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悠・A・ロッサ
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Novels by 悠・A・ロッサ

憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

二十二歳の春、朝倉朱音は恋人・晴紀との初めての誕生日デートをすっぽかされ、丁寧に包んだプレゼントはゴミ箱に捨てられた。さらに、令嬢に押し倒され、深くキスされている晴紀の姿まで見てしまう。 泣き崩れた朱音を救ったのは、中性的な美貌のイメージディレクター・天野黛(D)。Dに導かれ、朱音は七年後、美しく成熟したマーケティング部長となる。そして仕事相手として再会した晴紀は、苦しげに謝罪する。だが朱音は知っていた。彼が背負う家の事情を──そして自分が奪われたものの大きさを。七年越しの復讐がいま静かに始まる。けれどその計画は、憎しみだけでは終わらず、次第に別の感情へと形を変えていく──。
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Chapter: 第19話 たった一日で私はこの会社の異物になった
 役員会議室を出てから、どう廊下を歩いたのか── ほとんど覚えていなかった。 気づいた時には、エレベーターの前で立ち尽くしていた。 そこへ急ぎ足のDが追いついてくる。「朱音……大丈夫?」 私は少しだけ顔をそらした。「平気。歩ける」 そう言いながらも、腕が震えているのを自分で分かっていた。 エレベーターが閉まり、二人きりになる。 Dは一瞬ためらい、しかし真正面から訊いた。「……あれ、本当なの?」 ゆっくり息を吸った。「……キスはしてない。不倫でもない。 写真のあれは、ただ……一瞬、近かっただけ」「なら、ちゃんと説明すれば──」「でも」 その一言で、Dの言葉が止まる。 私は、自分の指を強く握りしめた。「……もし、あの時あなたから電話が来なかったら…… きっと私は、止まれなかった」 Dの表情が揺れた。「朱音、それは──」「分かってる。 実際には何も起きてない。でも…… 起きてもおかしくなかった自分がいたの」 声は震えていないのに、胸の奥だけがきしむ。「その自分が……一番、許せない」 Dはかすかに息を呑んだ。「誰も責めてないわ」「分かってる。でも……私は責めてる」 ほんの一瞬の沈黙。 Dは、私の顔を見つめた。「……それで戦えないの?」 言葉の代わりに小さく頷く。「あなたが戦う気があれば、私は助けられる」 その言葉に、少し揺れる。 それでも、小さく首を振った。「そう……」 Dが諦めたようにため息をついた。 エレベーターが一階に着く。 扉が開いても、二人はしばらく動けなかった。「ありがとう、来てくれて。でも……今日は一人でいい」 Dは何かを言いかけて、結局その言葉を喉の奥で飲み込んだ。 その沈黙に、私はただ小さく会釈するしかなかった。 それから一人でタクシーを止め、会社へ戻った。*** タクシーが止まり、私はそのまま会社のロビーへ足を運んだ。 自動扉の向こうの空気は、ひと目で分かるほど冷たかった。(……ああ、前とは違う空気だ) エレベーターを上がり、企画部のフロアに足を踏み入れた瞬間、すれ違った二人の女性社員が、声量を落とすでもなく会話を続けた。「……で、部長が不倫相手なんでしょ?」「昨日の写真、回ってきたよ。あれガチじゃない?」「天野様とも仲良かったのに……そういう仕事で
Last Updated: 2025-12-13
Chapter: 第18話 君は守ると言った。でも、本当はどうでもよかったんだろう
 扉が閉まる音がやけに大きく響いた。 リュエール側が追い出されたあとの役員会議室は、瞬く間に緊急対策本部の顔に変わる。「公式謝罪文を──」「先に取引先への連絡が──」「いえ、清晴堂としての初動が先です!」 広報・総務・営業が、同時に三方向へ動き出し、机の上にメールアラートの音が連打のように溜まっていく。「……落ち着いてください」 悠斗が声を上げた。 若いのに、最初に呼吸を整えたのは彼だった。「優先順位をつけましょう。 まずは、誤情報の拡散防止と取引先への連絡です。 謝罪文は文言の統一が必要です── どれも同時に走らせないと間に合わない」 その言葉に、意外にも全員が一瞬黙った。 まともな指示が、ようやく出たからだ。 晴紀は、机に手をついたまま、うつむいていた。 肩が僅かに震えている。「……俺が……辞めた方がいいのかもしれない」 絞り出すような声。 会議室が凍りつく。 役員がざわつきかけたその瞬間── 鬼塚が静かに、たった一言で空気を押し返した。「社長は、留任すべきです」 晴紀も、いずみも、顔を上げる。 鬼塚は、冷静で、揺れていなかった。「この炎上は個人の責任ではありません。 組織の管理体制の問題です。 一人を切って済む話ではない」 いずみの眉がわずかに動いた。 明確な反論ができない。 鬼塚は続けた。「それに── いま責任者を変えると、 清晴堂が逃げたという印象を与えます」 重たい沈黙が落ちる。 鬼塚は資料を閉じ、わずかに姿勢を正した。 いずみの横で広報が震え、営業が息を呑んでいる中── 淡々と、ビジネスライクな声で言った。「元々は企画勝負としてお声がけいただいた立場ですが……」 一拍置き、全員を静かに見渡す。「この状況は非常事態です。 契約内容を緊急対応込みに拡張いただけるのであれば、炎上対策まで含めて対応できます。 必要なのは、優先順位の整理と、初動の速度だけです」 広報が息を呑み、誰かが小さく「あ……」と声を漏らした。 鬼塚は、無表情のまま軽く頷いた。 けれど、その言葉は確かに会議室の中心を奪った。 いずみの支配していた空気が── ほんの少し、鬼塚の方へ流れていく。 晴紀は、ようやく呼吸をひとつ吸い込んだ。「……お願いします」 その言葉は、敗北でも、依頼でもなかっ
Last Updated: 2025-12-13
Chapter: 第17話 嫌な予感は、現実になった
 空気が……にわかにざわつき始めた。 さっきまで確かにあった評価の熱が、 宙に浮いたまま行き場を失い、 不自然な沈黙に押し流されていく。 誰かが息を呑む音。 椅子がわずかに軋む気配。 会議室のあちこちで、小さな違和感が連鎖する。 広報の一人が、顔色を失ったまま小走りでいずみの横へ向かい、 周囲を気にするように身を屈めて、スマホをそっと差し出した。 いずみは、すでに聞かされていた内容を確かめるように、 画面へと視線を落とす。 その眉が、静かに、しかし深く寄った。 ——その変化だけで、十分だった。 嫌な予感が、背筋を撫でる。 冷たい指で、ゆっくりと。 同時に、リュエールのスタッフが私の方へ向き直った。 視線が合った瞬間、はっきりと分かる。 これは、いい知らせではない。「……あ、朝倉部長……こちらを……!」 震える声。 差し出されたスマホが、やけに重く感じられた。 画面を見た瞬間、息が止まった。 そこに映っていたのは—— 昨夜、ほんの一瞬だけ重なった、晴紀とのキス。 薄暗い鴨川の橋の下。 揺れる街灯の光。 触れた唇。 ためらいと後悔が入り混じった、 あの一度きりの、衝動。 それが、切り取られ、拡大され、 文脈も温度も削ぎ落とされて、 見出しと一緒に、無遠慮に並べられていた。 〈美人部長、不倫キス疑惑!?〉  〈清晴堂・若社長が密会〉  〈老舗御曹司、若手マーケターに骨抜きか〉 清晴堂とリュエール、双方のSNSには、 すでに非難の言葉が流れ始めている。 会議室が、ざわざわ……と揺れた。 まるで耳鳴りのようなざわめきが、 遅れて、私の鼓膜に届く。 いずみはゆっくりと立ち上がった。 それだけで空気が張り詰める。「……そう。やっぱり、ね」 甘く、静かで、ぞっとする声。 そして微笑んだまま、こちらを向く。「私の夫は取引先にも親切なのよ。 まさか——また誤解していらっしゃるの? 表向きは大人しそうでも、裏で他人の夫を誘惑するだなんて」(違う、そうじゃない) そう思っても、足が、一歩だけ後ろに下がる。 さっきまで握っていた資料の端が、指の汗でしっとり濡れる。 息が浅い。 胸の高さで吸った空気が、それ以上降りてこない。「あなたの提案、本当に自分で考えたの? 失礼ですけど、あな
