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第5話

Penulis: ひとひらの雲
美羽の姿を見た瞬間、その場にいた全員が凍りついた。

最初に反応したのは優奈だった。悠翔がいないのをいいことに、以前のような礼儀正しさはどこへやら、代わりにどこか同情を含んだような視線を美羽に向けてきた。

「全部聞こえてた?それならちょうどいいわ。ずっと騙されてるなんて、かわいそうだもの。あんたなんか、私と悠翔の関係においては、ただの脇役にすぎないの。だから、早めに身を引いたほうがいいと思うわよ」

そう言い捨てて、高いヒールを鳴らしながらその場を立ち去っていった。

一瞬、廊下が静まり返る。悠翔の友人たちは顔を真っ赤にし、慌てて言い訳しようとした。

「美羽、違うんだ、さっきのは……その、えっと……」

なんとか説明しようとするものの、結局は言葉が続かなかった。

本当のところ、全員わかっていた。優奈の言ったことは、紛れもない事実だった。

緊張で固まっている彼らを見て、美羽はそれ以上何も言わず、彼らを責めることもなく静かにその場を離れた。

階段を下りてタクシーを待っていると、突然、ローズピンクのスポーツカーが水たまりを踏みながら勢いよく近づいてきた。

泥水が跳ね上がり、美羽の服はびしょ濡れになった。

眉をひそめて運転席の方を見ると、窓越しに優奈が意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「あんた、自分が脇役だってこと、ちゃんと自覚して欲しいの。今のうちにきれいさっぱり身を引きなさい。じゃないと、もっと惨めな結末が待ってるわよ」

そう吐き捨てて、優奈はそのまま車を走らせて去っていった。

美羽はバッグからティッシュを取り出し、ゆっくりと顔にかかった水を拭った。

濡れたティッシュをゴミ箱に捨て、ふと空を見上げると、頬を伝ってひとしずく、涙がこぼれた。

脇役、か。

……違う。私は脇役なんかじゃない。

悠翔こそ、私の物語から――消えてもらう。

家に戻ると、美羽は少しだけ食事をとり、洗面を済ませてベッドに入った。

午前三時。寝室のライトが突然パッと点いた。

酔っ払ってふらふらの悠翔が、勢いよくドアを開けて入ってきた。驚いて目を覚ました美羽を強く抱きしめ、そのまま腕の中に引き寄せた。

「どうしてそんなに俺を苦しめるんだ……?俺が、お前を手放せないってわかってるくせに……なんで、もう一度チャンスをくれないんだよ……

俺がどれだけお前を好きか、知ってるくせに……それなのに俺の目の前で、他の男を探してるなんて。こんなふうに辱めて……お前のために俺が苦しむ姿を見て、楽しいのか?

……ああ、ほんとに辛かった。お前が欲しいものは、なんでもやる。だから……そばにいてくれ」

苦しげな表情の悠翔を見つめながら、美羽はそっと力を込めてその腕の中から身を引いた。

ベッドに倒れ込んだ悠翔が、うわごとのように優奈の名前を繰り返しているのを見て、美羽はうっすらと自嘲の笑みを浮かべた。

誰かを愛してる時って、あなた、そんな顔になるんだね。

この三年間、私たちの関係って、あなたにとって何の意味もなかったんだね。

目を赤くしながら枕を手に部屋を出て、スイッチをパチンと切ると、寝室は再び暗闇に包まれた。

悠翔はまだ酔いに任せて、意味不明なことを呟き続けていたが、その声に耳を傾ける者は、もう誰もいなかった。

翌日、悠翔は昼までベッドから出なかった。

頭が割れそうなほどの二日酔い。重い体を起こすと、窓辺で小物を片付けている美羽の背中が見えた。

その背中をぼんやりと眺めていると、ふいに昨夜の記憶が断片的に浮かび上がってきて、思わず動きが止まった。

「昨日、俺……なんか変なこと、言ったか?」

美羽が首を横に振るのを見て、悠翔の中の不安は少しだけ静まった。

こめかみに手を当てようとした瞬間、傷に触れて「……っ」と小さくうめき声を漏らした。

そのタイミングで振り返った美羽は、彼の手にまだ処置もされていない傷が残っていて、それがアルコールで炎症を起こしていることに気づいた。

悠翔はパイロット。これからも飛行機を操縦する立場で、怪我は致命的になる。

今になってようやく、ちゃんと処置しなきゃまずいと気づいたようだった。

「薬箱、どこだっけ?」

美羽は無言で立ち上がり、リビングから薬箱を持ってきた。

「必要なもの、全部入ってるわよ」

悠翔は思わず苦笑した。「そんなわけないだろ……」

でも、薬箱を開けた瞬間、風邪薬から胃薬、絆創膏、消毒液まで、何でも揃っているのを見て、彼の動きが止まった。

「これ……全部、お前が用意したのか?」

美羽はうなずいた。

「うん。あなた、パイロットでしょ?怪我しちゃいけない仕事だし、必要なときにすぐ使えるようにって……」

その言葉に、悠翔の頭の中で、いくつもの記憶が一気に蘇った。

酔って帰ってきた夜、無言で起きて作ってくれた酔い覚ましのスープ。

「これ食べたいな」と何気なく言った一言を覚えていて、レシピを調べて作ってくれたこと。

体調が悪くなったとき、真っ先に動いてくれたこと……

付き合い始めた頃、神崎瑠璃(かんざき るり)が何度も言っていた言葉が頭をよぎった。

「美羽は家じゃ何もできないお姫様みたいな子だから、ちゃんと支えてあげて」

だけど、実際には支えられていたのは自分の方だった。

年上の自分のはずが……美羽はずっと、黙って支えてくれていた。

そのことに、今さらようやく気づいて、胸が締めつけられた。

顔を赤くしながら何か言いかけたそのとき、美羽がバッグを手に取り、薬を塗る気配も見せず出かける支度をしているのに気づいて、思わず口を開いた。

「……出かけるのか?」

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