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降下~堕天1

Author: 夏目碧央
last update publish date: 2026-07-24 13:54:42

 未来は本国に帰り、自衛官になった。国王関連のニュースに気を配っていると、やはり、今までの外交のやり方では立ち行かなくなっているので、何とかしなければという有識者の意見が時々出ていた。一度は廃止された国王制だが、一部右翼政党などが国王制の継続を訴えており、次の国政選挙ではその点が争点となった。王制を廃止したままでいいのか、継続させるのか。そして、廃止を標榜する与党が選挙戦を圧倒し、国王制は名実ともに廃止された。クーデターを起こした王家をそのまま存続させる事は、やはり世の中には受け入れがたく、今までは王家を指示していた多くの国民も、廃止はやむを得ないと判断したようだった。

 尊人の身柄は、宮殿から別の場所に移したと発表され、その場所は非公表だった。未来は、これをもって安堵し、イギリスにいる尊人や健斗にも伝えたのだった。国は、尊人を探していないと確信したし、このままうやむやにするつもりなのだろうと推測した。

 未来は自衛隊の仕事をそつなくこなし、試験を受けては出世を繰り返し、短期間でだいぶ上まで上り詰めた。帰国して半年余りが経ったある日、未来は上官から呼び出された。いつもは入れないような
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  • 人間になりたい。たとえ王だとしても   子孫~芽生え2

     未来は本国へ戻り、自衛官から外務省の官僚に転身した。首相は交代し、もう未来の顔を知る人物ではなくなった。与党は、国王がいなくなった今、この国を大統領制にしようという方向で動き出していた。憲法を変えるわけだから、そう簡単ではないが、世論も少しずつその方向へ動いていた。しかし、国王制を復活させたいという王制復権党という新たな政党ができ、少しずつ力を付けていった。 未来は、2~3年に一度、尊人達の元へ遊びに行った。彼らはロンドン郊外の田園都市に居を移し、畑仕事や酪農を細々とやって生計を立てていた。ほぼ自給自足のような生活だった。尊人のクローンベイビーは遥貴(はるき)と名付けられ、すくすくと育っていた。12歳まではなんとか隠しておかなくては、と未来は思っていた。帝王教育は12歳までには始めなければ手遅れになると言われている。13歳になってしまえば、遥貴を狙う者もいなくなるだろうと思っていた。 王制復権党の主張は、尊人を解放し、元通りに王制を復活させようというものだった。しかし、尊人が国王を辞めたがっていた事は多くの国民の知るところとなっているので、そう言った意味では、世論はこの政党にほとんど理解を示していなかった。だが、王制復権党の主張が変わってきた事を、未来は敏感に感じ取っていた。かの党は、「尊人様」ではなく「王家の血を引くお方」を再び国王に、と言い始めたのだ。一般的には尊人の姉たちの子供の事か、もしくは瑠璃子のいとこの子供辺りかと思われていた。だが、実はそこに男の子はいない。今は女王も認められているが、この政党は元々女王制度には反対していた議員が多く、未来はそこが引っかかっていた。女王でも良いから国王制を、と訴え始めたのか、それとも……遥貴を見つけたか。そもそも、クローンの話を持ち掛けたのが、この政党に関係する誰かではなかったか、と未来は睨んでいる。上手く逃げたから良かったが、そうでなければ今頃遥貴はこの国に連れて来られ、国王候補として担ぎ上げられていたかもしれない。 そうして大統領制にするか、王制を復活させるか、世論が定まらぬまま歳月は流れた。首相が更に代替わりした頃、国内の景気が悪化し、ついこの間まで人手不足だと言って外国人労働者を盛んに登用していたのがウソのように、今度は就職難。若者が職に就けないという不況が始まったのだった。好景気と不景気は繰り返すもの