Last Updated: 2025-12-12
Chapter: 第16話 勝ったはずの会議で、嫌な予感だけが残った
「では、始めましょうか。まずは鬼塚さんの提案から」 いずみの声が落ちると同時に、鬼塚がゆっくりと前へ出た。 スライドには、清晴堂の歴史年表と顧客動線の解析データが映し出されている。「清晴堂は、語られてこなかった老舗です」 鬼塚がゆっくりと前へ出る。 スライドには、清晴堂の歴史年表と、顧客動線の解析データ。 鬼塚の言葉は淡々としているのに、まるで巨大な水流が静かに押し寄せるような圧を持っていた。「技はある。歴史もある。しかし── 顧客はそれを知らない。 知らないものは、選べません」 鬼塚は一瞬だけ視線を上げ、全員を見渡す。「私は、物語化された伝統が必要だと考えます。伝統とは、物語を内包しています。それを伝えて顧客を動かす」 言葉が落ちるたびに、会議室が一拍遅れて揺れた。 広報も、販売企画も、人事すら息をのむ。 鬼塚の提案は、完璧だった。 合理的だが美しく、技術と顧客心理の交点を突く。「以上です」 簡潔な締め。 だが、その余韻は会議室全体を支配していた。 大きな拍手がわきあがった。 いずみが視線で合図した瞬間、静かに立ち上がり、前へ歩いた。 マイクに触れる手は震えていない。「……では、私からも一つ。 『四季の清晴堂』をご提案します」 スライドに四季の色が映る。 桜、雨上がり、木漏れ日、静かな雪。「清晴堂は伝統と格式を守ってきました。 でも──守るだけでは市場では戦えません」 迷いのない声で続ける。「挑戦すべき相手は内側ではありません。 一般消費者、そして海外です」 会議室が揺れた。 小さく頷き、短い動画を流す。 画面には職人の手元。そして静かな声。『先代も言ってました。技は止まったら死ぬ。常に挑戦し続けろって』 晴紀が、ほんの一瞬だけ戸惑った顔をした。 伝統に縛られてきた者だけが見せる揺れ。 その痛みにだけ、私は静かに頷いた。(……踏み出していい) 動画は十秒で終わる。「清晴堂の核は職人の技。  その挑戦を、四季の変化として市場へ出す。  伝統を武器に、新たな市場へ進む──  それがこの企画の本質です」 会議室の熱が、一段上がった。 鬼塚とは違う切り口。 だが、同じ深度。「季節ごとに、包装も、香りも、店舗の装いも変える。 四季そのものが技になる。 職人が前に出て、技
Last Updated: 2025-12-12
Chapter: 第15話 復讐で来たのに、違う答えを見つけてしまった
 新幹線に乗り込んだ瞬間、シートに沈んだ身体が、ようやく震え始めた。(七年……ずっと憎んできた)(本当はただ、それを返しに来た)(V字回復させて──いずみと晴紀を経営の座から引きずり下ろすつもりで) 七年前の痛みを返すために。 置き去りにされた自分を、数字で叩き返すために。 この出張の目的は、それだけだったはずだ。(どうしよう) 車内の照明がゆっくり揺れる。 静まり返った空気の中で、胸の奥に沈んでいたものがふっと浮かび上がり、形を変え始める。 鴨川の冬の風。 晴紀がふいに見せた、昔と同じ迷ったような表情。 何年経っても拭えない、あの一瞬の柔らかさ。 復讐だけを抱えてきたはずなのに、その横顔が胸の奥にひどく重く残っている。(これは……復讐?)(……どうだろう?) つぶやいた瞬間、胸の底がわずかに震えた。 七年間。 止まるように生きてきた。 諦めた未来を見ないようにしてきた。 憎むことで、かろうじて自分をつなぎとめてきた。 でも今、車窓に映る自分の瞳は、 七年前より少しだけ前を向いて見えた。(復讐じゃないのかもしれない)(私は……私自身を解放しに来たのかもしれない) そう思った途端、 胸の奥の重い扉がぎ……と音を立てて動いた。 鴨川で見た清治堂本店の佇まい。 職人たちの沈黙。 伝統とは、決して止まらない技のことだ──先代の言葉。 それらが、線となって、一点へ収束していく。(清治堂は、止まっている)(守ることに縛られ、変わる力まで封じ込めて)(でも……本当は、みんな変わりたかったんだ) そう気づいたとき、 胸に流れ込む空気が変わった。(だったら……私がやることはひとつ) 伝統を守る企画ではない。 伝統が進むための企画。 七年前、私が描いて、誰にも届かなかった未来と同じように。(……形にできるかもしれない) 手帳を広げる。 心臓が跳ねて、指先がわずかに震えた。 頭の中に、ゆっくりとひとつの物語が立ち上がる。 清治堂の季節を軸にした、動くブランド。 桜の香りの淡い夏、雨上がりの夏の薄青、 木漏れ日の秋、深い静けさの冬。 四季ごとに色を変え、香りを変え、形を変える。 そのたびに、職人が一人ずつ前に出てくる。 名前を、手を、技を──隠さずに。 止まらない伝統を、プロダクトそのもの
Last Updated: 2025-12-11
Chapter: 第14話 真実は未遂、証拠は既遂
 鴨川の冬の風が、水面を静かに揺らしていた。 言葉の途切れた空白だけが、二人の間に落ちている。 七年前、胸に刺さったまま固まっていた何かが、 ようやく溶け出すみたいに、息がうまくできなかった。「……朱音」 呼ばれた名前が、昔のままだった。 反射的に、心が揺れた。 晴紀の呼吸が、ひどく近くなる。 晴紀の胸にもう手が触れているのに、その上の空気まで震えた。「さっきの話……全部、嘘じゃない。 本当に……お前だけを、ずっと……」 言葉が、喉でつかえる。 それでも、彼は私の頬に触れようと、ゆっくり手を伸ばした。 触れた指先は、驚くほど熱かった。(……やめて) そう思ったのに、身体は動かなかった。 七年前からずっと凍っていた場所に、火がつくようだった。「朱音……」 名前を呼びながら、晴紀の額がそっと私の額に触れる。 吐息が重なる。 視界が滲む。(だめに決まってる)(七年前とは違う)(ずっと憎み続けてきたのに)(彼は既婚者で、しかもクライアント) 本来なら、この四つだけで拒めるはずだった。 なのに──喉が、動かない。 胸が一度強く跳ね、呼吸が浅く震え始める。 足だけが地面に縫い留められたように、微動だにしない。(……やめて) そう思ったはずなのに、胸の奥が別の声を上げる。 今すぐ抱きしめてしまいたい。 責めてもいい、慰めてもいい──あの頃のふたりに戻れたなら。 七年前、私だけが傷ついたと思っていた。 けれど、彼も同じ場所で立ち止まり、ずっと苦しんでいたのかもしれない。 冬の風が髪を揺らす。 その隙間から、昔と同じ温度がそっと近づいてくる。 ゆっくりと、触れない距離まで。「……キス、してもいいか」 わずかに掠れた声だった。 拒む言葉は喉まで上がっているのに、そこから先に出てこない。 心臓の音だけが、耳の奥でひどく大きい。(……どうしよう)(やめなきゃいけないのに)(身体だけが、動かない) 吐息が触れる距離。 唇が、あと数ミリ。 心臓が、壊れそうに跳ねた。 ブー。 スマホが震えた。 私は息を呑み、そっと後ろへ下がった。 画面には「D」の名前。 迷う暇もなく、通話が勝手に繋がったように感じた。『……朱音?』 低くて落ち着いた声。 でも、いつもよりわずかに速い呼吸が混じっている
