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第3話

作者: 塩梅
私と亮平は長年の付き合いで、共通の友人も数え切れないほどいる。

誕生日の夜をすっぽかされ、別々の部屋で眠りについた翌朝。

友人たちからは早速、「仲直りしなよ」というお節介なアドバイスが届き始めた。

最初は事情が飲み込めなかったが、タイムラインを開いて合点がいった。

亮平が深夜二時に、ゲストルームのドアの前に座り込んでいる写真をアップしていたのだ。

文章は短い一言だけ。

【嫁を怒らせちゃった。どうすればいい?】

過去の出来事が、一枚一枚舞い落ちる紙片のように記憶の中で繋がり始める。

亮平は仲間内でも有名な「尽くす系彼氏」だった。

私が少し体調を崩せば、彼はなりふり構わず医者の友人に電話をかけ、注意点を聞きまくる。誰もが彼を良い彼氏だと褒めそやした。

私が絶版になったぬいぐるみが欲しいと言えば、彼は手当たり次第に友人に尋ねて回った。

結局手に入らなかったけれど、みんな彼の努力を知っていた。

私が辛い料理が食べたいと言えば、彼はすぐに作り始めた。十回作って十回失敗し、結局私は一口も食べられなかったけれど。

あの日、彼は失敗した黒焦げの料理をすべてSNSにアップし、「才能ないなあ」と自嘲してみせた。それに対し、友人たちは称賛のコメントを寄せた。

今、彼は「誠実」にもタイムラインで過ちを認めている。

友人たちはこぞって彼の味方につき、私に「心が狭い」「許してやれ」と説教をしてくる。

想像がつく。もし今、私が別れを切り出せば、友人たちの口から私は「わがまま女」として語られ、亮平は「可哀想な良い彼氏」になるのかしら。

愛という名の色眼鏡を外して見てみれば、亮平が他の男たちと何ら変わらないことに気づく。

いや、彼はそれ以上に卑劣だわ。

昨日のスレッドに、新たな書き込みがあった。

【スレ主:昨日、親友ちゃんは一人寂しく誕生日を過ごして、チョロ男くんと喧嘩しちゃったみたい。

今日、食事会を開くことにしたわ。私が二人の誤解を解いてあげなきゃ。

もう私のこと責めないでよね?私は誰よりも二人の幸せを願ってるんだから。ぷんぷん】

奈月のこの「猫かぶり」全開の発言は、再びネット住民の怒りを買った。

激怒したユーザーたちが罵倒コメントを書き連ねる。

だが、奈月は自分が悪いとは微塵も思っていない。

正気の言葉など、彼女には届かないのだ。

すぐに奈月からもLINEが届き、私と亮平に食事を奢りたいと言ってきた。

私は「分かった」と一言だけ返した。

そして、スレッド内で奈月が書き込んだ常軌を逸した文章と写真を、冷静に全て保存した。

待ち合わせのレストランに着くと、亮平がしゃがみ込み、奈月のヒールについたジュースの汚れを拭いているところだった。

私の姿を認めると、彼は慌てて立ち上がった。

奈月が先に口を開いて弁解した。

「さっきジュースこぼしちゃって。私、スカートだからしゃがめないでしょ?だから亮平に手伝ってもらったの。静子、誤解しないでね」

私は椅子を引き、奈月の向かいに座って微笑んだ。

「靴を拭いただけでしょ?誤解も何もないわ。

それに、二人の付き合いは長いんだから。何かあるならとっくに何かが起きてるはずでしょ?ねぇ、亮平?」

亮平の表情が強張った。彼は私の隣に座り、ぎこちなく頷いた。

奈月は手を握りしめ、不機嫌そうに亮平を睨んだ。

「静子、男を甘やかしちゃダメだよ。

今日の食事会はね、一つは亮平が静子に謝るため。もう一つは、良いニュースがあるの。

私、MRグループのデザインコンテストで一位を獲ったの!これで晴れてMRグループの社員になれるわ。亮平と同じ会社よ。

静子も早く入社できればいいのに。そうすれば私たち三人、高校時代みたいに何をするのもずっと一緒でいられるのにね」

奈月は両手を組んで顎を乗せ、期待に満ちた顔をした。

彼女はわざとらしく小首を傾げて尋ねてくる。

「そういえば、静子もこのコンテストに参加したって亮平が言ってたけど、結果はどうだった?」

私は首を横に振った。「期待外れだったわ」

実は三日前、私のもとにはMRグループから不採用通知が届いていた。

業界最大手の会社に三年勤務し、それなりに名も売れていた。

昇進と昇給まであと一歩というところで、亮平からプロポーズされた。

彼は新居の頭金を払い、あとは女主人の私を待つだけだと言った。

私は熟考の末、遠距離恋愛を終わらせて彼を選んだ。

退職後、MRグループからオファーがあった。

だが、変なプライドが邪魔をして断ってしまった。

ジュエリーデザインコンテストで一位を獲って、実力を証明してから待遇交渉をしようと思ったのだ。

しかし、私の慢心のせいで、結果は惨敗だった。

三位にかすることさえなかった。

だが、まさか奈月が優勝したとは予想外だった。

学生時代、彼女は金持ちのボンボンとの恋愛にかまけて、学業はおろかだった。

最後のひと月、彼女は作品は完成せず、論文も一文字も書いていなかった。

穴埋めをするように、私が少しずつ手伝ってあげたのだ。

卒業後も彼女は恋愛に現を抜かし、就職もしなかった。

ボンボンと別れた後は、ブランドショップの店員にまで落ちぶれていた。

私がスタジオを勧めたり、会社を紹介したりしても、彼女は首を縦に振らなかった。「ブランド店の社員割引があるから」と言って。

そんな彼女が、MRグループの入社パスを手に入れたと言う。

私は嫉妬深い人間ではないし、敗北を認める勇気もある。

だがそれは、奈月が勝者だと知る前の話よ!

取り下げられた奨学金申請書のことが脳裏をよぎる。

大学院推薦の公示最終日に通報されたことを思い出す。

私はふと顔を上げ、隣にいる亮平を見た。
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