تسجيل الدخول結城おばあさんが寛哉に占い師を紹介してきたせいで、弦の悠々自適な穏やかな日々は消えてしまった。もし、その人がすごい腕の持ち主なら、他人の運命ではなく宝くじの番号でも当てたらどうだろうか。きっと大金持ちになれることだろう。弦は帰っていった。玲凰は家の前で、弦の乗る車が遠ざかっていくのを見送り、暫くしてから家の中に入っていった。……唯月は隼翔にご馳走した後、二人で暫くおしゃべりをしてから、陽を連れてホテルから出発し、琴ヶ丘に向かった。その途中、電話が何度もかかってきた。それは結城家の年配者世代たちからで、彼らは陽に早く会いたいらしく、いつ来るのか尋ねる内容だった。唯月はみんなに返事をした。もうすでに来ている途中だと返事して、やっとその次から次へとくる催促の電話を一旦止めた。隼翔は今足が不自由なので、自分が行くとみんながゆっくり週末休みを満喫するのを邪魔してしまうと思い、一緒には行かなかった。彼は一時間座っていてから、やっとボディーガードに実家に送らせた。まだ屋敷に入る前に、隼翔には中から久しく聞いていなかったみんなの楽しそうな笑い声を聞いた。隼翔が交通事故に遭ってからというもの、家の中はまるで死んだように重苦しい空気が流れていた。何か嬉しい事があったら、家族は隼翔のいないところでこっそりと喜んでいた。隼翔の前で楽しそうにするには彼の気持ちに影響すると思い堂々と楽しそうにできないのだ。隼翔はそんな家族たちはびくびくしすぎだと思っていた。確かに、事故当初は自暴自棄になって機嫌がすこぶる悪く、誰彼構わず怒鳴り散らしたい気分だった。そんな投げやりになった彼の態度のせいで、両親が何度涙を流したことか。しかし、退院してから彼はようやく吹っ切れ、日々に自信を取り戻していった。彼は懸命にリハビリをし、努力してポジティブに現実と向き合うことにした。だから、家族は自分たちが楽しそうにすることで、隼翔の神経を刺激してしまうのではないかと不安になる必要はないのだ。「今、入るのはやめておこう」家の前で、隼翔は声をおさえてボディーガードに言った。「俺は暫くその辺りで座ってから中に入る」彼は琴音の声と、母親の笑い声が聞こえた。恐らく琴音が来てまたおかしな話をして母親を笑わせているのだ。隼翔が事故に遭ってから、琴音は何
詩乃と姫華の二人が話している時、弦は何も言わず黙っていた。この親子が将来の黛家の当主が誰になるかという話題を話し終えてから、弦は再び立ち上がって挨拶をした。「それでは私はこれで失礼します。また日を改めて一緒に食事でもしましょう」神崎家からはもう誰も彼を引き留めることなく、詩乃は息子に弦を外まで見送らせた。玲凰が立ち上がって送っていった。弦もそれには特に何も言わなかった。そして母屋を出ると、玲凰が弦に尋ねた。「九条さんはうちの妹のことはなんとも思っていないんですよね。それなのにその芝居はいつまで続けるつもりなんですか?誰がこんなことをしてほしいと頼んできたんです?」玲凰はあの九条弦を動かし、芝居までさせられる力を持っているのが誰なのか、非常に気になった。「それはちょっと、それに言いたくないですね。恥をかきますから」玲凰は黙った。弦は一颯と賭けをして負けた。だから、無条件に一颯を手伝わざるを得ないのだった。一颯が出した条件は、善と姫華が婚約するまでであり、弦はその条件を守り、姫華を口説き続けなければならない。詩乃は桐生善の実家が遠いのを嫌がっているだろう?善と比べて弦は距離的に近い所にいる人物だ。同じく星城出身者なのだから。しかし、詩乃が娘を弦に嫁がせる気はあるだろうか?明らかに彼女にはそんな気はない。九条弦という比較対象ができてから、彼女は善のことをだいぶ気に入ってきたようだ。「神崎社長、そちらのお母様はまた考えを変えたのでは?今度は娘と想い人を一緒にさせるつもりなんではないでしょうか?」玲凰は言った。「……そうですかね?俺はちょっとよくわからないんですが」彼の母親は本当に今まで散々な手段を使っていた。この時、母親の出生に関してゆっくりと彼女に調査させるのは非常にタイミングが良いと玲凰は考えている。そうすれば、母親はこれ以上、姫華と善のことでそこまで騒ぐことがないからだ。「どうであれ、神崎社長にはお母様にひとことお伝えいただけますか。これからまた娘さんに別の男性を紹介しようとしたら、私がその相手の所に行って、神崎嬢は私の彼女だと言います、とね。誰もこの九条弦の彼女を奪えるわけないでしょう?」玲凰は言った。「……九条さん、そんなことされたら、妹がひどい目に遭うでしょう」「別に妹さんを