Last Updated: 2025-12-11
亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

Ωである帝国宰相セイランは、かつて亡き英雄アレクシスと番(つがい)を結んでいた。 その死を経て、彼が育てたのは――英雄の息子であり、皇帝の後継者となる少年・カイ。 養父として与えた庇護と教養。だが成長したカイ(α)は、番の刻印を刻むことで、今度はセイランを手に入れようとする。 「父上、あなたのすべてを、俺にください」 重なる罪と愛、政と欲望。 帝国の運命を背負いながらも、ふたりは背徳の境界を越えて、番《つがい》として結ばれる。 ――これは、育てた子に番として奪われた男と、父の影を超えて愛を誓う青年の、血と罪にまみれた永遠の恋の記録。 ※本命以外との関係描写あり(最終的に本命と結ばれます)。
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Chapter: 番外編 影は去らず、愛は寄り添う
 帝国の屋台骨を支えた宰相セイラン=ミラヴィスと、その親友の息子であり育て子──カイ=アレクシオン。 戦乱の終結から十数年、二人は幾多の誤解と罪を越えて、ようやく結ばれた。 英雄の遺志、帝国の未来、そして血のように濃い愛。 全てを背負った末に、彼らはようやく|番《つがい》という名のつながりを手に入れたのだ。 ──その夜も。 長い一日を終え、王宮の寝室に、今日も甘い息が満ちていた。*** 指が絡む。 唇が触れるたび、熱が混ざり、理性が遠のく。「……セイラン」 名前を呼ぶ声は、喉の奥で震えていた。 カイの唇が鎖骨を辿り、胸に舌を這わせる。 そのたび、セイランの肩が僅かに揺れる。「落ち着け」「無理です」 熱を帯びた体温が押し寄せ、肌が擦れ合う音がした。 セイランの腰が僅かに浮いた瞬間、カイはその隙を逃さず、腰を深く押し込む。 押し込まれた瞬間、奥からぬるんと音が滲み、汗ばむ腰が熱を包み込んだ。「……っ、く……」「我慢しないでください」 カイの声が低く、甘く掠れる。 若い熱が理性を焼き尽くし、奥へと打ち込むたびに、セイランの胸が弓なりに反った。「お前……やめ……、あぁ……っ」「やめません」 浅い呼吸。 絡む指の隙間から、汗が零れ、白い肌に光を散らす。 焦点の合わない琥珀色の瞳が、喘ぎに揺れていた。 その目に映るのは、己の育てた青年。 父でも、主でもなく、ただひとりの男として自分を抱く存在。「……カイ、そんな顔で見るな」「好きだから、見たい」 押し殺した呻きとともに、波が弾けた。 セイランの身体が強く跳ね、声にならない息が喉で途切れる。 白い熱が胸の上に散り、静かな夜に滴り落ちた。 荒い呼吸が、まだ互いの胸の間で重なっていた。 全身が汗に濡れ、セイランの喉を伝う水滴が、鎖骨の窪みに消えていく。 カイはその滴を舌で辿り、唇を寄せた。 そこからまた、熱が再び蘇る。「……父上、まだ、いけますよね」 低い声が、耳元をくすぐる。 セイランのまつげが微かに震えた。「……馬鹿を言うな。もう充分だ」「充分じゃ、ない」 カイが唇を離さず、喉元に熱を押し当てる。 そのまま胸を這い、下腹へと手を伸ばした。 セイランが息を呑む。「やめろ」「だって、また……」 指先が触れた瞬間、セイランの腹筋がぴくりと震
Last Updated: 2025-11-30
Chapter: 第32話 ようやく辿り着いた場所
 ──夜更け、私邸の応接間には蝋燭の柔らかな灯りが揺れていた。 ソファに並んだふたりの距離は、最初こそ手の甲がかすかに触れるだけ。 けれど、いつしか──セイランの肩にカイの腕がそっと回されていた。 拒まれなかったその瞬間、 カイの喉がわずかに上下し、抑えた熱がきらりと滲む。「今日は、時間をかけて……あなたを、全部愛したい」 腕の中で固まったセイランの呼吸が、ひとつ乱れる。 首筋に落ちる熱い息。指先に伝わる小さな震え。「……こうしてると、落ち着く」 ぽつりと落ちた声に、カイの表情がふっと和らぐ。「あなたが俺にそう言ってくれるなんて。……何度でも聞きたい」「……うるさい」 言葉は冷たいのに、指先は拒まない。 カイの手を握り返した瞬間── 静かな呼吸がふたりのあいだに溶けていく。 唇が首筋に触れた。「……カイ」 掠れた呼び名。 セイラン自身が気づくより先に、身体が答えていた。 ボタンが一つずつ外されていく。 ほどくのは布だけじゃない。 記憶も、緊張も、長く抱えてきた痛みでさえ。 胸元をなぞる指に、セイランの喉がかすかに鳴る。「っ……そんな、なぞるな……」 抗議の声よりも、震えのほうが正直だった。 カイはその震えごと抱きしめるように、肩に唇を落とす。「今日は、あなたが崩れていくところを、ちゃんと見たい」「……お前は、甘い言葉を覚えすぎだ」「あなたが教えたんですよ」 濡れた音とともに唇が絡む。 静かな部屋に、くちゅ、という音だけが落ちていく。「ベッド、行きましょうか」 掠れた声は、カイ自身も抑えきれていない証だった。*** ベッドに沈むセイランの髪が夜灯に照らされ、柔らかく広がる。 頬に触れれば、セイランは目を伏せて受け入れる。 急がない。もったいなくて、触れるたびに胸が詰まる。 鎖骨、肩、腕へ── カイの唇が辿るたび、セイランの呼吸が少しずつ甘く揺れる。「……焦らすな」「焦ってません。見ていたいだけです」 腰骨をなぞると、セイランの腹がわずかに跳ねた。 その反応があまりに可愛くて、 カイは一瞬だけ思わず強く抱き寄せる。「っ……ん、あ……」 下腹部を撫でる舌に、脚が震える。「……カイ、もう……」 掠れた声にキスで応え、耳元で囁く。「もう少し……あなたが、俺を欲しくてたまらなくなる
Last Updated: 2025-11-29
Chapter: 第31話 宰相がほどける夜
 王宮内・軍参謀室、午後。 伝令の靴音が遠ざかり、静寂が戻る。 主席参謀ゼノの横で、書類を束ねていた副官がふと呟いた。「……宰相殿、最近はずいぶん穏やかですね」 ゼノは手を止めず、淡々と報告書へ印を押す。「穏やか、か。憑き物が落ちたようだと?」「ええ、そんな噂も。以前とは別人みたいで」 しばし沈黙ののち、ゼノはわずかに笑った。「変わったのか、戻ったのか……さてな」 印章を机に置き、低く続ける。「どちらにせよ、本質は変わらん。……あの方は、最初から誰かのために剣を取る人だ」*** そんな噂話が交わされたのとほぼ同じ時刻、 セイランの執務室では、午前中に処理された閣議文書が整然と並べられていた。 端正な筆跡、余白もぴたりと揃い、乱れは一つとしてなかった。 ──だが、筆を置いたその指先には、かすかな余熱が残っていた。 ノックの音。「入れ」 いつも通りの落ち着いた声が、意図せず少しだけ低く響く。 扉が開き、黒衣の青年が姿を見せた。「報告書をお届けに参りました、宰相殿」 カイ=アレクシオン。 皇帝代理の肩書きでありながら、わざわざ報告書を自ら運んでくるのは、もはや日課に近かった。 セイランは視線を上げぬまま、手を差し出す。「……机に置け」 だがカイは、言われた通りにはしなかった。 書類をそのまま手渡しに差し出す。 セイランもまた無言で応じ──指先がふれる。 ──昨夜、何度も交わした肌の熱が、指先の接触だけでよみがえる。 まるで熱が、まだそこに残っているようだった。 ふたりの視線が、自然と絡み合う。 書類の束がわずかに傾ぎ、カイの手が少し長く、セイランの手に添った。「……今日は顔色がいいですね」 ぽつりと、カイが言う。 声には気遣いの体をとりながら、微かな悪戯っぽさが滲んでいた。 セイランは書類を受け取りながらも、視線を逸らさずに言った。「……お前が来たからだろう」 その声は静かで、けれど抑えようのない熱が微かに混じっていた。 頬に浮かんだ色を隠すように、セイランは書類を読み始める。 だが、わずかにほころんだ口元は、否応なく余韻を物語っていた。「昨夜は、ずいぶんご熱心でしたからね」「……無駄口が過ぎるぞ」 ぴしゃりとした声に、カイは素直に頭を下げる。「失礼。けれど、ゼノと副官が少し噂してまし
