FAZER LOGIN「はぁ……」
威勢のよい露店の客引き声。
談笑しながらそれらの店を見て回る、晴れた顔の若い男たち。 店先まで香る焼き立てパンの良い香りに釣られ、夫人の服を引き駄々をこねる子供のそんな明るい街並みに似合わぬ、重いため息を漏らす少女がいた。リプカだ。
貴族娘に似つかわしくない紙の買い物袋を小脇に抱えて、彼女はとぼとぼ、街並みを歩いていた。
――仮にも貴族の娘であるにも関わらず、付き人も付けずに街中を一人歩く不用心であったが、しかしリプカ・エルゴールという少女に限り、その心配は無用の
「お家の中が、まるで息詰まりする
ぼそりとひとりごち、また
リプカも同席を許され、久方ぶりに家族揃って食事を取る機会に恵まれたのだが、そこで待っていたのは両親からの嫌味と侮蔑、そして決別の宣言であった。
勘当の言い渡しである。
(はぁ……勘当……)
青褪めるようなその宣告は
両親を
何を取っても駄目な自分が原因の全てであることは理解していた。それは歩んできた十五年越えの人生において刷り込まれた事情だったから。――それに、先程までフランシスと一緒になって父に膝蹴りを叩き込んでいたからという理由もある。
(勘当を言い渡される貴族娘など、聞いたことがない……)
(私はいったいどんな生涯を送るのかしら。 だが今のところ、その可能性は大いにあり得る未来で、それを思うと、夜の
何か指針が――誰かの助言が欲しい。
ふとそう思うも、リプカにはフランシス以外に相談の話ができる人間などいない。 悩み悩んだそのそう、例えば今まさにリプカの目の前にある、手のひらサイズの美しい水晶玉をぽつねんと乗せた、今にも壊れそうな古びた台を小道に構えた、露店というにもあまりに粗末な店構えの占い屋がそれだ。
「え…………」そんな丁度よく。
一瞬、リプカは目を見張ったが――すぐに脱力してしまった。
占い師は老婆ではなく、若い「あっしゃっせー……」
歯切れの悪い挨拶をぼそぼそと口にする
リプカは迷ったが、台を挟んでその占い師の前に、ちょこんと立った。
「あー、あっしゃっせ……。あー、あのー、あー……噂の占い師なんすけど、占います?」
先程よりも幾分、心に爽やかなものが混じった苦笑が漏れる。どうやら、粗末なのは店構えだけではないらしい。
しかしリプカは、この足りてなさに自分と似通ったものを見つけて、少しだけこの占い屋が気になり始めていた。もう半歩占い師に近付いて、話を向ける。
「貴方がそうなのですか? 噂に聞く占い師は、老婆の形を取った天使だっていうけれど……」
「あー……あの、婆ちゃん死にました。私が二代目です」
リプカは噴き出してしまった。勝手に天使を殺す、恐れ知らずの占い師らしい。
「――お願いしようかしら」
「あー、あーっと……十エクスですぅ……」
「た、高いわね……」
庶民感覚でいえば、一日贅沢な
「ありがとうございますー。あー、あの、貴方の目を見ないと駄目なんで、ちょっと屈んでもらえます……?」
「え、ええ、はい。こ、こうかしら?」
なにせ客用の椅子さえないので、リプカは粗末な台に手を突き、占い師のほうへ身を乗り出すようにした。
「あ、ありがとうございますぅ。…………。……………………」
――突然、占い師から表情が消えた。
ただでさえ感情が
周囲に超常の気が満ちた。――気がした。
「――――! あなた、いったい……!?」
「――ラアブ。エブルケム」
感情が失せた
「エブルケム。エルフォスト……エルフォスト……あー……エンジ? いやエンシェ? ――ブラウ、ブラ、ブラウケウムル。エルゴス……あー……エンシェイルは最後の句だから……えー……クラウン。ベルクト。ステラ……エル……イル……?」
「…………」
立派なのはその
その後も、ぐだぐだとそれらしい呪文を呟き続け、そして――。
「エムクト。エンシェイル。
そして最後にちらとだけ水晶玉に目をやると、それだけで占い師は、占いの終わりを告げた。
リプカは肩透かしを食らった気分で体勢を戻して、感情の色が戻っても相変わらず内心の読めない占い師の顔と向かい合った。
「そ、そう。それで、どんな未来が私を待っているのかしら……?」
「あーはい。えー、まず、貴方はこれから、六人の王子に求婚されます」
仏頂面のまま、言葉足らずな占い結果が口にされた。
「お、王子?」
「はい。えー、でですね、貴方は七人目の王子と婚約を結びます。そして幸せになるでしょう」
「七人目? 最後に一人、誰かが名乗り出るの? それが七人目?」
「そー……です。たぶん。……これってそういうことですよね?」
「わ、私に聞かれても……」
「んー……」
困惑するリプカに構わず、占い師は水晶玉に目を向けると、それをピンと指で弾いた。
「なんかどこかで結果が曖昧に……いや、まあ、大筋はそんな感じです」
「そ、そう……。ありがとう……」
「どういたしまして」
占い師は律義にお返しの言葉を口にすると、ぺこりと小さく頭を下げた。