  • 人間になりたい。たとえ王だとしても   子孫~芽生え1

     1年半後、未来は休暇を取り、尊人と健斗の元へ遊びにやってきた。出迎えは要らないといってあり、懐かしいかつての我が家へ直接訪れた。「やあ!来たぞ。」玄関を開けて入っていくと、尊人がキッチンで料理をしていた。「未来!お帰り!元気か?」尊人が嬉しそうに振り返った。未来は笑顔でうんうんと頷く。「健斗は?」未来が問うと、尊人は奥の部屋だと指さす。未来が奥の方へ入っていくと、健斗が振り返った。「おう!未来、よく来たな。」そう言って振り返った健斗の腕には、なんと赤ん坊が抱かれていた。1歳くらいだろうか。もうすっかり髪の毛も生えていて、指をしゃぶっていたが、未来を見ると、指を口から出して未来を指さし、あーだのうーだの言っている。「か、可愛い!」未来は思わず言った。だって、これはまさしく、尊人にそっくりだ。尊人をそのまま小さくしたような、愛らしい円らな瞳。だが、次の瞬間、未来は凍り付いた。尊人が子供を産んだわけはない。まさか尊人が女子に産ませたわけでもあるまい。「どう、したんだよ、この子。まさか……クローン?」自分で言いながら、未来は心臓がバクバクした。健斗は悪びれもせず、「そうなんだ。尊人のクローンベイビーだ。」と言った。「どうやって?そんな金、あるわけないだろう?」未来が言うと、「それがさ、研究段階だからって、お金はかからなかったんだ。」健斗が言う。「それ、その情報はどこから仕入れたんだよ?」「うん、最近引っ越してきた本国から来た人で、うちの生徒さん。子供が欲しいなら、良い方法がありますよって教えてくれたんだ。2人目は俺のクローンを作ればいいって。親切な人だよな。」未来は青くなった。深刻な顔をした未来を、健斗は不思議そうに見ていたが、やがて、「俺……何かまずったか?おい、未来、何かまずいのか?」何か得体のしれない怖さに、健斗もまた青くなって未来に詰め寄った。「いや、分からない。お前たちに子供ができて、育てていくのは悪い事じゃない。だが……。」未来は途中で言葉を切り、考え込んだ。国に尊人の居場所がバレたのだろうか。いや、今や我が国は国王制を廃止したのだ。今更尊人の子孫が生まれたところで、何の関係もないはずだ。だとしたら、誰が尊人の子孫を欲しがるだろうか。もしかしたら、国王制を存続させたい右翼政党かもしれない。「健斗、これは可能

  • 人間になりたい。たとえ王だとしても   降下~堕天2

     健斗は、尊人の寝室に入って来た。ベッドに腰かけていた尊人は、少しずれて健斗の座る場所を作った。健斗は未来の仕事を引き継ぎ、忍者教室で忍術を教えていた。未来よりも向いているかもしれない。健斗は面白いキャラクターでありながら、身体能力は抜群で、生徒たちの心を掴むのが非常に上手いのだった。そうして、教えるのと鍛えるのとを毎日の日課にしていた。今日もレッスンの後にトレーニングをし、疲れた体をお風呂で癒し、今、尊人のベッドに座ったのである。「健斗、今日もお疲れ様。」尊人が微笑んで言うと、健斗も微笑んで、尊人の頭に手を当てた。そして、その手を肩に滑らせ、ぎゅっと抱き寄せる。尊人は健斗の肩に寄りかかった。そうしてしばらく2人は黙って座っていた。 ここで、健斗が行ってしまうのが常だった。健斗はいつものように、お休みと言って立ち上がろうとした。だが今日は、尊人がそれを引き留めた。健斗のパジャマの裾を引っ張ったのだ。健斗は黙って立ち上がるのをやめ、尊人の顔を見た。尊人は上目づかいでちらっと健斗の顔を見たが、うつむいてしまう。「ん?どうした?」そう言いながら、健斗はにやけるのを我慢するのがやっとだった。少し尊人の方を向いて座り直し、両手で尊人を抱きしめる。背中に回した手にちょっと力を込めてぎゅっとすると、尊人は健斗のパジャマをほんの少し握った。「今日はいいんだね?」健斗はそう言うと、体を一旦離し、そっと口づけた。あの日の言葉通り、尊人は毎日はキスをさせてくれない。拒否されるとショックなので、尊人が合図を送らない限り、健斗はキスしようとはしないようにしていた。最初は本当に1週間に1度くらいだったので、寂しいとは思っていたが、何しろ何年もできずにいたのだから、1週間くらいは待てるぞと自分に言い聞かせ、我慢していた。だが、だんだんとキスも大胆になっていき、一度のキスが長くなり、回数も3日に1回くらいに増えていた。 ひとしきりキスをして、部屋を出ようとする健斗を、またもや尊人が引き留めた。「俺だって、この先がある事くらい……知っている。」尊人がそう言ったので、健斗は驚いて目を見開いた。尊人が、パジャマのボタンを外し始めた。健斗は焦った。ベッドから飛びのいて、そして、ひざまずいた。「待て、ダメだ。」尊人の足元にひざまずき、健斗はそう言った。尊人は手を止め、じっと健斗を見