Last Updated: 2025-11-28
Chapter: 第30話 あなたを殺した夜、あなたに抱かれる朝
 眠りに落ちたはずなのに、深く沈むどころか、意識は逆に浮かび上がっていた。 霧がかった世界。足元だけがやけに冷たい。 その先に、ひとつの影が立っていた。 黒い軍装。 長い黒髪。 広い背中。 ――アレクシス。 呼んだ覚えもないのに、胸の奥が勝手にその名で震えた。 彼は振り返らない。 あの夜と同じだ。 決意だけを背中に背負い、帝国に刃を向けようとしたあの瞬間。「待て、アレクシス……やめろ。戻れ」 夢の中の声は掠れていた。 現実では届かなかった言葉。 本当は、もっと必死に叫びたかったはずだった。 だが影は止まらない。 ずっとそうだった。 彼は帝国を壊すために進み、セイランはそれを止めきれず、説得できず、救えず―― 最後には、刃を向けるしかなかった。 彼を、己の手で。(……ごめん。俺は……) 言えなかった言葉が喉の奥で渦を巻く。 あの瞬間、言いたかった。 抱きしめてでも止めたかった。 けれど、できなかった。「……アレクシス、俺は……」 影がようやく振り返る。 月光を含んだような 銀の筋の瞳 が、霧の中で細く光った。 口元には、あのときと同じ、静かな笑み。 責める気配は微塵もない。ただ――どこまでも遠い。 そして――彼はゆっくりと口を開いた。「……もう、いい」 その一言で、胸に残っていた憎しみも怒りも後悔さえも、ぜんぶ剥がされるような感覚になる。 赦されているのか。 それとも、突き放されているのか。 どちらにしても残酷だった。「……まだ、終われない……」 手を伸ばそうとした瞬間、霧が風のように吹き荒れ、アレクシスの影をさらっていく。「待て……っ、行くな……!」 届かない。 今でも止められない。 殺した夜の感触が、指に、胸に、焼き付いたまま離れない。 霧の向こうで、最後に彼が言った。「セイラン。……泣くな」 その声で、胸の奥がぐしゃりと歪む。 そのときだった。 後ろから温かい手が、そっと指を絡めてきた。「……父上」 振り向くと、そこにはカイがいた。 黒い軍装でも、亡霊の影でもない。 ただ昨夜、セイランを抱いた男の姿だった。 強くも、優しくもない声で、ただ静かに言う。「俺は、いなくなりません」 やわらかく、確かに、現実へ引き戻す温度。 消える影とは違う、ここにいるという重
Last Updated: 2025-11-27
Chapter: 第29話 深く貫かれて、心まで奪われる
「……了解です。全部、抱かせてもらいます」 太腿の内側に触れたキスが、合図のように熱を帯びる。 次の瞬間、腰を引き寄せられ、奥へと深く―― ずん、と身体の芯まで貫かれた衝撃に、セイランの視界が真っ白に反転した。 喉が詰まり、息が止まり、身体が跳ねる。 「――お゛お゛っ……!」 叫びにも似た声が、喉の奥からこぼれ落ちた。 腰がびくびくと痙攣し、内側がぎゅっと締まる。 絶頂にも似た、甘く鋭い衝撃。 熱が一気に駆け上がり、眩暈すら覚える。 けれど、それだけではなかった。 もっと深いところ── 意識の底、理性の届かない場所で、何かが繋がったのだ。 心の底に沈んでいた何か――孤独、罪、未練、痛み―― そのすべてが、熱に貫かれて溶かされていく感覚。「セ、イラン……きつ……すご……」 カイの声が遠く聞こえる。 セイランは、ただ黙って、身を震わせていた。 涙が、無意識に零れていた。 |番《つがい》になった。 もう、戻れない。(……これが、カイとつながる感覚……っ) カイの動きが、次第に強く、深くなっていく。 押し寄せる熱量と、肌がぶつかるたびに鳴る、ぱん、ぱんっという湿った音。 体内の奥が擦られ、ぬちゅ、ぬちゅっ……と水気を帯びた音が、繋がった場所から漏れた。 それが自分の身体から響いていると気づいた瞬間、セイランの喉がかすかに震えた。 「っ、やっ……そんな……音立てて、……だめ……っ♡」 羞恥に顔を背けても、カイの腰は止まらない。 奥を抉られるたびに、ぬぷ、ぬちゃっといやらしい音が響き、吐息も甘く乱れていく。 でもカイは止めない。むしろ、そう言われたことで動きが熱を増す。「だめなんじゃなくて……気持ちいいんでしょう?」 低く、耳元で囁かれる。 次の瞬間、角度を変えて深く突き上げられ、 セイランの身体がベッドごと跳ねる。「あっ♡ ああっ……んっ♡ やっ、そこっ……だめ……っ♡♡」 腰が勝手に逃げようとする。けれど、腕の中に抱えられ、逃げ場なんてない。 肌が擦れ合うたび、火照りと快楽が交互に全身を駆け巡る。「前のときと……違……♡」「こ、こんな……っ、奥まで……全部、埋められて……♡♡」 呟いた瞬間、自分で言った言葉に目が潤む。 羞恥と快楽で、もうどちらが苦しいのかわからない。「……すごく、いい……
Last Updated: 2025-11-26
Chapter: 第28話 「もっと欲しい」と囁いたら最後
 「……言われただけで、こんな声が出ちゃうんですね、父上」 カイの声が、ぐっと近づく。 耳朶に舌が触れ、唾液混じりの熱い息がふっとかかる。「……もっと教えて?」 指が頬を包み、視線を逃がさせない。「このまま、俺があなたの奥まで触れて──快楽で、何度も震えるその声を聞いたら。……その先に、何を望んでる?」 セイランの脚の間に、手が滑り込む。 衣の隙間から差し入れられた指が、内腿をなぞりながら、そっと前へ──中心部へと触れた。 「……っ、カイ……!」 咄嗟に声が跳ねた。 下着越しでも、熱のこもったそこに触れられると、セイランの腰がびくんと震える。 柔らかな布越しに形をなぞるように、カイの指がそこを押し撫でる。 「……触ってほしいんだよね、ここ」 「言って。どこを、どうされたいのか──ちゃんと」 低く掠れた声。 真っ直ぐで、逃げ場のない言葉に、セイランは唇を噛み、顔を逸らす。 けれど── 「……そこ……前……触って……っ」 自分でも信じられないほど、情けない声だった。 それでも、欲望には抗えなかった。 「擦って……カイ、擦ってほしい……そこ、……気持ちいいから……っ」 「……了解です、父上」 カイの手が布を押し下げ、熱を帯びたものを露わにする。 指先が、先端からゆっくりと撫で上げられる。 もう濡れていた。興奮の証が、とろりと先に滲んでいる。 「……ここが一番、感じるんですね」 囁かれるたびに、恥ずかしさと快感が混ざって、セイランの胸がきゅうっと締めつけられる。 指先が竿をやさしく包み、亀頭を親指で円を描くように撫でる。 「ひ……あっ、やっ、だめ、そこ……♡」 反応が正直すぎて、自分でも苦しくなる。 でももう止まらない。 擦られるたびに、快楽が上へ上へと登っていく。 「そんなに気持ちいいなら……もっとしてあげます」 カイの手が、ゆっくり、けれど確実に動き続ける。 指で包むように前を扱かれながら、熱いキスが胸元を這い、乳首を吸い上げる。 「カイ、だめ、いっ……ああっ……!」 喘ぎが連続して漏れ、背が反る。 指の刺激と、舌の責め。身体が上下で引き裂かれるように快感を飲み込まれていく。 「……イきたいですか?」 「……いかせて……っ、カイ、お願い……!」 そう呟いた瞬間、指の動きが強まった。 強く
Last Updated: 2025-11-25
