LOGIN辰巳は咲を連れて一階におりると、理仁と唯花のほうにやって来て二人に挨拶した。咲も辰巳に続いて二人に挨拶した。それから理仁と唯花の対面に彼らは座った。唯花は心配そうに尋ねた。「咲さん、大丈夫だった?」「大丈夫。ただ首の後ろが少し痛くて。唯花さん、助けてくれてありがとうございました」咲はとても感激して唯花にお礼を言った。唯花は言った。「もう家族だもの、そんなかしこまらなくていいよ。だけど、これからはやっぱりボディーガードを傍につけておきましょう。そのほうが安全だから。私たち家族も安心できるわ。今日はちょうど私があの現場にいたから助けることができたものの、もし違ったらどうなっていたことか」咲も今になってまた怖くなってきて言った。「さっき、辰巳さんも私に言ったの。これからはボディガードには近くについてもらおうって」もし、彼女が柴尾グループを継ぐのでなければ、別にボディガードをつける必要はない。今の彼女は二人のおばから邪魔だと思われている。今回の件は恐らくあの二人の仕業に違いない。それで安全面に関して、彼女はもう頑なに拒否することはできず、辰巳の言う通りにすることにした。今までのように離れたところからではなく、目に見えるところにボディガードをつけて警護に当たらせるのだ。「それならよかった。実際、ボディガードが近くにいるのは最初慣れないかもしれないけど、だんだん慣れていくと思うわ」唯花も以前、ボディガードが傍について回るのは、どうも慣れなかった。なんだか、常に彼らがいると、自分の一挙一動を全て夫に把握されているような気がしたのだ。しかし、今では慣れてしまった。これも、理仁がボディガードを傍につけるのはただ彼女の安全を守るためであって、彼女の同意がなければ何も報告はさせないと約束してくれたからだ。理仁がそのように約束してくれたおかげで、唯花もボディガードがついて回るのに慣れた。「今回の件で、誰があやしいと思う?」理仁が低い声で尋ねた。咲は答えた。「二人のおば以外にはいません」理仁はひとこと「そうか」と返事をし、辰巳に向かって言った。「辰巳、何か助けが必要な時は言ってくれ。何も言わないなら、お前一人でどうにかできると思うからな」「理仁兄さん、今回の件は俺が自分で処理するよ。何か手伝ってほしい時は声をかけ
「プルプルプル」咲の携帯が鳴り出した。ここぞとばかりにキスをしてきた辰巳を押しのけて、彼女は急いでその電話に出ようとした。しかし、彼は両手で咲の頭を固定させて、キスから逃れさせず低くかすれた声で言った。「ちょっとくらい待たせておけ」そう言うと、彼はしつこくまた咲に深い口づけをして、ようやく名残惜しそうに彼女を解放した。この時、執事が咲の部屋の前に立っていた。彼女は咲の部屋には防音壁が設置されているので、ドアをノックするのではなく電話をかけてきたのだ。しかし咲は電話に出ない。すると彼女は一度電話を切り、少しの間待ってから、再び電話をかけた。今回は電話が繋がった。「お嬢様、結城家の若奥様がいらっしゃっています」執事は電話越しに、丁寧な態度でそう伝えた。「唯花さんがいらっしゃったのなら、中にお通しして。すぐに一階におりるから」咲の声はとても落ち着いていて、何もおかしな様子は聞き取れなかった。執事はあの二人が部屋の中で一体何を話していたのかは、まったく想像もできない。独身の男女二人が同じ部屋にいて、しかも二人は婚約しているので、別にどう思われようが構わない。彼女は恭しく返事をした。「かしこまりました」そして、彼女は携帯を耳から離して、通話終了ボタンを押した。今度はドアにピタリと耳を当ててみたが、何も聞こえないので、諦めて下におりていった。部屋にいる咲は辰巳を押して、立ち上がった。そして平然とした様子で自分の服を整え、辰巳に尋ねた。「今の私、どこかおかしなところはない?」辰巳は咲の体を上から下までじろじろと眺めてから、低い声で笑って言った。「別に君の服をめちゃくちゃになんてしてないんだから、おかしいところなんてあるわけないだろ?」婚約者といっても、辰巳が彼女にした最も親密な行為はキスくらいで、その先はまだだ。彼女のことを愛しているから、尊重し、大事にしたいと思っている。結婚手続きと結婚式を済ませたら、飢えた狼のように狂ってしまってもそれは当然のことだろう。愛し合う人同士なのだから。それに、咲は辰巳がどんな顔をしているのか、まだ知らない。彼女が手で何度も彼の顔を触ってみたことはあるが、それは頭の中で想像するしかなく、実際とはやはり差があって当然だ。辰巳は咲の目が治って彼がどんな顔をし
