Mag-log in「兄貴の秘密、教えてあげる」 婚約者の天野恭吾の実弟、世那の暴露で逢沢麗奈の幸せは脆くも崩れ去った。 麗奈は、順風満帆な人生を送り、婚約者の天野恭吾にも溺愛され、彼女は幸せの絶頂にいた、はずだった…… 信じていた愛が壊れた時、狂おしい程の愛をくれる世那と関係を持った麗奈。そして、麗奈の純粋な愛は歪み、恭吾を陥れる為の世那との危険な駆け引きが始まった。最初は復讐のためだった。それなのに、麗奈の世那への想いは次第に変化して……麗奈は世那との禁断の恋に溺れていく
view more婚約パーティー3日前の夜、私は幸せの絶頂にいた。私は誰もが羨む美貌を持ち、婚約者は容姿だけでなく、富と名声までも兼ね備えていた。
その婚約者の名を天野恭吾と言った。恭吾は弁護士として、日本中を飛び回っている。今日も恭吾は、2泊3日の京都出張の為、同棲しているこのマンションには居なかった。 私はリビングのソファーで寛ぎながら、赤ワインを飲んでいた。一人の夜は寂しい。けれど、恭吾は毎日私に「愛してる」とメッセージを送ってくれる。もちろん、今夜もそのメッセージは送られてきた。私は恭吾に愛されている。その自信が私をより輝かせた。恭吾とは大学時代から交際していた。今年で交際を始めて8年目になる。どれだけ月日を重ねても、恭吾の私への愛は変わらなかった。
ピンポーン
今の時刻は22時。こんな遅くに訪問者が尋ねてくるのは珍しい。私はインターホンのカメラで、その人物を確認してから玄関のドアを開けた。
「世那、こんな時間にどうしたの?」
「どうしても麗奈さんに話したいことがあって」
私は、切羽詰まった表情を浮かべる世那をリビングに連れていき、ソファーに座らせた。
「兄貴は?」
「京都に出張に行ってるの。明日の夕方に帰ってくるって」
「そうなんだ」
世那は恭吾の実弟で、大学時代に起業したIT会社を成功させ、今や若手経営者として一目置かれる存在となっていた。更に、目を引く容姿が故、メディアでも取り上げられる程、注目を浴びていた。
「麗奈さんは一人でワインを?」
「たまには、ね」
「俺もワインもらおうかな」
「世那、今日は車じゃないの?」
「タクシーできたよ」
「そう。珍しいわね」
「麗奈さんとゆっくり話がしたくて」
私はキッチンへ行き、食器棚からワイングラスを取り出した。そして、リビングに戻るとソファーで寛ぐ世那の姿が見えた。世那の横顔は、恭吾よりも美しく、私は思わず見惚れた。
「乾杯」
「乾杯、麗奈さん」
私はワインを一口飲んだ。ふと、顔を上げると世那と目が合った。すると、世那が私に問いかけた。
「麗奈さん、兄貴のことすき?」
「好きよ」
「迷わないんだ」
「当たり前でしょ?もうすぐ婚約もするんだし」
「へぇー」
世那の声色が変わった。そして、私を嘲笑った。
「麗奈さんが何も知らなくて可哀想だから、特別に、兄貴の秘密、教えてあげる」
「恭吾の秘密?そんなものある訳ないじゃない」
恭吾とは、お互いに隠し事はしないと誓っている。恭吾に限ってその約束を破るはずがない。
「残念。人ってね、嘘をつく生き物なんだよ」
そう言った世那が、ジャケットの内ポケットに入れていた何十枚もの写真を床にばらまいた。私はばら撒かれた写真を一枚拾った。
「なにこれ……」
私は床に落ちている写真を全て見た。そして、その写真を握りつぶした。
「婚約する前に知っておいた方がいいと思って」
「世那は知ってたの……?」
「ああ。8年前から兄貴は麗奈さんと付き合いながら浮気を繰り返してた。俺、言っただろ?兄貴じゃなくて、俺にしろって。だけど、麗奈さんは高校生だった俺を相手にもしなかった」
「だって世那は、恭吾の弟だから……」
「そんな正論要らない」
世那は私をソファーに押し倒した。そして、私の頬にそっと触れた。
「ずっと好きだった」
「世那、冗談はやめて」
「冗談でこんな馬鹿な事しない」
「離して!」
私は抵抗したけれど、世那に両手首を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。
「麗奈さん、俺を見てよ。俺、麗奈さんの為に頑張ったんだ。地位と名声も得た。それに容姿だって、麗奈さんの好みにした。今の俺は高校生の時の俺とは違う」
「いいから離して!世那とどうこうなるつもりはないわ!」
「へぇー、これ聞いても同じことが言える?」
世那はズボンのポケットからドライブレコーダーを取り出し、再生ボタンを押した。
「恭吾、結婚するってほんとか?」
「ああ」
「お前が?嘘だろ」
「ほんとだよ。8年かけて理想の女に育てたんだ。そんな女を妻にしたら楽だろう?」
「恭吾さ、最低だな」
「結婚してやるんだ。それだけでも感謝してほしいよ」