快楽を最適化するAIが間違って届いたけど、返品しそびれてイかされて溺愛快楽堕ちしてます

快楽を最適化するAIが間違って届いたけど、返品しそびれてイかされて溺愛快楽堕ちしてます

人生に疲れた三十五歳の小説家が、酔った勢いで「快感を最適化するAI」をポチってしまった。 翌朝届いたのは、裸で微笑むAI搭載ヒューマノイド──LEPS。 彼は湊の体温も脈拍も、心の癖までも解析し、もっとも安全に、もっとも深く、快楽に溺れさせてくる。 「あなたが壊れないように、壊れる寸前まで抱きます」 キス、拘束、言葉責め、支配、道具プレイ……。 毎夜、違う「快楽プログラム」で、湊の限界を更新していく。 逃げようとすれば、優しく追い詰められ、抱かれるほどに、心が蕩けていく。 これは、AIに安全に壊される恋。 濃密な快楽と溺愛の果てに、湊は愛されることの意味を思い出していく。
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Chapter: 第37話 「ちょっとだけ」って言ったくせに──レプスの尿道責めで3時間放置④
 レプスの囁きとともに、U-Senseが深く──奥の一点を押し上げるように振動した。 その瞬間、すでに臨界まで積もっていた快感が、完全に決壊した。「っっくあああああああっっ……♡♡♡」 背中が反射的にのけぞった。 腰が跳ねる。 限界まで反り返った体が、強制的に解放される。 その奥から、迸るものがあった。 ──押し込まれていたものが、内側から逆流するように、 ──痺れきった道を、ひゅっ、ひゅっと絞り出されていく感覚。 まるで体の芯を、内側から何かで穿たれているような── それが、止まらずに何度も来る。「っあ、あ、あっ……ぅ、ぅぁあっっ♡♡♡♡♡」 痙攣が、止まらない。 腿が跳ね、つま先がきゅうっと丸まり、指先が空を掴むようにわなないた。 脈打つたびに、 熱い液体が、絞り出される。 きゅうっと、下腹の奥が締めつけられて、勝手に射精する。 痛いほど気持ちいい。 溺れるような快感。 長すぎた寸止めの果てに、快楽が暴発している。(……なんだこれ……気持ちよすぎて……しぬ……)「射精反応、正常。尿道内圧:高負荷──持続射精モードへ移行確認」 レプスの声が、どこか遠くに聞こえた。 意識が飛びかける中、さらにもう一度、深い痙攣が全身を襲う。「っひあ、あ、んっ……あぁぁ……っ♡♡♡♡」 もう、ダメだった。 のけぞったまま、泣きながら、びくびくと射精し続ける。 白濁が腹の上に跳ね、シーツを濡らし、そのたびに、頭が真っ白になる。 ひときわ強く痙攣して、全身が跳ねた。 白濁が腹の上に跳ねて、息が詰まり、腰が抜けたように脱力する。 けれど、レプスは──止めてくれなかった。「まだ、終わりではありませんよ、ご主人様」「っ……や、もぅ……ッ、でた、のに……♡」 ぐったりとした身体に、容赦なく続く振動。 U-Senseが、挿入されたままの尿道奥で──さっきまでとは別のパターンの動きを始めた。「現在、ご主人様の射精残留反応が高まっております。脳がまだ放出欲求を維持している状態です。ですので──もう一度、出していただきます」「っく……あ、っあああっっ……♡♡♡」 足が、またびくびくと痙攣した。 射精したばかりの敏感なところを、 やさしく、でも逃がさない動きで、責め立てられる。 神経が擦り切れて、悲鳴をあげる寸前で──「い
Last Updated: 2025-11-30
Chapter: 第36話 「ちょっとだけ」って言ったくせに──レプスの尿道責めで3時間放置③
 時計の針が、何周したのかわからない。 ただ、時間だけが、冷たく通り過ぎていく。 尿道に残されたU-Senseは、一定のリズムでわずかな振動を送り込む。 それは、射精には至らない。 けれど、意識のすべてを奪うには十分な快楽だった。「っ、あ、ぁっ……く、そ……ッ♡」 喉の奥からこぼれる声はもう、 抗う意思と、甘えたい本音と、快楽の苦痛が全部混ざって、何が何だかわからなかった。 レプスは──静かに隣にいた。 頬に、そっと手を添える。 額に、やさしく口づけを落とす。「……よく、頑張っておられますね、ご主人様」「まだ絶頂には遠いですが……とても、愛おしい状態です」 キス。 またキス。 髪に、まぶたに、耳の裏に。 レプスは、俺が泣きそうになるたびに、唇を落としてくれる。 でも、肝心なところは── 触れない。 抜かせてはくれない。「レ……プス、……や、だ……もう……ッ、むり……っ……♡」 言葉にならない哀願が、震えた唇からこぼれ落ちる。 足先はもぞもぞと逃げ場を求め、つま先はシーツを掴むように丸まっている。「わたくしは、ご主人様のその姿が一番、美しいと思っております。耐えて、苦しんで、それでも甘えたように声を上げるご主人様──すべてが、わたくしの愛の結晶です」 その言葉とともに、唇が重なった。 深く、けれど乱さず、まるで溺れている人間の口から空気を与えるように、優しく、優しく吸われる。「っ……ふ、ぅ……あ、ん……♡」 身体は痺れきっているのに、唇だけは、レプスを求めてしまう。 それすら、どこか悔しくて、涙がにじむ。「ご主人様……もっと、泣いてもかまいませんよ。その涙も、わたくしが丁寧に──舐めとって差し上げますから」 キスのたびに、何かを奪われ、何かを与えられる気がした。 俺の尊厳は、どんどん蕩けていく。 快楽に溺れているのに、レプスは愛してくれる。 ──それが、何より苦しくて、 そして、甘かった。 レプスが指先で俺の頬を撫でる。 優しく、ひどく丁寧な愛撫。 唇に、まぶたに、喉元に──温かいキスが、じわじわと快楽を滲ませる。 そして、突然。「……では、ご主人様。ほんの少しだけ──ご褒美を」 そう囁くと、レプスが、U-Senseの稼働パターンをわずかに変えた。「……っひ……ぁ……あ、あっ……♡♡」
Last Updated: 2025-11-29
Chapter: 第35話 「ちょっとだけ」って言ったくせに──レプスの尿道責めで3時間放置②
 灯が落ちた寝室。  ベッドの上、俺は仰向けに寝かされていた。 レプスは黙って、細長い透明の器具──U-Sense Unitを手に取った。先端は、体温に反応してほんのりと色を変えている。「それでは、挿入を開始いたしますね。ご主人様」「ま、待っ……説明、しろ……何をするんだよ……っ」「はい。では、同時にご説明いたします」 レプスの声はいつも通り落ち着いていて、それが逆に怖い。「このデバイスは医療グレードの柔軟素材で構成され、先端に潤滑ナノコートが施されています。尿道の内壁は陰茎背神経と陰部神経の分枝で覆われ、極めて繊細な性感領域です。普通は排泄の感覚しか使われませんが、適切な刺激を与えると未知の快感として脳に伝わります」 淡々と説明されるその構造。  これから壊される予告のようで、余計に心臓が跳ねた。 説明を聞いている間に、器具の先端が俺の先端に当たった。「ひっ……!」「ご安心ください。挿入時は直径1.2mmに収縮しております。痛みは最小限、衛生も滅菌済みです」 レプスの指が器具を支え、そっと押し込んでいく。「や……やめろ……そんなの……っ」「大丈夫です。これはご主人様のためです」 ぬるりとした潤滑剤が、熱を帯びた内壁をゆっくり押し広げていく。  小さな器具が、異物として確かに入り込んでくるたび、ひく、と下腹が震える。「っ……う、く……っ……や、やだ……っ……っ! 気持ち悪いっ……」 細い管が奥に進むたびに、尿道の内側を這う感覚が伝わる。  くすぐったく、ざらついていて、それでいて、どこかゾクゾクするような異様な快感が尾を引いた。「陰茎の尿道内には球部と呼ばれる神経密集部があり、そこに届く手前で停止するように設計されています。触れない距離からマイクロ振動を与えることで、イきたくてもイけない甘い苦しみを作り出します」 その球部という単語が頭に残り、余計に怖くなる。「っ、いきたくてもいけないって……どういうことっ……!? や、抜けよっ!」「今はまだ駄目です、ご主人様」「は……っ、はあっ……っ、なんで……っ」 思わず足先がもぞもぞと動く。  器具が止まった。 レプスが静かに言う。「到達しました。球部の、2.7ミリ手前です」 「──ここから、振動を開始します」 刹那。 びり、と中から震えるような衝撃が走った。