姫華は母親には自分だけしか娘がいないので、もし黛家の当主の座を母親が奪い返したいと思うのであれば、その座は自分に与えられるのではと思った。しかし、自分にはそんな力はないと感じた。母親がまだその言葉を口に出す前に、姫華は先手を打ってこう言った。「お母さん、黛家の当主の座ってものを取り返しても、私には継がせないでよね。あなたの娘がどんな人間か、お母様は、よぉくわかっておられるでしょ。私には一族を統率する重責を担える力はないからね。唯花がいいわ。彼女に数年あげればその能力は絶対につくから」姫華は従妹を盾にすることにした。ここは唯花を巻き添えにしておけば自分が安全だ!詩乃は娘を睨んで言った。「唯花ちゃんは今とっても忙しいし、プレッシャーも大きいでしょ。彼女は将来結城家の女主人となるのだから、気楽じゃないのよ。そのうえ黛家の重責を彼女に押し付けるというの?」姫華は言った。「そんなのどうだっていいわ。どのみち、私にはそんな能力はないもの。私は華奢な子だから、そんな重たい物を背負える力はないのよ。唯花がダメなら唯月さんに頼めばいいでしょ。唯月さんは私たち三人の中で一番年上なんだし、それに黛一族の特徴として長女の能力が一番優れてるんじゃなかったっけ。お母さんと叔母様なら、お母さんのほうが能力が高かったんでしょ。お母さんは私しか生んでないけど、叔母様には娘が二人いるわ。唯月さんは叔母様の一番目の娘さんよ。つまりすごいほうってこと。将来、正当な人間に黛家の当主の座が明け渡されるなら、それは唯月さんよ」そこまで言うと、姫華はそれがいいと思い、笑って言った。「唯月さんが黛家の当主になれば、彼女は東社長との間で家柄について悩む必要はなくなるわ。彼女と社長が一緒になってもプレッシャーは少なくなるから、一石二鳥じゃないの」弦は言った。「彼女は内海さんという名字ではありませんでしたか」「私も神崎という名字ですよ。私も彼女も黛じゃないですけど、真実が明らかになれば名字を変えられるでしょう」この時、航が娘を睨みつけた。姫華は言った。「お父さん、そんなふうに睨まないでよ。お母さんが本気で私にその黛一族の当主になれというなら、そりゃ黛に名字を変えないといけないでしょ。それに結婚すれば結局名字は変わるんだから、なんでそんなに睨むのよ」航「……」詩乃は娘
この時、弦はあのファイル入れを目にした。詩乃は彼のその視線に気づいても、隠すことなく彼に言った。「九条さん、ちょっと手伝っていただきたいことがあるんですが」九条家が調査を手伝ってくれるというのであれば、詩乃も自分の両親が死亡した本当の原因がつきとめられるかもしれないと思った。弦は笑顔で言った。「神崎夫人、そんな遠慮なさらず、何かあるのでしたら私に言っていただければ、出来る限りのことを手伝いますよ。最近、いつもお宅のお嬢さんのお邪魔をしてしまい、内心少し申し訳ないと思っていますので。だから、お手伝いできることがあれば、気持ちも楽になります」それに、姫華は悟の妻と仲が良い友人だ。明凛のことがあるから、詩乃に頼まれたら弦はもちろん手伝う気でいる。詩乃は、自分の出生と両親の死が仕組まれたことなのではないかという疑いなど、弦に話してしまった。弦は詩乃の話を聞いた後、すぐに立ち上がって帰ろうとした。この時、玲凰と善は同時に立ち上がって弦を引き留め、元の場所に座らせた。弦は言った。「みなさんのお邪魔ですので、やはりもう帰ります」詩乃は苦笑いするしかなかった。「九条さん、あの、つまりこの件は手伝っていただけないということでしょうか?」「神崎夫人、私もお手伝いしたくないわけではなく、今から数十年前の出来事の証拠を探すという点がネックなんです。調査したとしても何も手がかりは見つからないかもしれない。