تسجيل الدخول奏汰は車を駐車させる時、すでに玲が普段乗っているあのマイバッハに気づいていた。「ええ、家にいるから、そのまま中に入ってくださいね」玲はさっきまで奏汰が持ってきた荷物を持って家に入ろうとしたが、少し考えて、またその荷物を彼の手に持たせて言った。「嫌だわ、私ったら、まだ夫と一緒に花の手入れをしないといけないんだった。もうすぐ暗くなるし、奏汰さん、これを持って中に入ってくださいね」どのみち奏汰はすでに常連客になっている。奏汰にとって白山家は第二の実家とも呼べるほどに、全て把握しきっている。そして奏汰は一人で家に入っていった。部屋に入るとすぐに、ある女性がソファに座って携帯からメッセージを送っている姿が目に飛び込んできた。その女性は、どうも玲に似ている。いや、玲と瓜二つだ。もし玲が女性の服を着て、ロングのウィッグをかぶっていれば、まさにこんな感じだ。玲は最初ウィッグをかぶるつもりではなかった。でも、奏汰の話し声が聞こえると、彼がどのような反応をするか見てみたくて、サッと頭につけてみたのだ。玲は以前、奏汰の前で女性の格好をしたことがある。彼女は、あの時は自分がただ一度だけ女の服を着た姿を奏汰に見せてあげるのだと思っていた。結局、今もこうやってドレスを着ている。一度例外を作れば、それは二度、三度と、どんどん例外ができてしまうものだ。そしてこの時、奏汰は気づいた。いや、瓜二つではなく、玲本人だ。すると、彼は嬉しそうにニカッと笑った。彼は歩いてきて、まずは手に持っていた袋を置いた。そして、あの花束を玲の目の前にさし出して、ニコニコ笑った。「お嬢さん、これを、あなたに」玲の視線はその花束で遮られ、彼女は携帯から目を離し、ローテーブルの上に置いた。そして顔を奏汰のほうへ向けて、ニコニコと笑う彼の目と目を合わせた。玲も彼同様に笑顔を見せた。「奏汰さんにサプライズしようと思っていたけど、どうやら、そこまで驚いていないみたいですね」「俺のために一度女性の格好をしてくれたでしょう。あの時の高貴でクールな美しい姿は頭から永遠に消え去ることはないので」奏汰は玲が花束を受け取った後、数歩後ろにさがり、まじまじと彼女を見つめて笑顔で尋ねた。「家で準備して待っていると言っていましたが、この格好で出かけるの
暫くして、弥和は口を開いた。「いいわ、お母さんはもうあなたに口うるさくしないから。あなたがやりたいようにしたらいい。イライラして寿命が減ったら元も子もないんだし」「お母さん、私は親孝行者だよ」弥和は言った。「……別にあなたが親不孝者だなんて言ってないじゃない。だけど、あなたが女の子に戻るって事に私がこれ以上口を出していれば、怒りでどうにかなってしまいそうだわ。あなたの母親を続け、まだまだ長生きして、あなたの結婚と孫を見るまでは、もう口うるさくしないと決めたわ。女の子に戻ろうが、男装し続けようが、どちらでもいい。どうせあなた達は周りからどう見られるかなんて気にしないのだから、私がやきもきしてどうなるっていうのよ。子供は大人になると親の言うことなんて聞かなくなる。あなたはもうとっくの昔に私には手に負えなくなったのよ」そう言い終わると、弥和は立ち上がって出ていこうとした。「お母さん、ちょっと、どこに行くの?」「ちょっと新鮮な空気でも吸って気晴らししてくるわ。お父さんに愚痴をこぼしてくるの」この時、夫の茂は庭で花に水やりをしていた。玲は「そっか」とひとこと返した。「じゃ、お父さんにぶちまけてきて。全部吐き出した後、きっとやっぱり私が一番だって思うはずだからね」弥和は怒りもあったが、同時に可笑しくなり、そのまま家を出ていった。水やりをしていた茂は、妻が出てきたのを見ると、尋ねた。「玲のウォーキング練習は終わった?」「はあ、言わないで。今さら教えようとしたって、難しいわよ!あの子は男装するのに二十年以上慣れてしまって、たった今日午後の時間、ちょっと練習しただけじゃ、身にしみついているものを変えられるはずないわ。名家のお嬢様らしく、なんて不可能な話なのよ」茂は笑って言った。「まあ、こうなることは最初から、わかっていたことだな」彼は水やりを続けた。「まあまあ、子供たちが幸せなら、どんな身分で生きていたって、いいじゃないか」白山玲は彼の長男だと、世間は全員そう思っている。玲が突然女の姿になれば、きっと柏浜全体が震撼するだろう。そうなれば、電話がひっきりなしにかかってくるに決まっている。茂はその前に携帯の電源を切っておきたいと少し思った。「ドレスは着るけど、ヒールは嫌だから、革靴を履くだなんて。こん
