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第642話
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交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第648話
玲凰もその可能性を考えたことがある。だから妹から唯花の夫の苗字が結城だと聞いた時、それは結城理仁だとは思わなかった。結城家は確かに歴史の長い一族だが、何代か遡ればやはり田舎の出身だった。聞くところによると、その先祖がいた村に住んでいた人達は全員の苗字が結城だったそうだ。理仁のご先祖様の事業が成功して、村全員を連れて一緒にお金を稼いだかどうか、玲凰には知る由がなかった。しかし、彼はもちろん結城グループの本社や子会社に、結城という社員がたくさんいるのを知っていた。そのほとんどは現在の大富豪である結城家と無関係で、ただ苗字が同じだけなのだ。「だから、君を呼んだのは後で都合がいい時に唯花さんに聞いてみてほしいからなんだ。その夫の名前をね。母さんと姫華に知られないようにしてくれよ。姫華はまだ結城社長への想いが完全に消えていないって君も知ってるだろう。母さんは今ようやくあの姪っ子姉妹を見つけたばかりだから、知らせてはだめだ。万が一唯花の夫が本当に結城社長だと知ったら、母さんはどうするかわからない。確かに今二人の姪っ子を助けたい一心だが、やはり一番大事にしているのは姫華だろう。感情的にいっても、俺たちは姫華に肩入れするだろう。何しろ、姫華こそ俺の実の妹だし、唯花さんは従妹に過ぎない。しかも、最近再会したばかりで、家族としての感情なんてまだないんだ」玲凰は低い声で言い続けた。「姫華に唯花さんが彼女たちの前ではいつも夫のことを『結城さん』って呼んでいて、名前を言ったことないらしいぞ。偶然にも、姫華は他の女性の前で結城理仁のことを『結城社長』って呼んでいて、本名を口にしなかったんだ。だから、二人とも口にしている男性が実は同じ人物だとは気づかなかったのかもしれない」理紗「……玲凰、もう唯花さんの夫が結城社長だと決めつけているの。唯花さんの親友は金城夫人の姪っ子でしょ？金城家の後継者もよく彼女の店に行っているというのに、唯花さんは一度も金城御曹司の前で旦那さんの名前を呼ばなかったの？」玲凰は説明した。「君は結城家の教育方法を知らないから、そう思って無理もないな。結城家の子供たちは社会に出るまで、徹底的に保護されて、外部には外見も名前も知られていないんだ。彼らは一般人と同じように学校に通って、誰も彼らが名家のお坊ちゃんなんて気づかないんだよ。
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第647話
「理紗、さっき内海唯花さんのほうがつけている結婚指輪が見えたんだけどさ」理紗は彼を見つめ、おかしそうに言った。「私たちみんな目がついてないみたいな言い方ね。あなた一人だけじゃなくて、みんな見えたわよ。どうしたの？その指輪に何か問題でも？」玲凰はしばらく黙り込み、どう切り出すか考えていた。「私たち夫婦の間で言えないことなんてあるの？私を呼んだのは言いたいことがあるからでしょ、言ってよ」「理紗、前に結城社長がインスタで結婚指輪を自慢していたのを話したこと、覚えてるか？」理紗は頷いた。「もちろんよ。その日、私に朝っぱらから姫華ちゃんに伝えさせたわよね。自分が良い人ぶって、私が悪者になったのよ。姫華ちゃんの悲しそうな姿を見て、私まで泣きそうになったわよ。それに、その日スカイロイヤルホテルで結城社長に会ったとき、食事までご馳走になったんでしょ。家に帰ってから一晩中ずっとその話をしてきたじゃない。夢でもあんなことがあるものかって思っていたって。あの時、結城さんがあなたに何か企んでるんじゃないかって疑ったでしょ。でもあなたは結婚しているし、結城さんもそうよ。だから彼が男が好きだって心配する必要ないし、たとえ本当にそうだとしても、あなたを狙うわけがないし。あなたったら、本当に考えすぎよ」神崎グループの社長の座につける者だから、彼の夫はもちろん優秀な人なのだ。理紗は口で夫が考えすぎだと文句を言ったが、やはり心から夫はすごいと思っていた。玲凰は妻の額を軽くつついた。「君の考えた事じゃないからな。