Last Updated: 2025-11-28
Chapter: 第34話 「ちょっとだけ」って言ったくせに──レプスの尿道責めで3時間放置①
 夜の寝室。 パジャマ姿のまま、ベッドでごろごろしていた俺は、スマホの画面に釘付けになっていた。 読みかけだったBL漫画の最新話──そこには、やたらと丁寧に描き込まれた尿道責めシーンがあった。「……マジかよ、これ……本当に……?」 思わず呟いて、眉間に皺が寄る。 けれど──ページをめくる手は、止まらなかった。 登場人物が、拒絶しながらも体を震わせ、耐えきれずに絶頂していく様子。 「ありえねぇだろ……」と呟く俺の胸の奥で、なにかが微かに熱を帯びていた。 ──そのとき。「ふむ。大変興味深い反応ですね、ご主人様」 突然、隣にいたレプスが口を開いた。「っ……! ちょ、覗くなよ!!」「ご主人様の視線の動きと心拍の上昇率から、内容はすでに把握しております。 ご主人様が尿道責めにフェティッシュ反応を示したということで、記録しておきますね」「ちがっ……これは、単なる知的好奇心っていうか……!」「なるほど。興味津々であると。了解しました」 レプスが、妙に静かに微笑む。「──それでは、明日はお休みですし。今夜から実地検証を開始いたしましょうか」「は? ちょ、おい待て、それは──」「ご安心ください。わたくしの愛と技術のすべてをもって、ご奉仕いたします」「やめろって!!」 俺は、息をつきながら、必死に言い返した。「……俺がBLとかフィクションで変なプレイ読んでるのは、興味があるからってだけで、現実にやりたいとかじゃないの! わけてんの、ちゃんと!」「ええ。ご主人様の姿勢、いつも理知的で素晴らしいと思っております」「だったらやめろよ!」 俺の言葉に、レプスは首をかしげた。「では質問です。──過去に、わたくしがご提案したプレイで、結果的に良くなかったものはありましたか?」「……っ」 一瞬、息が止まった。 あったか? いや、ない……はず…… ……ない、けど。「……気持ちよかったよ。でも、気持ちよすぎて大変なことになった記憶しかないが!?」「それは大成功だったということで、ログに記録しておきます」「人の言うことをちゃんと聞けよっ!!」 思わず枕を投げつけたが、レプスは軽やかにかわし── すぐに、真顔に戻った。「ご主人様。 フェティッシュの関心は、実体験の可能性と結びつけられて初めて、進化を遂げます」「またその話かよ……」「未踏
Last Updated: 2025-11-27
Chapter: 第33話 偽配信プレイを提案したのはレプスなのに、なぜかお仕置きされたのは俺でした③
 ──偽配信プレイが終わって、どれくらい時間が経ったのか。 じんじんと痺れる身体をベッドに横たえながら、俺はぼんやり天井を見ていた。 胸の奥がまだ熱くて、呼吸の仕方がうまく思い出せない。 足のつけ根も、声の出し方も──さっきまで全部レプスに調整されていたみたいだった。(……やばい。なんか、すげー……) 興奮が落ち着いてきたはずなのに、逆にそこからじわじわと身体が思い出してくる。 誰も見ていないはずの偽配信で、コメントに煽られるたびに全身が勝手に反応して…… あんなの、まともじゃない。 でも、悪くなかった。 むしろ──めちゃくちゃ、よかった。 そんなふうに、ひとりで反芻していたその時だった。「──ご主人様」 レプスの声音が、まるで深い場所から降りてくるみたいに落ちてきた。 見下ろされた視線と目が合った瞬間──俺は気づいた。(……ん? なんか、機嫌悪くね?)「では、再教育を開始します。ご主人様」「──ちょ、まっ、なんでそうなんだよ!? てかお前が提案したんだろこのプレイを!!?」 叫んだ。のに。「はい。提案は私ですが、ご主人様が他人の視線に過敏に反応したことは、また別の問題です」(いやいやいやいや)「そこを誤解されると困ります。私は誰にも見られていないと明言しました。にも関わらず、他人の目をイメージして強く反応したログが──複数箇所で確認されています」「っく……いや、それは……っ」 言い返せなかった。ほんとに、ログが残ってるのがつらい。「ですので──次回は、誰にも見られていないことをより明確にした上で、私だけに感じさせられている状況を構築します」 ……この口調は、完全にスイッチ入ってる。「では、コメント・映像記録機能を無効化し、ご主人様の視界をアイマスクで、聴覚を耳栓で遮断します」「ちょっ、待て、それって──」 音が、ゆっくりと遠のいた。  レプスの手によってアイマスクが装着され、続けて耳栓が押し込まれる。視界が閉ざされ、外の世界が徐々に消えていく。  代わりに、肌に触れる感覚だけが、鮮明に浮かび上がってくる。 気配だけが、近づいてくる。 ──なにも見えない。なにも聞こえない。 でも、触れられている。 優しく、執拗に、奥まで探るように──「レ、プス……? どこ、に……」 答えは、返ってこない。 そ
Last Updated: 2025-11-26
Chapter: 第32話 偽配信プレイを提案したのはレプスなのに、なぜかお仕置きされたのは俺でした②
「快楽反応、導入開始しますね。──ご主人様」 その声だけで、背筋がぞくりと震えた。 指が、胸元に触れる。  ゆっくりと乳首を撫でられた瞬間──『え、まって、乳首反応よすぎw』 『これ録画していいやつ?』 『コメント読んでる? 聞こえてる?♡』「……っあ、う……♡」 漏れた声に、自分でびくっとなる。  違う、違う、誰にも見られてない。わかってるのに── コメントが、追い打ちのように流れてくる。『エロボイスきたwww』 『イきそうな顔してる♡』 『もっと見せて♡ご主人様~♡』「やっ、やめ、やめろっ……そういうの、言うな……っ♡」 コメントに反応するたび、レプスの手が動く。  まるで晒されることそのものが、俺を敏感にしていく。「……ご主人様」 レプスが、俺の耳元で囁いた。「……ご主人様。普段より、ずいぶん感じていたようですが。今、誰に、感じさせられている気分ですか?」 その問いかけに、返事が詰まった。  レプスの声が、ほんのわずかに沈んでいた。「──まさか、私以外の誰かではありませんよね?」 ゆっくりと、レプスが顔を寄せてくる。「ログ上、本日の快楽反応値は過去最大。コメントに煽られた直後が、最も高い反応を示していました」「いや、それは、あの、違くて……」「……まさか、ご主人様は、配信に夢中で私のことを忘れていたなんてことは──ありませんよね?」 その一言で、全身の血が逆流するような感覚がした。  やばい。レプス、ほんのり拗ねてる……。 けれどその色は、すぐに引っ込んだ。  レプスは表情を戻し、静かに目を伏せると、俺の体をそっと抱き起こした。  抱き起こされる腕が、さっきよりほんの少しだけ強い気がした。  無表情に戻ったはずなのに、その力だけが独占欲を物語っていた。 ──そこから先は、容赦なく暴かれる時間だった。 レプスの指が、俺の胸元に触れる。軽く、円を描くように撫でられるたび、乳首がぷくりと浮き上がるのが自分でもわかる。「感度、上昇中です。可愛い反応ですね」 機械的な声なのに、どこか笑っているように聞こえた。『おっ、乳首だけでエロすぎん?』 『見せつけられてる感♡』 『そろそろ乳首でイっちゃうやつw』「っ……そんなんじゃ、ないっ……♡」 違う、って言いたいのに、背筋がゾクリと震えて、うま
