INICIAR SESIÓN私と藤崎友香(ふじさき ゆか)は10歳から、誕生日にあるゲームをするようになった。 毎年誕生日には、相手から何か借りて、24時間経ったら返すというゲームだ。 10歳の誕生日、彼女は私がもらったばかりの白いスカートを選んだ。 18歳の誕生日、父親がくれたカメラを。 25歳の誕生日、私の車を借りていって、零時前にやっと嬉しそうに笑いながら返しに来た。 この20年間、私は彼女が何を借りようと、一度も断わったことはなかった。 そして30歳の誕生日の日、彼女はシャンパンを一杯飲み干し、テーブルに山のように積み上げられたプレゼント越しに、私の隣にいる東一樹(あずま いつき)を指さした。 「今年は何もいらない」 そう言うと、彼女は顔を傾けて、酔って焦点が定まらない目つきで、またこう言った。 「ねえ、琴葉(ことは)、今年は旦那さんを一日貸してよ」
Ver más私は指輪の内側に刻印された二人のイニシャルを見つめ、胸が締め付けられた。「あなたが好きにしたらいい」彼は指輪をぎゅっと握りしめた。「昔の君は俺が外すとすぐに探していただろう」私はそこから視線を外した。「もう探す必要はないし。私はあなたを引き留めたし、結果どうなるかも伝えていたわ。いつだって、あなたの帰りを待ちつづけた」この時、一樹の目から涙がポタポタとこぼれ落ちた。彼は涙を適当に拭い、肩を落とした。すると後ろから突然彼の絞り出すような苦し気な声が聞こえてきた。「琴葉」私は立ち止まらなかった。あれから1年後の誕生日。私は人生で初めて友香のいない誕生日を過ごした。おばさんがケーキを予約してくれて、友人たちがリビングに集まり、ソファやテーブルの上はプレゼントで溢れた。友人の一人が私に薄いグレーのマフラーを巻いてくれて、鏡に向かってマフラーに触り、目を輝かせた。「このマフラー可愛いよね、ちょっと数日くらい貸してくれない?」私は無意識に手をあげてマフラーを外そうとした。指先がマフラーの端に触れた瞬間、私は手を止めた。友人はまだ私の返事を待っていた。からかうような笑みを浮かべている。私は柔らかなカシミヤのマフラーを触った。「貸さない」彼女は一瞬呆け、私の頬を軽くつまんだ。「ケチね、じゃ、いいわ、自分で買うから」その時、みんなが一斉に笑った。私もマフラーを隠すような動作をしてみせた。胸は不思議と熱くなった。お願いされて拒否をすることは、思っていたよりも怖いことではないらしい。誰かが急に態度を変えてくることもないし、過去の友情と言って追いつめてくることもない。この時、スマホが突然鳴り出した。一樹だ。【誕生日おめでとう】彼のアイコンは以前撮った浜辺の写真だ。ここ一年、彼は何かことあるごとに、私にメッセージを送ってきた。正月には一緒に初詣に行かないかと言ってきたり、雨の日には傘を忘れないように言ってきたりだ。ある時、私がよく好きで食べていたお菓子を送ってきたことがあるが、おばさんが開けずにそのまま送り返した。私は彼のアイコンをタップして、ブロックし、徹底的に削除した。おばさんが向こうで私を呼んでいる。「さ、ロウソクに火をつけたから、お願い事
私はブレスレットを箱に戻した。「だから、どうもありがとう」彼はこの時まだ箱を閉じていなかった。「それなら、なんでそんなふうに俺を見るんだよ?」涙が込み上げてきた。「だって、私のお母さんが使っていた頃のブレスレットの石はもう見つからないからよまたいくら同じような石を探したって、変わらないわ」一樹は拳を握りしめ、目を少し赤くさせた。「君はブレスレットのことを言ってるのか、それとも俺たちのこと?」私は答えなかった。すると彼は興奮した様子で呼吸を荒くさせた。「琴葉、俺と藤崎さんはもう関係をきっぱり切ってしまったって言っただろう。あれから一度も彼女に会ってないし、電話にも出ていない」「分かってるわ」「だったら、どうしてこれでもまだ駄目なんだ?」彼は緊張した声で言った。「俺は間違いを認めたし、自分を改めもした。取り戻せるものは全部取り戻してきた」私は彼を見ていると、胸を締め付けられたように苦しくなった。「一樹、あなた、今さら必死になって取り戻そうとしているけど、それは私に捨てられた事実を受け入れられないだけでしょ」彼は言葉に詰まった。「だけど、あんなことをされるたびに、私は十分苦しんだわ」私はブレスレットを箱から取り出して、握りしめた。「箱は持って帰って」彼はその場に立ち尽くしていた。私は彼に背を向けて、マンションのエントランスに入っていった。エレベーターのドアが閉まる前に、彼は依然として空の箱を握りしめ、指で箱の縁を強く押さえつけていた。一樹が去ってから3日目、大学の同級生グループが突然賑わった。誰かがある録音をグループ内に送った。録音にはグラスをぶつけ合う音などがうるさく、一樹の声はとても抑えられていた。「あの日、琴葉は『貸さない』って言った。彼女ははっきり拒否したけど、俺が自分で友香と一緒に行くことにしたんだ」グループ内は暫く静かで、すぐに誰かがその場を和ませようとメッセージを送った。【あの日はさ、みんなあなた達三人がふざけてるのかと思ってたんだよね】すると一樹が冷たくその言葉を切り捨てた。【琴葉はふざけてなんかなかった。最初から最後まで、間違っていたのは俺のほうだ】私は画面に釘付けになり、手をゆっくりと握りしめた。誕生日パーティ