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     未来は本国に帰り、自衛官になった。国王関連のニュースに気を配っていると、やはり、今までの外交のやり方では立ち行かなくなっているので、何とかしなければという有識者の意見が時々出ていた。一度は廃止された国王制だが、一部右翼政党などが国王制の継続を訴えており、次の国政選挙ではその点が争点となった。王制を廃止したままでいいのか、継続させるのか。そして、廃止を標榜する与党が選挙戦を圧倒し、国王制は名実ともに廃止された。クーデターを起こした王家をそのまま存続させる事は、やはり世の中には受け入れがたく、今までは王家を指示していた多くの国民も、廃止はやむを得ないと判断したようだった。 尊人の身柄は、宮殿から別の場所に移したと発表され、その場所は非公表だった。未来は、これをもって安堵し、イギリスにいる尊人や健斗にも伝えたのだった。国は、尊人を探していないと確信したし、このままうやむやにするつもりなのだろうと推測した。 未来は自衛隊の仕事をそつなくこなし、試験を受けては出世を繰り返し、短期間でだいぶ上まで上り詰めた。帰国して半年余りが経ったある日、未来は上官から呼び出された。いつもは入れないような上層部の部屋に連れていかれると、そこには首相が待っていた。「やあ、山縣未来くんだね。久しぶりだねえ。」クーデターを起こした張本人でもある未来は、流石に気まずさを感じた。首相と対面するのは、あのクーデター以来である。未来は何も言わずに一礼した。ここは、自衛官なのだから敬礼をするべきだったかもしれないが、多少気が動転していたようだ。「ずいぶん派手に出世しているそうじゃないか。私の耳にも入ってくるというものだよ、君。」「はっ。」未来は返事をしてみたものの、お礼を言うべきか、お詫びを言うべきか、やはり分からずに黙ってしまった。「君が……いや、君たちが尊人様をかくまっている事は分かっているんだよ。」首相は、ここには首相の取り巻きしかいないにも関わらず、声を潜めて言った。未来は身構えた。「最初は君がかくまって、今度は渋谷健斗君がかくまっているんだよね。君たちが交代でかくまっているというのは、容易に想像がつくというものだよ。一体どこにいるんだい、尊人さまは?海外には出られるはずもないしね、国内にいるとしたら、国民に見つかってしまうよね。そうすると、我々が困る事になるんだよね、分かるか