リプカは小さくお辞儀し、すごすごと立ち去る他ない。
(……まあ、占い師だというのにフードを被ってもいないし、あの子のやる気の
そう、不思議とリプカは今、悪い気分ではなかった。
(なんだか所々本物っぽくて気分が高揚したし、そんなあの子から『七人の王子が私に求婚を迫ってくる』なんて告げられたから、あの瞬間だけは、夢を見るようにドキドキした。…………。現実はどうであれ、あの瞬間だけは……少しドキドキした……)
不思議な占い師の存在がもたらした、ちょっとした非現実感が薄れ、また暗い気持ちに逆戻りしそうになったリプカは、逃避するように再び占いのことを考えようと
(……そういえば)
「そういえば、王子様たちのお名前などは、お教え願うことはできないものでしょうか?」
振り返り、占い師のいた場所に声を掛けるも。
――既にそこには、何もなかった。「え……!?」
古ぼけた台も、綺麗な水晶も、あの若い
跡形もなく、何も。
「い、いったい……!?」
ふと、路地の少し先に目を向ければ。 古ぼけた台を体の前に抱え、「はー、今日は疲れたー」などと呟きながら歩く占い師の後ろ姿があった。 それを見ると、ファンタジーな気分は跡形もなく消え失せてしまって、リプカはまたとぼとぼと、
「…………」「…………」「…………」「…………」「あ、あーっ、お料理、美味しいっ! ね!」「ええ、とても。こういった香草を使用しない肉料理は、アリアメル方面では珍しいのですが――食べてみるものですね。美味しいです」「ウィザ連合の料理にも興味湧いてきた! 要所要所が独特でオモシロイな! ビビちゃんはどの料理が印象に残った?」「私はこの香草のスープがどうにも舌に合わなかった」「でゅぇ!? ――そ、そっか……」「確かにこの香草のスープは、舌触りからして独特ですね。あくまで習慣的な好みの問題で、合わない場合もあるかもしれません」「そ、そぅだねぇ……。……ク、クインちゃんはー……」「………………………………」「ぁう……うぅ、と……」「…………」「…………」「お、お料理、美味し……」「ええ、とても……」「…………」「…………」 カチャリ、カチャリ……。 食器が立てる音が虚しく響く。会話を主導して盛り上げようと頑張っていたアズも、今やガックシと俯き、ただ食事を口に運んでいた。 大勢で食卓を囲むと楽しいし、食事も美味しく頂ける。 そんな話を噂じみた伝聞として耳に挟んだことのあるリプカであったが――今日このとき、初めてその機会に恵まれて感じたことは、『地獄のよう』だった。 席にはフランシス、ミスティアを含めて、七人が食卓を囲んでいる。 始まる前は、所用があっての離席でクララが参加しないことを残念に思っていたリプカだったが、この沈黙に満ちた恐怖の食卓、その有り様を目にすると、むしろそれは、せめてもの幸いであるように思えた。 とてもじゃないが晩餐会とは呼べない凍りついた食卓には、必死で場を明るくしようとするアズの喋りと、あくまで冷静を失わないセラの、的確な受け答えだけがあった。 他の面々は、基本、無言。 ビビはこんな場でも我関せずと、マイペースに食事を進めている。 ティアドラは興味深げに、食卓の面々を観察していた。 ミスティアは、場の空気にすっかり恐怖し、セラの隣で縮こまっている。 そして、この地獄のような、重い沈黙の元凶――。「……………………」 ――クインは、死んだように光彩の失せた瞳で空虚を見つめながら、葬儀でも浮かべぬであろう闇を纏って、静かに、機械的に、食事を進めていた
話は、リプカの元へ集った六人の婚約者候補が各々抱える、それぞれの事情についての詳説へ移行した。 フランシス個人の知見、その内実。リプカにとってこれ以上なく信頼のおける――真実の内訳ともいうべき参考意見である。「まずねー、エレアニカ連合セラフィア領域の娘、クララ、だっけ? 彼女、ガチだから」 だらしない格好で紅茶を飲みながら、フランシスはのんべんだらりとした態度のままに、特に感情を強調するでもない、ただの世間話のような口調でそう切り出した。 リプカは目を見開き、どきまぎに押されて息を上気させながら、鼓動する胸をおさえた。「そ、そう……」 口にした声は震えている。 ――真実の内訳と表現してもいい、参考意見。 心の底から嬉しく思い、思わず未来を想像してしまったほど浮かれていたとはいえ――どこかでは、その唐突な奇跡に対する疑心もあったのだろう。 都合の良すぎる奇跡であると、心の片隅では。 私なんかに……。 その疑心が溶けたとき芽吹いたのは、雪解けを待ち、歓喜と共に背を伸ばす若草のような、力強く青々とした感情だった。「もうほんとしつこかったかんね。実はさあ、縁談禁止令を解いた理由の大半も、あの女にあるんだよね」「――え?」「ぜひ、リプカ様との縁談の許しを、つって、何度も頭下げてきてさあ。何回あったっけ、途中で私マジギレ一歩手前までいったかんね」 暴君じみた口調とは裏腹に、フランシスの表情は穏やかだった。