このような事をした人物が証拠を残しておくはずもない。当時、その証拠が残っていたとしても、この数十年という年月がそれを埋没させてしまっていますよ。それに、その件を知っている人物は全員亡くなっている可能性が高い。これに関しては私も手伝いたくないのではなく、非常に難しいのです。手伝うと言ってしまって、結局何も手がかりが見つからなければ、期待を裏切ってしまいます」だから、彼はやはりこの件には介入しないほうがいい。弦はこの時、さっきファイル入れをちらりと見なければよかったとひそかに思った。別に金塊が詰まっているわけでもないというのにじろじろ見て何をしていたのか。姫華は彼に尋ねた。「九条さん、あなたでさえも調べることは難しいのですか?九条家は情報収集のプロ中のプロですよね?この道に関しては、九条家の右に出る者はいないはずです」弦は苦笑いして
見るからに、弦は父親から結婚の催促をされすぎて嫌気がさしている。そもそもまだ縁が訪れていないのだから、弦から探しに行く必要はないと言われている。その運命の女性は自然と現れて、いつか知り合うことになると。彼の父親はせっかちで、息子はいい年なのだから、自分から動かず運命に任せていたら一体いつになるのかと言っている。もし神様が居眠りしてしまってすっかり弦の事を忘れたら、一生独身で終わるのではないかと心配しているのだった。弦はそれには納得できない。そんなに焦るほどの年でもないだろう。まだ三十過ぎだぞ。四捨五入すれば、四十の仲間に入るが、四十歳はまだまだこれからの年齢で、若いうちじゃないか。現代人は長生きになっているし、自分の健康状態から見れば、百歳まで問題ないと弦は思っている。だから、三十過ぎの今独身であっても、焦ることはない。玲凰は思わず笑い出した。「結城おばあ様もきっと九条さんの父親が鬱陶しく思って仕方なかったんでしょう。それであの占い師の方を紹介してお父様を落ち着かせようとしたんです」それがまさかこんな結果になるとは誰も思っていなかった。あのものすごく力のある九条寛哉が本気で結婚のプレッシャーをかけてきたら、本当に背筋が凍る。それで九条家の他の若者世代は自分が結婚適齢期に入り恋人がいないとみんな逃げていくのだった。出張か海外へ行くか、どのみち星城にはいない。寛哉が彼らにターゲットをしぼるのを恐れているからだ。ここまで寛哉が弦に対して結婚を急かしてくる様子を見て、弦のボディーガードたちも彼らの結婚にまで関わろうとするのではないかとビクビクしていた。「九条さん、お父様にそこまで結婚の圧力をかけられて同情はしますけど、そのいらだちを私に向けられては困ります。もらったプレゼントは開けずに置いてあります。今日いらっしゃったのだから、全部持って帰っていただけませんか?」姫華は弦のせいで自分や周りに被害を拡大させていることに不満をもらした。「さっさと九条さんにお返ししたかったんですけど、そちらのお父様に知られたら恐ろしいことになると、ずっと言えずにいたんです」弦は気にしていないらしくこう言った。「それなら、誰かにあげてしまったらいいですよ。それか捨ててしまっても構いません。だから絶対にうちには送り返さないでくだ
姫華は弦の自分に対する気持ちは偽物だとわかっている。それに彼女は名家出身でそもそもお金なら腐るほどあるのだから、高価な物に囲まれているし、弦の沼にはまることはない。弦から贈られた物の中で、花は捨ててしまうが、他の物は一か所に山積みとなり、一度も動かしたことはない。弦がこのわけも分からない行動を止めてから、一気に彼に返すつもりだ。姫華は最低でも善と婚約するか、結婚してからやっと、善と一緒にそのプレゼントを全部弦に返せると思っていた。今返してしまえば、弦の父親がこの事を知ってしまうだろう。今、その九条寛哉がどれだけ狂った行動をしているか神崎家もよくわかっている。寛哉は今一心不乱に息子をどうにかしようと奔走している。もし、弦が姫華に興味を示していると知れば、彼は姫華の気持ちなど無視し、結婚の申し込みをしに神崎家に来るに決まっている。姫華は弦の行動にはもう頭を抱えていた。もし、そこに彼の父親まで加われば、さらにややこしい状況になってしまう。