あの日、スカイロイヤルで結城社長に会った時、彼が結婚指輪をつけているのを見た時、彼は奥さんがゴールドの指輪が気に入らないから、エタニティリングに替えたと説明したんだ。彼と食事をしたとき、何時間も彼が指輪を自慢するのを見ていたから、その指輪のデザインをしっかり覚えていたんだ。さっき内海さんがつけていた指輪を見て、同じデザインだと思ってさ、たぶん結城社長のとペアのようだ」理紗はぽかんと夫を見つめ、暫くして、夫の額に手を当ててから、自分の額の温度も測った。そして、独り言のように言った。「熱はないわね。あなた、大丈夫？結城社長の結婚指輪が唯花さんのとペアだなんてありえないわよ。もしペアだったら、結城社長の謎の妻は唯花さんだってことになるわ。そんなことあ
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第646話
神崎家に来る時は唯月が運転してきたのだった。そして唯月が息子にきちんと挨拶するよう教えていた。陽は詩乃に抱かれるのを嫌がったが、挨拶はしっかりできた。母親が教えたとおりにちゃんと挨拶した。「かわいい子ね」理紗は笑って尋ねた。「私が抱っこしてもいいかしら？」詩乃は言った。「陽ちゃんは私にも抱っこさせてくれないのに、理紗さんができると思う？」理紗が試しに手を伸ばすと、意外にも陽は彼女を見つめてから、本当に小さな両手を伸ばして抱っこを求めた。詩乃「……陽ちゃんはいい人選をしてるわね」「陽は普段こんな感じじゃないんですよ。この間本当にあんなことがあって驚いてしまったから。詩乃伯母さん、今度会った時は、きっと抱っこできます」陽が理紗に懐いたことに、唯月も意外だと思っていた。「唯月さん、唯花ちゃん、彼は私の長男の玲凰よ、あなた達の従兄なの」詩乃は姪っ子に二人の息子を紹介するのも忘れなかった。姉妹二人は揃って玲凰に「玲凰さん、はじめまして」と言った。玲凰は少し笑って何も言わなかった。詩乃はまた次男の神崎昴（かんざき すばる）を指しながら紹介した。「彼は次男の昴よ。唯月さんより二歳年下で、唯花ちゃんより三歳上なのよ」唯月も唯花も彼に挨拶をした。「おばたん、だっこ」陽は理紗に少し抱かれただけで、すぐ唯花のほうに向かって抱っこをねだった。唯花は慌てて手を伸ばし、甥を抱いてあげた。目が鋭い玲凰は唯花が左手の薬指にはめていたダイヤの指輪に気づいた。どこかで見覚えがあるようだ。つい最近、誰かの手に同じデザインの指輪をしていた気がした。玲凰はさりげなく唯花の指輪を見つめた。「部屋に入ろう。外は寒いし、今日は風が強いから」航は皆を家に招き入れながら、娘に行った。「姫華、車を中に止めなさい」姫華は言われたとおりに車を敷地内の駐車場に止め、唯月も彼女のように妹の車を神崎家の敷地内に止めてきた。そして、一行は笑いながら豪華な邸宅に入っていった。唯花姉妹が持ってきた手土産は使用人たちが運んでくれた。詩乃は姪がこんなに多くの手土産を買ってきたのを見て、姉妹に言った。「伯母さんは別に他人じゃないでしょ。こんなにたくさん買って来なくてもいいのに。伯母さんは何も不自由じゃないからね」「大したものじゃあ
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第645話
「そういえば、言っておくけど、次のバレンタインに、俊介と結婚届出すことにしたのよ」唯月は相変わらず冷静だった。「そう？おめでとう」莉奈が佐々木家という泥沼に飛び込むのは実におめでたいことじゃないか。「今日は週末だから、今起きたばかりよ。でも俊介はもう朝ごはんを作ってくれたの。あなたたち結婚三年以上だったのに、ずっとあなたが俊介にご飯を作ってたでしょ？たぶん、俊介の手料理を食べたことなんかないでしょう」唯月はこれ以上、莉奈の挑発的な言葉を聞きたくなくて、電話を切った。「お姉ちゃん、あの成瀬とかいう女？」「そうよ。本当に頭がおかしいわ。もう佐々木俊介と離婚して、あの二人を一緒にさせたっていうのに、どうしてまた私に電話するの？それに、図々しくインスタとLINEの友だちに追加してほしいって言いだしたの。絶対毎日佐々木俊介といちゃつく様子をインスタにアップして、私を怒らせようとするのでしょ？私は別に怒るところはないわ。もう離婚したんだし。佐々木俊介という男と何の関係もないから。ただの元夫だわ」それに、俊介が莉奈に朝食を作ってあげたということに、唯月はもう笑うしかなかった。