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第3話

Penulis: 誤字ラ
帰宅した美空は、親しい友人たちに退職して故郷へ帰ることを伝えた。

話を聞いた友人たちは、翌日にみんなで食事をしようと提案した。美空も快く応じた。

もう、雅人と顔を合わせることはないだろう。

そう思っていた。

けれど翌日、店員に案内されて個室へ向かっていたとき、ふと視界の端に見覚えのある姿が映った。

2階の喫煙所で、友人と並んで、雅人が煙草を吸っていた。

指先には赤い火が灯り、その後ろ姿には、どこか人を寄せつけない寂しさが漂っていた。

美空は一度だけ目を向けると、すぐに視線を落とした。何も見なかったように、そのまま通り過ぎる。

けれど、吹き抜ける風に乗って、2人の会話が耳に届いた。

「本当に白川さんと結婚するつもり?吉沢さんがずっとそばにいたから、てっきりあの子と結婚するんだと思ってたよ」

雅人は淡々と答えた。

「そんなこと、考えたこともないよ」

友人は面白がるように笑った。

「でも、吉沢さんって家柄以外は申し分ないだろ。顔がいいし、仕事もできる。何より、お前に一筋だ。7年も一緒にいて、一度でも本気で結婚するって考えなかったのか?」

雅人は数秒ほど黙った。そして、冷淡な声で言い切る。

「ただのおもちゃに、本気になるわけないだろ」

その言葉が耳に入った瞬間、美空の顔から血の気が引いた。

思わずその場に立ち尽くす。

「お客様、どうかなさいましたか?」

案内していた店員が、不思議そうに振り返る。

美空は爪が掌に食い込むほど指先を握りしめ、どうにか足を動かした。

個室に入ってからも、食事はまるで味がしなかった。

集まった友人たちは、大学時代からの同級生だ。美空が長年、雅人に想いを寄せていたこと、そして、その雅人がもうすぐほかの女性と結婚することを知っている。

故郷へ帰ると聞けば、ようやく雅人から解放されることを喜んでくれた。その一方で、「今まで大変だったね」と、胸を痛めてくれた。

話は尽きず、誰からともなく涙がこぼれた。最後には、みんなで抱き合って泣いた。

食事会が終わる頃には、友人たちの夫や恋人が、次々と彼女たちを迎えに来ては、家へ帰った。

そして、美空だけが残された。

バッグの持ち手をぎゅっと握り、帰ろうとしたそのとき、突然、スマホが鳴った。

画面に表示されたのは、雅人の名前だった。

反射的に切ろうとしたものの、指が滑って通話ボタンに触れてしまう。

眉をひそめ、すぐに切ろうとしたところで、受話口から聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。

「もしもし、吉沢美空さんでいらっしゃいますか?」

「……はい、そうですけど」

「実は、篠原さんが酔ってしまわれまして。申し訳ありませんが、迎えに来ていただけないでしょうか。こちらの住所は――」

美空は戸惑った。

雅人は、むやみに酒を飲む人ではない。今の立場になってからは、無理に酒を勧める者もそうそういないはずだ。

それなのに、どうして酔いつぶれるようなことになったのだろう。

店員がなぜ自分に連絡してきたのかも気になったが、今さら問いただすつもりはなかった。

美空は声を冷たくして答えた。

「申し訳ありませんが、この後予定が入っているので、行けそうにないです。篠原さんの婚約者の方に連絡して、迎えに来てもらってください」

言い終えたそのとき、電話の向こうで、店員が悲鳴に近い声を上げた。

「篠原さん?どうされました?篠原さん!」

直後、通話が乱暴に切れた。

美空の顔色が変わった。胸がざわつき、嫌な予感が込み上げる。

考えるより先に、身体が動いていた。

彼女は階段を駆け上がり、2階の個室へと走った。

扉を勢いよく開ける。

「篠原さん!」

目に飛び込んできた光景に、美空は息を呑んだ。

雅人は暗い表情で椅子に座っていた。

右手の手のひらは血にまみれ、テーブルの上にも足元にも、砕けたガラス片が散らばっている。

そばには店員が一人、青ざめた顔で立ち尽くしていた。

それなのに、雅人本人は、まるで怪我をしたことなどどうでもいいかのように、冷めた顔をしている。

美空の声に気づくと、彼はゆっくりと顔を向けた。

暗い瞳が、まっすぐ彼女を捉える。

掠れた声には、わずかな不満と、どこか拗ねたような響きが混じっていた。

「……このあと予定があるから、来れないんじゃなかったのか?」

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