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中絶サインで愛は冷めた。結婚式は夫への復讐劇!
中絶サインで愛は冷めた。結婚式は夫への復讐劇!
Author: 今越し

第1話

Author: 今越し
北条由理恵(ほうじょう ゆりえ)が病院で中絶手術の同意書にサインをしてくれる人を探していた時、中村潤(なかむら じゅん)は生理痛に苦しむ彼女の遠藤渚(えんどう なぎさ)をなだめている最中だった。

いつも高慢な中村グループの御曹司が、片手に温かい飲み物、もう片手にはブランドバッグを提げ、プライドも何もかも捨て渚に尽くしている。

由理恵は何人かに連絡したが誰も空いておらず、だからといって両親に頼むこともできないため、仕方なく潤に声をかけた。「悪いけど、ちょっとだけ手を止めて、先にサインしてくれない?」

潤は苛立ちを隠そうともせず、眉をひそめた。「俺がいま忙しいの、見てわからないか?」

「ほんの一瞬で終わるから」と由理恵は食い下がる。「どうあっても、私はあなたの婚約者なんだから、サインくらいしてくれてもいいでしょ?それに、こんなことが外に知れたら、あなたのご両親だっていい顔はしないはずじゃない?」

潤は手を止め、振り返って由理恵を睨んだ。「どういう意味だ?俺を脅してるのか?」

由理恵は媚びるように微笑んで紙とペンを差し出し、サインが必要な場所を手のひらで示す。「ここにお願い」

「結局思い通りにさせようってか」と鼻で笑いながら、潤は荒くサインをした。

ペンを放り投げると、頬を膨らませてみせる渚に向き直り、愛おしそうに頬を撫でる。「ほら、拗ねるなよ。やきもち焼くことないだろ。由理恵なんて形だけの存在だ。結婚しようがしまいが、お前を大事にするのは変わらないんだから」

温かい飲み物を渚に飲ませ、ブランド物のバッグを手渡しながら囁く。「まずは先生に見てもらおう。体調はどうだ?痛いとこはないか?生理痛といっても、痛みが続くようであれば、心配だからな。診察が終わったら買い物に行こう。何でも欲しいものを買ってやるから、な?」

「その言葉、忘れないでよ?時間がないなんて言ったら、許さないんだから」渚が涙を拭いて笑う。

潤も優しい笑みを浮かべながら「約束は守るよ」と言った。

人目もはばからないその甘ったるい距離感に、見ているだけで胸焼けしそうになる。

目も鼻も、どこかにひびが入ったみたいにツンと痛み、何かが込み上げてくる。由理恵は唇をきつく噛みしめ、涙がこぼれないよう必死にこらえた。

中絶手術の同意書をぎゅっと握り締め、産婦人科の手術室へと戻ろうと背を向ける。

すると、背後から潤の声が聞こえた。「待てよ」

ようやくここが病院だって気づいたのか、そして自分がここにいること自体おかしいと察したのか……そう思って、由理恵は足を止め、振り返った。

しかし、そこにあったのは冷たく、自分にはまるで無関心といった表情だった。「さっき何にサインさせたんだ?よからぬことを考えてるんじゃないだろうな?」

サインしといて、今更?

中村家と北条家は釣り合いが取れている。ここまでの関係だって、打算で続けてきたわけじゃない。それなのに、どうしてこんなふうに、やましいことでもあるみたいに言われなきゃいけないのだろう。

一瞬、皮肉が駆け巡ったが、由理恵は首を振った。「あと1ヶ月もすれば私たちの結婚式でしょ?だから、最高に綺麗な状態で迎えたくて、ちょっと美容医療でも受けようかなって思っただけ」

潤は深く考える様子もなく、「勝手にしろ」と言った。

そして振り返り、渚の肩を抱いて潤は去っていった。

遠ざかりながらも、渚の小さな声が聞こえてくる。「北条さん、もう十分綺麗なのに整形なんてするんだ」

「あいつが何しようとどうでもいい。俺にとっては、渚が一番美しいんだから」

結婚を控えた仲だというのに、どうでもいいだと?

堪えきれずに、涙が決壊したダムのように溢れ出す。止めようと思っても、止めることはできなかった。

諦めようと思ったって、そう簡単に忘れられるはずがないのだ。

潤とは幼馴染であり、彼は大人になったら自分と結婚する、と言ってくれたため、由理恵はその言葉だけでなく、彼という存在そのものを大切に心の奥にしまい込んできた。

しかし潤は、その約束をとっくに忘れていた。

10代で恋を知った頃から、彼はこれまで何人もの女性と付き合ってきた。

華やかな年上の女性もいれば、無垢な年下の子もいた。どの女性に対しても、潤は金をかけ、共に時間を過ごし、ありったけの優しさで夢中にさせてきた。

しかし、由理恵に対してだけは違った。

幼馴染としての優しさや礼儀はあっても、ひとりの男として女性に向けるような甘さや、距離の近い親密さはまったくなかった。

それでも由理恵は構わなかった。婚約さえ破棄されなければ、長い一生を共に過ごせると思えたから。

それが変わったのは、ほんの2ヶ月前のことだった。潤が酒に酔いつぶれ、由理恵がバーまで迎えに行ったあの夜。潤は誰と勘違いしたのか、由理恵をソファへと押し倒したのだった。

思い描いていた潤との初めては、本当なら華やかでロマンチックな新居のはずだった。それが、こんな安っぽいバーの個室になってしまったことに、由理恵は少なからず心残りを感じていた。

その後まもなく妊娠がわかり、彼女はその小さな心残りも、そっと胸の奥へ飲み込んだ。

今まで何もなかった二人だが、もしかしたらこの子をきっかけに変われるかもしれないと、心のどこかで期待する。

しかし、検査結果を嬉々として届けに行った時、耳にしてしまった潤の会話……

「由理恵?ああ、あいつはそんながつがつくる感じじゃなかったけど、まあ……悪くはなかったな。

渚が生理の時に、ちょうどあいつが際どい服を着ててさ。なんとなく押し倒しちまったんだよ。抵抗もしなかったし、どうぞって言わんばかりだった。

終わった後も知らないふりしてたら、追及もしてこなかったしさ。素直で余計なことも言わない妻なら、こんなに都合のいいことはないだろ?俺たちみたいな家には、こういう女が必要なんだよ。

でも笑えるよな、あいつ。いまだに酒のせいで俺が押し倒したって本気で思ってるんだから」

20年以上想ってきた男は、ただの最低な人間だったらしい。

潤が自分に手を出さなかったのは、尊重していたからではない。ただ単に、自分をつまらないと思っていたからだった。

関係を持ってもそこに愛情などは皆無で、自分などただの暇つぶしの道具でしかなかった。

このまま潤の子を産んでも、自分も子供もただの都合の良い道具になるだけ。

それでいいのか?

いや、違う。北条家だって決して見劣りする家じゃないし、自分自身だって、軽く扱われるような存在ではないはずだ。

何の価値もない男に心も身も売り払うことなどない。

まぶたを閉じ、再び開くと、由理恵はサイン済みの中絶手術の同意書を医師に手渡した。「サインもらってきました。すぐに手術をお願いします」

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