俊介が今まで料理を作ったことがないのは事実だ。彼に朝食が作れるわけがない。絶対テイクアウトしてきたに違いない。「それに、バレンタインに結婚届を出しに行くって言ってた。本心を言うと、早く結婚してほしいわ。そうすれば、あの家族がどれほどクズなのか実際に味わえるからね」唯花は罵った。「本当に厚かましいわ」「そうじゃなければ、佐々木俊介と気が合ってくっつくわけないでしょ。でも、やっぱり彼女には感謝してるわ。彼女が説得しなければ、彼はあんなに簡単に陽ちゃんの親権を手放してくれなかったはずよ」唯月は再び陽を抱き上げた。息子は彼女の命なのだ。俊介はどうでもいいが、息子だけは手放せない。幸い、暗いことは全部過去に留めてきた。今手を広げれば眩しい日差しが抱きかかえられる。「お姉ちゃん、先にスーパーへ買い物に行こう」伯母の家に行くから、手ぶらで行くわけにはいかない。唯月は「うん」と答えた。姉妹二人は陽を連れてスーパーへ行って、多くの買い物袋をぶら下げて出てきた。買ったものを全部車のトランクと後ろの席にいっぱいつめた。ちょうど車に乗ろうとした時、姫華の
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第644話
信号が青になると、善の専用車が先に行った。姫華は彼の車のナンバープレートに目をやった。「あの車は誰のなの？後ろの黒い車はボディーガードの車だよね」と考えた。星城で、出入りする時、いつも大勢のボディーガードを連れて回るのは理仁以外に誰がいる？姫華にはその車の印象がなかった。彼女の兄でさえボディーガードを連れているのもあまり好きではなく、たまに二人ぐらい連れる程度で、理仁のように毎日二回交代制で、毎回八人連れるなどということはしない。だから毎回理仁が出てきた時、まるで大昔の皇帝でも君臨したような感じだった。唯花は姫華が途中で善に会ったことなど知らず、位置情報を送った後、明凛にメッセージを送った。親友に今日は伯母の家に行くと伝えた。そして、暫く考えてから、理仁にもメッセージを送った。理仁はその時おそらくまだ飛行中のため、返事ができなかった。それで唯花の心がまた重く沈んでいった。彼女ばぶつぶつと呟いた。「返事くれなくったっていいの、別に欲しくないもん」すると、携帯をコートのポケットに入れ、椅子から立ち上がり、食器をキッチンに持っていき、洗い始めた。「お姉ちゃん、顔の傷、薬を塗ったの？」「塗ったよ。傷跡が残るかどうかわからないけど」「そんなに深い傷じゃないから、残らないでしょ」唯月は陽を抱いてキッチンの前まで来て、食器を洗っている妹を見つめて言った。「唯花、お姉ちゃんは優しすぎるんじゃないかと思ってる？」「陽ちゃんのことを考えて一回許したでしょ。それに、今うちらに伯母さんがいるって知ったら、今後お姉ちゃんに手を出すことができないでしょ。でも……お姉ちゃん、あの佐々木家の母親は後悔してるじゃない？」「とっくに後悔してたみたいよ。でも、それは私のことを思ってるんじゃなくて、息子が私にくれたお金が惜しいと思ってるだけ。もう離婚したから、どうでもいいわ」話している間に、唯月の電話に見覚えがあるような、そうじゃないような着信が入ってきた。見覚えはないようだと思うのは、その番号が彼女の知った番号じゃなかったからだ。しかし、この番号からの電話に出たことがあるような気がした。「内海さん、私よ」電話に出ると、向こうから莉奈の甘ったるい声がした。「成瀬さん、何か用？」唯月は佐々木家全員の電話番号はブロック
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第643話
「プルプルプル……」唯花の携帯が鳴り出した。それは姫華からの電話だった。彼女は明凛とのチャットを一旦中断し、姫華の電話に出た。「唯花、今どこに住んでる？」「トキワ・フラワーガーデンよ」「わかったわ、今行くよ。実は今店の前にいるの、今日は店を開けてないのね」唯花は「わかった。位置情報を送るね。姉とこれから出かけるところよ」と言った。姫華は「うん」と返事した。唯花から位置情報を受け取ると、姫華は携帯のナビでトキワ・フラワーガーデンへ向かった。彼女の運転はスピードが常に速く、交差点で大通りに入ろうとした瞬間、危うく一台のマイバッハと衝突しそうになった。幸い、両方とも急ブレーキをかけた。