  • 人間になりたい。たとえ王だとしても   再会~成就4

     一晩泊まった健斗は、一度本国へ帰った。すぐにこちらへ戻ってくると約束をして。未来はそれを待つ間、引っ越しの準備をした。「健斗の事だから、きっとすぐに飛んでくるだろうな。俺も準備を早くしておかないと。」翌朝、健斗を見送った後、未来がそう言って笑った。健斗が来るのは嬉しいが、それは未来との別れと同時だ。尊人は、喜びと悲しみの混ざった、複雑な気持ちだった。「未来、ごめんな。俺、ほんとに未来の事大好きなんだよ。頼りにしていたんだ。だから、頼りすぎてたんだな、きっと。頼ってばかりじゃ、友達とは言えないもんな。」尊人がそう言うと、未来は尊人の頭をポンポンとした。「俺の方こそ、ごめん。お前が、俺には恋愛感情がないって分かってたのに、無理にキスしたりして。」「え、分かってたの?俺も分かってなかったのに?」尊人がそう問うと、未来は訳がわからないと言った風にぽかんとした。「ん?どういう意味?尊人も分かってなかったって、何が?」「だから、俺が未来の事、そういう風に好きなわけじゃないって事だよ。俺は、キスするまではどっちなのか分からなかったんだ。」尊人がちょっと顔を赤らめて言うと、未来は呆れた、という風に肩をすくめた。「健斗がいなくなってから、ずっと元気がなかったのは誰だよ。それに、俺と2人になるとギクシャクするし。俺は大きく傷ついたんだぜ。」未来がちょっと拗ねたように言う。「あ……でも、好きは好きなんだし……。」「それで、キスしたら分かったっていうのは、どういう事?俺とキスしたら、すっごく嫌だったのか?」未来が青ざめて言う。「えっと、嫌だったわけじゃなくて、ドキドキしなかったって言うか。親しい間の挨拶のキスみたいな。」尊人がうつむき加減に言うと、「ふうーん。」未来が分かったような、分からないような顔で言うと、「未来は?未来は俺とキスして、その、ドキドキしたの?」更にうつむいて上目づかいで尊人が聞く。未来は珍しく赤面して、「そりゃあ、ドキドキのムラムラだったよ。」というので、尊人は2,3歩下がった。「いや、ムラムラは冗談だよ。もう、お前の反応に傷ついちゃって、それどころじゃなかったから。」未来が手をパタパタ振って言うと、「反応が?そんなに、俺、傷つけたの?ご、ごめん。」2歩戻ってきて尊人が謝った。「いや、本当は、予想通りだったんだ

  • 人間になりたい。たとえ王だとしても   再会~成就3

     「どう?ドキドキした?しなかった?」健斗は心配そうに尊人の目を覗き込む。尊人はぎゅっと目をつぶった。そして、こくんと頷いた。「え?どっち?」健斗が戸惑いながら言う。「ドキドキした。」尊人は小声で言った。そして、左胸に自分のこぶしをぎゅっと当てた。「!」声にならない喜びが、健斗を襲った。思いっきりガッツポーズを作る。「ただいまー。」そこへ、未来が入って来た。健斗と尊人はハッとして、何となく身なりを繕う。まだ服が乱れていたわけでもないのに。未来は何食わぬ顔で部屋を横切り、ティーポットに残っている紅茶を自分のカップに入れた。「ところでさ、本国では尊人の事はニュースになっているのか?さすがに本気で探されたら、見つかるだろうと思うんだが。捜査当局が本気になれば、俺らの通信記録からすぐに居場所が特定されるだろうよ。」と言った。健斗は椅子に腰かけ直し、「それがさ、ニュースになるどころか、尊人は今もあの宮殿に監禁されている事になってるんだよ。」と言った。「え?」未来と尊人は同時に健斗の顔を見た。「俺も驚いたよ。帰国する時は、そりゃあビクビクして帰ったわけだけど、難なく入国できて、職にも就けたし。それで、色々さぐりを入れてみたが、尊人が逃亡したというニュースは全く流れていないし、国内でそれらしき噂もない。つまり、尊人がいなくなった、という事実は無かったことになっているってわけだ。まあ、俺たちにとっては好都合だけどな。」健斗が言った。「あの、健斗。母上や姉上たちは、その、大丈夫なんだろうか。何か聞いたか?」尊人が遠慮がちに言うと、健斗はにやっとした。「尊人、俺は君子様には本当の事を伝えた方がいいと思ってな、会いに行ったんだ。」「母上に?」「ああ。会って、人払いをして、お前が今ここにいる事を話して来たよ。」「母上は何て?」「安心した様子だったよ。監禁状態ではかわいそうだから、よかった、って。まあ、会えないのは寂しいだろうけどな。」健斗が最後は気の毒そうに尊人を見ると、尊人は目を伏せた。どんな思いがよぎっているのか、しばらく目を閉じていて、それから静かに目を開けた尊人。少し微笑んで、「ご無事なら良かった。健斗、ありがとう。母上を気にかけてくれて。」と言った。「当たり前だろ、お前の大切な人なんだから。」健斗はそう言って、優しく尊人

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