「あの時すごく怖かったんだぞ、わかってるのか?唯花さんから電話がかかってきて、君が襲われたと聞いた瞬間、驚いて心臓が飛び出しそうだったんだからな」辰巳は両手で優しく彼女を抱きしめ、顔を首元へ埋めるように近づけた。そして我慢できなくなり彼女の首にキスをした。そして頬へと移動して、そこに何度もキスをして彼女の頭を両手で支え、赤いその唇を塞いだ。二人は長く情熱的なキスを交わした。そして、辰巳は椅子に腰かけた。咲は彼に抱きしめられていた。辰巳は両手で力強く咲の腰を抱きしめた。彼女は彼の力が強く、圧迫されている感じがしたので、彼の手を引っ張って小声で言った。「そんなに強く抱きしめないで。腰を折ってしまいそうなくらいの力よ」それを聞いて辰巳はすぐに力を緩めた。「怖かったんだよ」辰巳は低くかすれた声でそう言った。「君に何かあったんじゃないかって。でも、唯花さんがちょうど会社に到着して、おかしな様子に気づいてよかった。唯花さんが強くなかったら、君はあいつらに連れ去られていたかもしれない」そうでなければ、どうなっていたか考えると、辰巳はどんどん怖くなってきた。「つまり私は運が良いってことよ」辰巳は彼女の頭を自分の胸に押し当てて言った。「酒見先生が今月産後の休暇を終える。そしたら彼女の所に行って、また俺から目の治療をしてほしいと頼むよ」咲は目が見えないから、容易にトラブルに巻き込まれてしまう。それに何かあっても、見えないせいで、悪人がどんな人間だったか説明することができない。「そんな頻繁に酒見先生を急かしたらダメよ。産後しっかり休んでもらってからお願いしましょう。女性は子供を生むと体に大きな負担がかかるわ。だからきちんと休んでケアしないとダメなの。そんなふうに彼女を急かしていたら、いくら先生の性格がよくて許してくれても、旦那さんのほうが許さないわよ」咲は唯花から、桐生家の弘毅が辰巳が依茉につきまとって目の治療を頼むのに不満を持ち、嫌っていると聞いていた。それは主に、あの時は依茉が出産間近だったし、今は産後のケアをしているところだからだ。そんな時期に辰巳がしつこく治療を頼んだら、弘毅が怒らないほうがおかしい。辰巳は咲のためにそうしている。しかし、弘毅が自分の妻を心配し、大事に思わないはずがないだろう?桐生
咲は目が見えない。だから、彼女が相手を判断する基準は、相手の匂いや声、それから足音だ。しかし、それらの特徴は容易に誰かに模倣されてしまう。彼女が少しでも気を緩めていたら、すぐにそれに引っかかってしまうだろう。そして今回、彼女はまんまとそれに引っかかってしまいそうになった。相手と車に乗り込む瞬間、車からタバコの匂いがして、話しかけてきたのが辰巳ではないと気づいたのだ。辰巳はほとんどタバコを吸わない。彼の車にはタバコの匂いは一切ない。「そう、彼はあなたのふりをしていたの。声も足音も、匂いさえも全部そっくりだった。きっと相手は裏で私たちの振舞いを全部観察してたのよ。そしてわざとあなたのふりをして、匂いまで周到に用意してきた。あなたはたまにメンズの香水を使うでしょ、どのブランドのものなのか探れば、香りの問題も見事クリアだわ」辰巳は言った。「絶対に君の二人のおばが裏で企んだ事だ。尾崎家と黒川家の人間はよく花屋の付近をうろついているから」そう言いながら、彼は咲の背中のほうに回り、後ろから彼女を抱きしめて、低い声で言った。「咲、今後は俺の言うことを聞いてくれないか?君の目が回復するまではボディーガードを傍につけてくれ。今日みたいな事を二度と起こしたくないんだ。君がなにかおかしいと気づいて逃げようと思っても、目が見えないからそれは難しい。