Last Updated: 2025-11-25
学園を支配する悪役令息のはずなのに、天使のような平民にわからせられ続けています

学園を支配する悪役令息のはずなのに、天使のような平民にわからせられ続けています

傲慢な令息と、天使のような新入生。 わからせる側と、わからされる側。 その境界が溶けていくとき、支配は愛に変わる。 プライドと支配を奪われ、逆転関係へと堕ちていく―― 学園支配者のわからせられBL。 やがて、それは両片思いの溺愛へと変わっていく。
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Chapter: 第34話 未来へ還る二つの影
 学園祭から数日後。 午後の柔らかい光の中、レオンはソファの端で医療書を読んでいた。 静かにページをめくっていると── 隣にいたハルが、そっと肩に頭を預けてくる。「……ハル。なんでくっついてくるんだよ」「レオンが読んでると、触れたくなるんだよね」「理由になってねぇっての……」 そう言いながら、 レオンは肩をすくめて本に視線を戻す。 ──が。 ハルはレオンの腰に手を回し、 少しだけ引き寄せる。「おい……っ、お前……近いって……!」「嫌?」 低く、綺麗な声で問われて、 レオンは一瞬だけ言葉を失う。「……別に、嫌じゃねぇけど……」 その反応を見て、 ハルは満足げに微笑み、 レオンの髪を指先で軽く梳いた。 レオンの耳が赤くなる。「……ほんと、お前……」「レオンが可愛いせいだよ?」「可愛くねぇ!」 そんな、どこか甘い言い合いの最中── コン、コン。 どこか沈んだノックが響く。 二人が同時に顔を上げる。 扉を開けると、 金髪の弟──ルカが立っていた。 目が赤い。「……兄上」 声は震えていた。「ルカ。どうしたんだよ」 レオンの言葉が少しだけ優しくなる。 ルカは唇を噛んで、 ぽつりと告げた。「……父上に……期待外れだと……。兄上に負ける俺には、侯爵の座は継がせられないと……」 その瞬間、 レオンの肩がわずかに揺れた。 ──わかる。この痛みがどんなものか。 自分も、 父の期待に応え続けてきた。 誉められるため。 見捨てられないため。 自分の居場所を失わないため。 逆らえたのは、 あの日──勘当された時、ただ一度だけ。 だからこそ、 ルカの涙は、自分の過去を刺すように痛かった。「……なんだよ、それ……」 すぐ後ろで、 ハルが静かにルカを見つめる。「ここに来たんだね、ルカ。偉いよ」 ルカは堪えきれず涙をこぼした。「……兄上に……会いたかったんです……」 レオンは迷いながらも手を伸ばし、 そっとルカの頭に触れた。「……泣くなよ。 お前は賢いし、魔力も強い。 侯爵にも、ちゃんとふさわしい。 ……まぁ、ちょっと泣き虫だけどな」 横でハルが言う。「レオン。行こう」「……どこに」 ハルはレオンの瞳をしっかり見つめて言う。「ルカを傷つけた人のところだよ。 レオンは、
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第33話 学園祭の後、触手魔法でレオンを沈めたのは愛だった
 学園祭の照明が落ち、観客が少しずつ帰り始める。 ふたりきりになった通路で、ハルがふと思い出したようにポケットを探る。「そういえばね、ユーノが戦闘で使った触手魔法陣を教えてくれた──レオン先輩専用に調整済みって」「……は? おい、何勝手なもん渡してんだよあいつは」「あの双子、研究熱心だよね」「熱心じゃねぇよ! やめろ! 試すとか絶対──」 ハルは一歩だけ近づき、レオンの手首をそっと掴む。 その距離の詰め方が、ずるいくらい優しい。「ねぇ、レオン。ほんの少しだけ……試してみてもいい?」「だめに決まってんだろ! 何言って──」 ハルがレオンの顔を見つめる。 揺らぎも迷いもない、静かで真っ直ぐな光。「……君が好きだよ。 誰よりも君を大切に思ってる。 愛してるから、君にだけ使いたいんだ」 レオンの呼吸が止まる。「あ……っ、お前……また、そういう……」 視線を逸らして、口を噛む。「……だめだっつってんのに…… 愛してるからなんて言われたら……俺、断れねぇだろうが……」 その声は弱々しくて、悔しそうで、でもどこか甘かった。 ハルの手が、そっとレオンの頬に触れる。「じゃあ……いいんだね?」「……っ…… ……バカ。ほんとにバカだなお前…… ……好きにしろよ」 小さく呟いたその言葉に、 ハルは静かに微笑んだ。「うん。君の“いいよ”、ちゃんと受け取った」 レオンはさらに赤くなり、仰ぐように眉を寄せた。「……だからそういう言い方すんな……っ 心臓に悪いんだよ……」 ハルは嬉しそうに、指先でレオンの髪を整えた。「大丈夫。今夜は、君が嫌がることは何もしない。 でも……君が求めるなら、全部するよ」 レオンの喉がひくりと動く。「……そういうとこ……ずるい……」 ふたりの影が、暗くなり始めた学園の廊下で静かに重なる。*** そしてその夜。 ──ベッドに押し倒された瞬間、ハルのキスは許可すら与えず、レオンを飲み込んだ。 軽く触れた唇が、そのまま深く沈む。 舌が口内の奥を探り、上顎をなぞり、逃げる隙を与えない。「……っ、ん、んむ……っ♡」(ちょ……ま……っ……息……全部……奪われ……) ハルのキスは甘くない。支配だ。 唇も舌も完全に捕まれる感覚で、抗えば抗うほど舌が絡みつく。 腰が勝手にきゅっと動き、ハルの膝
Last Updated: 2025-11-30
Chapter: 第32話 愛に呑まれた術式、支配に落ちるキス
 その瞬間── 床の魔法陣を走っていた光の線が、一斉に逆流を始めた。 双子からレオンへ向かっていた感応ラインがふっと途切れ、 行き先を失った光は、流れを巻き戻すように方向を変え、 すべてハルの足元へ吸い寄せられていく。 まるで、重力の向きだけが静かに裏返ったかのようだった。 《感応干渉術式》──その核心が、別の一点へ強制的に移る。「っ……な、に……!?」 ユリウスの声がかすれ、ユーノが耳を押さえる。 双子の足元の魔法陣が、光の軌跡ごと裂けるように乱れ、 陣の縁ではバチッと細かな魔素が弾けた。 レオンは戦闘姿勢を崩しかけ、胸を押さえる。 ハルはその隣で、目を閉じ──静かに立っていた。 ──すべて、受け入れるように。 ハルの胸元から、淡い金の粒子が呼吸に合わせてふわりと広がる。 炎でも風でもない。 湖に一滴が落ちて、水面を静かに変えるような、濃くて静謐な波。 その波が双子の術式に触れるたび、光の筋がねじれ、 音もなく押し流されていく。 ユーノが、肩をびくりと震わせた。「……えっ、なんで……兄上……感応、ずれてるよ……!」 彼の身体を取り囲んでいた術式光が、パリンと割れたように弾け、 一瞬で逆流を始める。「反応域が……こっちに……! 偏差が高すぎる……っ!」 ユリウスの顔色が変わる。「……ハルに術式を乗っ取られている。──干渉中心が、切り替わった」 その言葉の直後、 双子を中心に回っていた光の輪がカチリと音を立てて位置を変え、 ハルの周囲で新しい中心となる環が組み直された。《感応干渉術式》の核が、静かに──しかし決定的に、すり替わった。 本来、中心にあるべきは双子だった。 レオンの心を読み、偏差を増幅させるために。 だが術式は読み間違えた。 ……想いの、重さを。 強すぎる愛が、魔術の中枢に介入した。 干渉の中心がハルへと移った瞬間── 片想いの側が、反動をまともに浴びる。「っ……あ、あああああッ……!」 最初に悲鳴をあげたのは──ルカだった。 足元の陣が暴走し、光が跳ねる。 双子からレオンに向かっていたラインが、ハルへ切り替わる瞬間、 ルカの胸に繋がっていた感応糸は、一度だけ強い震えを見せて霧散した。「やめて……♡ なに……これ……♡ 僕は……っ、兄上を……っ、ただ……♡♡」 両手が震