私は口元に手をあてて押さえたが、嗚咽する声まで抑えることはできなかった。付箋が箱の下から出てきた。【全部取り返してきたから】付箋にはそう書かれてあった。その紙を握りしめた瞬間、涙がどっと溢れてきた。おばさんがため息をついて、私の傍にしゃがんだ。「泣きたいなら思いっきり泣けばいいのよ」私はうつむき、ぎゅっとブレスレットを握りしめた。「ただ、お母さんのことを思い出しただけです」それから私は箱の中に入っている物を一つずつ取り出していった。その多くが、もうすでに記憶から消えていたはずなのに……ここ数年、口では気にしないで、大丈夫だと言いながらも、やはり心の底では覚えていた。スマホがこの時振動した。一樹からのメッセージだ。【あといくつか見つけ出せてないんだ。また探しておくから】私はスマホの画面を見つめ、指を暫く止めていた。【ブレスレットは受け取ったわ。他のものは持って帰って】すると彼はすぐに電話をかけてきた。私は少しためらいながらも、電話に出た。彼の声はかすれていた。「なんで?」この時、私は床に広がる昔の物を見ていた。「ブレスレットだけでいいから」「でも、他のだって全部君の物だろう」「昔はね」電話の向こうから沈んだ息が聞こえてきた。「琴葉、君がなくしていたものを全部返してあげたいだけなんだよ」その言葉に私は鼻の奥がツンとした。もし、彼のこの言葉を数年前に聞いていれば、きっと彼に抱きついて大泣きしたことだろう。だが今の私は、ただただ疲れ切っていた。「一樹、私はね、なくしたものが手元にないことに慣れ切ってしまっているのよ」彼は黙ってしまった。私は白いスカートをもう一度折りたたんで箱に戻した。「明日誰かに取りに来てもらうわ」電話を切って、私はブレスレットを握ったまま窓辺まで来た。日の光が少し古くなったブレスレットにあたり、不自然な光を放った。ブレスレットに目を向けてじっくりと見つめた。真ん中についていた薄いブルーの石は周りに嵌められた他の石よりも新しく見えた。私は指でそっと石留めの部分を撫でた。そこには小さく細かいが、傷のようなものがあった。お母さんの形見の石は、戻ってこなかった。私はその石を写真に撮り、一樹に送った。
友香は涙を流していたが、口元は相変わらず笑っていた。「それが、どれだけウザいかって、あんたに分かる?」私は呆然とした。すると友香は私に近づいてきた。「あなたは恵まれているから、一つくらいなくなったところでどうでもいいのよね。私が持っていった物全部、まるであなたから施しを受けているみたいだったわ」その言葉を聞いた瞬間、心に怒りが湧いてきた。「だったら、私に貸してなんて言わなけりゃいいじゃないの」友香は声を詰まらせた。私は彼女を見つめた。「スカートはあなたが選んだものだし、カメラは借りていったよね。ブレスレットはずっとつけたまま外そうとしなかったじゃないの。私は一度たりとも、あなたに使ってほしいなんて言ったことはないわよ」友香の顔色はどんどん悪くなっていった。「だから、あなたは自分は一切間違ってないっていうの?」「昔、あなたが余計なことを、深く考えすぎるんじゃないかと思って、だから私は断わらなかったのよ」私はレジ袋をぎゅっと握りしめた。爪が薄い袋越しに手のひらに食い込んだ。「今思えば、私、ただあなたを甘やかしていただけみたいね」友香は息を詰まらせた。そして次の瞬間、突然また笑いだした。「だったら、一樹君は?彼も私がどうしても貸せって強制したっけ?」その言葉に私は指先まで冷え切った。友香は涙を拭った。「最初は彼と体の関係になるとは思ってなかったよ。私はただ、私が貸してって言ったもので、あなたが拒否するものはあるのか試してみようと思っただけ」友香は瞳の底に私への長年の恨みを露わにして睨んできた。「あなたが『貸さない』って言った時は、本当に悔しくって狂いそうだった。あなたにも奪われたくないものがあったのね。私とは20年の付き合いだっていうのに、彼たった一人に敵わないなんて」私は胸を締め付けられたかのように苦しくなったが、突然悟った。「だから、あなたはわざと彼をそそのかして連れて行ったのね」友香は否定しなかった。「私、彼に確認したよ。琴葉は『貸さない』って言ってるけど、それでも一緒に来るのかって」友香はにやりと口角を上げた。「そしたら、彼、来ちゃったの」その短い言葉がまるで鋭いナイフのように私の耳を突き刺した。レジ袋を握りしめる手に、さ