第996話

理仁は彼女に尋ねた。「出発したばかりなのか？もうあのヒール履きこなせたの？」

唯花はびっくりし、メッセージを返した。「どうして私がヒール履いてるのを知ってるの？」

彼女は本屋を出た時、普通の靴を履いていたのに。

理仁は正直に答えた。「神崎さんが君の歩く動画を送ってくれたんだよ。唯花さん、ありがとう。大変だったよね」

彼女が自分のために、彼の世界に溶け込もうと努力してくれていることに感謝しているのだ。

彼女は普段そんなにこだわりのない人だった。着ている服も気のままに着やすい服を選んでいたのに、彼のために自分を変えるのは本当に大変なことなのだ。彼は心が痛むと同時に感謝し、これからの人生で彼女を心から大切にしようと改めて誓った。

唯花はまた返信した。「……姫華が私を売ったのね、まったく。ヒールを履いた私の姿、おかしかったでしょ？履いている間ずっと、あの靴を脱ぎ捨てたくてしょうがなかったわ。サンダルの方が断然楽だもの。

さっき桐生善さんに会ったの、彼を招いてお茶を出したから、少し出発が遅れちゃって」

唯花は夫のさっきの質問に答えた。

理仁は意外そうに尋ねた。「どうして彼に会ったの？」

「伯母さんの隣のお屋敷、桐生さんが買い取ったそうよ。それで業者の人を連れて家を見に来ていたから、偶然に会って、姫華が彼を誘って一緒にお茶を飲んだの。これから隣同士になるからね」

夫婦二人はメッセージを送っていたから、唯花は遠慮なく自分の推測を伝えた。「理仁さん、私はね、桐生さんが横山家の屋敷を買ったのは、姫華のご近所さんになるためだと思うの」

彼女が手を怪我した時、姫華が点滴に付き添ってくれた。その時、善も急性胃腸炎で同じ病院に来ていた。姫華は気づかなかったかもしれないが、唯花ははっきり見ていたのだ。

その時、腹を抱えてぐったりしていた善が姫華を見ると、急に背筋を伸ばし、平気なふりをしていたのだ。

善は姫華に弱った自分の姿を見せたくなかったのだろう。

彼は姫華からどう見られるかを気にしていたのだ。

その時、善と姫華の間に何かあるかもしれないと考えていたが、その時、姫華が理仁への想いを諦めたばかりだったので、唯花は口を挟むことができず、黙って見ていたのだ。

しかし今、善は突然横山家の屋敷を買い取り、神崎家と隣同士になったことで、唯花は思わず善が将来を見据えて準備