「そしたら、どうしてお姉さまを好きになったか、とか、私は如何にリプカ様を愛するか、とか、滔々と膝を折りながら熱弁してきて。プチギレとうんざりを通り越して納得してきちゃって。目を見ても本気だったし……そのうち、さ。……まあ、そんな感じ」「……そう。そうだったの」 瞳に涙を浮かして――リプカは俯きながら、呟いた。(……。…………。……………………)(私を、好いてくれる人がいた) クララを想いながら、リプカは頬を伝いそうになった滴を拭った。 そんなリプカをちらと見て――フランシスは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。「まあ後は、はっきり言ってお国の事情ね」 瞬間で表情を戻して、フランシスは話を続けた。「アルファミーナ連合の目的は、婚約と
両親への挨拶もそこそこに、フランシスは自室へリプカを招き、二人きりで、テーブルを挟んで向かい合った。 綺麗に整頓の行き届いた部屋。しかし長い間留守にしていたためか、僅かながらに人間味に欠ける空気感……私室であるのに、倉庫に似た乾いた印象を受ける。「それで、フランシス」 その空気に僅かばかりの寂しさと心細さを覚えながら、温かい紅茶を一口頂くと、リプカは早速、話を向けた。「あなたの企みは関係しないということは分かったけれど――でも、今回の一連は、あまりにも急すぎる。いきなり、こんな示し合せたようにどっと押し寄せるなんて。なにか理由があるとしか考えられないのだけれど……」「あー、それね」 はしたなく円形のテーブルに頬をつき寝そべりながら、フランシスは呟くように漏らした。「まあ、それは私の判断が関係している」「判断?」「うん。実は、お姉さまへの婚約話はね、私のほうで全部塞き止めて、無いものにしてきたの」「そ、そうなの……?」「そー。お姉さまは婚約破棄を交わしたばかりで、自由になったばっかだから、まだそういうのは億劫かなーっていうのもあったし、お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしいっていうのもあったしー」 おそらく後半の主張こそ主だなと感じながらも、リプカは驚いていた。 フランシスが、あのフランシスが、自身の意思――我儘を撤回するなんて。 お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしい。 その言葉からリプカは、フランシスが最近、実家に寄り付く暇もなかったという事情を思った。傍にいれないから、いいかなと思った、ということだろうか……。胸の奥に痛みが走る寂しさを感じながら、リプカはそんな想像を巡らせたが――。 続いて口にされたフランシスの答えは、リプカにとって意想外の理由であった。「でもさー、お姉さまさー、…………私を助けてくれたじゃん? あのとき」 ――あのとき。 リプカはすぐに察した。 フランシスが自宅で刺客に狙われた、あのとき。 リプカが助けなければ歴史が終わっていた、あの場面――。 フランシスは、テーブルにべったり頬を付けながら、ここではないどこかを見つめるようにして、続きを語った。「あの時さー、お姉さまを私だけのものにするのは、
「ごきげんよう。お、お姉さま、お疲れーん。お久しぶりのハグ。――相変わらずちっちゃ!」「ほっときなさいな……」 街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。 見る者を圧倒する佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。(やっぱり、相当な無理をしているのね……) いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。 世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。 過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。 そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」 そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。 ――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。 一人は長身の男性。 一人は細身の女性。 二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。(――護衛) 腰を折る二人をじっと見つめる。(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)「スターップ、お姉さま」 自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」「なに? なーにー? ご不満がー?」「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」「なに?」「何か、隠し事なんかしてない?」「――してないわ。何もないわよ」「そう」 リプカは笑顔になった。「なら、よかった」 その笑顔を見て、フランシスもまた、|屈託《
