重ね、形を変えて。

そうしてようやく、それらは壁に並ぶ静かな作品になった。

そのとき、美里からメッセージが届いた。

【おめでとう!今じゃ立派な大画家じゃない?打ち上げは思いきり楽しんできて!】

思わず笑って返信した、そのときだった。

会場の入口に、見覚えのある姿が現れた。

英佑だった。

深いグレーのコートをまとった英佑は、人波の中でも不思議と目を引いた。

彼はまっすぐこちらへ歩いてくる。

その腕には、アイリスの花束が抱えられていた。

「三枝さん。突然伺ってしまって、すみません」

英佑は穏やかに微笑み、花束を差し出した。

「ご迷惑でなけれ
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    三か月後、パリ。私の個展が始まった。母は私の腕にそっと手を添え、目を赤くしながら言った。「麗奈、本当にやり遂げたのね」父はそばに立ち、壁に並ぶ絵を長いあいだ黙って見つめていた。やがて、ぽつりと一言だけ言った。「……いい絵だ」この三か月、私は向こうにいるほとんどの人との連絡を断ち、ただ絵だけに向き合ってきた。絵具の匂いとキャンバスに囲まれながら、あの頃の痛みを、少しずつ色に変えていった。何度も塗り重ね、形を変えて。そうしてようやく、それらは壁に並ぶ静かな作品になった。そのとき、美里からメッセージが届いた。【おめでとう!今じゃ立派な大画家じゃない?打ち上げは思いきり楽しんできて!】思わず笑って返信した、そのときだった。会場の入口に、見覚えのある姿が現れた。英佑だった。深いグレーのコートをまとった英佑は、人波の中でも不思議と目を引いた。彼はまっすぐこちらへ歩いてくる。その腕には、アイリスの花束が抱えられていた。「三枝さん。突然伺ってしまって、すみません」英佑は穏やかに微笑み、花束を差し出した。「ご迷惑でなければいいのですが」その様子を見ていた両親が、少しだけ意味ありげに私を見た。私は花束を受け取り、礼儀正しく微笑み返した。「相馬さんが、どうしてパリに?」「出張です。あなたの個展があると聞いたので、少しだけ寄らせてもらいました」英佑はそれ以上多くを語らなかった。ただ、会場をゆっくり歩きながら、私の絵を一枚ずつ真剣に見ていった。オープニングパーティーが終わると、両親は先にホテルへ戻った。英佑は会場の入口のそばで足を止め、私を見る。「少し歩きませんか。セーヌ川の夜景が綺麗でよす」夜風が、セーヌ川の水面を静かに揺らしていた。私たちは肩を並べ、川沿いをゆっくり歩いた。しばらく、私たちは黙って歩いていた。けれど、その沈黙は不思議と心地悪くなかった。やがて英佑が、静かに口を開く。それは、もう誰にも聞かれることはないと思っていた問いだった。「今でも、彼のことを恨んでいますか」私は足を止め、遠くに見えるエッフェル塔へ視線を向けた。夜の中でまたたく塔の灯りは、大きな宝石のように見えた。恨んでいるのか。最初は、確かに恨んでいた。

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