「ご安心を、長年の運転経験がありますから、安全運転です。じゃあ、用意しておいてください。迎えに行ってすぐ、一緒にパーティーに行けるように」玲は「ええ」と返事をした。「では、家で待っていますね」「うん、また後で」玲がどうして今日半日会社を休んだのか、来たらすぐにわかると言われ、奏汰は電話でそれ以上尋ねることはなかった。まずは白山家に行ってからだ。奏汰との電話を終え、玲は携帯を置こうと思ったが、目の前に座っている母親を見ると、携帯を持つ手を戻し、奏汰にメッセージを送っているふりをした。「携帯を扱うふりをするのはやめなさい」弥和は立ち上がって玲に近寄ると、彼女の携帯を取りあげてローテーブルの上に置いた。「お母さん、携帯は持ってないと、会社で何かあったら私にすぐ連絡が来るから」玲はいざという時のために、携帯を取り戻そうとした。弥和は言った。「会社の事は碧に任せてきたんじゃないの?あの子にさせておきなさい。どのみち、彼は今夜のパーティーに出席する必要はないんだから。それにあの子はあなたより何歳も年下じゃないでしょ。たった十分遅く生まれてきただけよ。だけど、彼は男の子なんだから、重い責任を背負うべきだわ。大変なことは男に任せて、女の子は楽しなくっちゃ。苦労は男に放り投げればいいのよ」玲は笑って言った。「お母さん、それは男尊女卑なんじゃないの、古い考え方だよ」「世間からすると古い考えかもしれないけど、白山家では、男が重要な責任を負って苦労し、女は気楽に楽しく生活する、これが我が家の『男尊女卑』の解釈なのよ」弥和は娘の隣に座った。玲は母親との言い争いは避けたかった。「そうそう、そうだよね。お母さんはこの世で一番綺麗なんだから、正しいことしか言わないもの」弥和は娘を睨みつけた。「お母さん、なんでまたそんなふうに睨むんだよ?二十年以上一緒にいたけど、今日ほど睨まれたことは今までなかったよ」「姿勢を正しなさい!」弥和は娘の足をパシンッと叩いた。「淑女らしい振る舞いをしなさい!あなた、それじゃまるでどっかのお偉いさんみたいじゃないの。あなたは今ご令嬢なの、名家のお嬢様であって、白山家の御曹司でも、白山グループの社長でもないんだからね。それから、座ってすぐに靴を脱ぎ捨てるのはやめなさいよ。どこ
奏汰からの電話で、玲はヒールで歩く練習を一時中断できる言い訳ができた。玲は小声で、娘が淑女らしく歩けるように監督している母親に言った。「お母さん、奏汰さんからの電話だよ」弥和は頷いた。すると玲は大股でソファまで来て座った。その歩き方に弥和は眉をひそめ、仕方ないといった顔をして娘の後からついてきた。男装することに慣れきっている玲がドレスを着て、ヒールの靴を履いている。玲も別にまったく歩くことができないわけではなく、母親の要求する淑女らしい歩き方ができないだけだった。玲はヒールを履いていても、普段どおりに大股で颯爽と歩いてしまう。時々ふらつき、足首をひねったかのように見えてしまう。どのみち、弥和は娘がヒールを履いて歩く姿には非常に不満だった。玲はソファに座ると、すぐにヒールを脱ぎ捨てた。母親もまったく娘の状況に合わせて靴を買ってこなかった。今回初めてヒールにチャレンジするというのに、母親は高さのあるヒールを買ってきて、これを履いて練習しろと要求したのだ。実際パーティーに履いていく靴ではないとはいえ、玲は心の内で非常に不満だった。しかし、弥和は娘に、難しいことをクリアすれば、あとは簡単になるからと言った。このように高さのあるヒールでまず練習しておけば、パーティーで履く靴なら、容易いだろうというわけだ。「奏汰さん」玲は優しい声で奏汰の名前を呼んだ。彼女は以前、ここまで彼からの電話を待ち望んでいたことはないし、こんなに優しい口調で彼の名前を呼んだこともない。彼女はクール系だから、奏汰のことを好きになったとしても、彼に優しく接することは少なく、普通の女性のように甘えたりすることもなかった。たまに、玲が奏汰と話す時、少しでも笑うと、奏汰は数日幸せな気持ちで過ごせる。「午後は会社には戻ってないんです。半日休みをとって、家で休んでいました」玲の優しさは、さっき奏汰の名前を呼ぶ時に全て使い果たしたらしく、次に口を開いた時には口調はいつものクールな冷たさに戻っていた。「大丈夫なんですか?」奏汰は心配そうに尋ねた。「もしかして、どこか具合が悪いのでは?」玲は仕事の鬼だ。奏汰の従兄である理仁と同じで、仕事のある日に休むことはない。それに週末、家で休んでいる間も、実際は仕事を処理している。それもこれも、奏汰
