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第6話

Author: 江ノ祈
処置室は、急に慌ただしくなった。

由佳はさっと顔色を変え、震える手で哺乳瓶をつかむと、鼻先に近づけて匂いを確かめた。

「知らない……私じゃない。こんなの、入れてない……」

由佳の母は赤ちゃんのベッドへ駆け寄り、声を上げて泣き始めた。

「かわいそうに……この女が由佳を妬んで、ミルクにアーモンドの粉を混ぜたのよ!」

言い返す気にもならず、私は黙って二人を見ていた。

その最中、由佳の母が手にしていた袋を、こっそりベッドの下へ押し込んだ。

見覚えのある袋だった。

自然食品店で、アーモンドなどを混ぜて作ってもらった栄養補助用のパウダーだった。

雅也が胃を悪くして食欲をなくしたとき、少しでも栄養が取れるようにと用意したものだった。

私はベッドの下を指さした。

「すみません。あそこにある袋、うちからなくなったものかもしれません。確認してもらえますか」

袋を見た途端、雅也の顔色が変わった。

朝食にも何度も出していたものだから、雅也が見覚えがないはずはなかった。

警察官が袋を確認しようとすると、由佳が慌てて止めに入った。

「待ってください!それ、私たちのものです。さっきのこ
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  • 二択のたび、夫は彼女を選んだ   第6話

    処置室は、急に慌ただしくなった。由佳はさっと顔色を変え、震える手で哺乳瓶をつかむと、鼻先に近づけて匂いを確かめた。「知らない……私じゃない。こんなの、入れてない……」由佳の母は赤ちゃんのベッドへ駆け寄り、声を上げて泣き始めた。「かわいそうに……この女が由佳を妬んで、ミルクにアーモンドの粉を混ぜたのよ!」言い返す気にもならず、私は黙って二人を見ていた。その最中、由佳の母が手にしていた袋を、こっそりベッドの下へ押し込んだ。見覚えのある袋だった。自然食品店で、アーモンドなどを混ぜて作ってもらった栄養補助用のパウダーだった。雅也が胃を悪くして食欲をなくしたとき、少しでも栄養が取れるようにと用意したものだった。私はベッドの下を指さした。「すみません。あそこにある袋、うちからなくなったものかもしれません。確認してもらえますか」袋を見た途端、雅也の顔色が変わった。朝食にも何度も出していたものだから、雅也が見覚えがないはずはなかった。警察官が袋を確認しようとすると、由佳が慌てて止めに入った。「待ってください!それ、私たちのものです。さっきのことは勘違いだったので、もう大丈夫です。だから触らないでください!」それでも警察官はベッドの下から袋を取り出し、確認のために預かった。雅也は何か言いかけたが、結局は黙ったまま、その様子を見ていた。由佳たちが私に罪を着せようとしていたのに、雅也は止めようともしなかった。今さら何を言っても遅いと分かっているのだろう。原因が分かると、赤ちゃんにもすぐ必要な処置が取られた。「藤井さん、ご協力ありがとうございました」あとで聞いた話では、由佳の母は、あのパウダーを高価な健康食品だと思い込み、赤ちゃんにも体にいいだろうと勝手に飲ませたらしい。私の家を出るとき、勝手に持ち出していたのだ。ところが夜中になって、赤ちゃんの全身に発疹が出た。そこで二人は、私のせいにして金を払わせようとしたらしい。まさか由佳の母が持ち出したものが、そのまま証拠になるとは、由佳も思っていなかったのだろう。事情を確認した警察官が、由佳に声をかけた。「中村さん、詳しいことは署で伺います。ご同行ください」由佳は慌てて雅也の腕をつかんだ。「雅也さん、違うの!私じゃない!私が考えたこ

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