今日は唯花さんがちょうど会社に来て、たまたま現場に出くわしたし、彼女は空手ができるから君を助け出すことができた。もしそうじゃなかったら、あいつらに車に乗せられていたよ。ボディーガードが様子がおかしいことに気づいても、反応が遅く君を助けるのは困難だ」彼女から手を離すと、辰巳はマッサージをしてあげた。それで首の痛みを少し緩和させてあげようとしたのだ。「そうだ、薬は?俺が塗ってあげるから」「ううん、少ししたら痛みが引いてきたから。確かに今日はすごく危なかった。もし車のタバコの匂いがなかったら、本当に連れ去られていたはず。あなたがつけてくれたボディーガードは私が自分で車に乗ろうとしたから、おかしいことに気づかなかったの。もしさらわれていたらどうなっていたか」咲はその後どうなっていたか、想像できた。彼女は目が見えない。それに女だ。悪い人間の手に落ちれば、恐らく辱めを受けていたことだろう。そし
あの死も恐れず、咲に手刀を入れて気絶させた男を見つけ出した後、辰巳は彼に同じ思いを味わわせてやろうと思っていた。誰かに気絶させられてどれだけ痛い思いをするか。咲は手を伸ばして辰巳を掴もうとした。辰巳は急いで手を伸ばし彼女の手をとった。咲は彼の手を掴んだ後、自分のほうへ引き寄せて、彼の香りを嗅いだ。よく知っているあの香りがして、彼女はやっと落ち着き、彼の手を離した。「咲?」辰巳はこの時、どういう状況なのか理解できていなかった。咲が言った。「車に戻りましょう。もうすぐ家に着く?帰ったらまた話すから」「もうすぐ着くよ。わかった、帰ってから聞かせてくれ。首は痛くない?」「痛いわ」「帰ったら、薬を塗ってあげるから」咲は何も言わず、手探りで車に乗り込んだ。そしてすぐに車のエンジンがかかった。それから少しして、柴尾邸に到着した。辰巳は咲を抱き上げて家の中に入ろうとしたが、彼女はそれを拒否した。自分の家では誰かに連れていってもらわなくても、二十年以上も生活した場所だから、どんな場所よりも熟知しているからだ。「咲お嬢様、辰巳様」執事が家から出てきて、二人を見ると恭しく挨拶をした。咲は執事の挨拶には返事をせず、淡々とした様子で執事の横を通り過ぎていった。こんな咲の態度に、執事はもう慣れてしまっている。使用人たちは咲に対してもとから私利私欲を持っている。彼女に対して忠実なわけではない。咲は使用人たちを全員刷新することはなかった。彼女たちは流星のほうに傾倒しているのだと咲もわかっている。流星のほうに傾倒しているから咲は使用人たちを変えていなかった。もしそうでなければ、咲は早々に全員変えてしまっていたはずだ。それに、この家は現在結城家の使用人も働いている。辰巳がそう手配したのだ。咲は辰巳が手配してくれた使用人のほうを信頼していて、執事の存在は薄くなっている。咲は屋敷に入ると、そのまま二階へ上がった。辰巳は黙って彼女の後についていった。彼女の部屋は後から防音壁にしたので、外に音が漏れることはない。何か重要な話をする時には、咲はいつも自分の新しい部屋に連れて行く。以前、柴尾家の長女で令嬢という身分の咲でも、二階に部屋をあてがわれることはなく、一階にある家政婦と同じ部屋を使っていた。彼女の伯父と母親
理仁は片手で唯花が持って来た花束を受け取り、もう片方の手で彼女の顔をつねった。「俺を怒らせてしまったってわかってるんだな」唯花は気まずそうに笑った。「私だってそれくらいわかってるわよ」唯花はボディーガードたちのほうを向いて言った。「もう大丈夫だから、みんな持ち場に戻ってちょうだい」四人のボディーガードは理仁のほうを見た。理仁が彼らを責めるのではないかと思い、唯花が彼らに代わって言った。「突然の事だったし、咲さんがあいつらと話す時は笑顔も見せてたから、知り合いなんだって思っちゃったの。まさか急にあんな状況になるなんて誰も思わないよ。だから彼らをクビにできないわよ。あなた、責めないであげてね」理仁は低く沈んだ声で言った。「彼女がそう言っている。それぞれ持ち場に戻れ」「ありがとうございます。若奥様」彼らは非常に感激して唯花にお礼を言った。そして、唯花は咲のボディーガード二人に言った。