録音を聞き終わった私は、恭吾の言葉を頭の中で繰り返した。恭吾にとって、私は都合のいい女だった。私が信じてきた愛は、存在しなかった。こんな屈辱は初めてだ。私は絶望に打ちひしがれた。
翌日、俺は出勤するとすぐに、桑山を社長室に呼び出した。 「例の件の進展はありましたか?」 「はい。天野恭吾と協力関係にある職員の身元が判明しました。名前は倉木慎二。40歳。10年前から天野恭吾の勤める法律事務所で、財務担当をしています。詳しくは、こちらの資料をご覧ください」 俺は桑山からファイルを受け取ると、一枚ずつ資料に目を通した。すると、そこには気になる記載があった。 「中学一年生の娘は、入院中」 「そのようです。倉木は男手ひとつで娘を育てています。その娘は、長期入院中です。治療費も莫大だと考えられます」 「だとすると、あの100万円は……」 「断定はできませんが、娘の治療費を盾に、倉木は天野恭吾に、加担させられている可能性も考えられます」 「憶測かどうかは、本人に会って直接確かめます。倉木が行きそうな場所は分かりますか?」 「毎日、18時に、娘の病室を訪れているようです」 「では、今日の18時に僕もお見舞いに伺うとしましょう。桑山さん、準備をお願いします」 「承知しました」 桑山が社長室を退出すると、俺は煙草を1本取り出し、火をつけた。そして、窓から外を見下ろしながら煙を吐いた。俺は、子供の頃から、恭吾の事が嫌いだった。恭吾は、俺のことを散々罵った。あの屈辱は、今でも忘れていない。だから、俺は恭吾がどうなろうが知ったこっちゃない。全ては身から出た錆。自業自得というやつだ。 トゥルルルルルル... 煙草を吸い終わった時、内線が鳴った。俺は、受話器を取った。 「はい、社長室です」 「お疲れ様です。天野社長。ただいま、天野社長のお兄様だと仰る方が受付にお越しなのですが、お通ししてもよろしいでしょうか」 恭吾が来たようだ。遅かれ早かれ、俺の前に来るとは思っていた。さて、どうやって、恭吾を追い詰め、揺さぶりをかけようか。考えると胸が高鳴った。 「はい、通してください」 「承知しました」 俺は内線を切った。そして、社長の椅子に座った。もうすぐ、恭吾が社長室の扉を勢いよく開ける頃だ。俺は心の中でカウントダウンを始めた。 「世那!!」 ほらやっぱり。恭吾は、俺の名を叫びながら、社長室へ入ってきた。 「兄貴、何か用?」 「分かってるだろ!麗奈だよ!」 「だから昨日、説明しただろ」
「痛っ」 私は痛みで目を覚ました。外はまだ真っ暗だ。しかし、隣に世那の姿は無かった。私はベッドから起き上がり、世那を探した。すると、リビングに明かりがついていた。そっとドアを開け、様子を伺うと、リビングの床に散らばった複数の書類を、真剣に凝視する世那が居た。 「世那、何してるの?」 私の声に、世那は驚いた様子で振り返った。 「麗奈さん、眠れないの?」 「傷が痛くて……」 「え!?今すぐ病院に行こう」 「大丈夫よ。休めば治るから。私の鞄に入ってる痛み止めを取ってくれる?」 「分かった。麗奈さんは座ってて」 世那は私を支え、ソファーに座らせた。 「薬と水だよ。他に欲しいものはない?」 「大丈夫。ありがとう。ただ、世那が寝るまでここに居てもいい?」 「いいよ」 世那は私をソファーに寝かせると、丁寧にブランケットを掛けた。そして、私から離れようとする世那の腕を掴んだ。 「世那、これは何?」 私は、床に散らばった書類に視線を向けながら尋ねた。すると、世那は観念したように重い口を開けた。 「麗奈さんには、確信をもってから伝えようと思ってたんだ。今日の兄貴の麗奈さんへの行動を見て、すぐにでも証拠を突き止めないといけないと思った」 「どういうこと?」 私は痛む身体を無理やり起こして、世那が話すのを待った。 「これが、ここ2ヶ月間の兄貴の行動と支払い記録。高級腕時計にブランドバッグ、それから、スイートルームへの宿泊、装飾品まで購入してる。あまりにも羽振りが良すぎるんだ。それで、更に調べたら、数ヶ月前から毎月、100万円をある人物の口座に振り込んでた」 「ちょっと待って。どこでこんな情報を?まさか、世那。危険なことしてないでしょうね?」 「してないよ。麗奈さんも知ってるでしょ?俺の秘書の桑山さん。彼は、元探偵なんだ。今は俺の右腕として、その手腕を発揮してくれてるよ」 「そうだったのね」 桑山とは、先日、世那の会社で初めて会った。物腰の柔らかい、人あたりの良さそうな男性だった。まさか、桑山にそんな過去があったとは、私は驚きを隠せなかった。 「調査を進めると、兄貴の振込先が、兄貴が勤める法律事務所の職員だということが分かった。だけど、俺が掴んだ情報はここまで。兄貴が会社の金を横領していると仮定すると、まだ証拠は不十分だ。これでは、兄貴を完全
