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第4話

Author: みっつ
「いいよ」

光一は目を見開き、驚いたように私を見た。

私は彼に目を向けず、玲奈にうなずいた。

「それでいい」

光一の表情が険しくなった。

一方の玲奈は、飛び上がりそうなほど喜んだ。

「約束だからね!」

私は5本の指を立て、玲奈を見た。

「今度は私から始める。

光一と、地下の部屋で暮らしたことがある」

5年前、起業したばかりの光一は、仲間に裏切られて資金をすべて失った。

負けず嫌いな彼は実家に頼ろうとせず、古い建物の地下にある部屋で暮らすしかなかった。

夏は雨水が流れ込み、蚊や虫だらけになった。

冬は氷点下まで冷え込み、布団まで氷のように冷たかった。

そんな部屋で、私は彼と2年間暮らした。

玲奈は悔しそうに指を1本折った。

私は続けた。

「母の形見のブレスレットを売って、光一の会社に資金を出したことがある」

同じ頃、光一の会社は運転資金が尽き、倒産寸前まで追い込まれていた。

何度も酒に逃げる彼を見た。

自分は本当に何をやってもだめなのかと、私に尋ねたこともあった。

そんな姿を見ていられなかった。

私は母が残してくれたブレスレットをひそかに売り、1600万円を用意した。

光一はグラスを手にしたまま、ふと動きを止めた。

何かを思い出したのか、その目にふっと柔らかな色が浮かんだ。

玲奈は唇をかみ、不本意そうに2本目の指を折った。

「もう終わり?次は私の番でしょ」

苛立ちをむき出しにして私をにらんだ。

私は笑った。

「まだよ。3つ目。私は、光一の子を妊娠したことがある」

「えっ?」

その場にいた全員が息をのんだ。

「そんな話、初めて聞いた」

「光一、お前は知ってたのか?」

光一が手にしていたグラスが小さく震え、数滴の酒がテーブルにこぼれた。

それをきっかけに、彼もあの日の記憶へ引き戻されたのだろう。

付き合って3年目のことだった。

あの日、腹痛を訴えた玲奈が、1本の電話で彼を呼び出した。

けれどその日は、妊婦健診で異常を告げられた私にとっても、何より彼にそばにいてほしい日だった。

私たちは激しく言い争い、光一はわがままを言うなと私を責めた。

私は雨の中へ飛び出し、階段から転げ落ちた。

次に意識が戻った時、私は病院のベッドに横たわっていた。

医師から、妊娠していたこと、そして流産したことを告げられた。

知らせを受けた光一は、私の目の前で自分の頬を何度も強くたたいた。

目を真っ赤にして謝り、必ず私と結婚すると誓った。

いつかまた、二人のもとに子どもが来てくれる、と。

その言葉を信じ、この2年間で私は5回、彼に結婚を申し込んだ。

結婚さえすれば、失った子どもが戻ってきてくれるような気がしていた。

けれど、もう自分をだますことはできなかった。

個室では、誰も声を上げなかった。

光一は複雑な目で私を見つめ、かすかに喉を鳴らしたものの、何も言えずにいた。

空になったグラスの縁をなぞる指には、関節が白くなるほど力がこもっていた。

その姿を見た玲奈は、とうとう苛立ちを抑えきれなくなった。

「同情を買うつもり?光一と5年付き合ってきたからって、それが何?昨日のゲームに勝ったのは私よ!」

玲奈が手を振り上げた。

光一はその腕をとっさにつかんだ。

「何をする気だ!美月は俺の彼女だぞ」

「でも、私と日の出を見に行ったじゃない!」

玲奈は目を赤くして叫んだ。

光一は一瞬動きを止め、弾かれたように玲奈の腕を放して私を見た。

後ろめたさと動揺が、ありありと目に浮かんでいた。

私は彼を無視し、玲奈をまっすぐ見つめた。

「4つ目。私は光一に5回、プロポーズしたことがある」

玲奈は憎しみに満ちた目で私をにらみながら、4本目の指を折った。

全員が息を殺し、最後の一つを待っていた。

私は一度言葉を切り、深く息を吸った。

「最後の1本……私は光一と別れることにした」

言い終えた瞬間、光一の目が赤くなった。

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