姫華も相手の運転手も車の窓を開けた。姫華は相手に少し下がって、彼女に先に行かせるようにジェスチャーした。運転手はすぐには答えず、振り向いて後ろに座っていた人物を見た。「どうしたの？」善は落ち着いて尋ねた。「相手が道を譲ってくれなくて、こちらに引けと要求しているんです」善は少しカーテンを開け、外を一瞥してから再びカーテンを閉めて、運転手に言った。「神崎家の高飛車のお嬢さんですね。いいよ、少し下がって道を譲ってあげよう」星城にあるアバンダントグループの子会社を管理している善は、普段から地元の実業家たちと交流していた。しかし、いまだに神崎グループとは取引をしていないのだ。それは、アバンダントグループは結城グループと提携していて、結城グループは神崎グループと犬猿の仲という関係なので、神崎グループと取引しなかったのだ。しかし、神崎家の重要人物の顔なら、善は覚えている。今神崎家の当主の神崎玲凰は愛妻家で有名だ。神崎玲凰本人より、妻である理紗の顔をしっかり覚えておくほうが重要だった。間違えても神崎家の若奥様を怒らせてはいけない。さもなくば、うっかり玲凰の逆鱗に触れて、報復されるかもしれないのだ。そして、神崎夫人である神崎詩乃も要注意人物だった。彼女は神崎グループの当主の座についていないが、元は平社員から這い上がっていった実力者で、夫である航ですら彼女には及ばなかった。先代当主がグループを管理していた時、多くの事業は神崎夫人に頼っていたのだ。それゆえ、神崎夫人を怒らせるわけにはいかないのだ。最後は、この姫華という
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第642話
唯月は妹を一瞥して言った。「まさか彼の服が自分で出てきたわけじゃないよね？それに、まだ濡れているし、昨夜か今朝洗ったもののはずのよ」唯花「……もしかして、本当に昨夜帰ってきたのかしら？」「何を言ってるの？」「何でもないよ。それよりお姉ちゃん、私が育てた花、綺麗でしょ？見ててね、私はご飯食べ終わってないから」唯花は茶碗を持ってテーブルまで戻り、座ると急いでスマホを取り出し、明凛にメッセージを送った。「明凛、私昨日いつから酔っ払った？酔った後、明凛と弟君が家まで送ってくれたの？昨日夢を見たの。夢の中で理仁さんが帰ってきたのを見たけど、別に彼のことが恋しくなったわけじゃないからね。それに、ベランダには彼の服が干してあって、まだ濡れてるの……もしかして夢じゃなくて、彼は本当に帰ってきたのかな？電話はだめだよ、メッセージで返事して。お姉ちゃんがうちにいるから、彼女に聞かれて、私が理仁さんと喧嘩しているのを知られたら、また心配させちゃうよ」唯月が離婚した後、妹が自分の影響で結婚生活が上手くいかなくなるのを何よりも心配しているのだ。だから、妹夫婦の関係には注目していた。明凛はすぐ返事をした。「結構飲んでから酔っ払ってたわよ。私たちが知り合いになって以来、一番の最高記録更新だわ。お宅の結城さんは確かに戻ってきたよ。昨夜私が酔っ払ったあなたを連れてバーを出て行った時のことなんだけど。そのバーの入り口で結城さんに鉢合わせた瞬間、あなたのことを奪い取るように抱きかかえていったの。びっくりして全く反応できなかったんだから。家まで送って行ったのはもちろん結城さんよ。夢じゃない。あなたが彼の存在を感じたのは、彼が本当に帰ってきたからなのよ。あんなに酔っ払ってたから、覚えていないと思ったわ」唯花「……」彼女は少し考えて、また親友に尋ねた。「理仁さんは本当に帰ってきたの？何があったか覚えてないのよ。ずっと夢だと思ってたし。それに、彼は私にたくさん話してきたの。おじいちゃんみたいにうるさかったのよ」明凛は文字を打つのが面倒くさくなって、音声メッセージを送ってきた。「今起きたの？結城さんはいない？あ、そうだ、昨日九条さんに聞いたんだけど、結城さんは今日また出張先の町に戻らないといけないらしいよ。彼自身が処理しなければならない仕事があって、
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第641話