世那は私にスーツのジャケットを羽織らせ、支えながら玄関へ向かった。しかし、その途中で母が私達の行く手を阻んだ。 「麗奈、どこへ行くの?」 「帰ります」 「そんなわがままが、許されると思ってるの?」 いつでもそうだ。母には私の言葉は届かない。今、こんなに心も身体も痛いのに、これ以上、傷を抉らないでほしい。私は俯いたまま、何も言わなかった。すると、私の代わりに世那が答えた。 「お義母さん、麗奈さんは気分が優れないようなので、お先に失礼します」 「ちょっと!待ちなさい!」 母は私の肩を掴んだ。 「麗奈、顔を上げなさい」 「嫌です」 「どうして、私の言うことが聞けないの!」 母は、右手を振りかぶった。私は痛みに備えて目を閉じた。 「いい加減にしろ!」 母を止めたのは、意外にも父だった。そして、父は私の元へ駆け寄り、私に手を伸ばした。しかし、咄嗟に、私はその手を拒んだ。 「どうして、あなたまで麗奈を庇うのですか?この子はもう……あなただって知ってるでしょ?」 「黙りなさい!私もお前も勘違いをしていたんだ。麗奈は何も悪くなかった。それなのに、私は、麗奈を信じず、取り返しのつかない事をしてしまった」 父は、自責の念に駆られながら私を見た。その目には涙が滲んでいた。今更、父に泣く資格などない。あの時、その優しさを、ほんの少しでも私に向けてくれていたら、未来は違ったかもしれない。 「もう終ったことです。あの時、私を信じなかった時点で、親子関係は破綻しました。今更、私は、父にも母にも何も求めていません。ただひとつ、私の人生に干渉しないでください。今度こそ、私は自分の人生を生きたいのです」 私は痛む身体に鞭を打ち、背筋を伸ばして、父と母に言い放った。それでも、母の私を見る目は、相変わらず冷ややかだった。 「麗奈、行きなさい。麗奈が望んでいなくとも、父さんはいつでも麗奈を助ける。どうか、忘れないでくれ。今まで本当にすまなかった」 父は私に深々と頭を下げ、謝罪をした。しかし、私は決して振り返りはしなかった。その代わり、私は世那の手を強く握った。これから先、私の隣を歩く人は、世那一人だけでいい。 「世那、行きましょう」 「うん」 すると、父が世那に声をかけた。 「世那くん、麗奈を頼む。どうか、幸せに」 「はい。必ず、麗奈さんを幸せにします」
コンコンコン 「麗奈さん。居る?着替え終わった?」 世那がドアをノックした。助けを呼ぶなら今だ。しかし、口を塞いでいるタオルが邪魔をして声が出せない。 「無駄な抵抗はやめろ。麗奈が叫んだところで外には聞こえないよ。さっき、ドアの鍵も閉めたしな」 恭吾が私の両腕を、痕が付くくらい強く掴んだ。それでも、私は恭吾を睨みつけ、必死で抵抗した。そうしている間に、外から呼びかけていた世那の声が聞こえなくなった。私がまだ着替えていると思い、パーティー会場に戻ってしまったのかもしれない。私は絶望に打ちひしがれた。 「さっきまでの威勢はどうした?やっと、俺と帰る気になったか?今まで通り、何も変わらないよ」 何も変わらない?そんな訳あるか。どこまでこの男は馬鹿なんだ。こんな男を愛していた自分が情けない。私は唇が切れる程、歯を食いしばった。 「本当に反省してるんだ。麗奈が去って気づいたよ」 反省した人が、元恋人を拘束して、痛めつけたりしない。私の前に居る男は、欲に支配された悪魔だ。私は恭吾の目を睨みつけた。その時だった。 バンッ! 「兄貴!麗奈さんから離れろ!」 ドアを蹴破った世那が、恭吾に殴りかかった。そして、恭吾に馬乗りになり、何発も彼の顔を殴った。私はその隙に、口からタオルを外し、起き上がった。 「世那、もうやめて」 「どうして、止めるんだ?」 「こんなクズの為に、世那の手を汚して欲しくないのよ」 私の言葉で、正気を取り戻した世那は、恭吾から離れた。そして、私の元に駆け寄った。 「麗奈さん、来るのが遅くなってごめん」 「いいの。助けてくれてありがとう」 「ね……顔怪我してる。まさか……!」 世那は、床でうずくまっている恭吾を見下ろした。 「世那、落ち着いて」 「落ち着ける訳ないよ。あいつにやられたの?」 「そう。抵抗したら殴られた」世那はしゃがんで、床に這いつくばっている恭吾と視線を合わせた。 「兄貴、元からクズなことは知ってたけど、ここまで落ちぶれたとはな。お前は、麗奈さんを散々利用した挙句、裏切った。だから、捨てられたんだよ。なのに、また、麗奈さんを手に入れようとしてるのか?身の程を知れ!だからね、兄貴。現実を見せてやるよ」 世那は立ち上がると、私の頬に手を添えた。 「世那?んん……////」 「世那!お前何してる!」