「咲さんのところに戻って。何があったのかは詳しく辰巳君に話すから。あなた達のせいにならないようにね」二人のボディーガードはもう一度唯花に感謝した。二人も責任を問われるのではないかと心配していたのだ。あの時、彼らは車から降りてきて咲に話しかける男に気づいていた。咲が相手と笑いながら話していたので、知り合いなのだと思い、すぐにそばに駆け寄ることはなかったのだ。しかし、事態がまさかこのように変わるとは思ってもいなかった。ちょうどそこへ空手ができる唯花が来たおかげで事なきを得た。彼女の反応は早く、あっという間に咲を車から降ろした。もし間に合わなければ、どうなっていたことか想像もできない。ボディーガードが近くに隠れて守っていて、万が一本当に何かあったとしても、絶対命懸けで咲を救い出すだろうが、やはり大きなトラブルになっていたはずだ。唯花が彼らに代わって弁解してくれたし、証人となって彼らが辰巳から叱責されるのを防いでくれた。咲は目が不自由だ。実際、彼らは彼女の傍に離れず護衛するべきだ。しかし、咲はそれを嫌がる。辰巳も咲にボディーガードの存在に気づかれないように、彼らに裏で咲とは一定の距離を保って守るように指示を出すしかなかった。もし、すぐ傍で守っていれば、誰かが咲に手を出そうと思っても、そう簡単に行動に移すことはできない。そう
隼翔はその場に突っ立ったまま、静かに唯月が横を通り過ぎていくのを見つめていた。そして暫く経ってから、やっと足を動かした。唯月に告白してこうなることくらいわかっていた。彼も数年かけなければ、唯月の心を動かすことはできないと覚悟している。家の中に戻ると、理仁から気遣いの視線を送られた。理仁は隼翔が普段の様子と変わらないのを見て、多くは語らずただ一緒に朝食を取ろうと言葉をかけた。そして隼翔の肩を軽くポンと叩くと、小さな声で言った。「焦るな、ゆっくりな」それに隼翔は笑ってこう言った。「焦ってはいないさ。どのみち、彼女と関われる時間はまだまだたくさんあるんだから」唯月が他
おばあさんにそう言われて、唯花は安心できた。そうでなければ、家族の誕生日パーティーも知らないなんて、結城家を取りまとめる女主人となる自分は資格がないと思ってしまうところだった。「唯花ちゃん、明凛ちゃん、お仕事してちょうだいね。私は晴を連れて他のお家を回って招待状を渡してくるから」おばあさんは少しだけいて、立ち上がり店を出て行こうとした。唯花と明凛も立ち上がった。「おばあちゃん、昼はご飯食べに来る?」「いいえ、お昼は玲さんと食事するつもりなの。うちのホテルで奏汰にも付き合ってもらうわ」おばあさんはその言葉を出した瞬間、子供っぽい視線を唯花に向けていた。唯花はどういうこ
「俺の弟に従弟もたくさんいるんだ。俺とお前が会社にいなくたって、あいつらだけでもどうにかなるからな。それに、数日いないだけだ。結城グループは昔から続く大企業だぞ、管理体制もしっかりとしている。俺たちが一カ月会社にいなくたって、どうこうなるわけないさ」多くの管理職を育てたのは、お飾り用ではない。悟はホッと胸をなでおろして笑った。「俺に引き続き牛馬のようにこき使うわけじゃないなら、それでいいんだ」理仁はおかしくなって言った。「俺は物語に出てくる悪役か?そんな緊張した様子で、別に俺がお前をこき使った覚えはないが」「うん、ないない。ずっと俺が好んで牛やら馬やらやらせてもらってただけさ」
朝になり、新しい一日がまた始まった。唯花が目を覚ました時には、すでに姉は起きた後だった。唯月が退院してから、唯花は姉が家でちゃんと静養しているか見ておくために、暫くは一緒に暮らそうと言って譲らなかったのだ。唯月は確かにまだ休む必要があり、三歳の子供も世話をする必要があるから唯花の言う通りにした。それで唯月と陽の親子は妹夫妻の住む瑞雲山邸で暮らしている。唯月は陽を連れて庭を散歩していた。この季節の星城は、もう少し汗ばむ気候になっている。昼間に太陽が照りつけるときには多くの人が我慢できずにクーラーをつけている。しかし、朝はまだとても涼しく過ごしやすかった。屋敷の朝は