夢の中で、彼が彼女にいっぱい話してきたが、肝心な内容が彼女は聞きとれなかった。夢の中の唯花は彼に「聞こえないから声を大きくして」と言ったのだが、理仁はただ唇を動かすばかりで、その声が全く耳に届いてこなかった。それが非常にもどかしかった。清水は振り向いて彼女をチラッと見てから、また自分の仕事に専念した。「昨日の午後、唯月さんと陽ちゃんを先に家まで送って、昨夜もお姉さんのお宅に泊まりましたから、結城さんが戻ってきたかどうか、私は知らないんです」唯花はおでこをぽんと叩いた。「そうでしたね。清水さんは昨日家にいなかったんですよね。うう、頭が痛い。清水さん、あさりの味噌汁を作ってくれませんか。二日酔いがひどくて。もうだめ、私は鎮痛剤を飲んできます。本当に痛くてたまらないんです」唯花はくるりと出口のほうを向いてキッチンを出た。そして、何事もなかったかのように客室に入り、救急箱から鎮痛剤を取り出し、包装を開けて、薬を口に入れようとした。「頭が痛くなった？」その時、姉の声が耳に響いてきた。唯花はびっくりして手が震え、薬を落としてしまった。「寝不足だから、頭が痛いの。鎮痛剤を飲めば大丈夫よ」もう姉に見つかってしまったので、唯花はもう何も隠さず、堂々と薬を飲んだ。「もう何回も言ったでしょ。お酒を飲まないようにって。お酒に弱くてちょっと飲んだだけでも酔っちゃうくせに、いつもいつもこっそり飲んでいて。私の言うことは耳元を吹いていったそよ風と同じなのかしら？結城さんがいないからって、好き勝手に飲んでたでしょ？」唯月は心配と怒りが入り混じった表情で妹の耳を軽く引っ張った。「結城さんが帰ったら、出張に家族を連れて行けるなら、あなたを一緒に連れて行ってもらうよう頼むわよ。留守中にお酒を飲みに行かないようにね」「お姉ちゃん、彼は仕事で出張してるのよ。私がついて行っても何もできないよ。本当に二杯しか飲まなかったから、大した量じゃないでしょう」「嘘をつかないの。あなたがどれくらい飲めるか私が知らないとでも？弱いくせにいつも飲みたがって、監視する人がいなければ、絶対がぶがぶ飲むでしょ」唯月は妹を叱りながらキッチンに向かった。「清水さんにあさりの入った味噌汁を作ってもらうわね」「お姉ちゃんが私のことを大事にしているのはわかってるよ。世界
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第640話
理仁は心中面白くなかった。「お前は俺が怒るのを期待していると？なんで怒らないといけないんだ。たとえ唯花さんが面と向かって俺を馬鹿だまぬけだと殴りかかって罵ってきたとしても、それは全部愛だろ。彼女は俺を愛しているから怒るんだ。もし俺に一切の感情を持ち合わせていなければ、俺に一瞬でも視線を向けることさえ、時間の無駄だと感じて罵りもしてこないさ。妻がはじめて俺のために描いてくれた絵だぞ。なんでそれを破って捨てる？この絵はしっかり額縁に飾って、ちゃんと保管しておかないと。年を取ったらこれを出してきて鑑賞すれば、感慨深いぞ」悟「……額縁に飾る？本気か？じゃ賭けてみようじゃないか、嘘なら針千本飲んでもらうぞ！」理仁は落ち着いた声で言った。「額縁に飾るだけじゃなく、俺と唯花さんの寝室に掛けておくさ。朝と夜二回ずつ鑑賞できるぞ」彼にいつもみみっちく、ちょっとしたことで彼女と喧嘩するなと忠告しなければ。彼女を怒らせ、傷つけ、泣かせているくせに。悟は口を尖らせた。「君のオフィスに飾らないのか？」「どうしてあんなところに飾るんだよ。妻が俺のために描いた絵だぞ、これは俺ら夫婦の部屋に飾ってこそだろ。他の奴らなどに見せん。お前はさっさとこの絵のことを忘れてしまえ。話は終わりだ。ちょっと寝る」ここ二、三日彼はよく休めていない。「おやすみ」悟は電話を切った。彼は理仁が絵に隠された意味が理解できないと思い、わざわざ理仁に電話をかけてこの機会に彼をからかって笑おうと思っていたのだった。それがまさか理仁は絵の意味に気づいただけでなく、夫婦の愛が深いと自惚れてきたのだ。さすがは夫婦、お互いの考え方は普通ではない。一方、唯花は自分が酒に酔ったので理仁が夜中帰ってきて、今また出張に戻ったということなど知りもしなかった。彼女は携帯の呼び出し音に起こされた。起きると頭が割れるほど痛く、その痛みに堪えながら携帯を手に取り電話に出た。「内海さん、私です。起きられましたか？玄関を開けてもらえませんか」「清水さんですか――ちょっと待っててください。今開けますから」唯花は周りを見渡し、自分が家にいることを確認した。きっと明凛が彼女を送ってきてくれたのだろう。彼女は頭痛に堪えながら起き上がり、部屋を出て玄関を開けにいった。そこには清水の
