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第8話

Author: 無表情な迷子
3ヶ月後、私に手紙が届いた。

恭平からだった。

手紙には、写真一枚と、短い一文だけ。

写真に写っていたのは、市立中央病院のあの医師が、警察に連れて行かれるところだった。

【葵、ごめん。遅くなってしまった】

まさか、恭平はとっくに全部調べていたんだ。

梓がしたことも、すべて知っていた。

彼があの日あんなに怒っていたのは、梓を油断させて、しっぽを出させるためだったんだ。

私は震える手で、恭平に電話をかけた。

彼の声はかすれていた。「葵か?」

私は聞いた。「恭平、どこにいるの?」

「空港にいる」

恭平の声は焦っていた。「今からお前を探しに行く。どこにいようと、絶対に見つけ出すから」

「来ないで。恭平、もう遅すぎる」

「遅くない!」彼は頑として言った。

「葵、お前がまだ生きてるなら、遅いことなんてない」

私は笑った。でも、笑いながら、いつのまにか泣いていた。

「恭平、もし私が、本当にがんになったって言ったら、どうする?」

電話の向こうは、しんと静まり返った。

しばらくして、彼がささやいた。「それなら、最後の3ヶ月を、お前と一緒に過ごす」

「もしあの時、私たちの子を、ほんとうにおろしちゃってたって言ったら?」

「それなら、これからの人生全部かけて、お前を許すよ」

「もし、あの2000万円を受け取って、1円も使わずに、ぜんぶ銀行に置いてあるって言ったら?」

「それなら、俺の一生をかけて、お前に返すよ」

受話器を握りしめたまま、私は涙が止まらなかった。

「恭平――

私、D市にいるの。来てもいいけど、友達としてね」

恭平はためらわずに答えた。「お前に会えるなら、どんな関係でもかまわない」

電話を切ると、母が心配そうに私を見た。「葵、ほんとうに恭平に会うの?」

私はうなずいた。「うん。自分と、そして彼に、最後のチャンスをあげたいの」

やり直すためのチャンスじゃない。ちゃんとお別れするためのチャンス。

今度はもう、誤解も、憎しみも、後悔もない。

ただ、昔愛し合った二人が、人生の終わりに、素直な気持ちで最後に会うだけ。

恭平がD市に来た日は、よく晴れていた。

白いTシャツにジーパンというシンプルな格好で、まるで大学生みたい。いつもの偉そうな社長じゃなかった。

彼は私の車椅子を押して、鏡湖のほとりを歩いた。二人とも、何も
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