それで彼女は我慢しているのだ。もちろん、姫華の家族もこの状況に耐えている。善ですらも、どうにもできない状態だ。善が今できることと言えば、姫華のことを今まで以上に大切にし、神崎家では態度を良くして評価を上げることくらいだ。毎回弦が花に、その他のプレゼントを贈ってくれば、善も同じ種類のプレゼントを姫華に渡して、弦には彼女の心につけ入る隙間を与えないようにしていた。すると弦はすぐにやって来た。この時の彼は手に何も持っていなかった。買った物は全て神崎家の使用人に任せ、運んでもらっている。「あれ、みなさんお揃いなんですね。まさか私が来ることがわかっていて、わざわざ待っていてくれたんですか?」弦は神崎家の面々が揃っているのを見て、気分良さそうに笑った。そしてソファが空いていないのを見ると大股で颯爽と歩いてきて、善のところまで行き笑って言った。「桐生さん、ちょっと横によけてもらって私も座ってもいいですか」善は今詩乃と航の目の前に座っていた。弦が善と一緒に座れば、ちょうど詩乃夫妻の目の前で、どちらのほうが良いのか比較できるだろう。善は笑って立ち上がった。「九条さん、どうぞお座りください」彼は弦に席を譲ると、姫華のところまで来て、一緒に座った。執事が大きな花束を抱えて入ってきた
しかし、結城理仁のことだから、その口では聞こえのいい言葉は言えないだろう。実際の行動で謝罪できればまだましだ。「なに?お嫁さんの何を誤解したんだ?プレゼントを贈ろうとも思うほどに」九条悟は興味が湧いた。「お前と関係ない。早く戻れ。今晩藤崎社長との打ち合わせは悟、お前が行ってくれ。俺は忙しい」妻と一緒に義姉の家へご飯を食べに行く予定だから。「また?何をしに行くんだよ」「私はもう既婚者だと知ってるだろう。ずっと仕事ばかりしていて、嫁が他の男に取られたら、後悔しても遅い」 九条悟「......」さすが彼でも返す言葉もなくなった。同時に、上司が仕事を自分に押し付けるのは、お嫁さんと一緒にいたいというこ
その日の昼、結城理仁は突然、内海唯花の本屋へ行った。内海唯花は牧野明凛と仕事を終えて、デリバリーで頼んだご飯を食べようとしているところに、結城理仁が本屋に入ってきた。驚いた内海唯花は、ぼうっと入ってくる男を見つめていた。結城理仁は彼女の前までやってきて「なんで知らない人を見るような目で見てるんだ?」と、少し下目線で尋ねた。我に返った内海唯花は微笑んだ。「意外だったよ。どうして来たの?ご飯もう食べた?まだだったら、あなたの分も買うわよ」牧野明凛はお邪魔虫にならないように、一言挨拶をしてから、さっさと自分の昼ご飯を持って、大きな本棚の後ろに消えた。「もう食べた。君はまだ?」そう言いながら、結城理仁
牧野明凛は満足そうに食べ終ると、金城琉生の話を聞いて笑い出した。「琉生、おねえさんはね、逸材な男なんかに全然興味ないのよ。今晩唯花と一緒に来て、ただ視野を広げるついでに、ご馳走を楽しんでるの。さすが七つ星のホテル、食べ物が全部おいしかったよ。私たちはもう満足したわ」金城琉生は無言になった。「......」「もう満足したし遅いから、琉生、先に唯花と一緒に帰るね。おばさんに言っておいて」それを聞いた金城琉生は少し焦った。チラッと内海唯花のことを見ながら言った。「明凛姉さん、もう帰っちゃうの?パーティーはまだまだ続くんだ。まだそんな遅い時間じゃないじゃないか。十一時まで続くらしいよ」「私たち、明日も
金城琉生は笑って言った。「知っています。そのバイクは僕に任せてください。明日唯花さんに、ちゃんと走れるようになったバイクを返しますから」親友の従弟は何年も前からの知り合いだ。内海唯花は金城琉生を信用していたので、こう言った。「じゃあ、お願いしちゃおう」金城琉生は内海唯花の手助けができて本当に嬉しかった。すぐに電話をかけた。誰に電話をしているのかはわからなかった。内海唯花は彼が住所を教えているのだけ聞こえた。それから、二人はその人がバイクを牽引しに来るまで待っていた。......「若旦那様」運転手の目はとても良く、信号の真向かいにいる女性が女主人にそっくりだったので、信号待ちをしている時に、後ろ







