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九十九回の諦め
九十九回の諦め
Author: モール

第1話

Author: モール
急性虫垂炎を起こしたとき、父も母も、兄の藤宮陽介(ふじみや ようすけ)も、婚約者の神原怜司(かんばら れいじ)も、みんな妹・藤宮紗月(ふじみや さつき)の誕生日を祝うのに夢中だった。

手術室の前で、何度も電話をかけた。

手術同意書にサインしてくれる家族を探したけれど、返ってきたのは、冷たく通話を切る音ばかり。

しばらくして、怜司から一通のメッセージが届いた。

【澪(みお)、騒ぐなよ。今日は紗月の成人式だ。用があるなら、式が終わってからにしてくれ】

私は静かにスマホを置き、自分の名前を同意書に書き込んだ。

彼らが紗月のために私を切り捨てたのは、これで九十九度目だった。

なら、今度は私のほうから捨ててやる。

もう、理不尽なえこひいきに泣くことはない。

病院に三日間入院しているあいだ、私のスマホは驚くほど静かだった。

一本の電話も来なかった。

けれど、私ももう誰にも連絡をしなかった。

以前のように、わざわざみんなのインスタを覗いて、動きを追いかけることもなかった。

ただ、ベッドの上で静かに傷を癒し、検査や支払いのときだけ、自分の弱い体を引きずって動いた。

退院の日も、誰にも知らせなかった。

荷物を少しずつまとめ、腹の痛みをこらえながら、一人で家まで戻った。

玄関を開けた瞬間、中の笑い声がぴたりと止まる。

リビングのソファには家族全員がそろっていて、婚約者の怜司までが妹の隣に座り、片手を彼女の肩にやさしく置いている。

私の姿を見た途端、怜司はあわてて手を引き、気まずそうに顔をそらす。

「澪、もう帰ったのか……この数日、どこに行ってたんだ?」

陽介が鼻で笑い、冷たい声で言う。

「どこに行ってたかなんて、分かりきってるだろ!紗月の成人式に出たくなくて、わざと俺たちに嫌がらせしたんだ。小さい頃から紗月がうまくいくのが気に入らないんだよな」

私は何も言わず、黙って自分の部屋へ歩く。

兄は、私が言い返さないのに驚いたようだ。

いつもなら、理不尽な言葉を浴びせられるたびに泣き出して、まるで世界中から見放されたみたいに取り乱していた。

なのに今日は、どうしてこんなに静かなのか――と。

母がテーブルからジュースの缶を取って、あわてて私のもとへ駆け寄る。

「澪、この前は紗月のことで手が離せなくて……電話、出られなかったの。怒らないでね」

私の手に押しつけられたマンゴージュースを見つめる。

もう期待なんてしていないはずなのに、胸の奥がじんわり痛む。

私はマンゴーアレルギーなのに、紗月が好きだからと、家にはいつもマンゴー味のものばかり。

何度言っても、誰一人として覚えていない。

私はそのジュースを母の手に押し返し、静かに一歩下がる。

「怒ってないよ……部屋に戻るね」

リビングに背を向けた瞬間、大きな音が響く。

父が勢いよく立ち上がり、テーブルを叩きつけて怒鳴る。

「入ってきたときから、そんな暗い顔してどうしたんだ!

母さんだって謝って、おまえの好きな飲み物まで渡したのに、その態度はどういうつもりだ?本当に甘やかしすぎたな!」

胸の奥がきゅっと縮み、息をするのも苦しい。

涙で視界がぼやける。

それでも私は、母の手に残っていたマンゴージュースを取って、一気に飲み干す。

空になった缶をそっとテーブルに置き、涙をぬぐってから、父をまっすぐ見つめる。

「マンゴーが好きなのは紗月だよ。私はマンゴーアレルギー。

でも、もうどうでもいい。飲み物は飲んだし、部屋に戻ってもいい?」

母が焦ったように背中を叩きながら言う。

「ばか娘、アレルギーなら先に言いなさいよ!

誰も無理に飲めなんて言ってないでしょ、まったく……どうしてそんなに頑固なの?」

父も気まずそうに眉をひそめながら、それでも口調だけは強いままだ。

「自分の口で言えばいいだろ。昔からそうだよな。おまえは本当に可愛げがない。

紗月みたいに、もう少し愛想よくできないのか」

そのとき、リビングから紗月の甘えた声が聞こえる。

「もう、お父さん。そんな言い方したら、お姉ちゃんが傷ついちゃうよ」

一見かばっているように見えたけれど、目の奥に浮かぶ得意げな光は、隠そうとしても隠しきれない。

紗月はいつだって、私の不器用さを引き立てることで自分を輝かせる。

何をするにも、私と比べるのが好きで、私を見下すことでしか、安心できないのだ。

悲しいはずなのに、心はもう何の反応も示さない。

こんな屈辱の場面に立たされても、波ひとつ立たないほどに。

「ごめんなさい。私が悪かった。もうしないよ」

言葉を口にした途端、空気が凍り、全員の視線がこちらに向く。
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