白山碧のほうはまだマシだ。少なくとも、彼はよく女友達と交流している。遊びに行くのにも数人女友達を連れている。しかし、白山玲は本当に結城社長のせいで道を外してしまった……いくら結城社長がハイスペックな男性であり、星城一の財閥家、結城家出身だとしても、なんだというのだ?同性愛者は今でもやはり世間から受け入れられないことのほうが多いではないか。「まったく何を考えてるんだい?この花は碧君にあげるものじゃないんだ。お兄さんは会社にはいないのか?」奏汰は尋ねた。「彼は出てるのか?」碧は奏汰から手を叩かれても怒ることはなく、わざと奏汰に言った。「毎日兄さんにくっついているけど、まだまだ甘いようですね?兄さんがどこにいるのか知らないなんて。兄さんなら今日は午後ずっと会社にいませんよ。知らなかったんですか?」「……」奏汰は本当に知らなかった。奏汰はただ、玲から夕方迎えに来て、一緒に夜のパーティーに出席してほしいと言われただけだ。玲が今夜出席するのは、柏浜のとある名家の邸宅で行われるもので、ホテルではない。それで奏汰は仕事が一区切りすると、急いでここに来た。しかも、着替えもせずに来た。いや、着替える必要もない。彼は毎日スーツだから、着替えたところで同じくスーツだ。彼のように生まれつきのイケメンは、ラフな格好をしていても、すぐに注目の的になる。「その顔からすると、兄さんからは何も聞いてないみたいですね。へへ、奏汰さん、半年もの間兄さんにつきまとって、兄さんの好みを女から男に変えてしまったっていうのに、こうして見てみると、兄さんはまだそこまで奏汰さんにハマってはいないみたいですね」そう言いながら、碧は同情するように奏汰の肩をポンポンと叩いて笑った。「ちょっと忙しいので、この辺で失礼します。このまま中に入っても、帰っても、好きにされてください。それでは、俺はこれで」碧は本当に奏汰をその場に放置し、数人の管理職たちと一緒に去っていった。そして、歩きながら、仕事の話を続けた。奏汰がそう容易に碧から打撃を受けるような人間だろうか。彼はすぐに一階の受付までやって来ると、まだ仕事をしていた受付に尋ねた。「白山社長は午後、本当に会社にはいなかったのですか?それとも副社長は俺を騙そうとしているとか?」「彼でしたら、確か
唯月はどう返事をすればいいかわからず、ただ黙って隼翔を抱きしめた。暫くして隼翔はそっと彼女から離れ、優しい声で言った。「さあ、部屋に戻って休んで。もうこんな時間だ、おやすみ」「おやすみなさい。あなたも早めに寝てね、明日は星城に帰るんだし」二人は互いにおやすみの挨拶を交わし、唯月は隼翔の部屋を出た。隼翔は車椅子に乗って部屋の入り口まで来て見送った。彼女が隣の部屋に入るのを見届けてから、ドアを閉めた。そして夜は静かに過ぎていった。翌日、隼翔は朝食を済ませて、唯月に見送られる中、車に乗ってラグジュリゾートを離れた。唯月は空港まで見送ることはなく、彼が車に乗って離れるまで、ホテルの入り口に立っていた。空港まで行っても、結局は別れがくる。ギリギリまで一緒にいては、余計に別れが惜しくなってしまう。隼翔の乗る車が見えなくなるまで見送り、唯月はボディーガードたちと、柏浜滞在中に使用する二台の車のほうへ歩いていった。隼翔は星城に帰っていった。彼女も引き続き自分のやるべき事に集中しなければならない。忙しい時は、特に時間が経つのが早く感じられる。朝が来たと思ったら、あっという間に夜になっている気がする。奏汰は玲が午後会社にいないとは知らず、いつものように、夕方白山グループ本社に車を走らせ、玲の仕事が終わるのを待っていた。そして一緒に食事に行くつもりだった。玲はとても忙しいため、彼と過ごす時間は限られている。毎日食事をする時だけが、奏汰が玲との仲を深められる時間だった。車は白山グループに入ると、いつも駐車するスペースにとまった。奏汰は助手席から花束を抱きかかえて降りてきた。彼は本社ビルの入り口で、中から出てきた碧と鉢合わせた。碧は他に数人の管理職たちと一緒に歩きながら何か話していた。奏汰に気づき、一行は立ち止まった。「奏汰さん、ここへ何しに来たんですか?」碧は開口一番にそう尋ねた。その質問の意味がよくわからず、奏汰は聞き返した。「お宅の会社に来たらいけないんですか?」毎日来ているというのに?碧が追い出せるとでも?追い出そうとするものなら、奏汰はすぐに碧の両親に電話をして訴えればいい。白山グループの現社長は玲だ。しかし、会社の株の多くを会長である茂が持っている。茂こそ、会社のトップなのだ。