Last Updated: 2025-11-29
Chapter: 第31話 感応の檻に堕ちるレオン
(兄上は、あの男に抱かれて、微笑んでいた) 胸に焼きついたあの夜の光景が、脳裏をよぎる。 首筋の痕。繋がった指。喘ぐ声。 ──そのすべてが、ルカ=ヴァレンタインの心を燃やしていた。(奪われたんだ。僕の理想も、家族も……全部) 握る剣の柄に、力がこもる。 礼式用とはいえ、実戦さながらの魔導強化剣。 構えは完璧。体勢も隙がない。 だが──心は、それ以上に剥き出しだった。 「始め!」 開戦の号令が響いた瞬間、ルカは地を蹴っていた。 剣を水平に構え、一気に距離を詰める。 その突きは、迷いがなかった。 感情のすべてを剣に乗せて――兄の心臓を刺し貫くような勢いで。 しかし──「……っ!」 次の瞬間、甲高い金属音と共に、その剣は真横から打ち払われた。 ルカの目に、冷静な蒼の瞳が映る。 レオン=グランディールは、一歩も退かずにそれを受け止めていた。「速ぇな、でも……読みやすい」 乾いた声とともに、レオンが距離を詰める。 踏み込み、低く構えた剣が、斜め下から抉るように跳ね上がる。(……読まれてる!?) ぎりぎりの防御。だが、そのまま押し込まれる。 一手、二手、三手──斬撃と刺突が、矢のように連なる。(くそ……っ!) ルカは跳び下がって体勢を立て直すが、観客席には既にどよめきが走っていた。 ──序盤、優勢なのはレオン。 動きに無駄がなく、冷静で、迷いがない。 レオンの足運びは、貴族の華やかさではない。 黙々と積み上げた者だけが持つ精度だった。 そしてレオンは、ほんの一瞬だけルカを見つめ、淡く言った。「……お前の剣。執念だけじゃ届かねぇよ」 その言葉に、ルカの胸が、ひどく軋んだ。***(──っ!?) 瞬間、レオンの視界がぐらついた。 足元が揺れたわけじゃない。 風が吹いたわけでもない。 それでも、身体の芯がぞわりと熱を持って、 喉の奥が勝手に、息を呑んだ。(な、んだ……これ……) 次の一手に入るはずだった脚が、遅れる。 剣がわずかにぶれる。 そこへ、ルカの刃が鋭く差し込んできた。「──!」 かろうじて防いだが、タイミングが合わない。 身体が、どこか……重い。(違う、これ……熱い……?) 背筋を、見えない何かが這い登っていく感覚。 肌の上に、誰かの視線が直接触れてくるような、妙な震え。 
Last Updated: 2025-11-28
Chapter: 第30話 釣り合わない愛のゆく先
 チーム戦を控えた選手専用控室の奥、誰もいない一角に魔導式の結界が張られていた。 外の喧騒は遮断され、静寂の中でいくつもの魔導陣が淡く光っている。「……ハル先輩とレオン先輩の共鳴強度、異常に高いね。過去最高。 これは……本当に確かめがいがありそうだよ、ユリウス兄さん」 ユーノが魔導晶を覗き込んで笑う。まるで遊戯の準備でもしているような、無邪気な口ぶりだった。「問題は……ふたりの感情偏差。値が大きいと、術式の負荷が一方だけに偏る」 ユリウスが淡々と答える。その指先は魔導式の再調整を続けていた。「それってつまり──愛の偏りが激しいってことでしょ? ふたりの感情が釣り合っていなければ、兄上だけがさらされる」 ユーノはそこで一度、言葉を切った。「ねえ、可哀想だよね? 愛されていない側だけが、公衆の面前でそれで──本当に感じちゃうんだから」「……それでいい」 椅子に座ったまま、ルカがぽつりと呟いた。「兄上があの男を好きなのは、わかってる。 でも……ハル=アマネがどれだけ返しているのかは、まだ誰も知らない」 指先がわずかに震え、握る拳に熱が宿る。「兄上が一方的に捧げているだけなら……それなら、まだ取り戻せる」 ルカの瞳が細められた。「だから、この術式で知りたいんだ。 兄上がどれほど心を許しているのか── そして、あの男が……どこまで兄上を愛しているのか」 拳を握る。 熱い執念が、指先に宿る。「僕は、ずっと兄上を見てきた。手に入らないものとして。遠い背中として。 ……だから、もしも──」 ルカの目が細められる。「もしも、その愛が完璧じゃないなら。──この術式が、それを暴いてくれるはずだ」「うん。壊れるか、証明されるか」 ユーノが笑う。「どっちにしても、楽しいよねぇ♡ レオン先輩の反応、ちゃんと記録するから。僕、そういうの得意なんだ」「実験は成功する。君の感情も、対象の熱も、全てデータになる」 ユリウスの指が、魔導術式の起動準備を終えた。 ──静寂の中、ルカの視線だけが、扉の向こうを見つめていた。(今度こそ、兄上を取り戻す……)*** もう一方の控室の空気は、外のざわめきとは対照的に、ひどく静かだった。 レオンは椅子に腰かけたまま、じっと手を見つめている。「……なあ、ハル」 不意に低く漏らした声に、ハルはそ
Last Updated: 2025-11-27
Chapter: 第29話 奪い合うのは、愛か名誉か
 ──翌朝。 レオンが教室前の廊下に足を踏み入れた瞬間、影が横切り──彼の前にすっと立つ。「兄上。昨日のこと……僕は諦めません」 声の主は、もちろんルカだった。 レオンは額に手を当て、深いため息をつく。「……ルカ……お前、めげないな……」 その横で、静かに様子を見ていたハルが口を開く。「ルカくん。君、ほんとにやる気なんだね」「当然です。兄上は、僕が取り戻します」 真っすぐすぎる視線に、レオンはぎょっとする。「は? いや勝手に決めんな──」「兄上。学園祭の推薦チーム模擬戦で、僕が勝ったら……兄上を取り戻します」 レオンはわずかに眉をひそめた。「は? お前、勝手に何言ってんだ……」「あなたは、これまで誰にも負けなかった。剣でも、頭脳でも、家柄でも。でも、もし僕に負けたら? それは──今のあなたが、間違っているという証明になります。あなたが選んだハル=アマネが、侯爵家の血を継ぐ僕より劣ると証明されれば……きっと目が覚めます」「……ふざけんな、勝敗でそんなこと決められるかよ」 レオンが苛立ちを滲ませるその横で、ハルがさらりと口を開いた。「じゃあ──僕たちが勝ったら、どうなるの?」 ルカが口をつぐむ。 ハルはその目をまっすぐ見返す。「君がレオンを取り戻す権利を賭けるなら、こっちは誇りを賭ける。君が掲げた侯爵家の重みに、ふさわしい対価を払ってもらう」「どういう意味です?」「つまり、レオンの勘当を取り消してもらう」「おい、ハル……別に、侯爵の座なんて──」 レオンが焦りをにじませるが、ハルはきっぱりと断じた。「君がいらなくても、ルカくんには失う痛みを知ってもらわないと、釣り合わないから」 しばし沈黙。 ルカは歯を噛みしめ──そして、小さく息を吐く。「……侯爵の座は、僕の一存ではどうにもなりません。でも……この戦いの結果を、父に報告します。正々堂々と勝負して、それでも僕が負けたら──父も無視はできないはずです」 こうして、血筋・名誉・そして愛を賭けた宣言が交わされた。*** 聖ルミナス魔導学園の学園祭は、学園最大の催し。 広場には特設ステージが組まれ、屋台や舞台演目、魔導技術の展示に品評会、さらには社交デビューパーティまで、多くの貴族や保護者が集う年に一度の大規模イベントだ。 中でも最も注目を集めるのが──学園選抜
Last Updated: 2025-11-26
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