木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。 隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音の主を認めると、牙を剥くように表情を険しくした。「そこでなにをしているのですか? ……クイン様」 敵対心を露わにするクインに物怖じすることなく、リプカは真っ直ぐな視線を彼女へ投げかけた。 蝋よりも青白い顔に煌々と灯る、燃ゆる瞳でリプカを睨むクインは、歯軋りの音を立てながら、腹の奥底からの声を漏らした。「どこにいようと私の勝手であろう。お前に指図を受ける謂れはない。この家の内ですら、まるで冷笑されるためだけに存在しているような、腫れモノ扱いを受けているお前には、特にな」 最後は蔑むように言いながら、クイン自身も冷笑を浮かべた。 そんなあからさまな見下しを受けても、リプカは表情を変えることなく鋭い視線を見つめ続けた。「他者がどれだけ私を蔑み見下そうと、私が貴方様にお伝えしなければならない忠告が無意味となる理由にはなりません。聞いて頂けますか?」「ほう? いったいなに――」 ――クインの言葉は萎むように消えた。 豹変したリプカの瞳を見つめてしまった瞬間、彼女から一切の余裕が剥奪されてしまったのだ――。「お伝えしたいことはたった一つ」 手の届く距離まで詰め、足腰の折れてしまったクインを見下ろしながら、リプカは平時と変わらぬ声色で先を続けた。「貴方様程度に遅れをとるあの子ではないでしょうが、ですがもし万が一、貴方様がフランシスに直接的な害意を向けた場合――私は貴方を決して許しません」 決して許しません。 リプカがそれを口にすると、クインの瞳が恐怖で揺れた。「クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、害意を及ぼすため――などではありませんよね?」「――――ち、違う! 違う……!」 必死に首を振るクインに、リプカはこくりと一つ頷いた。「ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してく
「あのさ、もしかして私どこかでミスティアちゃんと会ってたりする?」「ええ、私は貴方様のことを存じておりました、アズナメルトゥ様」「あーやっぱり? 最初から、私とどっちがリプカちゃんなのか見抜いてたもんね」「直接の挨拶はありませんでしたが、晩餐会でお見かけする機会がありましたね」「マジ!? ゴメン、覚えてないかも。どこのパーティー?」「アグアキャナルの立食会で。お兄様の代わりに顔を出しまして」「あー、あそこにいたんだぁ。ていうかアズナメルトゥ様じゃなくてアズでいいって! 畏まるような間柄じゃないっしょ? 言葉も固くしなくていいし」「ではアズ様で。これが私のデフォルトです。私のことはミスティとお呼びください」「んじゃ、ミスティ! ねね、今度ミスティゃんとも遊びに行きたいなっ。あっ、それとリプカちゃんとシィライトミア領域に遊びに行くとき、色々案内してほしい!」「いいですね。私もパレミアヴァルカ連合には足を運びたいと常々思っていたので、そのときは是非――」(この短い間で、とてつもなく仲良くなっている……!) セラとのファーストコンタクトを終え大広間から出ると、そこにはすっかり仲良しになったアズとミスティアの姿があった。「あ、リプカちゃん! ねっ、ねっ、どだった!?」「い、いえ、今回は顔合わせ程度のお話だったので、なんとも……。でも、楽しい一時でしたわ」 至極無難な返事を返しながら、リプカは周囲を窺った。(……見られている)「ん? どしたん?」「いえ、なんでも……。――ああ、あの、ミスティア様、セラ様は私のお母様の元へ、挨拶へ向かわれたようです。戻られるまで、しばし待ってほしいとのことで……」「分かりました、ありがとうございます」「んじゃ、もうしばらく三人で、リプカちゃんのお家探検する? リプカちゃんのお部屋とか見てみたい!」「ああいえ、ごめんなさい、私ちょっと向かうところがありまして――」「おっ、そかそか。どこ行くの?」「フランシスのところへ行ってまいります。まだ来てないようですが、まあ、出迎えなどでも」「そ、そか。それじゃ、わ、私たちもお出迎えに向かったほうがいいよね?」「――ああ、私一人で結構ですよ」 緊張が見て取れる、アズの若干焦った物言いに、リプカは珍しく、はっ







